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会場:Slicon Valley Convention Center
Platform Conferenceで、AMDはモバイル向けCPUに関するセッションを開催し、モバイルAthlon 4に関するロードマップ、熱設計などに関する説明を行なった。この中でAMDは、モバイルAthlon 4 1.3GHzとモバイルDuron 950MHzを年末までリリースすることを明らかにした。
●第3四半期にモバイルAthlon 4 1.1GHz、第4四半期に1.3GHzを出荷
AMDが公開したロードマップ。第4四半期にはモバイルAthlon 4 1.3GHzが投入される |
AMDは5月にこれまでPalominoのコードネームでしられてきたモバイルAMD Athlon 4プロセッサ(以下モバイルAthlon 4) 1GHz、950MHz、900MHz、850MHzという4つのクロックグレードと、モバイルAMD Duronプロセッサ(以下モバイルDuron) 850MHz、800MHz、750MHzという3つのクロックグレードという2製品7クロックグレードを発表した。
モバイルDuron用にはMorganと呼ばれる専用コアが用意されていたが、リリース時にはMorganが間に合わなかったためPalominoが利用されており、256KBのL2キャッシュ容量が64KBに制限された状態で出荷されている。Morganが生産開始され次第モバイルDuronはMorganに切り替えられる。既に、日本ではコンパックコンピュータ、NECなどから搭載ノートPCがリリースされている。
今回、ダニエル氏が説明したのはモバイルAthlon 4、モバイルDuronに関するロードマップだ。それによれば、第3四半期中にモバイルAthlon 1.1GHzとモバイルDuron 900MHz、第4四半期にモバイルAthlon 1.3GHzと1.2GHz、モバイルDuron 900MHzを出荷する予定であるという。OEMメーカー筋の情報によれば、Intelは第4四半期にモバイルPentium IIIプロセッサ-M(以下モバイルPentium III-M)を、バリューセグメントではモバイルCeleron 900MHzを出荷すると顧客に説明しているという。今回のAMDのロードマップは、それを超えるものとなっている。
●モバイルAthlon 1.3GHzのTDPは30W
このセッションの中でAMDは、モバイルAthlon 1.3GHzのTDP(Thermal Desgin Power、熱設計電力)の値が30Wであることを明らかにした。これまでは、AMDはモバイルAthlon/DuronのTDPの値は25Wをベースに開発をしているとOEMメーカーなどに説明してきた。
実際、Platform Conferenceで開催されたAMDの「Thermal Management and Analysis of Mobile Platform」という別のセッションでは、TDPを25Wに設定したモバイルAthlon 4搭載マシンの熱設計ソリューションが説明されている。その中でAMDは通常のデスクトップPCよりもロープロファイルなSocket Aや放熱機構の取り付け方法など、25WのCPU向けの熱設計についての解説を行なっている。
AMDが公開したモバイルAthlon 4のTDPの値 | モバイル向けのロープロファイルなSocket A |
話がやや脇道にそれるが、その中で公開された資料によれば、面白いことに、モバイルAthlon 4 1GHz、950MHz、900MHzのTDPはいずれも24Wとなっている。クロックが上がれば、消費電力は増えるので、この3つのクロックが同じ消費電力であるということは、おそらく駆動電圧などで調節しているのだろう。
AMDはモバイルAthlon 4に関するデータシートを秘密保持契約を結んだ顧客にのみ公開しているので詳細は不明だが、同社のホームページ( http://www.amd.com/products/cpg/mobile/Athlon opn.html )でモバイルAthlon 4はどのクロックグレードも駆動電圧は1.2~1.4Vであるとしている。電圧が同じであればクロックに比例して消費電力量は増えるので、計算が合わないことになる。
仮に950MHzが1.35V、1GHzが1.3Vだとすると確かに計算上は24Wにおさまることになる。とすれば、1GHzでも1.4Vよりも若干電圧を下げるような方向で24Wを実現している可能性が高いと言えるだろう。
ちなみに、900MHzが1.4Vで24Wであるとすると、モバイルAthlon 4 1.3GHzは計算上は34.6Wとなる。このため、やはり1.3GHzでもおそらく駆動電圧が引き下げられ、30Wを実現するということなのだろう。計算上は駆動電圧を1.3Vに設定すると、ちょうど30Wとなる。
もっとも、AMDのモバイルCPUの電圧はPowerNow!でフレキシブルに変更可能であり、上限を1.3Vにすればよいだけの話ではあるのだが、歩留まりは下がるので、生産はより難しくなる。
本題に戻ろう。今回のセッションではTDPの値が30Wとなった場合の熱設計に関しては触れられなかったが、今後、熱設計電力が上がったときの課題として、ファンの大型化、ヒートシンクの大型化、さらにはキーボードや底面などを利用した放熱などが紹介されていたが、AMDとしてこうしたソリューションを用意する必要は実はない。
というのも、後藤氏のWeekly海外ニュース「クールじゃないTualatin、どうして熱設計消費電力がこんなに高いのか」( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010702/kaigai01.htm )でも触れられているように、IntelはOEMメーカーに対して、フルサイズノートPCは30Wをターゲットに開発して欲しいと説明しているという。となれば、AMDとしては特別なソリューションを用意する必要なく、Intel向けに開発が進んでいる30Wの熱設計をそのまま応用して貰えばいいわけだ。このように、AMDとしては熱設計に関してはIntelのCPUと歩調を合わせていく戦略であると推定できる。
●2002年にはThoroughbredでNorthwoodに対抗
AMDのモバイル向けCPUコアロードマップ |
また、モバイル向けCPUコアロードマップも公開された。基本的には、従来のものから大きな変動はない。2001年はPalominoコアのモバイルAthlon 4、当初はPalominoコア、後にMorganコアとなるモバイルDuronがリリースされる。クロックなどに関しては既に述べたように、第3四半期にモバイルAthlon 4 1.1GHzとモバイルDuron 850MHz、第4四半期にモバイルAthlon 4 1.3GHzと1.2GHz、モバイルDuron 900MHzがリリースされる。
そして2002年の前半にはPalominoの製造プロセスルールを0.13μmへと微細化したThoroughbred(サラブレッド)がパフォーマンスPC向けに投入され、さらにMorganの製造プロセスルールを0.13μmに微細化したAppaloosaも投入される。Thoroughbredの投入により、Intelが2002年の第1四半期に投入すると言われているモバイルNorthwood 1.6GHz、1.5GHzに対抗するというのがAMDのストーリーだ。0.13μmに微細化することにより、消費電力の低減が期待できる。このため、よりクロックを上げることが可能になるので、1.4GHzや1.5GHzといったモバイルNorthwoodに匹敵するクロックを送り出すことも可能になるだろうから、今後、AMDがモバイル市場でシェアを伸ばすチャンスは十分にあると言える。
このように、AMDがフルサイズノートPCの市場でIntelと互角に戦うことは、デスクトップPC市場でも起きたように、モバイルの市場でもAMDとIntelによる激しい価格戦争が勃発する可能性があることを意味する。現在は未だ高価なノートPC用CPUだが、今後は劇的に下がる可能性がでてきたわけで、それに引っ張られる形でノートPC自体の低価格化が進むという展開も十分考えられ、期待したいところだ。
(2001年7月26日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]