プロカメラマン山田久美夫の

ソニー「Cyber-shot DSC-S85」ファーストインプレッション


Cyber-shot DSC-S85
 ソニーから、1/1.8インチ413万画素CCDを搭載した上級機「Cyber-shot DSC-S85」が発表された。

 このモデルは、今春発売された334万画素モデル「DSC-S75」がベースになっており、同機のCCDを新開発の400万画素級CCDに置き換えたモデルだと思えばわかりやすいだろう。

 1/1.8インチ413万画素CCDは、上級機の主流になっている、1/1.8インチ334万画素CCDと同じサイズで、画素を高密度化し、総画素数413万画素を実現させたものだ。

 高画素化を図る場合、CCD全体のサイズを大きくする方法と、サイズを変えずに密度を高める方法があるが、このCCDの場合には後者を選択したというわけだ。

 この方法のメリットは、現行の1/1.8インチCCDを搭載した334万画素機をベースに、CCDと処理回路を入れ替えることで、400万画素機を実現できることだ。今回の「DSC-S85」は、その手法を素直に適用したモデルというわけだ。

●銀塩カメラユーザーを意識した本格派モデル

 S85のベースとなった「DSC-S75」は、ソニーのラインナップ“Sシリーズ”の一員だ。といっても、すでに「DSC-S30」と「S50」は市場から姿を消しており、「S70」も一部量販店では販売完了となっているため、事実上、Sシリーズは「S75」しか存在していない。

 また、昨年登場した初代「Sシリーズ(S30/S50/S70)」はスタミナと実用性をウリにしたシリーズであり、Cyber-shot系列のなかでは比較的地味な存在だった。しかし、今春の「S75」からは、「銀塩カメラユーザーを強く意識したモデル」へとやや方向転換されている。そういう流れのなかで、フラッグシップモデルとして登場したのが、この「DSC-S85」というわけだ。

●デザインや機能は「S75」を踏襲

 S85のデザインや基本機能は、ほとんど「S75」そのもので、「S75」のブラックバージョンといわれれば、そのまま信じてしまいそうなほどだ。

 カメラ本体がブラック仕上げになったことで、見た目の“格”はワンランク向上しており、実販9万円前後のモデルらしい雰囲気を醸し出している。

 また、本機にあわせて、52mm径のフィルターや純正ワイドコンバーターを装着できるアダプターリングにもブラックタイプが用意された。

 「S75」との、機能面での違いは、きわめて少なく、0.6秒間隔で連続3コマの連写機能と、この機能を利用した自動段階露出機能(EV0.3、0.6、1.0段階)の追加という2点のみとなっている。

●十分軽快な撮影感覚

 撮影感覚はなかなか軽快だ。もはや、この程度の高画素化であれば、操作感が明らかに鈍くなるようなことはなく、「S75」とほぼ同等の撮影感覚を実現している。400万画素という数字から想像されるような動作の重さはない。

 操作性は「S75」そのもので、なかなかよく考えられている。使用頻度の高い機能をできるだけワンタッチで操作できるように考えられているのが大きな特徴だ。

 操作部は、直感的な操作ができるよう、ボディ上部に大型モードダイアル、シャッター側の側面にはジョグダイアル、背面には十字パッドが配置されている。使用頻度の高い、露出補正やスポット測光には、専用ボタンを設けており、ストロボやマクロ切り替え、簡単再生機能(直前の撮影画像の再生)なども、十字パッドによるワンタッチ操作が可能だ。

 ただ、ジョグダイアルでのメニュー操作ができず、露出補正とマニュアルフォーカス時、再生時のコマ送りでしか機能しない点は実に残念。使いやすいインターフェイスなだけに、その機能を活かし切れていない感じがある。

 しかし、ワンタッチ操作にこだわったため、操作部が多く、ゴチャゴチャした感じもある。背面のボタン類がかなり小さくなってしまっているのも残念だ。

 また、「S70」に比べて、再生速度が飛躍的に向上している。ISO感度のマニュアル設定や圧縮率の変更「ファイン/スタンダード」の変更も可能。さらに、日中での液晶モニターの視認性やAF測距速度といった面でも長足の進化を遂げている。

 もちろん、マクロモードに切り替えた際にも、従来通り、マクロ域から無限遠までフルにカバーすることができるため、マクロモードにいれたまま、通常の撮影まで心配なくカバーできる点は大きな魅力だ。

●わずかに向上した解像度

 さて、本機でもっとも注目されるのが画質。なかでも、400万画素化とCCDの高密度化により、現行の334万画素機に比べて、どれくらい写りの違いがあるのかが大きなポイントだ。

 まず、実質的な解像度で見ると、「S75」より「S85」のほうが、わずかに勝る程度。だが、その違いは、200万画素機と300万画素機ほど明確なものではない。

 それもそのハズで、有効画素数から見れば、「S75」と「S85」で約85万画素も増えているとはいえ、比率でいえば、たかだか26%程度しか増えていないのだから、大幅な解像度の向上を期待する方が無理というもの。

 ちなみに、同じ100万画素増えたといっても、200万画素機と300万画素機で有効画素数は、比率でいえば約64%も増えていたのだ。

 一方、高密度化に伴う感度低下で懸念されたノイズレベルは、意外に少なく、334万画素機「S75」よりごくわずかに増えた程度。実際に2枚を比較しなければその差が感じられないレベルに収まっている。

S85 S75

 少なくとも、昨春に334万画素機が登場した当時よりも、ノイズレベルは少なく、同画素でも画質が向上している今春の334万画素機と比べても、さほど遜色のないレベルであることは確かだろう。

 また、今回はベータ版モデルでの撮影だったわけだが、色再現性の点でも「S75」と「S85」の違いは少なく、わずかに「S85」のほうがやや落ち着いた感じになっている。

 階調再現性の点でも、さほど大きな違いは見られない。むしろ、今春のソニーモデルは、内部処理が14bit化されたことで、グラデーションが従来機よりも滑らかになっているため、人物の肌の描写などを見ると、階調豊かな、立体感のある描写を実現している点に好感が持てる。

 総じて、今回の実写結果を見る限り、334万画素の「S75」と413万画素機「S85」を比較してみて、「S85」の写りが、「S75」を明らかに下回るようなことはなく、安心して使える、高画素機に仕上がっているという印象を受けた。

 もっとも、階調性やノイズレベルという点で見れば、同じ1/1.8インチでも、211万画素CCDを搭載した方が、1画素あたりの有効面積が大きいため、画質面でさらに有利なのはいうまでもない。もちろん、本シリーズには、そのようなCCDのモデルはないが、商品性はともかく、そんな“画像としての美しさ”を追求したようなモデル(「S65」?)も、見てみたい気がした。

【定点撮影】

ワイド端 テレ端
S85ファイン
S85ノーマル
S75ファイン

●難しい選択肢

 実は私自身、CCDの密度が高い、今回の1/1.8インチ型400万画素CCDの実力に疑問符を抱く部分が大きかった。

 だが、今回、「S85」を使ってみて、1/1.8インチCCD搭載の400万画素機に対する、画質面での心配はほぼ一掃された。

 その画質は、画素数がほぼ同等でも、大型CCDを搭載したデジタル一眼レフには遠く及ばないものであり、同じコンシューマ向けモデルでも、CCDのポテンシャルが高い2/3インチ524万画素CCD搭載機のほうが有利なのは明らかだ。  その点、今回の1/1.8インチサイズの400万画素級モデルは、334万画素機の発展系であり、画質面での違いよりも、むしろ、数字的な安心感といった意味合いの方が大きいような気がする。

 もちろん、普通のスナップ用途であれば、誰もがここまでの高画素機が必要なわけではなく、200万画素機でも十分なケースも数多い。その意味で、今回のような高画素機は、実用性よりも、ある程度、カメラや解像度にこだわりを持つ人向けのモデルだ。

 その意味で、今回の「DSC-S85」は、Cyber-shot Sシリーズのフラッグシップモデルであるという“満足感”と、「DSC-S75」に400万画素級という数値的・精神的“安心感”を付加したモデルと考えるのが、一番わかりやすいだろう。

 では、具体的に、今回の413万画素機「S85」と、334万画素機「S75」のどちらを選ぶかという選択になると、これがかなり難しい。

 本機「S85」はオープンプライスだが、実販価格は89,800円前後になると思われる。それに対して334万画素機である「S75」は79,800円前後となり、実質的な価格差は約1万円となる。

 もし、実販価格が1万円の差なら、のちのちでも数値的な“安心感”がある400万画素機の「DSC-S85」をオススメしたい。ただ、15,000円以上の価格差になれば、コストパフォーマンスの点で今春の334万画素機を選ぶという手もありそうだ。


【人物撮影】

【マクロ撮影】

【屋内撮影】

【フラッシュ】

フラッシュ無し フラッシュ有り


(2001年6月7~8日)


■注意■

[Reported by 山田久美夫]


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