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後藤貴子の 米国ハイテク事情

低所得者層に浸透したインターネット

●典型的インターネットユーザーはビンボー人!?

 「貧乏人ほどインターネットをよく使う」。

 えっと思うかも知れないが、本当だ。Nielsen//NetRatings(Nielsen Media Research, ACNielsen eRatings.com, NetRatingsのネット視聴率調査サービス)の統計によると、貧しいとインターネット利用時間は長く、金持ちになると短いのだ。

 米国のインターネットユーザーのうち、家庭での月間利用時間が最も長かったのは年収21,000~33,000ドルの低所得世帯で約11~12時間半。最も短かったのは、年収52,900~135,900ドルの高所得世帯で7~8時間弱だった。この統計では、職業、人種、学歴などでもユーザー層の分析をしているが、それらの違いを超えて所得での相関関係は、はっきりしている。

 つまり、ちょっと前までインターネットといえば高所得の男性のものだったのが、いつの間にか貧しい人々が楽しむものに変わっていたというわけ。なぜ?

 理由はしごく簡単。インターネットはTVの次に安い娯楽だからだ。

 リッチな人々には、ゴルフやクルーズ、高級レストランに行くなど、なんだかんだと娯楽の選択肢が多い。貧乏だとそんな金銭的なゆとりはない。だが、インターネットなら、「無料」がゴロゴロしている。

 調査結果を見ると、高所得者層のよく行くサイトは株投資関係のサイトやニュースサイトに偏っているのに対し、低所得者層はチャットサイトや娯楽サイトを見ている。ここからも、娯楽として見た場合、低所得層のほうがインターネットを積極的に使っていることがわかる。

 さらに最長・最短のランキングに出てこない中流層よりも、やはり低所得ユーザー層のほうが利用時間が長いのも明らかだ。だが、これはどういうことを示しているのだろう。


●中流は新しい娯楽を最後に取り入れる

 じつはゆとりのある金持ちが試したあと、中流より先に貧乏な人が(お金のかからない)新しい娯楽にチャレンジするというのは、ひとつのパターンだ。おそらくそれは、中流は仕事で忙しくて余暇の時間も少ないが、低所得層は仕事で充実感が得られないぶん娯楽にどん欲で、収入の割に多くのお金と時間を割くからだろう。

 かつてのビデオで検証してみよう。

 初めにビデオ・VCRを買ったのは、新しいものにポンとお金を出せる金持ちだった。

 しかし、少しするとVCRの価格が下がり始め、レンタルビデオ店もでき、もっと貧乏な人が手を出すようになった。ビデオは映画館に行くより安くて便利な娯楽だったからだ。だが、このとき起爆剤だったコンテンツはじつはアダルト。そのためビデオ店も、まだ子連れファミリーなどには行きづらいところだった。

 しかしそれでもユーザーが増えていくと、次第にレンタルビデオ店は誰にでも入りやすいところになり、コンテンツも十分バラエティ豊かになった。こうなってようやく、中流ファミリーも安心してビデオを借りて家で見るというライフスタイルを取り入れる。すると、ユーザーは爆発的に増え、それに連れてビデオ店は巨大化してより使いやすくなるし、コンテンツもさらに充実する。そのためユーザーがまた増えるという拡大スパイラルが生じた。

 金持ちから低所得者層に活発なユーザー層が移ったインターネットの今の状況をビデオのパターンに照らし合わせると、相当に普及したように見えるインターネットも、まだ本当に一般化する前の過渡期にあることがわかる。考えてみれば、普及が進んだというのはアクセス所有率の話。利用時間からいったら、インターネットはTVやビデオにはるかに及ばない。逆に言うと、今後近いうちに、インターネットは中流が使い込んで利用時間を伸ばし、コンテンツや利用環境も大きく変わる、次の段階に達するというわけだ。


●インターネットは米国のモザイク解消に役立つ

 ところで、米国では、高所得者・低所得者から中流までそろってインターネットを利用するようになることには、もうひとつ大事な効果がある。

 先にふれたように、この調査では、本当は所得だけでなく、職業、人種、住む地域、好み、年齢、家族構成などでユーザー層を細かくクラスタ分けしている。そのクラスタ数はじつに62。例えば長時間アクセスの低所得者層と初めに書いたのは、じつは次の5クラスタのことだ。

 1.“Norma Rae-ville”= 米国南部に住むブルーカラーの若い家族または独身者。おもに黒人。モービルホームかワンルームのアパートに住む(2000年6月の利用時間:12.6時間、所得中央値:20,500ドル)

 2.“Back-country folks”= バイブルベルトの田舎に住む家族。カントリーミュージックや教会音楽を好む。おもに白人(同12.2時間、27,800ドル)

 3.“Latino America”= ニューヨーク、シカゴ、米国南西部などに住む、子供を持つ移民家族。おもにヒスパニック。アパートや長屋に住み、ブルーカラーかサービス業に従事(11.4時間、32,600ドル)

 4.“Blue Highways”= 子だくさんの若い家族または18歳以下の若者。釣りや狩猟、トラクターけん引ゲームを好む。白人または高地ネイティブアメリカン(11.4時間、28,700ドル)

 5.“Mines and Mills”= 工場や鉱山労働者、またはサービス業従事。アパラチア地方に住む高年齢世帯、シングルが多い。(11.3時間、28,700ドル)

 これを見ればわかるように、一口に低所得者と言っても南部に住む若い黒人世帯とアパラチアに住む高齢の白人世帯には、あまりにも多くの隔たりがある。アメリカは貧富の差が大きいだけでなく、もっとどうしようもなく細かく分断された、モザイク社会なのだ

 でも、このバラバラな人々が、今そろってインターネットにアクセスしている。そこでは、低所得者も金持ちも、人種や職業の違う人々も、同じ娯楽を楽しむし、さらに、偏見に惑わされずに、平等に意見を交わすことができる。つまり、米国人はまたひとつ、共通の文化プラットフォームを持ったのだ。

 かつて、TVや州間ハイウェイは米国文化の均質化(=モザイクの解消)を進めるのに大きく貢献をした。今、インターネットは、それよりもっと大きな役割を果たしつつある。

 先に低所得者層は安い娯楽だからインターネットに飛びつくと書いたが、理由はもう1つあるだろう。おそらく社会の底辺にいるということで共通する5クラスタの人々は、インターネットのこのイコライザー効果に惹きつけられているのだ。

[Text by 後藤貴子]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp