WWDC2001基調講演レポート(前編)
オープニングセッションでデベロッパに
Mac OS Xへの注力を要請

会期:5月21日~5月25日(現地時間)
会場:SanJose McEnery Convention Center



 Apple ComputerのWWDC(WorldWide Developers Conference = 世界開発者会議)のオープニングは、今年もCEOのSteve Jobsが務めた。今年は基調講演ではなく「Fireside Chat」と題されていたため、どういった内容になるか注目を集めたが、スピーチの進行や手順などはいつもどおりの展開で新鮮味には欠けた。なおWWDCで開示される技術情報や、セッションの詳細などはNDA(機密保持契約)の対象となっているため、レポートできる内容はこのオープニングセッションだけであることをあらかじめお伝えしておく。


■予定を2カ月前倒しして、Mac OS Xのプリロードをスタート

Mac OS Xのパッケージを手にステージに現われたCEOのSteve Jobs
 「今日は将来の話はしない。それはMac OS Xがすでに市場にでているからだ」。Steve Jobsはこう切り出して、アップル復帰以来、4度目となるWWDCのスピーチを始めた。スピーチの冒頭では、発売されたばかりのiBookのPRビデオとCMビデオを流したあと、今回のスピーチのなかでは唯一ハードウェアについて触れた。それはプロフェッショナルラインにおける、CRTディスプレイの撤廃。スクリーンに表示された17インチのApple Studio Displayにわかれを告げ、業界ではじめてLCDだけのラインアップに移行すると宣言した。

 空きのでた17インチクラスには、1,280×1,024ドット表示の17インチLCDモデルを999ドルで発売。日本では6月中旬から128,000円で発売される。同時に22インチのシネマディスプレイを2999ドルから2499ドル(348,000円→298,000円)に、15インチLCDモデルを799ドルから599ドル(98,000円→75,800円)にそれぞれ値下げしている。

サヨナラされてしまった17インチのCRTディスプレイ。スピーチでは、プロフェッショナル向けの、という表現が使われていたので、今後iMacのモデルチェンジの際に、CRTの採用が継続するかどうかが気になる 22インチシネマ、17インチ、15インチのラインナップになったLCDモニタ。USBハブ機能を持ち、本体からの電源供給とデジタル接続と一緒にケーブルが一本だけですむことの先進性も強調した 新しい17インチのLCDモニタは999ドル(日本では128,000円)。およそ160度の視野角をもち、1,280×1,024ドットで1,670万色表示に対応する。96dpi表示が標準となったMac OS Xでの利用を考慮した解像度でもある

 続いてMac OS Xにテーマは移り、出荷から58日が経過したMac OS Xにはすでに600以上のネイティブアプリケーションがあり、出荷後も4万件以上のフィードバックを得ていることを明らかにした。こうしたフィードバックは、一般のユーザーが、Dock、Finder、Mailなどそれぞれの機能の充実や、DVD再生、DVD-RとCD-RWへの対応などが上位を占めるのに対し、デベロッパからはデベロッパ向けツールやドキュメントの提供、プリントテクノロジー、アドバンスドオーディオ、AppleScriptの機能拡張になるという。

 そして共通してトップに位置するのがパフォーマンスの向上であるということだ。すでにMac OS Xは3度のソフトウェア・アップデートをして、これらの要望に対応。この仕組みが非常に良い役割を果たしていることを強調した。続いて会場のデベロッパに対し、Mac OS Xのネイティブアプリケーションの開発を要請。すでに発売済みのネイティブアプリケーションとして、マクロメディアの「FREEHAND 10」とファイルメーカーの「FileMaker Pro 5.5」をそれぞれ紹介した。

ネイティブアプリケーションの1つ「FREEHAND 10」をデモするマクロメディアの上級副社長Tom Hale氏 Dominique Goupil氏による「FileMaker Pro 5.5」のデモ。PDFにも対応した。年末にはCocoaによって作られたServer版をリリースするという CocoaのFrameworkのみを使って、その場で簡単なムービー編集ソフトを作って見せるApple ComputerのScott Foastal氏

 さらにJobs氏は、Mac OS Xのアドバンテージを強調。UNIXのパワフルさと堅牢性、それに簡単でエレガンスなMac OSの操作性を加えたものが、Mac OS Xであると説明する。そして、「今年の終わりまでには、Appleが最大のUNIXサプライヤーになる」ことと、「来年ここに集うときには、(OS 9からOS Xへの)移行が完了している」と付け加えた。スムーズな移行をさらに加速するため、これまで7月とアナウンスしてきた本体へのプリロードを2カ月前倒しし、今日工場出荷されるものからMac OS 9とMac OS Xのデュアルブートに対応することを表明した。

 購入直後こそOS 9が起動するが、インストール作業をすることなく簡単に起動システムを切り替えてMac OS Xに移行ができるようになっているという。同時に出荷済みの製品についても、パッケージがバンドル(日本ではMac OS X Up-To-Dateプログラムで対応)されるので、事実上この日以降販売されるMacには何らかの形でMac OS Xが付属することになる。

これまで7月と公約していたプリロードを今日からに前倒し。スピーチでの言葉を額面通りに受け取れば、早期移行を望むユーザーやデベロッパの声に応えたということになるが…… 出荷されるすべてのMacがデュアルブートとなる。初回起動時はMac OS 9が起動するが、簡単な操作で起動システムをMac OS Xに変更できる。ふたたびMac OS 9へ戻すことも可能 Mac OS Xにおける成長のカギは三つに整理できる。1つは、Mac OS Xのさらなる機能向上、2つめがネイティブアプリケーションの出荷、そしてプリロードによるすべてのMacへの導入だ


■開店直後のアップル直営店は週末の2日間で7,700人を動員

 「もう1つ報告することは、AppleがRetailになったことだ」と、先週末から始まった直営店の戦略紹介がはじまった。最初にMacのユーザーはポータブルデジタルデバイスの所有率が高いことをデータを使って説明。デジタルハブとしてのMacの意義と、これらを直営店でMacと一緒にデモしたり販売したりすることが成長につながると説明した。現在のAppleのシェアはおよそ5%。この数字は、メルセデスとBMWのシェアをあわせた程度のものだという。直営店の展開は残る95%(彼らはMacのすばらしさを知らないのかもしれない)の顧客獲得を目指すものだと言いたいわけだ。「5 down. 95 to go.」と、新聞広告にも出した宣言がそれにあたる。

MacユーザーはPCのユーザーとくらべて、ポータブルなデジタルデバイスの所有率が高いという調査結果を披露。デジタルハブとしてのMacの意義と、これらを直営店でMacと一緒にデモして販売するメリットを強調 直営店は二日間で599,000ドルを売り上げた。これには238台のMacと935本のソフトウェアが含まれている。来店者数は7700人にのぼったということで、約8人にひとりがソフトウェアを買っていった計算になる Steve Jobsみずから店内を案内するビデオは、同社のホームページでも見ることができる。紹介されているのは、バージニア州の「Tysons Corner」だが、実際に訪れてみた「Glendale Galleria」と店内の構造はほぼ同一だ

 先にレポートしたとおり、アップルの直営店は今年中に25店舗が設置されることになっているが、先週末に開店したのはそのうちの2店舗。1つは、バージニア州マクレーンの「Tysons Corner」で、もう1つはカリフォルニア州グレンデールの「Glendale Galleria」。2つの店舗には、2日間で7,700人の来店があり238台のMacを販売した。さらに935本のソフトウェアを販売して、総売上は599,000ドルにのぼったという。

 ビデオを見ていると「6」という数字のこだわりに気がつく。展示されているデジタルカメラ、デジタルビデオ、MP3プレーヤー、PDAは、すべて6台ずつ。さらに店内にある36台のMacは、6つのセクションにわかれている(6×6)。これは果たして意図したものなのか、偶然なのか。ちなみに、あの「Apple II」の当初の価格が666.66ドルだったわけだが……。

□米Apple Computerのホームページ(英文)
http://www.apple.com/
□WWDCの案内ページ(日本語)
http://developer.apple.com/ja/wwdc2001/

(2001年5月23日)

[Reported by 矢作 晃]


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