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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

AMD担当者に聞くモバイルDuron/モバイルAthlonの実像(後編)

 今後、数ヶ月で、Mobile DuronとMobile Athlonを、相次いでリリースする予定のAMD。同社でモバイル製品を担当するマーティン・ブース氏(Product Marketing Manager, Computation Products Group)に、AMDのモバイル製品の計画をうかがった。

●2001年以降はフルサイズノートPC以外の可能性も検討

AMD、Product Marketing Manager, Computation Products Group マーティン・ブース氏
[Q]AMDはモバイルではほぼフルサイズノートPCしかターゲットにしていない。しかし、日本ではThin&Light(薄型軽量)ノートPCやウルトラポータブルノートPCが多い。AMDはこの市場向けの製品の計画はあるのか。

[A]今言えることは、Mobile AthlonとMobile Duronは、最初はフルサイズの3スピンドル(HDD、FDD、CD-ROMなど3ドライブを搭載する)ノートPCをターゲットにするということだ。しかし、Thin&Lightを考えていないわけではない。2001年以降のロードマップでは、われわれも他の可能性を考えている。

 フルサイズノートPCを優先するのは、マーケットが大きいからだ。このタイプは、ワールドワイドでもノートPCの50%以上のシェアを持っている。Thin&Lightは、日本では高比率だが、欧米はそうでもない。(フルサイズの)次のステップとしては、30mm程度の厚みで1スピンドルより上のタイプを考えている。日本のウルトラポータブルとは少し違うが、これは、(米国の)企業向けではポピュラーなフォームファクタだ。

[Q]薄型ノートPCやウルトラポータブルノートPCに入れていくには、熱設計電力(Thermal Design Power:TDP)を下げなければならない。しかし、AthlonはPentium IIIよりCPUコアのトランジスタ数が多いため、原理的にはTDPを下げることは難しいのでは。

[A]確かに、デスクトップCPUのスペックではAthlonはPentium IIIより消費電力が大きい。これは別に秘密ではない。また、Athlonの方が確かにトランジスタ数も多い。しかし、消費電力は単純にトランジスタ数だけに左右されるわけではない。消費電力は多くの要素が複雑に絡み合っている。トランジスタ数もそのひとつだが、(CPU内の)配線技術やCPUコアのデザインなども関係しており、簡単には比較できない。また、トランジスタ数を食うキャッシュメモリは、ほとんどの時間ターンオフされているため、消費電力にはあまり影響しない。ロジック部分のトランジスタ数で比較しないと意味がない。

[Q]消費電力にいちばん効くのはCPUコア電圧だ。Intelは、現在1.1Vの低電圧で500MHz駆動できる製品がある。AMDはここまで低電圧高クロック駆動はできないのではないのか。

[A]確かに、消費電力はキャパシタンス×電圧の二乗×周波数で決まるので、電圧がいちばん効く。ただし、Intelにしても、ボリュームが出ているモバイルCeleronを見ると、低電圧ができるのは低クロック品だけ(1.35V版は500MHz止まり)で、高クロック品は高い電圧(1.6V)をかけている。高クロックでは、それほど電圧を下げることができない。それに対して、AMDではPowerNOW!でダイナミックに電圧/クロックを落としている。将来はわからないが、今は最大のマーケットにフォーカスするため、(CPU電圧を大きく下げる)プランはない。

[Q]消費電力を大きく下げる最良の手段は、製造プロセスの微細化だ。2001年以降と先ほど言ったのは、次世代の製造プロセス技術を見据えての話ではないのか。AMDの、0.13μmプロセス技術はどういう計画になっているのか。

[A]われわれも次世代プロセステクノロジの計画を進めている。来年中には0.13μmへ発展するだろうが、まだ詳細は話せない。
 ただし、プロセステクノロジで注意しなければならないのは、デザインルールだけでなく、実際の能力も重要だということだ。例えば0.18μmのプロセスルールで、われわれは銅配線技術を使っている。これは、他の企業がまねできない技術で、確実なベネフィットがある。それから、トランジスタサイズは100nmと、デザインルールの180nmよりずっと小さい。デザインルールだけでは判断できない。われわれの将来の製造技術では、デザインルールを微細化するだけでなく、配線技術やサブストレートの素材など、様々な面の技術革新が含まれているだろう。ハイパフォーマンスを、より低い消費電力で達成できるようになる。

[Q]0.13μmの製品は、デスクトップより先にモバイルで投入しないのか。Intelは最新プロセスをモバイルで先に利用しているが。

[A]これもコメントできない。

●企業向けノートPCでも成功

[Q]AMDがTransmetaとミーティングを行なったという情報が流れている。これは本当か。本当なら、その目的は?

[A]世間には色々な噂が流れている(笑)。AMDは多くの企業とミーティングを行なっている。公表するものもあるし、しないものもある。様々な企業と、多くの事柄について協議するのは、別に珍しいことではない。また、もし、何か決定したとしても、それは秘密保持契約の下でのことなので、発表を行なう時まで話すことはできないだろう。Transmetaは、非常に興味深いテクノロジなので、ニュースも多いようだ。

[Q]Transmetaの技術についてはどう考えているのか。

[A]確かに、低消費電力はノートPCにとって重要だが、モバイルCPUに必要なのはそれだけではない。いかにコストエフェクティブな製品を提供できるか、互換性は? 出荷量は? 性能は? ともかく多くの要素がある。また、ノートPCマーケットは、異なる価格帯、異なるパフォーマンス、異なる用途で、じつに様々なソリューションがある。

[Q]AMDはコンシューマ向けのオールインワンノートPCでは成功した。しかし、米国のノートPCは企業利用がいまだに主体だ。企業向け市場ではどうなのか。

[A]コンシューママーケットといっても、じつは買うのはコンシューマだけではない。米国ではノートPCの購買者は個人だが、じつはビジネスユースが主体だ。弁護士とかスモールミディアムビジネス(小規模事業主や中小企業)などだ。彼らは小売店(リテールストア)で購入するが、経費で買っている。米国では、リテールはノートPC全体の25%を占める。日本はこれより多く、ヨーロッパは逆に少ない。

 それからわれわれは小売市場(Retail Market)だけでなく、企業向け市場(Commercial Market)でも成功し始めている。PCベンダーの小売りモデルと企業向けモデルは、通常異なる。構成がマイナーに異なる場合もあるが、全く違うフォームファクタであることも多い。企業向けでは、Compaq Computerが「Armada 100S」でK6を採用しているほか、日本でも東芝やNECなどがこの市場でAMDを採用している。もはや、この市場でもわれわれが成功することに、大きな障壁があるとは思わない。

 K6ファミリは一般的にはバリューノートPCで使われている。そして、企業向けノートPC購入の50%以上は、やはり3スピンドルフルサイズのバリューノートPCだ。Mobile Duronもここで成功するだろう。そして、さらにMobile Athlonの投入によって、小売りと企業向けの両方のマーケットで、ハイパフォーマンススペースにもAMDが浸透できると考えている。

●MorganはSpitfireと同クロック同電圧でも消費電力が下がる

[Q]先ほど、SpitfireとMorganの違いは、同じ熱設計のノートPCでより高いクロックを載せられることだと説明を受けた。消費電力はキャパシタンス×電圧の二乗×周波数で決まる。同じ消費電力でより高クロックになるということは、MorganのCPUコア電圧はSpitfireより低くなるのか。

[A]いや、電圧を下げる必要は必ずしもない。われわれは、まだコア電圧がどうなるのかはアナウンスしていないが、コア電圧を(Spitfireと)同じに留める可能性もかなりあるだろう。だが、それでも、CPUコアのデザインの進歩とプロセス技術の進歩により、Morganでは消費電力は低くできる。

[Q]MorganとSpitfireが同じコア電圧同じクロックでもMorganの方が消費電力は低くなるということか。

[A]まあ、そうだ。プロセスが改良され、(CPUの)内部デザインが変われば、同じ周波数で同じ電圧でも消費電力を下げることができる。逆に言えば、新CPUコアの開発で同じサーマルエンベロープ(熱設計の枠)により高い周波数のCPUを搭載できる。そのため、Morganの方がSpitfireよりも高速な製品が登場し、提供するメガヘルツのレンジは上へと広がるだろう。同じことはデスクトップにも言える。

[Q]Morganでは消費電力が下がる分、同じ筺体により高クロックなCPUを入れることができるようになるというわけか。

[A]それだけではない、ノートPC側のサーマルリミット(Thermal Limit:熱設計の制約)が上がる分、さらにクロックが上がる。Mobile Duronがターゲットにしている3スピンドルのフルサイズノートPCは、一般的にサーマルリミットがいちばん高い。このクラスのノートPCでは、現在のサーマルリミットの限界が20Wか少し上だが、ノートPCの設計技術が向上するに連れてこの限界が上がっていく。われわれは、OEMメーカーと緊密に協力して、その時その時の適正なサーマルリミットを把握するように務めている。そして、そのサーマルリミットに合わせた製品を出荷する。このように、OEMメーカーの設計技術と、われわれのCPU設計は複雑に結びついている。

[Q]ノートPCメーカーの対応できる熱設計が20Wならそれに合わせたTDPのCPUを出す。つまり、CPUのクロックを一定に留める。しかし、PCベンダーの熱設計能力が進歩すると、それに合わせてよりTDPが高い、つまりクロックが高いCPUを出してゆくというわけか。今の説明でMobile DuronのTDPは大体わかったが、Mobile AthlonのTDPも同程度なのか?

[A]それはまだ言えない。ただ、これもOEMメーカーのフォームファクタにフィットするようにする。

[Q]IntelはモバイルPentium IIIでは今後、クロックを上げるためにTDPを急激に上げる。来年頭は25Wで来年後半は30Wという話も聞く。Mobile Duronより高クロックになるMobile Athlonもこのレベルの非常に高いTDPになるのか。

[A]これは繰り返しになるが、ようはOEMベンダーが高いTDPをサポートできるかどうかということだ。もし来年、ノートPC市場でより高いTDPをサポートできるインフラが整うなら、われわれもそのインフラに合う製品の出荷を考える。
 また、TDPを上げることができたとしても、ノートPCベンダーにはそれ以外の懸案事項が残る。消費電力が上がれば、それだけバッテリ駆動時間が短くなってしまう。そのため、AMDは「PowerNOW!」を導入した。PowerNOW!により、TDPを上げてもバッテリ駆動時間は犠牲にならない。PowerNOW!によって、ほとんどの時間ノートPCはローパワーステイトになるため、バッテリを節約できる。つまり、われわれは最高パフォーマンスも提供するが、同時に平均の消費電力を下げ、バッテリ駆動時間も延ばす。高性能なCPUでも、1時間しかバッテリが持たないのではいい製品とは言えない。

[Q]しかし、これに関してはIntelもSpeedStepテクノロジを持っている。

[A]SpeedStepはダイナミックに(電圧/クロックを)チェンジできないが、PowerNOW!はそれができる。CPUが常に最適な電圧/クロックになるため、エンドユーザーはCPUの性能と消費電力について気を配る必要がない。言ってみれば、PowerNOW!はオートマチック車、SpeedStepはマニュアル車だ。

[Q]Intelは、待機状態からの復帰が非常に早いQuickStartモードによってCPUの平均的な消費電力を下げられるため、ダイナミックな電圧/クロックの変更は不要だと言っている。

[A]IntelのCPUについてはそれほど詳しく知っているわけではない。しかし、一般的に言うなら、CPUがアイドル状態では確かにlow power stop clockやstop grant stateなどの待機ステイトは役に立つ。われわれのCPUもこれらのステイトは備えている。しかし、CPUがアクティブ状態にある時には、PowerNOW!のようなテクノロジでなければ消費電力を下げることができない。この二つの組み合わせが重要だ。

 また、平均的な消費電力を測る時、アイドル状態がどの程度の割合になると判断するかによって、数字は大きく異なってくる。99%がアイドル状態だと考えれば、待機ステイトは大きく効いてくる。これは、ゆっくりタイピングしているような時は、確かに真実かもしれない。しかし、バックグラウンドで何かの処理をしていれば、そうは行かない。ベストなのは、アクティブ状態の消費電力を減らす技術も持つことだ。

[Q]ノートPCベンダーが熱設計をするときに、TDP以外に重要なのは、CPUがどの温度まで耐えられるかの指標であるケース温度(Tcase)だ。AMDの過去のモバイルCPUでは、これが低かったので設計に多少苦労があった。Mobile Duron/Athlonでは、この点はどうなのか。

[A]今日のK6-2+では、これは最大85度に上がっているため、もはや問題ではない。また、今後の製品では、より高いTcaseの世代のCPUも出てくるだろう。


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(2000年9月27日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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