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第68回 : 携帯電話とPalmのいい関係



 先日、とあるPalm OSライセンシー2社の方と酒席を共にする機会を得た。お酒の力もあってか、さまざまな夢膨らむ話を伺わせていただいたが、その内容はここで公表することはできない。

 しかし、おかげで少し萎えかけていたPalm熱も再点火。なんだかんだと文句を言いながら、いまだPalmをいじくり回している。最初は単なるオモチャのつもり(というと怒る方もいらっしゃるだろうか)だったのが、利用するアプリケーションが増えてきたこともあって手放せない道具になりつつある。


●スペックに劣るPalmがなぜ売れる?

 今年、日本にパーム コンピューティングが設立されて以降、Palmの売り上げ増加がめざましい。こう話してくれたのは、ある量販店の仕入れを担当する友人なのだが、実際隅っこにちょっとだけ置かれているだけだった量販店でのPalmも、機種が増加したこともあり陳列棚を広く占領するまでになっている。

 しかし正直言って、ここまでPalm OS搭載デバイスが日本でウケるとは全く予想していなかった。レスポンシブな個人の情報管理ツールとして、Palmそのものの良さは理解しているつもりだが、漢字を使う日本のお国柄ではPalmの画面解像度は低すぎる上、PCが存在しないと利用範囲が極端に狭くなるPalmが、ここまで受け入れられるとは思えなかったのだ。

 実際、Palmについて扱った回は、必ず「なぜザウルスを評価しない?」、「標準で電子メールも使えないのに、Palmなんて使えない」といったメールを受け取ることになる。新しいアイゲッティはレスポンス速度も改善されているし画面も非常に見やすい。その上、通信端末としても必要十分な機能を備えている。PCとの連携も、新機種ではかなり改善された。後から追加で何らかのソフトやオプションを買う必要もない。

 なのにPalmがよく売れる。実際のところ、考えてみてもわからない。初代アイゲッティを使っていた身としては、ザウルスの方がパワフルな面を多く持っているのはわかるし、Palmは決してパワフルとは思わない。1つ挙げるとすれば、PalmでPDAの情報にアクセスするプロセスの方が、とても楽に感じる。Palmは基本的にシステム手帳の情報にアクセスするかのごとく、ストレートに情報に行き着けるように思う(その点では、実のところPocket PCも悪くはないと思っている)。根本的にはそれが原因なのかなと自分を納得させてみるが、そこまで考えてみんながPalmを買っているとは思いにくい。

 また、色々と標準アプリケーションの機能不足を埋めるようにシェアウェアを買っていると、意外にトータルのお金がかかってしまう。機能面を考えれば、決して安くはないとも感じている。アイゲッティやPocket PCがターゲットにしていないMacintoshユーザーが好むのは当然ではあるが。


●日本の想い米国に届け

 もっとも、Palm OSのライセンシーも、Palmプラットフォームが今のままでいいとは思っていないようだ。通信機能の貧弱さや、インターネット対応度の低さ、絶対的なパフォーマンス不足、解像度の低さは、解決すべき問題として認識しているという。これはおそらく、Palm自身も同じことを思っているはずだ。

 たとえば長らく噂されている新プロセッサへの移行。Palm OSをARMに移植するという話だ。実際、ARMへの移植はかなり進んでいると聞く。最も高速なものでも20MHzのDragonball(プロセッサの内部アーキテクチャはMC68000)は、クロックの限界よりも消費電力あたりのパワーの点で限界が見えているだけに、いずれは変更しなければならないハズだ。

 OSのターゲットプロセッサがARMになれば、ARM9やインテルのXScaleなど、パワフルで低消費電力、かつオンデマンドでパフォーマンスを自在に変更しながらプログラムを実行できるプロセッサを利用できる。ソニーはARMライセンスを所有しているため、出荷量さえ見合うならばARMベースの専用プロセッサを開発することも可能だろう。

 今のままではTCP/IP通信機能を本格的に活用する際、パフォーマンス不足になるのは目に見えているし、それではPalmの味を殺してしまう。多機能化は必ずしもいいことではないが、プロセッサの変更は互換性の問題を解決すれば、速やかに進められるだろう。

 ただし、縦横160ドットしかない画面解像度については、更新される気配は今のところなさそうな雰囲気だ。6ポイントの文字でも読めてしまうアルファベットの世界で開発している人たちに、漢字の文化を知ってもらうのはなかなか難しいものだ。現在のPalm OSでは、解像度に依存したプログラミングを行う必要もあるため、互換性を維持したまま解像度の変更をするのは結構やっかいなのかもしれない。

 こうした文化的違いによる不満点は、多くの声が集まらないと修正されにくい。プロセッサ速度が向上すれば、解像度非依存の描画アーキテクチャをOSとしてサポートしても、おそらく速度的なペナルティはそれほど大きなものにはならないだろう。ユーザーは、声を大きく上げておくべきだ。何も言わなければ、変わるものも変わらない。


●Palmでメールしようと思うから不満が出る

 僕はもともと、Palm(実際には英語版の初代WorkPad)をオモチャ的に使っていた。当時は、外出先で手軽に電子メールをチェックしたかったからだ。そのころは利用しているメールサーバーの制限で、メールをどこかに転送することができなかったため、メールサーバーに直接アクセスできるPDAが、僕の理想のPDAだったのだ。

 しかしiモードを利用している今、メールを手軽にチェックするという目的にPDAを使う必要はない。あとはスケジュールやアドレス帳などの情報に素早くアクセスできれば、メール送信が不便という点を除いて大きな不満はない(もちろん、ついでにそのほかのドキュメントも持ち歩ければなお良いが)。

 ただ、現在の携帯電話は

1.スケジュールを管理するには貧弱すぎる
2.電話帳は電話以外の情報管理には使い物にならない

という不満がある。これをDosule!などのASPでカバーしてみたのだが、残念なことにDosule!は予定されていたIntelliSyncの無料配布が遅れており、デスクトップPCとの同期を取るのが面倒なまま。運営元のピーアイエム(先日、Yahoo!に買収された)に問い合わせてみたところ、まだ具体的な提供スケジュールは立っていないという。その上、最近はiモードが混雑しているせいかiモードのアクセスが非常に遅く感じるようになってきたため、とりあえず当面の間は、Dosule!を含むASPの利用を断念することにした。

 しかし、Palmを用いれば、これらの不満を解消することができる。以前にもこの連載で書いたことがあったが、今のPalmはほかのPDAと比較して機能は低いが、携帯電話とはお互いに機能を補完する関係にあるため組み合わせて使うと都合が良い。その際、WebブラウザをPalmで使いたいとか、電子メールをPalmで送受信したいと思わなければ良い。

 とはいえ、せっかくの携帯電話とPalmのペア。この2つが同期してくれれば良いのにと思う。携帯電話のメールをPalmに吸い上げたり、Palmで書いておいたメールを携帯電話と同期したときにPalm自身ではなく携帯電話に引き渡し、携帯電話がメールを送れたり、Palm上でiモードやWAPコンテンツにアクセスするなど夢は広がる。将来、Bluetoothで無線接続できるようになれば、お互いをシームレスに行き来することもできるはずだ。

 つまり、通信部分は携帯電話にまかせて、Palmはデータストレージと閲覧を行なうフロントエンドデバイスでも良いのではないか。携帯電話会社とPalmプラットフォームベンダーが協力する必要はあるが、決して不可能ではないと思う。

[Text by 本田雅一]


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