プロカメラマン山田久美夫の

「インテル Pocket PC Camera」レポート

 「カシオ QV-10」が登場して5年。この短期間の間にデジタルカメラは飛躍的な成長を遂げ、1/4VGA(320×240ピクセル)から始まったこの世界も、いまやパーソナル機でさえも300万画素機が続々登場し、来春には500万画素機が登場しそうな気配さえある。

 そんななかで今年後半は、「オモチャカメラ」、「トーイカメラ」などと呼ばれる実販1万円前後の簡易モデルが続々登場。販売台数の面では、通常の液晶付きデジタルカメラの最量販モデルを軽く越えるほど、売れに売れている。

 だが、実際に使ってみると、“カメラ”という感覚では捕らえにくいレベルのモデルが多かったのもの事実だ。そのなかで、抜きんでた完成度とクォリティを実現しているのが、今回の「インテル Pocket PC Camera」だ。


●PC向けに割り切った明快なコンセプト

 このモデルは、撮像素子に、このクラスで主流となっているCMOSセンサーを採用せず、コンベンショナルなCCDを採用している点が大きな特徴だ。

 画像サイズは640×480ピクセルのVGAサイズ。さらに、VGAでの5枚連写はもちろん、最長2分までの簡易動画(160×120ピクセル)撮影も可能。もちろん、USB接続によるPCカメラとしての機能も備えている。

 メモリーは内蔵式専用。だが、容量が8MBと大きいため、VGAモードで最大128枚もの撮影ができる。これはほかの簡易モデルにない特徴だ。PCへの転送もUSB接続で、付属のアプリケーションを利用することで、簡単な操作でのデータ転送を実現している。

 もっとも、簡易モデルだけに、機能的には、ストロボもなく、ファインダーだけは光学式のみという、実にシンプルで実用本位なもの。もちろん、通常のデジタルカメラでは常識となっている液晶モニターは装備されていない。

 その分、実販価格は、USBケーブルや豊富で多彩な周辺アプリケーションソフトまで付属しながらも、15,000円前後と手頃なレベルに収まっている。


●スッキリとした薄型ボディー

 デザインは、簡易モデルのなかでは、スッキリとした部類だ。ホワイトボディーにスケルトンのブルー素材を組み合わせたもので、オシャレな雰囲気。

 ボディーはかなり薄型でコンパクト。サイズはカセットテープのケースをやや厚手にして、丸みを付けた感じで、ホールド感もいい。

 さらに、付属の布ケースもコンパクトに仕上がっており、ベルトに通して持ち歩けるため、携帯性はとても良好だ。

 また、本機にはPCカメラとして使うときに便利な、角度調整可能な台座が付属しており、パソコンモニターのうえなどに置いておける。もちろん、PCカメラ時やデータ転送時は、USB側から電源が供給されるため、電池の消耗を気にしなくても済む点は便利。

 ちなみに、電源は単4型乾電池4本。今回、数百枚の撮影をしたが、バッテリーは一向になくなる気配がなく、バッテリーマークもフルのまま。CMOSセンサーよりも電力消費の大きいCCDを使った機種なので、電池の持ちを多少懸念していたのだが、液晶モニターがないこともあって、この点はうれしい誤算だった。これなら、普段はPCカメラとして使い、屋外で撮影するときにパッと持ち出すといった用途でも、さほど電池を気にする必要はなさそうだ。


●実用十分な軽快操作

 操作部も実にシンプルで、ボタンは、シャッターと電源ボタン、モード切替ボタンの3つのみ。

 ボディー上面には、やや大きめのモノクロ液晶があり、ここに撮影枚数と撮影モードやバッテリーの残量が表示されるなど、じつに実用本位なレイアウトだ。

 だが、使ってみると、これがなかなか親切で安心感がある。なかでも便利なのが、動作時の電子音。これは内蔵スピーカーで再生されるもので、メインスイッチのON/OFFはもちろん、撮影時にはきちんとシャッター音までする。
 なにしろ、この手のモデルは、ボタンの造りが今1つで、操作時に不安感があるが、この電子音があることで、操作時にも安心感がある。とくに、シャッターを押すと、スピーカーからシャッター音が聞こえるため、撮影している本人も、撮られる側も、いつ撮ったのかわかりやすい点は大きな魅力だ。

 起動時間はきわめて短く、電源ボタンを押した直後に撮影できる。また、撮影間隔は、通常モードでは2秒弱と十分に軽快。もちろん、連写モードにすれば、VGAサイズで5枚の連写も可能だ。このあたりの軽快さは、好感が持てる。


●安全設計のフォーカス機構

マクロ撮影
 光学ファインダーはシンプルな構造だが、意外に正確。

 ピントはマニュアル式で、レンズ周辺のリングを回転させることで、フォーカシングできる。そのため、機構上はマクロ撮影にも対応できるわけだが、カメラ単体では利用できず、パンフォーカス撮影のみになっている。

 つまり、光学ファインダー上で、マクロ時のピントや正確な視野を確認することができないため、一般撮影用の山マーク(パンフォーカス)にセットされていないと、シャッターが切れない設計になっているわけだ。

 できれば、カメラ単体使用時でも、50cmくらいのマクロ撮影がしたいところだが、撮影時の安全性を最優先させているのだが、この点は本機のコンセプトからいって、致し方ないところだろう。

 もっとも、パソコンとUSB接続をした場合には、パソコンのモニター上でフレーミングやピントを確認することができるため、この直結モードであれば、名刺の半分くらいまでのマクロ撮影にも対応できる。そのため、インターネットオークションなどで、アクセサリーなど小物を出品するのに写真が必要なときには、この方法で撮影することができるわけだ。

 また、本機にはストロボが装備されていない。そのため、真っ暗な場所での撮影に対応することはできない。だが、通常の屋内撮影であれば、それに応じてカメラが自動的に光量を調節し、スローシャッターになるため、ストロボなしでも結構撮影できる。

 もっとも、暗めの部屋では、かなりのスローシャッターになるため、付属のPCカメラ用の台座を三脚代わりに利用してカメラブレを防ぐ必要がある。さらに被写体側が動いても、ブレてしまうため、人物スナップなどには向かないが、簡単な記念撮影や静止物であれば、撮影することもできる。

■屋内撮影

■人物撮影


●往年のVGAモデルを思わせる実用画質

 画質は、実用十分なレベル。このクラスのモデルの主要用途である、パソコンのモニター上で気軽に楽しむのであれば、実用的なクォリティだ。

 感覚的には、往年のVGA(35万画素)デジタルカメラの写りを思い起こさせるような感じで、懐かしさすら感じる。もちろん、最近のメガピクセル機に比べれば、明らかに劣るレベルだが、ほんの4年ほど前の主力VGAモデルの写りも、これに近いものだったことを考えると、ネット上で情報として扱う画像としてのクォリティは十分に確保できているわけだ。

 また、本機はこのクラスでは数少ないCCD搭載機だけあって、CMOSセンサー搭載機に比べて、ノイズが少ない点も大きな魅力だ。

 一方、本機は、E-MAIL添付などモニター表示用と割り切っているうえ、8MBの内蔵メモリーで最大128枚もの撮影をするため、記録時のJPEG圧縮率も約1/16(約50KB)と高い。そのため、画像の輪郭はあまりきれいではなく、ブロック上のノイズが見られるケースもあるが、これは致し方ないところ。

 もちろん、基本的にはVGAサイズの画像であり、メガピクセル機のような解像度の高さは期待できないわけだが、PCモニター上で等倍表示したり、ホームページ用に320×240ピクセル以下に縮小して利用するのであれば、実用上支障のないレベルだ。

 色調は全体にやや派手目で、見栄えのするもの。もちろん、この色調はやや人工的で自然さに欠ける感じもあるが、モニター上での画像は細部のグラデーションよりも、画像としてのインパクトの強さのほうが重要視されることもあって、本機のコンセプトからみて、この方向性は正解だ。

 また、付属ソフトを使うことで、明るさやコントラストの調整(回転やトリミングも可)もできるため、多少の調整すれば、より見栄えのいい画像にすることができる。

 さらに、このクラスの簡易モデルは、レンズのコストを削減するため、画面周辺部の画質が大幅に劣化するのが常なのだが、本機はそのような傾向が少ない点にも好感が持てる。しかも、レンズ周辺での直線の歪みが少ない点も高く評価できる。

 もっとも、本機は全体に、ハイライトが白飛びしやすい傾向があり、露出もややオーバー気味だ。そのため、屋外カットでも白い雲の部分は完全に階調が失われているのが残念。これだけは、後処理で補正することができないため、この点が解消されれば、さらに使い勝手のいいモデルになりそうだ。

■屋外撮影


●ビデオレターやホームページ用に便利な動画撮影機能

 本機でもっとも魅力的だったのが、動画撮影機能。画像サイズは160×120ピクセルと小さいが、意外なほど滑らかな動画撮影ができる。また、動画は1カット最長10秒まで撮れるため、実用性も十分だ。

 また、被写体の明るさに応じて、撮影中にきちんと明るさが調整されるため、明暗比の高いシーンの撮影でも安心だ。

 データ形式もポピュラーなAVI形式のため、大抵の環境で簡単に再生できるうえ、データ量も秒間100KB程度(シーンにより変動する)と比較的軽い点も使いやすい。

 さらに本機の付属ソフトには、簡単な動画の編集機能まで用意されており、必要なシーンの前後をカットすることもできるなど、ソフトの追加なしに、きちんと動画データを利用できる環境が整っている点は高く評価できる。

 この価格で、これだけのクォリティであれば、メールによる簡易ビデオレターや動画を使ったホームページを作成したい人にも安心してオススメできるモデルだ。

■動画

AVI形式、665KB AVI形式、370KB


●デジタルカメラの楽しさを堪能できる付属ソフト

 また、本機の大きな魅力に、充実した付属ソフトウエアがあげられる。

 とくに、この手のモデルは、比較的PCに不慣れなユーザーが多いこともあって、付属ソフトの出来具合は、カメラ自体の印象を大きく左右してしまうわけだ。

 その点、このモデルの付属ソフトは実によく考えられており、機能も実に豊富だ。なかでも、その中心となる「Intel Create & Share Software」の完成度は高く評価できる。

 まず、画像データの転送は、カメラとPCをUSB接続し、取り込み専用ボタンを押すと、カメラ内の画像が一覧表示される。そこで「すべてを転送」を選べば、指定したフォルダーにデータが一括転送される。

 また、転送されたデータを一覧表示することもでき、静止画と動画が時系列で同時に一覧表示されるため、画像の選択もしやすい。

 さらに、このソフトにはデジタル画像を活用するために機能が豊富に盛り込まれている。たとえば、撮影した画像データを使って、さまざまな電子ポストカード(グリーティングカードや簡単な電子アルバム、ビジネスレターなど)を作成したり、予め用意されたテンプレートに画像をレイアウトして文字を挿入しホームページとしてアップロードしたり、ビデオメールを作成することが、実に簡単にできる。

 このほかにも、静止画と動画を組み合わせて編集し、一本のムービーを作成するといった機能を備えていたり、PCカメラとして使って、一定時間ごとや画面内で動きがあったときに自動撮影し、Webにアップロードするといった凝った機能までも搭載されている。

 正直なところ、このモデルの魅力の半分は、この付属ソフトにあるといっても過言ではないほど完成度が高い。
 とくに、デジタルカメラが持っている楽しさを100%引き出して堪能するために必要な機能がきちんと整っているという点では、より高価で本格的なデジタルカメラの付属ソフトよりも、遙かに実用的で楽しめるパッケージに仕上がっている。このようなアプローチは、日本のデジタルカメラメーカーに欠けている部分であり、大いに見習って欲しい点だ。


●デジタルカメラの魅力を存分に楽しめるお買い得セット

 本機は、カメラとしての実力も十分で、付属ソフトも大いに魅力的なモデルだ。それだけに、価格的には実販15,000円前後と、このタイプの簡易モデルのなかでは高価な部類といえる。

 ここまで来ると、あと1万円だせば、130万画素で液晶付きの「オリンパス C-830L」(8MBカード付属、実販24,800円)が入手できるし、さらに5000円だせば、接続キット付きの130万画素機である「富士フイルム FinePix1300」や「オリンパス D-360L」(いずれも実販29,800円)が手に入る。それだけに、購入にあたって、二の足を踏む感がある。

 ただ、本機の魅力は、単なる手頃な価格のVGAモデルである以上に、デジタルカメラを総合的に楽しめるパッケージになっている点だ。

 もちろん、画像データのE-MAIL添付やポストカード作成、ビデオクリップやライブカメラ機能などはいずれも、通常のデジタルカメラと各種アプリケーションを任意に組み合わせれば実現できる。だが、これらを楽しむには、パソコンに対する知識と各種の周辺ソフトが必要であり、高価なデジタルカメラを買ったからといっても、そう簡単に“楽しめる”世界ではない。

 そのため、これからデジタルカメラを楽しもうという人にとって、この「Pocket PC Camera」は、デジタルカメラが本来備えている"楽しさ"がギュッと凝縮された、実に魅力的なパッケージだ。


□Pocket PC Camera製品情報
http://www.intel.co.jp/jp/home/products/pccamera/pocket.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm

(2000年12月27日)


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[Reported by 山田久美夫]


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