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Transmetaは0.13μmのCrusoe TM5800を3~4月に投入へ


●なぜTransmetaの0.13μmはこんなに早い

ジェームズ・チャプマン上級副社長
 「0.13μmで製造するCrusoe TM5800はサンプル出荷が来年第1四半期のそれも早い時期になる。TM5800とDDR SDRAMを組み合わせたような製品が、来年3月4月のタイムフレームで発表されると期待(hope)している」。

 こう語るのはTransmetaのジェームズ・チャプマン(James N. Chapman)上級副社長(Sales & Marketing)。このスケジュールが本当だとすると、Crusoeの0.13μm化は6月頃と見られているIntelの0.13μm版モバイルPentium III(Tualatin-512k)よりもやや早いことになる。また、TM5800自体、以前伝えられていた来年中盤というスケジュールよりも前倒しになっている。じつは、この魔法にはちょっとした理由がある。

 Transmetaは、現在製造をIBMに委託している。IBMは、すでに「CMOS 9S」と呼ぶ彼らの0.13μmプロセスのパイロット生産を「Semiconductor Research and Development Center(SRDC)」で行なっており、来年の早い時期に米バーモント州のバーリントンFabで量産を開始する予定になっている。そのため、IBMは顧客に対して、来年早々にも最初の0.13μmの製品を少量だが出荷できる。そして、間違いなく、TransmetaはIBMの0.13μmの最初の顧客の1つであり、来年第1四半期中にはTM5800を入手できると見られる。

 もっとも、0.13μm化ではIBMが先行しているのかというと、そんなことはなく、ほぼ同じようなスケジュールでIntelも(ほかにTSMCなども)進んでいる。Intelの0.13μmプロセス「P860」も、オレゴンのFab20で来年同時期に量産に入っている。では、なぜIntelが来年半ばなのにTransmetaが来年3~4月なのだろう。それは出荷しなければならない量がぜんぜん違うからだ。

 IntelはTualatinをハイエンドのGHzモバイルCPUから投入するが、それにしてもワールドワイドでそれなりの数を揃える必要がある。そのため、量産を開始してからしばらく作り貯めをする。また、多くの顧客にサンプル出荷して、バリデーションなども慎重に行なう。これは、Intelが新プロセスの立ち上げでは毎回行なっていることだ。

 しかし、Transmetaは顧客も限られる上に必要とされる数も今のところ非常に少ない。おそらく、出だしはとりあえず数千個のオーダーに応じられればいいというレベルだと思われる。そうすると、ラインの立ち上がり時期でぼちぼちしか供給されない来春の時期でも、OEMカスタマに向けて必要量のチップを出荷することができるということだろう。そして、PR活動の視点で見るなら、TransmetaとしてはIntelに差をつけるには、0.13μmは格好の武器というわけだ。


●超低電圧の選別品という不利を持つIntel

 もっとも、そうは言ってもTransmetaの言う3月4月というのは、CMOS 5SプロセスとTM5800の仕上がりが万全だった時のスケジュールで、まだあくまでも“hope”のレベルだ。確実な線では来年中盤かもしれない。だが、それでもCrusoeのライバルであるIntelの超低電圧(ULV)版モバイルPentium IIIが0.13μmへ移行するよりも半年以上も早い。Intelが遅いのは、Pentium III ULVは通常品よりも低電圧で駆動するため、ある程度ステッピングチェンジをし、また選別しなければならないからだ。

 Intelのロバート・T・ジャクソン氏(Principal engineer, Mobile Platforms Group)によると同じプロセステクノロジ世代でも電圧は段階的に下げられるようになって行くので、1.2V程度で登場すると見られる0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)は「1.15V程度の低電圧版が登場し、その次にもっと電圧の低い製品が出てくる」(ジャクソン氏)という。Pentium III ULVは0.18μm版は1.1Vだが、0.13μm版の駆動電圧は1Vかそれ以下と見られるため、登場にはしばらくかかってしまう。つまり、通常の駆動電圧よりも低い電圧で駆動させるために制約があるのだ。

 それに対して、Crusoeはそのプロセス技術の標準的な電圧(0.18μm時に1.6V)で動作させても、熱設計電力(Thermal Design Power:TDP)と消費電力がIntelの超低電圧版並みに少ない。「Intelは彼らの生産ラインから低電圧で動作する数少ないチップを選別している。それに対して、Crusoeは通常の電圧で動作するので、低消費電力でも、低いコストと高いイールド(選別時のイールドのこと)を達成できる」とチャプマン氏はCrusoeの利点を説明する。Transmetaが、0.13μm版を早期にミニノート/サブノート市場に投入できるのは、こうした理由からだ。


●TM5800はTDPもさらに下がる

 IBMのCMOS 9Sは、銅配線(Crusoeは全て銅配線)に低誘電体層間絶縁膜(low-k)を組み合わせて配線遅延を減らして高速化を図ったプロセス。クロック当たりの消費電力を減らす効果がある「SOI(silicon-on-insulator)」技術も使うことができる。もっとも、チャプマン氏によるとTransmetaはSOIを現在まだ評価中で、最初のバージョンのTM5800に使う予定はないという。SOIは工程数を増やすので、効果があるとしても、ラインの立ち上がり時期には使いたくないというのはよくわかる話だ。

 Transmetaは、IBMのほか、TSMCでもチップの試験生産を行なっている。TSMCでの量産の予定はまだ発表されていないが、いずれも微細化では最先端を行くファウンダリであり、そのため、Transmetaは最先端プロセスを自前のFabを持つメーカーと同時期に投入してゆくことができるだろう。これは、低消費電力にフォーカスしたTransmetaにとっては有利なポイントだ。

 さて、TM5800は、現在のCrusoe TM5400/5600とアーキテクチャ的にそれほど大きな違いはない。L2キャッシュは512KBで、1MB版も登場するようだ。プロセス技術の微細化で、SRAMセルのサイズも大幅に縮小するため、1MBのL2を搭載しても、十二分に経済的なダイサイズ(半導体本体の面積)に収まると見られる。256KBのL2を搭載した最初のTM5400のダイが77平方mmだったことから、TM5800のダイは60平方mm以下になると推測される。登場時のクロックは「700~800MHzだが、第3四半期には900MHzを出せるだろう」とチャプマン氏は説明する。

 TM5800では、ノートPCのデザインを大きく左右するTDPが現在のTM5400/5600よりさらに下がる。チャプマン氏によると、TM5800のTDPは800MHz時に4.5Wで、現行の5~6Wよりも低い。これは、今の駆動電圧1.6Vに対して、IBMのCMOS 9Sでの駆動電圧が1.2V程度にまで下がると見られることから、当然と言える。電圧低下分だけで、TDPは半減するからだ。それだけ、PCメーカーは薄型のノートPCが設計できるようになる。逆を言えば、電圧が800MHz版と同じならTM5800は1GHz時でも計算上TDPは5.6Wとなるため、現在のCrusoeノートPCとほぼ同じ熱設計に、最大1GHz版まで搭載できることになる。SOIを採用した場合には、さらにクロックを上げられる可能性もある。


●CMSはメジャーアップグレードへ

 Transmetaは、現行のTM5400/5600の性能も引き上げる。Crusoeは、x86命令のデコードをハードウェアで行なわず「コードモーフィングソフトウェア(CMS:Code Morphing Software)」でCrusoe独自の命令に変換している。Transmetaでは、このCMSのメジャーバージョンアップも2001年第1四半期に予定している。チャプマン氏によると、新CMSによる最適化により、「Crusoe TM5400/5600も、パフォーマンスが5~7%上がり、消費電力が20%下がる」という。ただし、現在600MHz版までが採用されているTM5400/5600シリーズのクロックは、今後もそれほど上がらず、600~700MHzレンジで止まる。それは、もしクロックを上げられるとしても、TDPが上昇してしまうため、顧客のニーズに合わないからだという。

 このほか、Transmetaは情報家電や携帯機器向けのTM3xxxシリーズも発展させる。チャプマン氏は「現在、シングルチップバージョンを開発している。この新チップは、本当に小さなPDAのような携帯機器に搭載することを目的としたものだ。現在のCrusoe搭載ノートPCのような形態ではなく、新カテゴリの機器向けだ」と説明する。2Dグラフィックス、LCDコントローラ、USBインターフェイスなども統合され、これにあとメモリと液晶ディスプレイを備えれば携帯モバイル機器ができあがるワンチップコンピュータとなる見込みだ。


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(2000年12月18日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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