第86回:レビューアは何を感じているのか



 インターネットで自由に情報を発信できるようになってから、お金を貰って記事を書くプロのライターでなくとも製品のレビュー記事を発表する場ができた。インターネットを毎日ウォッチしていると、そうしたユーザーによるレビュー記事がたくさんあふれている。

 そうしたレビュー、つまり評価と僕らが書いている記事、一体何が異なるのか? 金を取っているのに視点が同じではつまらん、といった批判的な意見もあるだろう。実際、両者に根本的な違いはない。

 では何を基準に記事を参考にすればいいのだろうか?

 モバイル関連製品に限らず、さまざまな分野で製品評価に関する相談のメールを受け取るのだが、究極的には購入する人自身が評価しなければ、自分に合った製品を見つけることはできない。しかし使ってみなければわからないところもあるわけで、ジレンマを感じる人も少なくないだろう。だからこそ、レビュー記事を参考にするわけだ。


●レビューアが何を感じているのか

 パソコンやインターネット、携帯電話に関係しないモノの場合、僕が何らかの評価を行なう機会は全くないと言っていい。たとえば車を購入しようといった時、すべての車種を試乗するのは難しいわけで、自ずとジャンルを絞り、雑誌で車種を絞ってから試乗して購入する。パソコン以外の分野では、僕も普通の消費者の1人というわけだ。

 パソコンや携帯電話の場合は試乗に相当することはほとんどできないから、車よりも条件が悪いと言える。ユーザーの評判や雑誌記事が占めるウェイトはより大きい。ではどうすれば、そうした情報を元により良い製品を選ぶことができるのだろう?

 僕が自分で評価を行なうことができない製品を買うとき、製品レビュー記事をどのように見ているかを紹介すれば、多少は参考になるかも知れない。といっても特別な事をするわけではない。

 レビューアの考えている事をシミュレートしてみるのだ。記事を書いている人の視点と思考をシミュレートできれば、おぼろげながらも製品の姿が見えてくる(見えてこない記事もあるが)。そして最終的には、そうした情報を集めた上で、頭の中で情報を整理し、自分自身でレビュー記事のストーリーを描いてみるといい。

 まずレビューアには大別して2つのタイプがいると思う。1つは客観的に情報を整理し、すべての人に有効な(と本人が思っている)情報を伝える一見中立タイプ。もう1つは、あくまで自分自身のおかれた立場を明らかにしながら、自分の考え方を貫いて評価を行なう唯我独尊タイプだ。

 後者はわがままに感じるかも知れないが、レビュー記事としては唯我独尊タイプの方がわかりやすい。要はその人の感性や立場(前提条件)に合わないなら無視すればいいし、合うならばその意図を汲み取ればいいだけだからだ。

 反対に一見中立タイプのレビュー記事は、対象となる製品に詳しい人でなければ、最も重要な部分が何かを探しにくい。製品知識に乏しいから他人の評価を参考にしたいはずなのに、結局なにが言いたいのかわからない。毒にも薬にもならず、カタログのスペック表を見つめていた方が有益なことがあるかもしれない。

 これら2タイプをミックスさせたタイプとして、自分の視点で見た評価を書きつつも、中立的な視点からのフォローを入れるレビューアもいる。(自分が書くときにこうなりがちなのだが)欠点は、やたらと文章が長くなりがちな事だろうか。要点だけを知りたい人にとっては苦痛な事もあるだろう。

 唯我独尊タイプのレビューを複数種類集め、その中で自分の感性に合うと思われるモノをピックアップするのが一番いいということになるが、残念なことに唯我独尊的な記事を雑誌などで見かけることは少ない。なぜなら、商業的に成功させるためには広い読者層を対象にしなければならないからだ。

 その点では、ユーザーの視点から見たユーザーサイトの評価が参考になると言えるだろう。ただし、多くの製品に触れたり、将来の製品計画、マーケティング戦略について知っている人というのは、そう多くない。このため、論じるテーマが各論に集約しやすく、一面性しか見えていない場合もあることは意識すべきだろう。これはレビューアの善し悪しではなく、単純に立場的に得られる情報量の違いによるものだ。

 となれば、情報として最も多い一見中立タイプのレビューから、必要な情報を感じなければならない。これは難しいことだが、レビューアのマインドを理解することである程度解決できる。“僕の場合”という条件付きで、レビューアが評価を行なう時のマインドを紹介しよう。


●悪い部分を隠そうとしているわけじゃない

 製品レビューでほめる部分が多いと「こんな製品なのに誉めすぎ」、「欠点を明らかにしていない」といった意見が出るものだが、多くのレビューアは「誉めまくろう」とは思っていないと思う(ただし、けなすぐらいなら紹介したくないというのが本音ではある)。僕の場合は中立的な立場の評価を行なう場合、次のような思考で評価を行なうように心がけている。

 まずあらかじめ製品の売りものとなっている部分が、実利用時にどれだけ効果的かを検証する。新機能、あるいは改良部分に関しては、広報資料やメーカーからの聞き取りの情報から、その製品を開発した人の意図を汲み取ることは比較的容易なので、それを自分の言葉として置き換えるわけだ。

 次に欠点、あるいは使いにくいと思われる部分を探すが、単純に“気に入らないから”ダメだと評価はしないようにしている。これはベンダーに対して配慮しているからではない。製品を企画、開発し、予算をかけてプロモーションする製品に、わざわざ大きな穴を開けてリリースするベンダーはどこにもいない。欠点を減らす努力はするが、相反する要素の折り合いを付ける上で目をつむらざるを得ないこともある。

 なぜそれが悪い点として現われてしまったのか、あるいは意図通りに使えないのか、といった製品に関する背景を考慮した上で(できれば問い合わせを行ない)判断を行なう。このとき、表現がまどろっこしくなると「欠点がわかりにくい」という感想になるのではないか。

 もう少し具体的に話を進めてみよう。製品の種類によっても異なるが、たとえばノートPCの場合、評価を行なう上でポイントとなるのはデザイン、操作性、機能、バッテリ性能、重さ、サイズ、そして重要なのがコストだ。

 先週、VAIOノートZ505について書いたが、旧Z505は薄型でスクエアなデザインを重視するが故に角形バッテリセルを採用し、結果として重量とバッテリ性能のバランスで他製品に劣る部分があった。これは「重さの割にバッテリ持続時間が悪い」とも評価できるが「バッテリ性能に劣るが、薄型でスクエアなデザインは多くのユーザーの心を捉えるだろう」とも書ける。実際に自分で評価記事を書くならば「スマートなデザインを実現している点は評価できるが、その分、重量対バッテリ性能比に劣る角形セルを採用せざるをえなかったようだ。本製品の魅力と150グラムほどの不利を比べ、それを許容できるかどうかで評価がわかれるだろう」といった書き方をすると思う。

 要は、なぜベンダーがそうした選択をしたのか? を読みとる努力をレビューアは常にしているということである。もっとわかりやすい例として、携帯電話のストレート型、折り畳み型の重量についても同じようなことが言えると思う。近頃はほとんどの製品が100グラムを切っているため、あまり重量について語られることはないが、ストレート型筐体と折り畳み型ボディを比べれば、ストレート型筐体の方が軽くできるのは自明だ。自ずと「折り畳み型のA製品は重量こそ100グラムをオーバーするが、高精細で大型の液晶ディスプレイを備えた上、大きく押しやすいボタン配置で操作性も良好だ。重量面での20~30グラムのハンディを上回るメリットを、ヘビーなメールユーザーに提供してくれる」といった書き方になる。が、これも視点を変えれば“欠点を隠している”と捉えられなくもない。


●疑う前、信じる前に意図を読もう

 自分が評価記事を書くとき考えていることの一部を(恥ずかしながら)紹介したが、最後に書いておきたいことが1つだけある。

 技術面で詳しい方には、評価記事を疑いつつ読む方が多いように思う。特に自分が得意な分野であればなおさらだ。意見や感じ方の違いの前に、本筋としてレビューアが何を伝えたいのかを感じてみることだろう。その結果として、記事とは異なる結論に至ることがあっても、その過程は無駄ではないと思う。

 逆に技術面やその製品分野について知識が不足している方の場合は、言葉通りに信じすぎるきらいがある。ある条件下において優れている、と書いていても、欲しい製品の評価記事を読んでいると、いつの間にか“ある条件下”が消えてしまい「オススメって書いてあるからこれがいい」(もしくは逆にこれってダメだよね)と結論へと結びつけがちだ。やはり、レビューアの真意がどこにあるかを注意深く読みとることを勧めたい。

 情報関連機器は一般家電製品、自動車などとは異なる知識を必要とし、判断を下すにはそれなりに勉強が必要になるものだ。これは一般家電製品や自動車は生活の中で慣れ親しみ、その仕組みや機能、品質感などを熟知しているが、情報関連機器に関してはそうした前提となる知識を得にくいからだろう(そうした意味では携帯電話はパソコンと比較して自分で評価しやすい機材かもしれない)。

 しかし、良い買い物をするためには、自分自身が最終判断を下さなければならない。そしてその判断が正しくあるために、可能な限りの正しい情報を集める必要がある。個人的には製品評価記事を書く機会がどんどん減っているのだが、我々がより多くの情報を提供するためにも、雑誌社やレビューアへのフィードバックを積極的に行なってはいかがだろうか。そうしたコラボレーションを行なう中で、自分自身の製品知識もより高まるはずだ。

[Text by 本田雅一]


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