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特別コラム

山本雅史の「Microsoft.NET」早わかり


 Microsoftが発表した次世代構想「Microsoft.NET」については、技術的な内容に関する発表が希薄なためか、6月末の発表から日数を経ても曖昧模糊とした状態が続いている。前回の短期集中連載では全体像の説明が中心だったが、今回は基本的な3つの疑問にしぼって解説しよう。


■Windows OSはどうなる?

 ユーザーにとってもっとも気になるのは、Windows OSがどうなるかだ。結論から言えば、Microsoft.NET構想でも、Windows OSがパッケージとしてリリースされることには変わりはない。 クライアント用のWindows OSとして、Windows 2000 Professionalのようなビジネス向きと、Windows MEがターゲットにしているコンシューマー向きの2ラインのプロダクトがリリースされるのもいままでどおりだ。2つのOSは共通のカーネルが利用されるが、ユーザーインターフェイスや付属アプリケーションが異なる。

 Microsoft.NET構想の中で、Windows OSは、Windows.NETという名称に変更される。Windows.NETの特徴は、PDAや携帯電話に代表される情報家電との関係が重視されていることだ。
 たとえば、Windows.NETのユーザーインターフェイス「User Experience:Intelligent Interactivity」の大きな変更は、自然言語処理をサポートするNatural Interfaceの採用だろう。これは音声認識や手書き文字認識をベースに自然言語処理まで目指している。例えば、音声で「ミーティング・スケジュールの追加」と話せば、PCが意味を解して、ユーザーが必要とする動作を行なう。
 現在の音声認識ソフトのように、Windows OSのコマンドを認識するだけではなく、単語や文節も理解できるという。これによって、コンピュータの操作を、マウスやキーボードから、なじみやすい音声操作に変更しようという狙いだ。 Natural Interfaceが主力となるのはPCではなく情報家電だ。ディスプレイの大きさやキーの数などが限られたこれらの機器では音声インターフェイスが重要とみているのだ。

 また、User ExperienceのUniversal Canvasは、XMLのモジュールをデスクトップに貼り付けていくだけで、ユーザーが必要とするデスクトップが完成するというものだ。原型は、現在MicrosoftがOutlook用に提供しているデジタルダッシュボードだろう。Universal Canvasにより、ユーザーがデスクトップ環境を自由に構築したり、アプリケーション・モジュールを組み合わせて、新しいアプリケーションを作り上げることができるという。XMLベースにすることで、さまざまなサイズや機能(モノクロ/カラー)のディスプレイで同じデータを表示することができ、情報家電に対して有効な技術となっている。

 つまりMicrosoftはPC用のWindows OSの中核をXMLベースにすることで、携帯電話やPDAなどの情報家電でも同じデータやアプリケーションが使える環境を目指しているのだ。 ビル・ゲイツ氏が危機感を持っているのは、このまま携帯電話やPDA、デジタルTVなどの情報家電製品が普及していくと、PCというニッチな製品でしかMicrosoftの影響力がなくなることだ。WebTVなどの情報家電に向けての試みがすべて失敗している現状では、Microsoftが情報家電ジャンルでキープレーヤーとなることができない。XMLというデータ形式を利用することで、他社の情報家電とのリンクを可能にし、Windows.NETへの接続性を持たせようという狙いなのだ。


■ビジネスの中心はサーバーに移行するのか?

Windows Platformから.NET Platformへの移行図
 Microsoft.NETでは、クライアント側よりも、サーバーやインターネット上のサービスが重要視されている。インターネット上に構築されるサービスは、XMLデータを交換するため、Windows 2000サーバーでないとMicrosoft.NET構想が構築できないというものではなく、現状で動いているコンピュータ(メインフレームやUNIX)などと緩やかな連携が行なえるシステムが目指されてはいる。ただし、既存のコンピュータに関しては、バックエンドや周辺サービスを提供するに留まり、構想の中心はあくまでもWindows 2000サーバー群だ。

 開発ツールとしては、サーバー側の言語「C#」が注目される。C#のコンセプトは、非常にJavaに近い。異なるのは、アプレットやサーブレットのように、オブジェクト自体をインターネットなどで移動させて、相手のサーバーで動かすということは考えていないことだ。それよりも、バーチャルマシン(VM)を利用することで、C#で開発したアプリケーションが、さまざまなプラットフォーム上で動作するということを目指している(Windows環境では、COMを利用してオブジェクトを移動させる)。

 また、インターネット上で24時間365日のサービスを提供するようになると多数のWindows 2000サーバーを運用しなければならなくなるため、サーバー群を管理する「Application Center」が用意されている。また、さまざまなコンピュータや情報家電製品とXMLデータをルールを決めて交換するために、「BizTalk Server」も用意されている。BizTalk Serverは、今までメインフレームなどとうまく連携できなかった非同期処理(例えば、データを渡して、処理がすむまで一ヶ月や半年かかる月次や四半期処理など)がより簡単にできるという。


■Microsoft.NETは、いつから使えるのか?

Windows Platformから.NET Platformへの移行図

 たとえば、Natural InterfaceはAppleがNewtonをリリースした際に発表したAgentというコンセプトの、Universal CanvasはAppleとIBMが共同で設立したオブジェクト指向OSのTaligentらがめざしていた環境の焼き直しに見える。これらは両方とも10年前のアイデアだ。また、C#とJavaの類似性も高い。

このように考えていくと、Microsoft.NETは、斬新なコンセプトというよりも、現在米国で主流になり始めているビジネスをMicrosoftが取り込むために、さまざまなMicrosoft製品をリストラクチャリング(再構成)したものといえるだろう。このため、斬新というよりも、現実的といえるかもしれない。

しかし、コンセプトが現実的だからといって、すぐに実現できるものではない。アプリケーションやプラットフォーム・モジュールを完成するのに3~5年かかるだろうし、ベースがそろうのも2002年頃からとされている。これ以上遅れると、情報家電やサーバー側のサービスがMicrosoft抜きで進んでしまうため、MicrosoftはPCという一部の分野のビジネスしかサポートしていないローカルな企業になってしまう。その意味では、今後はどれだけ速いスピードで使いやすいプラットフォームが提供されるか、さらにサーバー側ではどれだけ安定性のあるシステムが提供できるかがキーポイントになるだろう。


□Microsoftのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/
□ニュースリリース(英文)
http://www.microsoft.com/presspass/press/2000/Jun00/ForumUmbrellaPR.asp
□関連記事
【6月23日】米Microsoft、ローカルとネットを組み合わせる「Microsoft.NET」を発表(INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0623/msnet.htm
【6月30日】Microsoftの次世代Windows構想「Microsoft.NET」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/link/msnet_i.htm

(2000年7月11日)

[Reported by 山本 雅史]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp