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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Intelが低消費電力版プロセッサのための専任部隊を編成


●来年前半の1GHz版モバイルCPUの投入を公式に認める

 Intelは今秋に800MHzと850MHzのモバイルPentium IIIを投入、また来年前半には1GHzと1GHz以上のプロセッサを出す。さらに、次世代の0.13μmプロセステクノロジのプロセッサも、来年半ばに投入する。

 Intelの技術カンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」(8月22~24日、米サンノゼ)で、フランク・スピンドラ副社長兼ジェネラルマネージャ(Intel Mobile Platforms Group)は、今後のモバイルCPUロードマップについて、このように説明した。同社が、1GHzのモバイルCPUの計画について正式にコメントしたのは今回が初めて。

 2週間前のコラム「Intelは来年1月に1GHzのモバイルCPUを前倒し、モバイル版Timnaも投入へ」で伝えた通り、IntelはアグレッシブなモバイルCPUの性能向上計画を立てている。今回、スピンドラ副社長は、その計画を公式に認め、Intelがモバイル製品の強化に本気であることを強調した。また、Intelのアルバート・ユー上級副社長兼ジェネラルマネージャ(Intel Architecture Group)は、同社がモバイルPentium 4を開発していることも明らかにした。


●ユー上級副社長が低消費電力CPUのためのグループの編成を明言

 さらに、今回のIDFでは、Intelが低消費電力のプロセッサ開発に本腰を入れたことも明らかになった。これは、アルバート・ユー上級副社長へのグループインタビューで説明されたものだ。同席したライター本田雅一氏の、低消費電力CPUの今後の展開に関する質問に対する、ユー上級副社長の説明は次の通り。

 「プロセッサの消費電力を下げるための、新しいグループを編成した。このグループは、Intelのプロセッサの平均消費電力と熱設計電力(TDP)のどちらも下げる研究を行なう。これはつい最近のことで、これまで、公式に語ったことはなかった。次のIDFかそのあたりで、ロードマップについて語ることができるだろう。専任のチームを作ったのは、われわれはローパワーは非常に重要だと認識しているからだ。だから、このエリアでもっと製品が出てくることになるだろう。(ノートPC)を、もっとスモールにできるようになる」

 これは、IntelのOEMメーカーなどからこれまで入っていた情報にない新事実だ。Intelの現在の計画では、今後の低電圧版CPUのロードマップは惨憺たる状態だが、ユー上級副社長の語った通りだとすれば、今後半年程度でそれが大幅に変わる可能性がある。これは、薄型ノートPC指向の強い日本にとっては、なによりの朗報だろう。

 特に重要なのは、ユー上級副社長が、TDPも下げると言っていることだ。SpeedStepにより低電圧化を果たした低電圧版モバイルPentium III 600MHzでは、モバイル時の平均消費電力は下がったものの、熱設計は依然としてハードルが高く、PCメーカーは設計に苦労している。しかし、TDPが下がるなら、薄型ノートPC開発はこれまでよりずっと容易になる。

 Intelが、突然、低消費電力CPUに力を入れ始めるのは、米Transmeta社の低消費電力CPU「Crusoe(クルーソ)」の登場が間近に迫っていることと無関係ではないだろう。日本のノートPCメーカーは、増大するIntelのモバイルCPUのTDPに苦しめられてきた。そのため、Transmetaに食指を伸ばしつつある。今回のIntelの、低消費電力CPU専任部隊の編成は、こうした動きに敏感に対応したものと見られる。


●技術的にはIntel CPUでもファンレス設計が可能

 じつは、Intel CPUでTDPを下げることは難しくない。技術的というよりマーケティング的な問題だからだ。Intelは、すでにCPUの駆動電圧を1.1Vにまで下げる技術を持っている。そして、今の低電圧版モバイルPentium III 600MHzは、SpeedStepによりバッテリ駆動時にはTDPが5.4Wまで下がる。ところが、不幸なことにAC電源時には1.35Vで600MHzにまで上がってしまうため、TDPは9.5Wにまで上がってしまう。そのため、PCメーカーは9.5Wに合わせて熱設計をしなければならない。

 しかし、もしIntelが1.1V駆動で500MHzだけの単一モードのモバイルCPUを出したら、ノートPCメーカーは5.4WのTDPに合わせて設計すればよくなる。そうなれば、Intel CPUであっても、ファンレスの薄型ノートPCが可能になり、開発は現在よりはるかに容易になる。また、可動部品であるファンがなくなることで、信頼性も大きく向上する。

 これは私事だが、じつは、買って2ヶ月のノートPCを病院送りにしてしまった。ファンの吸気口が筺体の底面にあるタイプで、あっという間にファンが故障してしまったのだ。これは、筆者がヘビーなモバイルユーザーで、どこでも(地面の上でも)構わずノートPCを開く(当然ゴミをファンが吸い込む)という異常な使い方が悪かったのだが、それにしてもファンが故障の可能性の非常に高いパーツであることは確かだ。今は再びファンレスのMMX PentiumノートPCに戻っている。

 低消費電力CPUへ向けて力を入れ始めたIntel。今後の展開には注目する必要があるだろう。

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【8月11日】【海外】Intelは来年1月に1GHzのモバイルCPUを前倒し、モバイル版Timnaも投入へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000811/kaigai02.htm


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(2000年8月23日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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