大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Windows XPは、市況回復の起爆剤にならないと業界団体が認定!?


●JEITA始まって以来の大幅な下方修正

Windows XP OEM版の深夜販売は盛況だったが……
 IT産業の業界団体である社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、2001年度の国内パソコン出荷予測を下方修正した。

 これによると、今年度初めに予測していた前年比12%増の1,360万台という2桁の伸びから、一転して同12%減の1,060万台と、2桁減のマイナス成長とした。

 2000年度の実績が22%増という高い伸びを維持していただけに、年度初めの12%増の予測値については、「かなり堅めの数字として予測した」(同協会)としていたが、市況の悪化は、堅めの数字を遙かに越える停滞ぶりにつながり、実に300万台規模の下方修正になったのだ。300万台といえば、まさに四半期分の出荷台数に匹敵する規模。この修正値は、同協会始まって以来の異例の修正規模となったのだ。

●停滞し続ける個人消費

 では、ここまでの大きな修正に追い込まれた背景は何なのか。

 それは上期(4~9月)の出荷実績を見れば答えが出そうだ。

 同協会が発表した上期のパソコン出荷実績は、前年同期比10%減の506万6,000台、金額ベースでは同19%減の8,367億円。半期ベースで前年割れとなったのは、実に4年ぶりのことだ。

 なかでも、停滞ぶりが顕著なのが、個人需要である。

 同協会によると、上期の個人需要は前年同期比21%減となる約206万台。企業需要が、前年同期比1%減の約300万台であるのに比較すると、個人需要の停滞ぶりが明らかになる。確かに、昨年上期は、個人需要が活発で、その反動によるものということもできるが、年度初めの段階では、個人需要の通期の伸び率は年間8%増を予測しており、マイナス成長にはならないとしていたのだ。まさか、ここまで個人需要が落ち込むとは誰も考えていなかっただろう。

 この背景には、景気の不透明感による個人消費の低迷に加え、Windows XPを前にした買い控え、さらに、ブロードバンドの進展とパソコン需要の拡大が直結しなかったことなどがあげられる。

 個人需要の低迷は長期化すると見ており、今後の低迷ぶりも気になるところだ。

 もうひとつ、上期の数字で気になる動きは、第1四半期に比べて、第2四半期の落ち込みが激しいという点だ。

 第1四半期は、台数で279万3,000台(前年同期比2%増)、金額ベースでは4,710億円(同4%減)であったのに対し、第2四半期は227万3,000台(前年同期比21%減)、3,657億円(同32%減)と、2桁台の大幅な落ち込みになってきている。

 確かに、Windows XPの発売が近づいたことによる買い控えが進展、それが影響したということもできるが、この落ち込みぶりは、単にそれだけの影響とは考えにくい。むしろ、需要の停滞がより進展していると見た方がいいだろう。決して、回復基調にあるとはいえない状況なのだ。

●メーカーはXPに期待していない

 ところで、通期の下方修正値を見て、驚いたことがひとつある。

 それは、下期の見通しが前年比14%減と、上期実績の10%減よりも落ち込みが激しいと予測していることだ。絶対数で比較しても、上期506万台に対して、下期は550万台強と、それほど差がないのだ。個人需要が最も集中する年末年始商戦、企業の駆け込み需要が集中する年度末商戦を含む下期の出荷台数が大きいのは当たり前。それでも、この程度の数値の差しか見込んでいないのである。

 周知のように、下期には、Windows XPが発売される。いや、すでに、10月26日からはプレインストールしたパソコンが発売されており、業界内では、これを起爆剤として、需要喚起を図りたい考えだった。

 だが、今回のJEITAの修正値は、下期の需要停滞が続くと予測しているばかりか、Windows XPが起爆剤にはらないということを示したものだともいえるだろう。

 実は、主要パソコンメーカーの間では、すでに下期の需要停滞は折り込み済みだった。

 NECは、西垣浩司社長自らが「下期のパソコン需要の回復は期待できない」とコメント、先頃発表した中間期決算の席上でも、パソコンの出荷計画を、当初計画の382万台から300万台へと修正、前年実績を割り込む14%減としていた。また、富士通も、出荷計画を下方修正、前年の300万台から279万台と前年割れの見通しとした。

 ソニーは、180万台の国内出荷、390万台の全世界向け出荷の目標値は修正していないものの、「第1四半期に比べて、第2四半期の収益は減少している」(ソニー・徳中暉久CFO)というように、業績が悪化していることを認めている。

 下期のパソコン事業の回復を強調していた東芝は、国内出荷は通期110万台と前年比10%増とプラスの計画を掲げているが、それでも期首の計画だった125万台、8月に発表した130万台に比べると、下方修正する格好となっている。

 ある大手パソコンメーカーの幹部は、「もう、新しいOSだけでパソコンが売れる時代ではなくなってきていることを証明しただけ」と話す。

 マイクロソフトの阿多親市社長も、「OSが出たというだけでは、ユーザーは飛びつかない。新しいOSによって、どんな体験ができるかが重要だ」と話す。

 その阿多社長は、今回のJEITAおよびパソコンメーカーの下方修正値については、「確かに数字は数字として受け止めるが、これ以上の数のパソコンが作れないというわけではない。今は、パソコンの部品も潤沢に調達できるし、各社のサプライチェーン(SCM)の仕組みによって、需要が伸びれば、すぐに増産できる体制がとれている。需要を喚起するのが我々の仕事だ」と、Windows XPによる需要喚起に力を注ぐ考えを示している。

 11月16日のパッケージ版発売で、全国31店舗の販売店が、深夜零時のカウントダウン販売を行なうことを明らかにしたが、阿多社長自らもこれに駆けつけて、先頭でWindows XPによる販売拡大を指揮する考えだ。

●そしてXP搭載パソコンは……

 ところで、10月26日から発売になったWindows XP搭載パソコンの売れ行きはどうなのだろうか。

 全国562店舗のパソコンショップの売上データを集計しているBCN総研の調べによると、発売日の10月26日および、発売後初の土日となった27日、28日を含む10月22~28日の集計で、前週比21.6%という伸びを見せた。

 27、28日の2日間だけを捉えると、Windows XP搭載パソコンの比重は、デスクトップパソコンで75%、ノートパソコンで63%、両方あわせて68%と、一気に移行したのがわかる。

 さらに、付け加えれば、Windows XP搭載パソコン発売の一日前の25日深夜零時からのOEM版パッケージの発売時点には、約1,000人が秋葉原電気街に集まり、一部店舗では深夜だけで300本を上回る実売実績を見せたことを考えると出足は順調のようにみえる。

 だが、こうした瞬間風速の動きとは別に、数字を詳しく見てみると、依然として厳しい状況にあるのは間違いない。

 ノートパソコンでは、台数ベースでは前年同週比実績を上回ったものの、金額ベースではいずれも前年同週実績を下回るという結果。デスクトップパソコンでは、金額、台数ともに前年同週実績を大きく下回る結果となった。

 さらに、今年1月の1週間の平均実売実績を100とした指数換算では、10月22~28日の集計でも「78」と、1月の水準にも戻っていないという状況だ。

 そうした意味で、Windows XPが需要拡大の起爆剤になっていないというのは明白だといえよう。残念ながら、出足を見るといまひとつといわざるを得ない。Windows XPは、このまま需要拡大の起爆剤にならないままなのだろうか。Windows XPのパッケージ版正式発売を前にして、突然、業界内には暗雲が立ちこめ始めたのである。

□間連記事
【10月31日】JEITA、平成13年度のPC上半期出荷実績を発表
~出荷台数/金額ベースで前年比を下回る
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011031/jeita.htm

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(2001年11月6日)

[Reported by 大河原 克行]


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