元麻布春男の週刊PCホットライン

Pentium 4発表会の午後に


●Pentium 4登場、しかし……

 ついにIntelのPentium 4が発表になった。すでに秋葉原では、エンジニアリングサンプルを含め、フライング販売が行われていたが、正式発表を得て、取り扱い店も増えている。また、CPUだけでなく、マザーボードの販売も始まった。

 マイクロアーキテクチャの点でPentium 4は、'95年に発表されたPentium Pro以来、初めてのフルモデルチェンジとも言えるプロセッサだ。Pentium Proで導入されたP6マイクロアーキテクチャは、Pentium II、Celeron、Pentium IIIと名前を変えながら、5年の長きに渡って使われてきた。動作周波数も最初の150MHzから1.13GHz(ただし現在、出荷停止中)まで伸びている。来年、0.13μmプロセスにシュリンクすることを考えれば、P6のクロックはもう少し上がるだろうし、モバイルPC向けのPentium 4が2002年になると言われていることを考えると、まだまだ使われ続けるだろう。

 だが、P6アーキテクチャには、そろそろ限界も見えてきている。それが最も端的に現れているのが、同一動作周波数のPentium IIIは性能でAthlonに勝てない、かといって動作周波数で大きくリードすることもできない、ということだろう。P6アーキテクチャの方が開発年が古い以上、これはある意味しかたのないことであり、むしろ性能的に、あるいは動作周波数の点で善戦していること自体、驚異的ですらあるとも言えるのだが、そろそろ次のアーキテクチャへの移行が迫られていることは間違いない。それがPentium 4で採用されたNetBurstマイクロアーキテクチャというわけだ。

 NetBurstについては、すでに様々なところで述べられているし、Intel自身もホワイトペーパーをリリースしており、あらためて筆者が繰り返すまでもない。が、独断で言ってしまえば、NetBurstはクロックを上げるためのアーキテクチャということになる。パイプラインを20段と深くしてあることは元より、400MHz相当のデータレートを持つFSBも、ベースクロックは100MHzに抑え、将来さらにクロックを上げる場合に備えているように見えるからだ。P6のように、スタート周波数の8倍近くにまでクロックが上がるのかどうかは分からない(もしそうならPentium 4の最終的な動作周波数は10GHzを越えることになる)が、相当なところまで引き上げるつもりであることは間違いない。

 その一方で、スタート時における性能は、どうもあまり芳しいものではない。Intelが製品発表に合わせて公表したPentium 4の性能レポートは、Pentium IIIとの比較を行なわないという大胆不敵?なものであるため、優劣が分かりにくいのだが、同じくIntelが公開しているPentium IIIとIntel 820の性能レポートPentium IIIとIntel 815の性能レポートと比べてみれば、ハッキリと分かる。Pentium 4の性能は、オフィススイートなど既存のメインストリームアプリケーションではパッとしない。Pentium 4の性能が優れるのは、MP3やMPEG-2のエンコード、あるいはQuake IIIエンジンのゲームといった、必ずしもメインストリームとは言いがたい部分なのである。

 また、SPEC CPU 2000(SPECint 2000およびSPECfp 2000)の性能も良いが、これはおそらくPentium 4の性能をフルに引き出すには、新たに最適化されたバイナリが必要になることを示している。ソースコードで提供されるベンチマークテストであるSPEC CPU 2000が、最新のIntelコンパイラ(Ver 5.0)でコンパイルされているのに対し、他のベンチマークはすでに流通している(言いかえれば古い)バイナリを用いている。ワークステーション分野のように、アプリケーションがソースコードで流通している分野ではPentium 4の性能を引き出すのは比較的容易かもしれないが、アプリケーションがバイナリで流通するPC分野ではISVの対応を待たねばならず、Pentium 4の性能が引き出されるまで比較的長い時間がかかる可能性がある。

 以上に加えPentium 4には、高価(どんなプロセッサも登場したばかりの頃は高価だ)であるというデメリットがある。さらに、現時点でPentium 4をサポートできるのはRDRAMを用いたi850チップセットのみである、という難点もある(言うまでもなくRDRAMは高価だ)。ケースや電源も、Pentium IIIのものを流用できないため新たな投資が必要だ。さらに、来年にはソケットが変わるという情報さえある(現在のPentium 4はPGA423と呼ばれるソケットだが、来年登場する0.13μmプロセスのPentium 4は478ピンのパッケージになる)。最初のPentium 4はPentiumでいうP5のようなもので、本命である0.13μm版(PentiumでいうP54)を待つべきだ、その頃にはSDRAMに対応したチップセットも出てくる、ということは筆者も含めて書いている。今のPentium 4は、広く一般には勧められない、というわけだ。

●午後の衝動買い

 さぁ、これでPentium 4に関するネガティブな面の指摘は終わっただろうか。正直に言おう。筆者は、Pentium 4の発表会(11月21日)の帰り道、フラリと立ち寄った秋葉原でPentium 4を買ってしまった。すでに述べた通り、今Pentium 4を購入するのは、必ずしも合理的とは言えない。おそらく、現時点で最も費用対効果で優れるのは、866MHzのPentium IIIにIntel 815(お好みであればApolloPro 133Aでも良いが)のマザーボードを組み合わせ、値下がりの激しいPC133 SDRAMを買うことだろう。これが、最も合理的な選択であることは間違いない。実際筆者も、866MHzのPentium IIIを買いに行ったのである(筆者が見た中で最も安かったのはリテールパッケージで25,800円だった)。

 それが、何ゆえPentium 4を買うことになってしまったのか。もちろん、買う前に上に書いたマイナス面はすべて承知していた。最初から10万円を切る価格が設定されていたこと(1.4GHz版が99,800円)に魔が差してしまったのだろうか。あるいは、過去5年間も同じアーキテクチャが続いていたことに飽き飽きしていたのだろうか。何が理由かは分からないが、「勢い」でマザーボード(Intel純正D850GB、CPUとのセット価格で128,800円)、ならびに電源とセットで買ってしまったのである。どうせなら、1.5GHzと行きたかったのだが、最後に残っていた理性のカケラが、14分の1の性能アップで25パーセントの価格アップ(1.5GHz版は125,000円)とささやき、押し止めてしまったのが悔やまれるところだ。

 あえて負け惜しみを言えば、筆者の場合RDRAMを追加購入する必要はない。以前にも書いたように、すでに128MBのPC800 RIMMを2枚持っている。リテール版のPentium 4に付属する2枚の64MB PC800 RIMMと合わせれば、384MBのメモリを搭載できるわけで、当面これで不足するとは思えない。ましてや、こうした最新のプロセッサは、わが家ではまず実験マシンになることになっていることを考えればばなおさらだ。Windows 9x系では128MB、Windows 2000で256MBというのが、現在筆者がベンチマークテストを行なう際の目安としているメモリ実装量であり、手元にある2枚の64MB RIMMと2枚の128MB RIMMで、いずれの構成にも対応できる。

●新しいアーキテクチャに惚れっぽい?

 思えば、筆者はPentium Proにも飛びついたクチであった。Intelとしては決して商業的には成功作とはいえないPentium Proだが、筆者は150MHzを皮切りに、180MHz、200MHzと購入した。最も安価な150MHzは、3個くらい買ったような気がする。逆に、商業的には大成功したMMX Pentiumだが、筆者はついに1個も買わなかった(新しいアーキテクチャが出ると、古いアーキテクチャに見向きもしなくなる傾向があるのだろうか?)。

 Pentium Proもデビュー当時、性能に関する議論が起こったプロセッサであった。当時の主流であったWindows 3.xにWin16アプリケーションを組み合わせた場合の性能で、同じ動作周波数のPentiumより明らかに遅い、ということが問題になったのである。新しいアーキテクチャのプロセッサが、古いものより必ずしも性能的に優れていない、というのは今回のPentium 4に限らずよくある? ことで、80286と80386は動作周波数が同じなら、性能もほぼ同じであったし、動作周波数は異なるものの、iDX4-100MHzとPentium 60MHzの性能はクロスしていた(もちろん、8086/8088と80286のように、新しいプロセッサが明らかに性能が良いこともあるが)。こうした過去の事例を考えれば、今回Pentium 4の性能が必ずしも同一周波数のPentium IIIの性能を上回っていないことは驚くべきことではない。もちろんPentium 4が安価だというつもりはないが、128MB分のRDRAMが添付されていることを考えれば、目の玉が飛び出るほど高価、というわけでもない(128MB分のRDRAMを添付しなければならないところに問題が潜んでいるわけだが)。

 いずれにせよ、筆者の実験マシンは600MHzのPentium III(CoppermineおよびKatmai)から、1.4GHzのPentium 4へと一足飛びに近代化されることになった。できれば、Athlonのテストシステム(600MHzのK75にAMD-750チップセットベースのマザーボード)もThunderbirdベースのものに近代化したいところだが、これはAMD-760待ちになっている。果たしてAMD-760のシステムは、最初から安定したものが提供されるだろうか(この点、マザーボードまで純正で揃うIntelプラットフォームには絶対的な安心感がある)。あるいは、十分な量が市場に供給されるだろうか、注目である。

 次回は、今回購入したプロセッサとマザーボードを実際に動かしてみたい。

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(2000年11月22日)

[Text by 元麻布春男]


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