元麻布春男の週刊PCホットライン

VGAに代わる新規格“UGA”が登場


●VGAに代わる新規格が登場

 この原稿を書いているのは、米国時間で3月28日の夜。3日間におよぶWinHECが終わった夜だ。すべて聞くべき話は聞いた、というわけだが、全体的な印象は前回書いたことからあまり変わっていない。ただし、3日間の内には、ハードウェアに関する興味深い話もあった。たとえば、次世代のグラフィックアーキテクチャについての話だ。

 今もグラフィックチップは、'80年代半ばのテクノロジであるVGAとの互換性を守りつづけている。これがなければ、システムが起動した後OSがディスプレイドライバをロードするまで、画面は真っ黒のままになってしまう。また、トラブルが生じた際のセーフモードも利用できなくなる。要するに現時点でのVGAは、さまざまなグラフィックチップ間の最小限の互換性であり、グラフィックに問題が生じた場合のセーフティネットの役割を果たしていることになる。

 しかし、今となってはVGAには問題が多い。リソース(I/Oアドレスやメモリアドレス)がリロケートできないこと、リロケートできないためマルチディスプレイの実現がトリッキーであること(複数のVGA互換のディスプレイアダプタをインストールすると、どちらかを無効にしない限りリソースがコンフリクトする)、ビデオBIOSが64KBまでという制限あり、64KBのアドレス空間を消費するにもかかわらず、機能がリアルタイムに限られること、など時代にそぐわなくなって来ている。もはやVGAは、克服されるべきレガシーの1つなのだが、これまでは代わりになる「標準」が存在しなかった。

 今回のWinHECでMicrosoftは、VGAの次の標準として、UGAなる規格を策定中であることを明らかにした。現在仕様がVer 0.51の段階にあるUGAは、ソフトウェア(OS)からグラフィックハードウェアがどう見えるべきか、を定めたもの。つまり、UGAがハードウェアの機能を規定するものではない。言いかえれば、UGAに対応したグラフィックチップであろうと、その性能をフルに発揮させるには、そのグラフィックチップに対応した(グラフィックチップベンダが用意した)専用のディスプレイドライバが必要になる。Microsoftが提供するUGAのドライバでは、おそらく高解像度表示と、最小限のアクセラレーションしかサポートされない(サポートできない)ものと思われる。

 UGAの目的は、現在VGAが果たしている役割の更新にある。たとえば、OSが起動する前の画面(BIOS画面等)を、より高解像度にする、あるいはセーフモードをハイカラーで表示可能にする、といったことがユーザーメリットとして挙げられている。もちろん、リソースは完全にリロケート可能だから、マルチディスプレイの実現も容易になる。UGAのOSサポートについては、「Beyond Windows XP for first release」とされており、ハッキリとしないが、VGAというレガシーの排除が具体味を帯びてきた、ということが感じられる話だった。

 実は、先月開かれたIDFでは、Intelが将来のディスプレイインターフェイスとして、非ラスター型ディスプレイの可能性を示唆している。現在のディスプレイは、定期的に画面全体を更新する処理(リフレッシュ)を行なう。この方式の難点は、解像度が上がるにつれて、リフレッシュに必要なデータ量が増大し、ディスプレイインターフェイスの負担が高くなる(アナログの場合は品質劣化が、デジタルであれば帯域の要求が問題になる)ということにある。ディスプレイをインテリジェント化することで、必要な部分のデータだけ(たとえば更新されたウィンドウのデータだけ)をディスプレイアダプタからディスプレイに転送することで、デジタルディスプレイインターフェイスの帯域を削減しよう、というアイデアだ。このアイデアの実現には、UGAよりさらに時間がかかりそうだが、VGAというレガシーを乗り越えるアイデアが、ここにきて登場してきたことは非常に興味深い。


●姿を見せなかったPC2002システムガイド

 話が脱線してしまったが、今回のWinHECでは、こうした遠い将来の話はある程度聞けたように思う。問題は、今年の後半以降の、きわめて近い将来の話が乏しかったことだ。

 これまでWinHECといえば付き物? だったのは、PCxxシステムデザインガイド(xxには年号が入る)の話である。現在リリースされている最新版は、PC2001システムデザインガイドで、今年半ば(通常は7月)に販売されるPCの指標となることを目指したものだ。このPC2001システムデザインガイドは、基本的にOSとしてWindows 2000とWindows Meを前提にしている。Windows XPが出たからといって、PC2001システムデザインガイドが無意味になるわけではないが、アップデートは当然必要になるハズだ。

 また、これまでの例からいくと、WinHECでは、翌年のシステムデザインガイドの最初のドラフトが公開されるのが通例だった。つまり、今年のWinHECではPC2002システムデザインガイドのドラフトが公開されていてもおかしくない。我々(少なくとも筆者)は、このシステムデザインガイドのドラフトにより、Microsoftの公式なハードウェアサポートロードマップを知ってきたし、来年のPCがどのようになるのか推定するベースとしてきた。それが今回のWinHECでは、PC2002システムデザインガイド(あるいはWindows XPに適用される公式なシステムデザインガイド)の話は全くなかった。過去にシステムデザインガイドの更新がなかった場合は、スキップするむねの説明があったものだが、今回はそれすらもなかった。

 なぜPC2002システムデザインガイドの話がなかったのか。Windows XPの仕様をまだ公開したくない(Windows XPの最終仕様がまだ完全に固まっていない)、といったWindows XPそのものにかかわる理由から、デザインガイドの共著者であるIntelとの関係がギクシャクしだしたことが影響している(前回も書いたように、今回のWinHECは極めてIntelの影が薄かった)といったものまで、ありとあらゆる理由が考えられるが、Microsoft自身による説明がない以上、すべては憶測の域を出ない。実はIDFで、PC2001システムデザインガイドをテーマにしたセッションがあるにはあったのだが、内容はデザインガイドが成立するまでのプロセスや、協力の依頼といったもので、デザインガイドの内容については全く触れられずじまい。何か変な気がしていたのだが、WinHECに至っても触れられなかったということは、ひょっとすると深刻な理由があるのかもしれない。

 それはさておき、現在までわかっているWindows XPの仕様(筆者はβ2のCD-ROMはもらったものの、まだインストールしていないため、最新の仕様はわからないのだが)では、どうやらUSB 2.0を含め、これまでサポートされることになっていた技術がいくつか漏れることになっている模様だ(これを明らかにしたくない、ということがPC2002システムデザインガイドが黙殺されている理由の1つである可能性がある)。USB 2.0のサポートは、Windows XPのリリース後に何らかの形で行なわれるようだが、こうした情報を公開するのがWinHECの役割なのではないかと思う。

 ほかにも、DirectX 8.1がWindows XPのリリース後、それほど時間を置かず提供されることがわかっているが、なぜ最初からOSに組み込む形でDirectX 8.1をリリースできなかったのだろうか。MicrosoftはDirectXの開発とOSの開発を統合したかのようなことを言っているが、こうしたリリースを見る限り疑わしくなってくる。

 Service Packにしろ、DirectXにしろ、OSの根幹にかかわるようなモジュールの追加をすでに実用しているシステムに対して行なう、というのはできれば避けたいものだ。筆者は利用者としてそう思うが、もし管理者だったとしても同じことを思うだろう。動いているシステムは、致命的な問題でもない限り、できればそっとしておきたい。また問題がある場合も、パッチを当てるより、問題のない環境をゼロから構築したい。その点で言うと、Windows NT系のService Pack方式より、Windows 9x系のようにSecond Editionといった形で新規リリースする方が望ましいと考える。OSがリリースされ、時間が経過するにしたがって、さまざまなアップデートモジュールが提供される。複数のモジュールがあるということは、モジュールを追加する際に順番が生じるということでもある。たとえば、DirectX 8.1aとWindows XP Service Pack 1とInternet Explorer 6.1のアップデートがあった場合、どの順番でアップデートしていくかを考えただけで筆者は嫌になる(こうしたMicrosoftが提供するアップデートモジュールは、往々にしてOSのカーネルモジュールを書き換えることをお忘れなく)。

 さらに恐ろしいのは、Microsoftはこうしたアップデートモジュールの提供を、ユーザーに知られることなく行なおうとしていることだ。WinHEC初日に行なわれたキーノートでBill Gates会長は、

 “And we're making Windows Update something that's invisibly easy for the user to go up and get the latest improvements. Whether those are patches, new drivers, whatever it is, that's part of the PC experience.”

 と述べている(キーノートの全文はすでにMicrosoftのWebサイトに上がっているので、興味のある方は読んでみるとよいだろう)。はっきり言って、筆者は余計なお世話だと思うし、そんなことをするのなら、当社のソフトウェアを使った場合の損害について一切責任を持ちませんうんぬんという使用許諾契約書は止め、ちゃんと責任を持って欲しいと思う。問題を修正したパッチに、全く別の新しい問題が潜んでいた、というのは、この世界で珍しいことではない。

 このように考えてしまうのも、筆者はWindows Updateが好きでないからかもしれない。いちいち個別のPCごとにUpdateしなければならない、という手間もそうだが、重要なアップデートほど、サーバが混み合ってろくにつながらなくなる。新しいバージョンのIEがリリースされた時など、まさにそうだ。こうしたWindows Updateの問題こそ、ユーザーのPC experienceを悪くしている一因だと筆者は嫌味を言いたくなってしまう。これを解消する方法の1つがPeer To Peer Computingだというのはかぶれ過ぎ? だと思うが。


□間連記事
【3月28日】元麻布春男の週刊PCホットライン
WinHEC 2001に感じる不安
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010328/hot137.htm

(2001年3月29日)

[Text by 元麻布春男]


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