第130回:Windows XPの電源管理機能その後



 事前に予想されたことだが、Windows XPは以前のWindows 95、そしてWindows 98のようなPC市場浮揚のきっかけにはなっていないという報告が相次いでいる。ボーナス商戦で売れているのは、プリンタやデジタルカメラといった周辺機器が中心と量販店に勤める友人に聞いた。

 この業界で仕事をする者としては複雑な心境だが、PC的な水平分業の上に成り立ったPCが、進化を重ねるごとに差別化要因を失い、ハードウェアそのものの魅力を失いつつあるのかもしれない。モバイル機器には一筋の光明もあるとは思うが、その中でPCはワンオブゼムなのかもしれない。あらゆるデバイスがネットワーク化されるようになると、PCのように信じられない程のハイパフォーマンスなプロセッサを持つ機器でなくとも、高度なアプリケーションを利用可能になるからだ。

 将来、デジタルデバイスのネットワーク化が進めば、PCのように平準化された製品を価格やアドオンの機能だけで選ぶのではなく、多種多様なデバイスをそれぞれの利用スタイルや場面に合わせて利用可能になるのではないか。つまり、ハードウェアごとの特徴をより全面に出すことが可能になり「ある程度の性能と機能があるPCならどれでもいい」という世界から「コレが欲しい」という指名買いが発生するハードウェア中心のビジネスモデル(それはかつてのコンシューマエレクトロニクスの世界)へと変質するかもしれない。

 そんなことを考えながら何社かに取材をしているところだが、これは来年早々にでも別途まとめることにしたい。今回は先週の後始末の形で、Windows XP省電力機能のその後について書いておきたい。



●バイオノートSRはC3を使わないわけではなかった

 まず先週少し触れたソニーの新型バイオノートSRで、プロセッサの動作モードをDegrade(ユーティリティで“さらに省電力”に設定した時)にすると、ACPIプロセッサ動作ステータスのC3に入らない件について、ソニーに伺った話を記しておこう。

 実はこのテストは、2つの電源プロファイルを切り替えながら行なっていたのだが、C3に入らなかった原因はプロセッサの動作モードではなく、メモリスティックインターフェイスにあった。

 技術的な詳細は公開していただけなかったが、USBにデバイスが接続されていると、動作モード切替の遅延が大きいC3モードをWindowsが利用しなくなるのが原因のようだ。バイオノートSRのメモリスティックスロットをデバイスマネージャで覗いてみると、内部的にはUSBで接続されているのがわかる。試しにUSBポートに何かしらのデバイスを接続してみると、メモリスティックスロットの場合と同じようにC3に入らなくなる。これまでのWindowsはC3を利用しなかったため問題にはならなかった。

 しかし、そのままではせっかくの省電力モードを利用できない上、常にメモリスティックインターフェイスに電力を取られてしまう。そこでバイオノートSRのメモリスティックスロットには省電力モードが搭載された。

 メモリスティックスロットを省電力モードに設定するとメモリスティックインターフェイスの電源が落とされ、デバイスマネージャの中からも無くなる。この状態ではメモリスティックインターフェイスの電力消費はゼロになり、またプロセッサ動作モードもC3に入るようになる。そしてメモリスティックを挿入すると、その時点でメモリスティックインターフェイスの電源を入れ、USBを通じてスロットが有効になりメモリスティックへのアクセスが可能になる。僅かながらデバイス認識に時間がかかるが、動作にはほとんど影響はないようだ。省電力モードは規定値でオフになっているため、バッテリ駆動時間をギリギリまで伸ばしたい場合は、省電力モードをオンにしておくといい。

 なお、同様の現象は他のすべてのPCにも当てはまるはずだ。IBM ThinkPadシリーズのウルトラポートやコンパックEVOシリーズに装備されているマルチポートは、電気的にはUSBを利用している。これらのポートにデバイスを装着した状態ではC3に入らないことが考えられる。電源をソフトウェアから落とせるのであれば、未使用時にはオフにしておくといい。



●実はあまり変わらない? Windows XPのバッテリ駆動時間

 さて、Adaptiveだ、Degradeだ、C3だと、騒いでみても、それが実際に駆動時間に影響しないのであれば不毛な議論だ。そこで具体的にプロセッサ動作モードとC3の有効/無効の違いによる消費電力の違いを調べてみた。テストに使ったのは同じくバイオノートSRだ。

 バッテリベンチマークでは測定誤差も大きいため、パフォーマンスモニタでACPIバッテリステータスのうち放電電力を読みとりながら数値をチェックしてみた。Windows XPでperfmon.exeを起動し、Battery StatusクラスにあるDischarge Rateをチェックすることで放電中の電力を知ることができる(値はmW)。

 この値はバッテリパックの充放電を管理しているマイコンがレポートしている。バッテリパックのマイコンは、過放電や過充電を防ぐため放電率と充電率を積算して残容量を管理しており、僅かながら誤差はあるものの、いい加減なベンチマークを使うよりは安定した値を得られる。ただし、この値をレポートしないバッテリ(残り容量を駆動予測時間ではなく「%」で表示するものは放電率のレポートをしない)もある。またレポートする値は、(バッテリによって異なるが)数秒おきであり、リアルタイムに監視できるわけではない。

 試しに前述したメモリスティックスロットの省電力モード時とノーマル時の消費電力の差だが、C3の利用する/しないという違いがある上、インターフェイスの電源を入れているにも関わらず、150mW程度の差しか出なかった。バイオノートSRは低負荷時の平均消費電力が、およそ8.2(輝度が下から3番目の時)~7.1W(輝度が最も低い場合)という事を考えると、あまり大きな影響は無さそうだ(ベンチマークを取ると10分以上も伸びるのだが)。

 次にプロセッサの動作モードをNon(フルパワー)とDegrade(さらに省電力)に切り替えて見たが、こちらも負荷がかかっていない状態では、全くといっていいほど差が出ない。MP3ファイルの再生など定常負荷をかけてみると、やっとDegradeの方が数100mWほど消費電力が低くなるものの、低負荷ではプロセッサがC3に入りっぱなしの状態になるため、ほとんど消費電力が変わらないようだ。

 加えて高速なプロセッサの方が処理を速く終えることも考慮すると、意外にプロセッサ動作モードによる消費電力の差はないことがわかる。実際、両者のバッテリ駆動時間を計測してみると15分ほどしか差が出ない。

 実際に様々なアプリケーションを利用している状況では、様々な要因が複雑に関係してくるため、簡単に結論を出すことはできないが、少なくともDeeperSleepが利用できないモバイルPentium IIIマシンにおいては、Windows XPの電源管理機能はそれほど実効性がないと思われる。本来はDeeperSleepが利用できる環境でも計測すべきだが、現在手元にDeeperSleepが利用できるチップセットを搭載したノートPCが無い。追ってIntel 830系チップセットを搭載するノートPCを利用する機会が得られたら、再度計測してみようと思う。

 また、いったんWindows XPをインストールしていたコンパックEvo N200をWindows 2000に戻してバッテリ駆動時間を計測してみた(この機種は放電率をレポートしないため、バッテリステータスでの比較はできない。またWindows 2000では放電率のモニタはできない)のだが、やはりWindows XPの方がバッテリ持続時間が長いようなのだ。プライマリバッテリだけの比較で、10分ほどの差が出る。プライマリバッテリは2.5時間しか持続しないため、10分と言えばかなり大きな差だ。セカンドバッテリも装着した状態であれば、25分程度は違うことになる。

 ここに来て、各社からノートPC用のWindows XP対応電源管理ユーティリティがリリースされているが、その多くはプロセッサの省電力モードの明示的な切り替えをサポートしていない。たとえばThinkPadシリーズのユーティリティは電源管理プロファイルを自動生成し、切り替えるようになっているが、どのプロファイルがどの省電力モードと対応しているのか全く外からはわからない(プロセッサの省電力モードは電源管理プロファイルに連動する)。すべてのPCをチェックしているわけではないが、今のところ明示的に切り替えができるのはソニーのユーティリティだけだ。

 このようにメーカー側にWindows XPの新電源管理機能を積極的に利用する姿勢が見られないのは、現段階のシステムではこの機能の実効性があまり高くないからなのかもしれない。


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【11月28日】【本田】謎の多いWindows XPの省電力機能を再検証
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011128/mobile129.htm
【9月18日】【本田】Windows XPの省電力機能は本当に効果的なのか?
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010918/mobile117.htm

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(2001年12月5日)

[Text by 本田雅一]


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