第79回 :ユーザーと向き合う製品作りこそ評価されるべき



 先週、Crusoeのロット不良に端を発したトラブルがニュースサイトを駆け巡った。幸いリカバリーディスクを使用する場合のみに発生する障害で、NECの不良台数が300台以下、それ以外にはソニーしか利用していないということで、それほど大きなトラブルに発展しなかったのはTransmetaにとってラッキーだった。情報公開が素早かったことも、対応としては素晴らしかった。

 ただ残念だったのは、ソニーのVAIOノートC1-VJの場合は、不良ロットを使った製品のシリアルナンバーを特定できず大雑把な範囲で不良の可能性を示すという対応しか取れなかったことだ。出荷したシリアル番号ごとのハードウェアを把握できていないことの裏返しであり、少々キツいかもしれないが「品質管理は大丈夫なのかな?」と疑いたくなる。

 Transmetaは今回の出来事で一般ユーザーに対するイメージにダメージを被ったが、僕としてはソニーに対する不信感を感じさせる出来事になった。もっとも、某メーカーのデスクトップPCのように、同じ出荷時期でもハードディスクメーカーがバラバラというのよりはマシではあるが。

 と、今回はCrusoeの話ではない。ここ数ヵ月、僕がテーマにしている“ユーザーニーズ”に関する話だ。



● ベニヤ板と絶縁ゴム、高速道路を考えたのは誰だ?

 知り合いのある特許専門弁護士から面白い話を聞いた。彼はロサンゼルスをベースに数十年活動しているのだが、日本人は技術指向に走りすぎ、エンドユーザーのニーズを理解していないことが多いのだという。

 その結果は特許使用料の統計に表われている。日本の特許出願数は年間約42万件、バブル期には50万件を超えていた。対する米国は年間約34万件にしか過ぎないという。もちろん、出願数は年によって異なるが、大体において日本の特許出願数は群を抜いて多い。

 ところがこれを特許使用料ベースで比較すると、米国は日本の10倍近くの特許使用料が動いている。もちろん、特許使用料算定基準などの違いはあるのだろうが、米国の特許が実用性の高いものであることを示しているといえるだろう。彼は「同じ特許という名前でも、単なる技術はサイエンスでしかない。しかし、ユーザーニーズを捉えていれば、それは発明になる」と話す。

 ところで、家庭用発電機、水力発電、強化セメント、絶縁ゴム、ベニヤ板、高速道路。これらはすべて米国で発明されたものだが、誰が発明したかご存知だろうか? これらはすべて同じ人、誰でも知っているもっとも偉大な発明家トーマス・アルバ・エジソン氏の発明なのだという。電気が専門の彼がなぜ強化セメントを? と誰もが疑問に思うはずだ。しかし、そこには彼なりのユーザーニーズに対する取り組みがあった。

 エジソン氏が電球を開発した(そしてフィラメントに京都の竹が利用された)のは有名な話だが、電球はサッパリ普及しなかった。家庭に電気が引かれていなかったからだ。そこで、電気を家庭に届けるためには、何が不足しているのか?その過程で生まれたのが、くだんの品々なのだ。

 まず家庭用発電機を開発したが、当時は家1件分の価格になってしまい、とてもすべての家庭に買ってはもらえなかった。そこで安価な発電手段として水力発電を考えたが、コストを考えれば大規模なダムを作りたい。そこで強化セメントを開発。大規模なダム建設には多くの人手が必要。そこで大量の簡易住宅を工事現場に作るために、ローコストで丈夫なベニヤ板を作った。

 発電した電気は家庭に送電する必要がある。信頼性が高く高電圧にも耐えられる絶縁ゴムも彼の発明である。大量に強化セメントが作れるようになると、今度はそれを利用して高速道路を作ることを考え出し、工事に必要な物資の流通を活性化させた。

 エジソン氏の詳しい伝記を注意深く読むと、彼が「これは必ず生活を豊かにする」と思って作っただけでは満足していないことがよくわかる。複数の(専門とは異なるものも含め)発明を組み合わせて、可能な限りベストな形でユーザーニーズを満たすことを考えている。エジソン氏は多くの偉大な代表的発明だけでも十分に尊敬に値する人物だが、ユーザーニーズに対する真摯な取り組みこそ、彼のもっとも尊敬すべき点と言えるだろう。


● モバイルユーザーのニーズとはなんだろう?

 2000年を振り返ってみると、必要以上に低発熱や低消費電力のPC用プロセッサについて話してきたかもしれないと少し反省している。モバイルユーザーのニーズは、低い電圧で動くスゴイ技術でも、驚くほど高速なエミュレーション技術でも、熱設計電力が低いことでもない。モバイルユーザーのニーズとは、それによってもたらされるかもしれないが、技術は単に技術なのだ(もちろん、技術に対する純粋な興味を持つ人も多いが、それは別の話)。

 ほんの少し前まで、モバイルユーザーのニーズは、デスクトップPCと同じような機能を持つことだったと思う。ハードディスク容量、メモリ搭載量、画面解像度、そしてプロセッサ速度だ。

 しかし今や、汎用PCとして高性能であれば、それだけでユーザーニーズを満たせる時代ではないのは明らかだ。Crusoeがいい、いやPentium IIIじゃないとパフォーマンスが……とか、iモードだWAPだといった話ではない。それはそれぞれに重要なのだが、商品やサービスの性質を決める一要素でしかない。

 ここらでひとつ、PCや携帯電話、その他デジタルデバイスに対する見方を変えていく必要があるだろう。特に古くからデジタルモノに慣れ親しんできている人は、僕らのようにそれを職業としていない人でも、スペック指向、技術指向が強い。そうしたモノの見方に慣らされているためである。

 自分たちが、これから新しくデジタルモノに手を出そうとしている人たちと、異なる感覚を持ってしまっていることを認めるべきだ。詳しい知識をベースに技術面から評価を行なうことは決して間違いじゃないが、多くのユーザーが求めているものと同じではない。両方を理解してこそ、良い製品が生まれるものだ。

 モノ作りをする側、それを扱う自分たちマスコミはもちろんだが、消費者側も何がやりたいのかをアピールしつづける必要がある。「やっぱりこのタイプの製品はこうあるべきだ」と使っていて思うならば、それをアピールすることで、さらに便利になるかもしれない。作っている側は、意外とニーズを捉えきれず、試行錯誤で商品開発を行なっていることが多い。

 問題はそうした意見を普通の人が言う場が少ないということ。インターネットの時代、ユーザーコミュニティと企業のコラボレーションが注目されている。エンドユーザーと話し合う企業の製品を、僕は使いたいと思う。あなたが贔屓にしているベンダーはどうだろう? ユーザーと真剣に向き合っているだろうか。

□アメリカ公園局が開いているエジソンの公式ページ(英文)
http://www.nps.gov/edis/
□エジソン資料集
http://www.tepia.or.jp/edison.html

[Text by 本田雅一]


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