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●最後に登場した書き込み可能なDVDフォーマット
DVD+RWの特徴は、PCでの使い勝手を重視した上で、互換性にも配慮した、という点にある。過去にこのコラムで見てきたように、DVDフォーラムの規格であるDVD-RやDVD-RWでは、書き込んだデータが少量の場合、ダミーデータを書き込んで読み取り互換性を確保する、といった処理を行なう。この処理は、既存のDVD-VideoプレーヤーやDVD-ROMドライブでの互換性を少しでも向上させるには、どのようなフォーマットでも(つまりはDVD+RWでも)必要なものだが、書込みに余分な時間がかかるという点で、使い勝手を損なってしまう。
DVD+RWでも、同様の処理を行なうことは可能だが、デフォルトではオフになっており、使い勝手を優先したことがうかがえる(新しいドライブやプレーヤーの多くが、少量のデータしか書き込んでいないメディアを読み取れる、という事情もあるだろう)。特にPCデバイスとして考えた場合、あまりにも過去にとらわれていると、アッという間に進歩に取り残されてしまう。マルチセッションとの互換性、CD-Rとの互換性、など過去にも同様な問題はあったが、特に対策が取られるわけでもなく、時間が問題を解決した。少量のデータを書き込む際に、ダミーデータを書いてまで互換性をとることが、必ずしも必要とは限らないだろう。加えて、パケットライト時に、事前にメディアの全フォーマットを行なうのではなく、必要最小限のフォーマットのみを行ない、必要に応じてバックグラウンドで(メディアへのアクセスがない間に)行なうというのも、使い勝手を高めている。
一方の互換性への配慮という点で、DVD+RWの骨格となるのは、データ間にリンクロスのないロスレスリンク技術だ。データを追記した場合も、高周波ウォブルを利用した高精度のアドレッシングにより、以前書いたデータと1ミクロン以内の精度で次のデータを書き込めるという。これにより、本来はランダムライト用のフォーマットではないUDF 1.5によるパケットライトや、DVD-ROMやDVD-Video互換のフォーマット(UDF 1.02 Bridge)による追記が「理論上」サポート可能となっている。
●リコーから最初のドライブが登場
さて、最初のDVD+RWドライブ製品となったのは、リコーのMP5120Aだ。2.4倍速のDVD+RW書込みに加え、8倍速のDVD-ROM読み出し、12倍速のCD-R書込み、10倍速CD-RW書込み、32倍速CD-ROM読み出しをサポートした、ATAPI対応のスーパーコンボドライブである。ATAPIデバイスとしてはUltra ATA/33に対応しており、横置きと縦置きの両方に対応する。
付属するライティングソフトは、BHAのB's Recorder GoldおよびB's CLiPに加え、SonicのDVD-Videoオーサリング/書込みソフトであるMyDVD、Easy Systems/DigiOnの書込みソフトであるDrag'n Drop CDの4種(他にもソフトウェアDVDプレーヤーのWinDVDなどが付属)。各ライティングソフトの機能については、表1にまとめておいた。
【表1: 各ライティングソフトがサポートする機能】
- | B's Recorder Gold 3.02 | B's CLiP 3.03 | MyDVD 3 | Drag'n Drop CD 2.0 |
---|---|---|---|---|
ディスクイメージ作成の省略 | ○ | ○ | × ※1 | ○ |
DVD-Video互換書込み | × | × | ○ | ○ |
DVD-Videoオーサリング | × | × | ○ | ○ |
DVD-Video非互換音声の変換 | × | × | ○ | ○ |
PCデータ書込み | ○ | ○ | × | ○ |
パケットライト | × | ○ | × | × |
データの追記 | ○ | ○ | × | × |
1.1GB未満の書込みが可能 | ○ | ○ | ○ | ○ |
この表で分かるのは、このMP5120Aでも、DVD-Video互換でビデオデータを追記するソフトが、今のところ提供されていない、ということである(現時点で提供の予定は不明)。DVD-Videoとの互換性を維持した上で、データの追記ができる、というのはDVD+RWの目玉機能だっただけに残念だ。そのほかの点においては、バンドルのソフトウェアで、機能的にはおおむねカバーされている。問題は、性能と互換性だ。
●規格通りの書き込み速度
というわけで、表2のようなシステム(基本的には、これまでDVD-RAM/RドライブやDVD-R/RWドライブを評価したものと同じ)を用いてベンチマークテストを行ない、そこで作成したメディアを用いて、他のDVD-ROMドライブ等による読み出し互換性テストを行なってみた。用いたデータは過去に用いたものと同じ、カノープスMTV1000で作成した約30分のMPEG-2データである(約1.7GB)。
【表2: テストに用いたシステム】
CPU: Pentium 4 1.8GHz
Motherboard: Intel D850GB (i850)
Memory: 128MB PC800 RDRAM
Graphics Card: WinFast GeForce3 TD
LAN: Intel 82557
Sound: Yamaha YMF744
OS: Windows 2000 SP2
【表3: データの書込みに要した時間】
メディア | 書込みソフト | オーサリング機能 | DVD-Video互換 | 実書込み量 | 書込み時間 | 転送レート |
---|---|---|---|---|---|---|
DVD+RW | B's Recorder Gold 3.02 | なし | No | 1.70GB | 10分19秒 | 2.81MB/sec |
B's CLiP Ver 3.03 | なし | No | 1.70GB | 8分58秒 ※1 | 3.24MB/sec | |
MyDVD | 内蔵 | Yes | 1.98GB ※2 | 11分27秒 ※3 | 2.95MB/sec | |
Drag'n Drop CD | 不使用 | No | 1.70GB | 10分33秒 | 2.75MB/sec | |
Drag'n Drop CD | 内蔵 | Yes | 1.97GB ※2 | 12分01秒 ※4 | 2.80MB/sec |
まず書込み速度のベンチマークテスト結果だが、おおむね2.4倍速見当の数字(2.9MB/sec前後)は出ている(表3)。パケットライトソフトであるB's CLiPの場合のみ3MB/secを超える結果となっているが、別途フォーマット時に1分強、DVD-ROM互換のファイナライズ処理に5分前後かかることを考え合わせれば、突出して高速、ということでもない。2回目以降の書込み後の終了処理時間である約1分を加えると、実際には他のライティングソフトウェアで書いた場合と、ほぼ同じと考えられる。
B's CLiPによる取り出し(ファイナライズ)処理。ダイアログではDVD-ROM互換でのファイナライズ処理に約1分かかると出ているが、初回は5~6分を要した(2回目以降は1分弱で完了) |
残るは、問題? の互換性テストだが、ここではMyDVDで作成したDVD-Video互換メディアと、B's CLiPでパケットライトしDVD-ROM互換のファイナライズ処理を行なったメディアが読み出せるかどうかを調べた。その結果が表4だ。まずDVD-Video互換メディアの読み出しテストだが、残念ながら筆者手持ちの民生機(PlayStation 2およびソニーDVP-M30)では認識されなかった。が、DVD-ROMドライブでの読み出しはなかなか良好だった。読み出せなかったのは、東芝のSD-M1102のみ。参考までに掲載したDVD-RW(DVD-Video互換)の結果と比べても、読み出し可能なドライブが増えている。
しかし、パケットライトでDVD-ROM互換のファイナライズ処理をしたメディアになると、読み出し可能なドライブが減ってしまった(民生機は元々サポートしていないためN/A)。これがドライブ側の問題なのか、ソフトウェアの問題なのかは分からないが、ロスレスリンクによる、互換性の高いUDF 1.5互換の書込みも、必ずしも万能ではないようだ。
【表4: DVD+RWで作成したメディアの読み出し】
PC用DVD-ROMドライブ | ||||
---|---|---|---|---|
メーカー名 | 製品名 | DVD-Video互換 | UDF1.5互換 (パケットライト) | DVD-RW (参考) |
リコー | MP9120A | 可能 | 可能 | 可能 |
MP9060A | 可能 | 可能 | 可能 | |
Creative | DVD1242E | 可能 ※1 | 不可 | 不可 |
東芝 | SD-M1102 | 不可 | 不可 | 可能 |
SD-M1212 | 可能 | 不可 | 不可 | |
パイオニア | DVD116 | 可能 | 可能 ※2 | 可能 |
日立 | GD7500 | 可能 | 可能 | 可能 |
民生機 | ||||
SCEI | PlayStation 2 | 不可 | N/A | 不可 |
ソニー | DVP-M30 | 不可 | N/A | 不可 |
●ライバルより優れるが微妙な互換性
今回テストした結果を見る限り、DVD+RWはかなり微妙なデバイスのようだ。DVD-RWやDVD-RAMと比べれば、確かに互換性は上であるように思う。読み出し可能なDVD-ROMドライブの種類は多いし、パケットライトした場合も、読み出し側のDVD-ROMドライブにパケットライトソフト等をインストールしなくても、読み出せるドライブが存在する。今のところ閉じた環境でしかパケットライトが使えないDVD-RWよりベターなのは間違いない。
しかしDVD+RWの互換性は、DVD-Rのそれに遠く及ばないのも事実だ。DVD-RメディアにDVD-Video互換の書込みを行なった場合も、すべてのプレーヤー、すべてのDVD-ROMドライブで読み出せない(互換性は100%ではない)のだが、少なくとも表4に掲載したドライブやプレーヤーではすべて読み出すことが可能である。現時点で、ビデオをDVDにして他者に渡すとしたら、DVD-R以外に選択肢はない、というのが率直なところだ。
もう1つ互換性問題を難しくするのが、MP5120Aを販売するリコーの立場だ。リコーのWebサイトでは、DVD+RWの再生互換性に関する情報提供が行なわれている(http://www.ricoh.co.jp/dvd/cope/index.html)。ドライブに関しては、自社の製品で動作保証が可能だ(それでも、リコーのラインナップには安価な純然たるDVD-ROMドライブは存在せず、みなコンボドライブとなる)が、本来家電メーカーでないリコーは、自社のDVDプレーヤーで互換性を保証することができない(パイオニアは自社のプレーヤーのほとんどでDVD-RWの互換性を保証している。パナソニックもDVD-RAMとの互換性保証を行なっているが、機種が極めて少ない)。
DVD+RW Allianceには、ソニー、フィリップス、ヤマハといった、わが国でAV機器を手がけるメーカーが含まれているが、こうしたメーカーの動向も必ずしも定かではない。たとえば最も大手のAV機器メーカーであるソニーだが、VAIOシリーズのPCにDVD-R/RWドライブを採用したのに続き、9月21日には民生用のDVD-RWレコーダーであるRDR-A1を発売した( http://www.sony.co.jp/sd/products/Models/Library/RDR-A1.html )。本当にDVD+RW Allianceメンバーなのか、疑わしくなってくる。
本来DVD+RWには、ビデオを追記していきながら、なおかつそのメディアがDVDプレーヤーで再生できる、という他のメディアでは実現が難しい長所があったハズだ。たとえ互換性が十分でなかったとしても、この長所は魅力的だし、そうであればサポートを表明するメーカーも増えてくるに違いない。一刻も早く、このメリットを生かせるソフトウェア環境の実現が必要だ。
最後に、メディアについても若干触れておこう。筆者は今回の評価を行なうに際し、DVD+RWメディアを2枚購入したが、先週末の段階においてこうしたバラ売りをしている販売店は秋葉原でも極めて限られていた。新宿地区を含め、多くの販売店は5枚入りの箱単位でしか販売していなかった。メディアメーカーとしては、リコーのほか三菱化学も参加しているが、店頭で見かけたのはすべてリコー製のメディアばかり。時間が解決してくれる問題だと思うが、潤沢な供給が望まれる。ただし、このような状態にあっても価格はそれほど割高ではなく、筆者の購入価格は1枚1,100円であった。リコーの努力がうかがえる価格であろう。
□関連記事
【9月26日】ようやく登場 DVD+RWドライブ「リコー MP5120A」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20010926/zooma28.htm
【8月23日】リコー、DVD+RW/CD-RWドライブ「スーパーコンボ」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20010823/ricoh.htm
(2001年10月3日)
[Text by 元麻布春男]