後藤貴子の 米国ハイテク事情

ニューエコノミーとオールドエコノミーは(やはり)融合する


●“インターネット企業”を脱して成功したAOL

 2000年頭にAOLがTime Warnerの買収を発表したとき、世間はあっと驚いた。Time Warnerといえは出版、CATV、映画、音楽などを抱える一大複合メディア企業。それを、最大手といえど、ただのインターネットサービス企業のAOLが買ったからだ。でもインターネット株で大儲けしていたような人々は逆に驚いていた。AOLはあんなオールドメディアを背負い込んで、どうするつもりだ?

 そう、当時はドットコムバブルの頂点。インターネット八百屋やインターネット・ペットショップに、街の投資家からエコノミストまでが入れ込み、インターネット企業は豊富な資金で買収合戦を繰り広げていた。しかし、多くの場合、それは同じインターネット企業同士での、インターネットの世界の中での陣取りだった。

 ところが、そのときひとりインターネット世界の外へと飛び出したのがAOLだ。Time Warnerは、CATVのTurner Broadcasting(CNNの会社)やケーブルシステム、映画のWarner Bros.に音楽のWarner Music、それに出版のTimeといったメディアを持ちながら、インターネット事業では、まるで沼に足をとられた恐竜だった。それを、AOLはバブルでふくれあがった資金力を使って、飲み込んだのだ。

 あれから1年半、状況は大きく変わった。ドットコムバブルははじけて、ほとんどのインターネット企業は株価が数分の1、あるいは数十分の1へと転落。倒産も相次いだ。例えば、インターネット企業の典型Yahoo!、Amazon.comの2年間の株価推移のチャートを見ると( http://finance.yahoo.com/ ;Yahoo!の略号:YHOO、Amazon:AMZN)、両社とも見事な右肩下がりだ。

 ところがAOLの株価は対照的に、ほぼ安定している。2年前に比べ若干下がってはいるが、右下がりとはいえない。

 つまり、バブル崩壊でインターネットの住人は皆沈んだが、AOL Time Warner1人だけが残った。そしてそれは、バーチャルの世界を飛び出したからこそ、だったのだ。

●“AOLモデル”への傾倒が加速する

 AOLの1人勝ちは、重要なことを示唆している。それは、ドットコムバブルが幻想だった以上、“AOLモデル”が今後の企業の生き残る道だということだ。

 つまり、これからはインターネット企業とオールド産業企業の融合がどんどん加速していく。バーチャルとリアル、2つの世界のコンバージェンスが起こるのだ。

 ……と書くと、疑問に思うかもしれない。インターネット業界もコンピュータ業界も冬の季節で、積極的な動きは見えないからだ。当のAOLにしても、けして絶好調というわけではなく、合併したTime Warnerの咀嚼・吸収にもまだ四苦八苦しているように見える。そもそも、コンバージェンスだの、その先にあるのはブロードバンド時代のインタラクティブサービスうんぬんなんて話は、みんな聞き飽きている感じがある。

 でも、それはこれまでタイミングが合っていなかったせいだろう。

 例えばブロードバンド時代のサービスの話は、本当はまだ絵コンテだって完成していない。それが今すぐ実現するかのように期待されすぎたのが問題だった。今、米国でAT&Tのような通信企業がインターネット企業同様、評価の急な凋落に悩んでいるのはそのせいだ。それに、これまでは企業がバーチャルとリアルのコンバージェンスに本気で取り組む必要性があまりなかった。ドットコムバブル時代には多くのインターネット企業がオールド産業をバカにしていたし、景気がよかったのでオールド産業のほうも多くはあまり切羽詰まっていなかった。

 しかしパソコンの伸びが止まって限界が見えた今は、企業がこの方向に進むのはやはり、“必然”だと思う。

 例えばAOLを見てみれば、1人勝ちの今のうちにブロードバンドサービスの実体化ができる体制を整えようとする意図がありありと見える。つまり、伝送路、端末、サービスすべてをコントロールできるようにしようとしているのだ。

 同社は、7月末にAmazon.comとの戦略提携および1億ドルの投資を発表( http://www.iredge.com/iredge/iredge.asp?c=002239&f=2005&fn=AMZN_AOL7_23_01__621.htm )した。報道によれば、AT&TのブロードバンドCATV部門と買収交渉を進めているといわれる。

 さらにもう少し前、今年5月にはSony Computer Entertainment(SCEI)とPlayStation2上でAOLのサービスを利用できるようにするなどの戦略提携を発表( http://media.aoltimewarner.com/media/press_view.cfm?release_num=55251928 )。遡ると、昨年11月のComdexでは、Gatewayと共同開発したインターネットアプライアンスも披露した。

 1つ1つの動きの狙いは明らかだ。

 Amazonとの提携により、AOLはAmazonのEコマース技術(特許を持っている1-Clickなど)にアクセスできるようになる。リリースでは触れていないが、Amazonがほかのショッピングサイトに比べ特に力を入れ充実させている、倉庫などの実際的な物流システムも利用したいことだろう。また、AT&TのブロードバンドCATV網がもし手に入れば、Time Warnerと合わせて最強のケーブルネットワークができる。それにPS2などを乗せれば、パソコンのない家庭、パソコンを置いていないリビングにもAOLサービスを提供できる。

 これを逆のサイドから見れば、ソニーなど、AOLと提携するほかの企業の側もみな、必死にブロードバンド時代に向けた体制を作ろうとしているわけだ。インターネットサービスだけでも、伝送路と端末だけでもダメ。AOL関係だけでなく、Yahoo! BBなどを見ても、みな狙う方向は同じだろう。

 ただ、AOLがTime Warnerの買い物のときうまくいったのは、あのタイミングであの買収対象を選んだスティーブ・ケース会長に、マーケティング力というか、先見性があったから。そしてそのセンスがあるからこそ、オールドメディアやケーブルの資産を生かせると見られているわけだ。

 ドットコムバブル時代と逆に、今はインターネット企業がお買い得になっている。そこで、これからはオールド産業企業からの食指もたくさん伸びるだろう。でもイニシアチブを取る企業がホントに内部から変身してインターネットへのセンスを身につけていないと、舵取りはうまくいかない。ソニーがサービス企業への脱皮にこだわっているのも、そのためだろう。

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(2001年8月8日)

[Text by 後藤貴子]


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