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なぜTransmetaにとってサーバーが重要になったのか


●TransmetaのターゲットはノートPCとIAとサーバーの3本に

 急に始まったサーバー高密度化の波。その中で、従来サーバーの8倍のサーバー密度とサーバー当たり1/5~1/10の低消費電力を実現できるCrusoeサーバーは、技術的に注目を集めている。米国では、いきなり、サーバー市場でCrusoeがスポットを浴びてしまった格好だ。

 しかし、サーバーはTransmeta自身にとっても、戦略上重要な市場になり始めている。それは、軽量小型ノートPCとインフォメーションアプライアンス(IA)のどちらでも、まだボリューム的に大成功を納め切れていないからだ。

 例えば、ノートPCでは、日本では話題にこそなったが、Crusoeの登場で期待されていたようなモバイル市場の急拡大はまだ起きていない。そして、PCの最大市場である米国を、Transmetaはまだ攻略できていない。日本メーカーはCrusoeノートPCを米国でも発売しているが、日本と比べると盛り上がり具合はかなり違う。特に、米国PCメーカーがCrusoeに動かなかったことは大きい。

 もうひとつのIA市場は、当たれば大きい。しかし、「フランクに言って、この市場は急激に立ち上がってはいない。顧客はインターネット家電を開発しているものの、市場に足しては様子見(wait and see)的なところがある」(Transmeta、ジェームス・チャップマン上席副社長、Sales & Marketing)という状況だ。Crusoeベースのプロジェクトはいくつもあるのだが、「技術的な問題ではなく市場にクエスチョンがあるため、立ち上がりが見えない」という。

 こうして見ると、この2つの市場でのCrusoeの可能性は大きいにも関わらず、Transmetaを十分に潤せる時がいつ来るのか、明確ではないことがわかる。しかし、この状態があまり長く続くと、Transmetaは体力が持たない可能性がある。実際、Transmetaの現在の財政状況は決してよくない。株価も、去年IPOをした直後には一時50ドルにまで達したのが、今や10ドル台にまで落ち込んでいる。Transmeta経営陣は、迅速に成果を上げなければならない状況にあると思われる。

 そのため、Crusoeサーバーに、Transmetaの期待がかかり始めているのだ。1ラックで300個以上のCrusoeを搭載できるサーバーは、Transmetaにとって利益を生み出す、打ち出の小槌となる可能性がある。ISPなどが採用すれば、1社だけで何千個ものCrusoeが出荷されるからだ。そのため、Transmeta自体も、Crusoeにサーバー向け機能を追加する計画(来年のCMS4.3)など、この市場を意識した動きに出始めた。Transmetaの軸足がモバイルとIAにあるのは確かだが、ここへ来てサーバーが3つ目の戦略エリアとして急浮上してきた。

●Intelは低電圧版Pentium IIIで対抗する計画を発表

 だが、もちろん、サーバー市場で競合するIntelだって黙ってはいない。それは、Crusoeが斬り込んだフロントエンドサーバー市場が成長市場だからだ。実際、Intelは今年2月に開催したIDFのスライドで、フロントエンドサーバーがサーバーCPU市場全体のうち84%を占めると指摘している。

 そこで、IntelはIDFで、ウルトラデンスサーバー向けとして超低電圧版Pentium III(500MHz)を現行の0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)で提供、さらに、今年の後半には0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)でも低電圧版と超低電圧版を提供する計画を明らかにした。サーバーをハイパフォーマンスCPUへと誘導するという従来路線は変えていないものの、フロントエンドサーバー向けにはサーバー密度を高める選択肢も提供しようというわけだ。こうしたウルトラデンスサーバー向けCPUのTDP(Thermal Design Power:熱設計電力)は9W以下に抑えるという。Intelの基準では、薄型軽量ノートPC向けモバイルCPUのTDPは7W以下なので、B5以下のノートPCとほぼ同じレベルの消費電力に抑えるということになる。

 Intelのこの時のデモでは、2U(約88mm)厚のユニットに8つのサーバーと2つのスイッチを詰め込んだ超低電圧版Pentium IIIシステムが公開された。各サーバーはサーバーブレード(ServerBlade:シングルボードサーバーのこと)になっており、それぞれ超低電圧版Pentium III 500MHz、1GB ECCメモリ、100 Base-TX Ethernet、30GB HDDを搭載する。1U当たり4サーバーで42Uのラック全体なら168サーバーを搭載できる計算だ。RLX TechnologiesのCrusoeサーバーの1U当たり8サーバーでラックで336サーバーの約半分だが、これでギャップは大きく縮められる。

●IntelはTualatinで対抗

ジェームス・チャップマン上席副社長
 こうしたIntelの動きを、Transmetaのジェームス・チャップマン(James N. Chapman)上席副社長(Sales & Marketing)は次のように見る。

 「Intelの戦略は、(サーバー市場に入るという)我々のステイトメントに反応したものだ。IntelはCompaqとともに、低消費電力サーバーを実現するというペイバーウエア(揮発性ウエア=実態のない製品)アナウンスメントを行なった。これは、驚くべきことだ。あんな巨大企業が、我々のような小さな企業をターゲットにするなんて。このことこそ、我々の方向が正しいことを示すものだ」

 実際、2月に行なわれたIntelの超低電圧版サーバーCPU発表は、事前にはウワサにもなっておらず、OEMにも伝えられていなかったという。そのため、この戦略は、IDFの前に行なわれたCrusoeサーバー発表に対抗して、急きょ組み立てられたと思われる。

 しかも、現在、Intelの計画は若干セットバックしている。最新の状況では、OEMには今年第4四半期からTualatinベースで700MHzの低電圧版Pentium IIIを提供すると伝えているという。これは、1.1V駆動でモバイルTualatinの超低電圧版に相当するようだ。セットバックした理由は、Coppermineベースでウルトラデンスを実現するプランが現実的ではなかったのと、低消費電力のTualatin対応サーバー向けチップセットが用意できないためだと見られる。

 「Intelのテクノロジロードマップを見る限り、彼らにはまだ準備ができていない。多分、今年の第4四半期の段階でも無理だろう。また、我々の製品が達成できる密度と消費電力、コストのレベルを彼らが達成することは当面はできないだろう」とチャップマン氏はこの動きを分析する。

 もっとも、Intelは低電圧版ではないTualatinの方は、サーバー向けに急いで提供を始めている。すでに秋葉原に出回っている、512KB版のTualatinがそれだ。Intelは、消費電力がこれまでのPentium IIIより低いTualatinで、取りあえずつなぐつもりらしい。Tualatinの投入で、モバイルやデスクトップよりもサーバーを優先したところに、Intelがこの市場を重視する姿勢が見える。

 ハイデンスサーバーへの動きはAMDも意識している。例えば、AMDはデュアルプロセッサ用チップセットAMD-760MPで、Athlon MPだけでなく次世代Duron(Morgan:モルガン)もサポートする。台湾で行なわれた760MP発表会で、AMDはその理由について「ワークステーションではパフォーマンスが最重要だが、サーバーではパフォーマンスだけでなく消費電力と密度が重要になって来ているから」と説明した。AMDもこの動きをチャンスと見て重視しているのは確かだ。ただし、現行のAMD CPUは消費電力が高いので、本格化するのは、0.13μmに移行してからになるだろう。

●技術的には優位のCrusoe

RLX Technologies CTO Christopher G. Hipp氏
 全体の流れを見ても、ハイデンス/ウルトラデンスサーバー市場の本番は、0.13μm CPU世代でのことになると思われる。そして、0.13μm世代でも、サーバー密度でのTransmetaのアーキテクチャ上の優位はまだ続くと見られる。最初の0.13μm CPUである「Crusoe TM5800」ではさらに低消費電力化を実現するほか、来年さらに新しいCPUを投入するからだ。

 例えば、RLX Technologiesのクリストファー・G・ヒップ(Christopher G. Hipp)CTOは、来年後半に登場する統合型Crusoeを使うことで、サーバー密度をさらに2倍に引き上げることができると言う。1枚のServerBlade当たりに2サーバーを搭載することになるようだ。単純計算では、42Uのラックに672サーバーを詰め込めることになる。ラックを10個も並べれば6,000サーバーだ。

 また、Crusoeが備える、オンデマンドでのクロック&電圧の多段階切り替えの省電力技術「LongRun」も、サーバーの平均消費電力を引き下げる助けになるという。LongRunでは、継続してある程度の負荷が続くようなケースでCPUの消費電力を大きく下げることができる。同種の技術は、AMDも省電力技術「PowerNOW!」で実現している。AMDベースの1Uサーバーを開発しているベンダーは、PowerNOW!をサーバーに使う計画だ。それに対して、Intelは現在こうした技術を持っていない。今後、Tualatinでオンデマンドの制御を行なうとしても、現在のSpeedStepのように2段階で切り替えるだけだと、そこそこの負荷が継続的に続くアプリケーションでは、ほとんど省電力効果がない。

 Intelは、Crusoeの登場まで、CPUのパフォーマンスを上げることに熱中するあまり、低消費電力化を怠ってしまった。その結果、モバイルだけでなくサーバーでまで、慌てなくてはならなくなった。このツケは大きい。

□関連記事
【6月21日】【海外】なぜCrusoeサーバーなのか-それはサーバー密度のため
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010621/kaigai01.htm


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(2001年6月22日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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