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Baniasのサンプルは来年夏/発表は2003年春?


●Baniasはまるで推理ゲーム

 「Banias(バニアス)」とは一体どんなCPUなのか。この、Intelの次世代モバイルCPUについては、Intelからほとんど情報が出ていないようだ。そのため、PC業界内部でも、Baniasについては憶測とウワサだけがどんどん膨れあがっている。みんな、少ない手がかりからBaniasの姿を予想し合っている。ある業界関係者は「まるで推理ゲーム(Detective Game)みたいだ」と評していたが、まさにその通りの状況だ。

 そこで、とりあえず、現在Baniasについてどんな情報があり、どんな推測が成り立つのかをまとめてみよう。

 まず、新しい情報から。あるPC業界関係者によると、Baniasのリリースは2003年の第2四半期の予定で、来年7月頃にはサンプルが出てくる見込みだという。また、Baniasは、「Odum(オーダム)」と「Monterra(モンテラ)」と呼ばれる専用チップセットとの組み合わせで登場するという。OdumとMonterraは別セグメント向けのチップセットで、Monterraがバリューセグメントやスモールフォームファクタ向けのグラフィックス内蔵チップセットらしい。Odumは単体チップセットなのかそれとも内蔵グラフィックスを殺されている(Intel 830MPのように)のかまだわからない。

 じつはこれらの情報も、それほど確かなものではない。例えば、チップセットの名称や綴りに関しては、ワンソースからの情報しかなく、裏がきちんとはとれていない。しかし、Baniasに対応チップセットが存在することだけは、一応確認ができている。また、スケジュールに関しては、ほとんどのソースが2003年と予測しているため、2003年春というのはおそらく間違えてはいないだろう。

 こうした基本的なことすらBaniasについてはわかっていない。そもそも、Baniasというコードネーム自体、Intelが“公式”に認めているものではない。正式に明らかにしたわけではないが、いつのまにか漏洩してしまったタイプのコードネームだ。


●Pentium 4の機能のいくつかを低消費電力モバイルに

 では、Baniasについて、これまでIntelが明らかにした情報はどんなものだろう。

 Intelによると、Baniasは2002~2003年のタイムスパンにリリースするモバイル専用のCPUで、「Pentium IIIともPentium 4とも異なる、ブランドニューのマイクロアーキテクチャを持つプロセッサ」(Intel、ドナルド・マクドナルドDirector MPG Marketing, Mobile Platforms Group)になるという。ターゲットとするのは、薄型軽量(Thin & Light)ノート~ミニノート(B5クラスのノート)~サブノート(B5以下あるいはファンレスノート)で、フルサイズノートに浸透するモバイルPentium 4(Northwood:ノースウッド)とは棲み分けるという。

 ただし、Baniasは機能的にはPentium 4に近いものになる。Intelのパット・ゲルシンガー副社長兼CTO(Intel Architecture Group)は「Pentium 4の機能のいくつかを、低消費電力モバイルセグメントにももたらすもの」とBaniasを形容している。また、開発を担当するのはIntelのメインのCPU開発チーム(カリフォルニア州とオレゴン州)ではなく、イスラエルの開発部隊だ。「イスラエルの開発チームで、500名のエンジニアがいる。これは統合プロセッサ『Timna(ティムナ)』を開発していたチームだ」(マクドナルド氏)という。実際、Baniasというコードネームも、ゴラン高原の古都から取られたものだ。

 また、ある業界関係者はBaniasについてIntelから「Pentium 4のようにトランジスタをクロックを引き上げることに費やした設計ではなく、クロックを上げなくてもある程度性能が出るような設計にする」と説明を受けたという。


●妥当なラインは2003年前半のリリース

 では、こうした公式情報と業界情報をベースにBaniasについて推測してゆこう。

 まずスケジュール。リリースが本当に2003年の第2四半期だとすると、サンプルが2002年7月というのはIntelの公式通りのスケジュールだ。というのは、Intelは、新アーキテクチャのCPUのリリースでは9カ月程度のサンプル期間を取って来たからだ。ここから逆算して行くと、社内サンプルが2002年7月だとすると、テープアウトは4~5月ということになる。すると、最終的なデザイン段階には今年半ば=今頃入っていないと間に合わない計算になる。つまり、その上流の論理設計はもう終わっていることになる。

 これは、スタート時点からの計算と大体マッチする。Baniasを開発しているチームはTimnaの開発チームだ。そうすると、Timna基本的な設計は'99年中にほぼ終わっていたことになるわけで、おそらく最上流のアーキテクチャの検討は'99年中から入っていた可能性が高い。そして、Intelがモバイル専用部隊を正式に発足させたのが2000年の春。ここが具体的な設計に入るスタート時点だとすると、そこから5四半期で最終デザインにこぎつけた計算になる。これは、Intelの通常の設計サイクルからするとかなり短いが、一応、可能なスケジュールだ。特に、後で説明するような方法で、マイクロアーキテクチャ開発をできる限り短縮すればこのスケジュールが可能になる。逆を言えば、これ以上早くすることは難しいだろう。2003年というのは妥当な線だ。


●Baniasは単体CPUか統合型CPUか

 次はチップの構成。現在、BaniasがTimnaのようなグラフィックス&チップセット統合型CPUだという報道も流れている。しかし、もし本当にBaniasにチップセットが存在するとしたら、Baniasは単体CPUということになる。また、Intel関係者の発言も、Baniasが単体CPUであるという推測を裏付ける。例えば、Intelのロバート・T・ジャクソン氏(Principal engineer, Mobile Platforms Group)は、Banias計画を発表した昨年10月のMicroprocessor Forumでのインタビューで統合化について次のように説明していた。

 「統合化は消費電力の低減につながるため、我々は常に統合化を考えている。特に、メモリコントローラの統合だ。しかし、これには問題がある。それは、メモリテクノロジの選択が非常に難しいことだ。今の段階では、我々はこれ(メモリコントローラの統合)についてはちょっとナーバスになっている。これについては社内でもずいぶん討議をしているが、今はしない方向へと傾いている。それは、メモリがどの方向へ向かうのか確信が持てないからだ。グラフィックスの統合も難しい。それは、カスタマごとに欲しがるグラフィックスソリューションが異なるためだ。統合化とフレキシビリティはトレードオフの関係にある」

 ジャクソン氏がこう語ったのは、ちょうどRDRAMインターフェイス&グラフィックス統合CPU「Timna」のキャンセルの直後。ナーバスになっているというのは、Timnaがメモリインターフェイスのためにキャンセルになったからだ。

 少なくとも、この段階では、Intelは統合化は否定的だったことがわかる。もちろん、この後、論理設計をフィックスするまでの間に、やはり統合化する方向へ軌道修正した可能性はある。しかし、スケジュールを考えると、少なくとも初代のBaniasに関しては、統合化されていない可能性の方が高いだろう。もっとも、これはBaniasが統合化へ向かわないという意味ではない。長期的には、消費電力や実装面積で利点の多い統合化に向かう可能性は高い。特に、イスラエルチームが、統合CPU Timnaで手腕を見せたことを考えると、統合化はかなりありうる話だ。


●BaniasはPentium IIIの拡張版?

 次にBaniasのマイクロアーキテクチャ。Baniasはモバイル専用の新設計CPUというふれこみだが、複数の業界関係者がマイクロアーキテクチャはPentium IIIをベースにしていると語っている。もっとも、こうした関係者も、Intelから公式にそう聞いたわけではないため、情報の確度はそう高くはない。

 しかし、Pentium IIIマイクロアーキテクチャベースというのは、かなりありそうな話だ。というのは、Baniasの設計期間がIntelにしてはかなり短いからだ。フルスクラッチでCPUアーキテクチャを開発するとなると、この期間ではいくらなんでも難しい。しかし、Pentium IIIアーキテクチャをベースに拡張するなら開発期間はかなり短くできる。

 また、Intelのジャクソン氏も昨年10月に次のように語っている。

  「プロセッサの消費電力を減らす要素の1つはキャパシタンスを減らすことだ。しかし、キャパシタンスの観点では、パフォーマンスとのバランスを十分考慮する必要がある。実際、我々は異なるマイクロアーキテクチャで消費電力と性能がどうなるかを、いろいろプロトタイプしてみた。その結果わかったのは、性能と消費電力の面でベストのパリティは、今のところ基本的にはP6(Pentium III系)マイクロアーキテクチャであるということだ。だから、Microprocessor Forumで示したピリオド(~2003年までを示した)では、モバイルプロセッサは基本的には同じマイクロアーキテクチャに留まる。しかし、プロセステクノロジごとにベストなマイクロアーキテクチャは考えてゆく」

 ジャクソン氏はBaniasについてと説明したわけではないが、この説明を聞くと、BaniasのマイクロアーキテクチャはPentium IIIベースであるように思える。もっとも、もしそうだったとしても、Intelは決してそうは認めないだろう。Pentium IIIはオールドアーキテクチャだからだ。


●命令セットはPentium 4互換か

 それに、機能面で見ればBaniasはPentium IIIとは大きく異なるだろう。少なくとも、命令セットレベルではPentium 4互換になると思われる。これはIntelが命令セットの互換を重視するためで、Baniasにはまず間違いなくPentium 4の新命令であるSSE2が統合されるだろう。

 システムバスインターフェイスは、どうなるかわからない。1つ考えられるのは、Pentium 4バス互換である可能性だ。ただし、昨年10月にゲルシンガーCTOに「Pentium IIIアーキテクチャでPentium 4バスのプロセッサの計画はあるか」と質問した時は、明確に「ノー」と答えていた。

 一方、Pentium III-M(Tualatin:テュアラティン)互換システムバスの可能性も低い。1つの理由は、Baniasでチップセットも世代交代するからだ。そもそも、Pentium III系のシステムバスは消費電力が高いと不評だったので、バスも低消費電力に向けて改良されている可能性がある。

 こうしてBaniasについて書いてみると、これが推理ゲームだということがよくわかる。そして、この推理ゲームはまだ当分は楽しめそうだ。

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【8月2日】【海外】Banias用チップセット「Odum」などIntelのチップセットロードマップが明らかに
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010802/kaigai01.htm

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(2001年8月10日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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