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特別企画:世界初15,000rpmの超高速SCSI HDD
「Seagate Cheetah X15」の実力を測る



 15,000rpmという世界初の超高速回転を達成したSCSI HDD「Seagate Cheetah X15」がようやくショップ店頭でも見られるようになった。そこで今回は、Cheetah X15の主な特徴を整理したうえで、その実力について検証してみよう。


●15,000rpmという高速回転を採用した理由

 Cheetah X15は、第4世代のCheetahシリーズに新規参入した15,000rpmの超高速モデルである。これまで培ってきたCheetahの技術をベースに、そのディスク回転速度を従来の10,033rpmから15,000rpmにスピードアップすることで、さらなる高性能化を果たした製品だ。容量は18.35GBのみであり、インターフェイスにはUltra160 SCSIとFibre Channel(1ループあたり2Gbps)が用意されている。パラレルSCSIのモデルには、通常の68ピンワイドコネクタに加えて、80ピンのSCA(Single Connector Attachment)コネクタを採用した製品もある(型番の末尾が「LCx」)。今回、筆者が試用したモデル(ST318451LC)はSCAタイプだったので、SCA-68ピンLVD SCSIの変換コネクタを介してSCSIカード(Adaptec 29160)に接続している。また、バッファのサイズは4MBが標準だが、AVやCAD向けとして16MBの大容量バッファを搭載したモデルも用意されている(型番の末尾に「V」が付く)。

Cheetah X15 表面 Cheetah X15 裏面
SCAコネクタの形状 SCA-68ピンLVD SCSI変換コネクタを取り付けたところ

 15,000rpmというディスク回転速度は、執筆時点において世界最速である。2年ほど前に日立製作所が12,030rpmの製品(DK3E1T-91シリーズ)を発売したものの、それに対抗するディスク回転速度で勝負を挑もうとするメーカーは1つも現われなかった。多くのメーカーはディスクの面記録密度を向上させたり、データの読み書きに関わる信号処理回路の改良などによって、回転速度を10,000rpm前後にとどめながら高性能化を図ってきたのだ。

 もちろん10,000rpmの範囲内で改良を加えていくのには大きな理由がある。それは、HDDの回転速度を上げることで、HDDの大部分の設計をやり直さなければならなくなるという問題があったからだ。たとえば、ヘッドのサーボ技術(ヘッドをディスク上の指定位置により、速くより正確に位置付けるための技術)にはこれまで以上に高いレベルのものが要求される。また、高い回転速度を安定して維持可能なスピンドルモーターも同時に開発しなければならない。さらに、回転速度の向上によってもたらされる消費電力や発熱、騒音などの増加を実用範囲内に抑える必要があるだろう。これらの問題を解決するためのコストや開発期間などを考えると、やはり既存の回転速度を維持したままで高性能化を図ったほうが手っ取り早いという結論に至ったのだと思われる。

 ところが、それでもSeagate Technologyが15,000rpmという高速回転にこだわった理由は、回転速度を上げなければ解決できない問題があるからにほかならない。実は、世界で初めて10,000rpmのCheetahを世に送り出した理由もまったく同じだった。それは、1秒間あたりに可能な読み書き動作の回数、いわゆるI/Ops(Input Output per Second)を向上させるためである。

 HDDの性能といえば、1秒間あたりに読み書き可能なデータ量、すなわちデータ転送速度そのものだと考えられがちだが、実はSCSI HDDが多く利用されているさまざまなサーバー環境を想定した場合には、I/Opsの方が重要な要素になってくる。サーバー(インターネットサーバーやデータベースサーバーなど)には多くのクライアントからデータの読み書き要求が頻繁に行なわれるわけだが、これらの要求にしたがった読み書き作業を実際にこなすのは、いうまでもなくHDDなのだ。しかし、HDDは電気的にデータを読み書きする半導体メモリと異なり、回転したディスクとヘッドという機械的な機構によってデータを読み書きすることから、読み書き可能な回数(いわゆるI/Ops)には物理的な面からもかなりの制約が課せられてしまう。


●世界最速のシーク時間と回転待ち時間

 このような制約のなかから、できる限り読み書き性能を向上させるためには、サーボ性能を高めてシーク時間を短縮したり、回転速度を上げて回転待ち時間を削減するしかない。通常のHDDならば前者のみの改良にとどまっていたものが、15,000rpmの回転速度を採用したCheetah X15では後者の改良も同時に行なうことが可能になった。

 まずシーク時間だが、その平均値は読み出しで3.9ms、書き込みで4.5msとなっている。同世代のCheetah 18XL(10,033rpm)がそれぞれ5.2ms、5.8msなので、かなり高速なことが分かるだろう。シーク時間とは、HDDが読み書きの指令を出してからヘッドをディスク上の目的位置まで移動させるのに要する時間のことだ。シーク時間には、トラック間(Track-to-Track)に加えて、最外周と最内周のトラック間(Full Stroke)の移動にかかる時間の2種類があるが、通常は両者の平均(Average)をとった平均シーク時間が多く用いられる。

 また、読み出しと書き込みでシーク時間が異なっているが、これはデータのトラック密度が向上したことによる措置である。読み出しは多少ディスクのデータトラックから外れても隣接トラックに影響を及ぼすことなくデータを読み出せるが、書き込みは隣接トラックのデータを破壊しかねないので、安全をみて読み出しよりも多少遅らせているわけだ。

 さらに回転速度の向上に伴い、平均回転待ち時間も2msに短縮されている。回転待ち時間とは、トラックの位置決めが完了してからヘッドの位置に目的のセクタが現われるまでディスクの回転を待つ時間のことである。ヘッドはディスクの半径方向に対してしか動かないので、ディスクを1回転させてヘッドに目的のセクタを持っていかねばならないことに起因している。回転待ち時間の間には何もデータを読み書きできないことから、この無駄な時間はできる限り削減したい部分といえる。なお、平均回転待ち時間はディスクの回転速度によって一意に決まるものであり、その平均値は5,400rpmで5.56ms、7,200rpmで4.17ms、10,000rpmで3ms、15,000rpmで2msとなる。


●Cheetah X15の実力は?

 最後に、Cheetah X15の実力を詳しく検証していこう。比較対象として、10,033rpmのCheetah 18XL(ST318404LW)と7,200rpmのBarracuda 18XL(ST318436LW)、またIBMで最も新しい10,000rpmのUltrastar 36LZX(DDYS-T18350)を使用した。本当はQuantumのATLAS 10K II(10,000rpm)も加えたかったが、ショップではまだエンジニアリングサンプル品しか出回っていないこともあり、フェアな測定が行なえないだろうという理由で今回はテスト対象からあえて除外している。

 まず、Ziff-Davis, Inc.のWinBench 99 Ver.1.1に含まれるDisk Inspection Tests(Disk Transfer Rate Test)を実行した結果がグラフ「Disk Inspection Tests」である。グラフを見るとすぐ分かるように、Cheetah X15はダントツのデータ転送速度を誇っている。最外周では41.5MB/秒、最内周でも30MB/秒オーバーのラインをしっかりと維持している。同社が公表しているフォーマット済みの内部データ転送速度(37.4~48.9MB/秒)よりもかなり低いのはちょっと気になるが、何度測定しても変化がないので、今回測定した数字を実際のデータ転送速度として考えておきたい。なお、グラフが階段状になっているのは、ディスク上のトラック当たりセクタ数をゾーンに分けて変えているからだ(内周は外周よりもトラック当たりセクタ数が少ない=データ転送速度も落ちる)。

Disk Inspection Tests(Disk Transfer Rate Test)の結果

 データ転送速度に関して、HDDの記録密度の観点から考察すると興味深い結果が得られる。今回テストした製品のトラック密度(半径方向1インチあたりのトラック本数)、線記録密度(トラック方向1インチあたりの記録bit数)、面記録密度(=トラック密度×線記録密度)をまとめると表「Recording Density」のようになるが、特に線記録密度に着目すると、Cheetah X15とUltrastar 36LZXはほぼ同じなので、両者の速度差はほぼ回転数の差がそのまま現われているものと想像できる(もちろん記録方式がそれぞれ異なるため、厳密には回転数の差だけでは語れないのだが……)。

【Recording Density】
Cheetah X15Cheetah 18XLBarracuda 18XLUltrastar 36LZX単位
トラック密度21,400 18,145 18,145 20,000 トラック/インチ
線記録密度351,232 347,136 328,272 352,000 bit/インチ
面記録密度7,516 6,299 5,956 7,000 Mbit/平方インチ

 もしディスクの直径が同じだとすると、Ultrastar 36LZXの最外周は34.7MB/秒なので、Cheetah X15はその1.5倍の52.1MB/秒にも達するはずだ。しかし、実際には41.5MB/秒にとどまっている。これは、ディスクの直径がUltrastar 36LZXよりも小さいことを意味している。Ultrastar 36LZXのディスクが3.5インチだと仮定して、単純にデータ転送速度から割り出したCheetah X15のディスク直径は約2.8インチ(≒3.5×41.5÷52.1)である。実際、同社から入手可能なCheetah X15の内部写真から、定規を利用して簡単に算出してみたディスクの直径が約2.7インチだったので、だいたい予想どおりの結果といえるだろう。

 つまり、Cheetah X15が15,000rpmもの回転速度を実現できたポイントはディスクの直径を小さくしたことだったわけだ。もちろん、日立製作所が発売した12,000rpmの製品やQuantumのATLAS 10Kシリーズなども同様の手法で高速回転を実現しており、決して独自の手法というわけではないが、今後登場する高速回転系のHDDはおおむねこの手法を採用してくるものと予想される。なおCheetah X15では、ディスク直径を縮小した恩恵として、従来のCheetahシリーズと変わらない消費電力と発熱量を達成していることも重要である。このため、従来のCheetahとまったく同じ冷却および電源環境で動作するという。実際、Cheetah 18XLと発熱量を比較してみてもほとんど変わらなかった。音についても、高速回転特有の高周波系のノイズは思ったほど感じられない。

 さらに、WinBench 99 Ver.1.1に含まれるDisk WinMark 99を実行した結果が表「WinBench99:Disk WinMark 99」である。どちらの項目もDisk Inspection Testsで得られた結果順になっているが、Cheetah 18XLは7,200rpmのBarracuda 18XLと比較すると、Businessで約35%、High-Endで約50%も高い数字をはじき出している。Cheetah X15の実力がこれでもかと発揮された感じだ。

【WinBench99:Disk WinMark 99】
Cheetah X15Cheetah 18XLBarracuda 18XLUltrastar 36LZX単位
Business Disk WinMark 999,790 8,740 7,240 8,610 KB/秒
High-End Disk WinMark 9929,600 25,400 19,800 24,600 KB/秒
Disk Access Time6.76 9.00 11.90 8.68 ms
Disk CPU Utilization2.08 2.09 2.10 2.05 %used
Disk Transfer Rate:Beginning41,500 35,900 27,100 34,700 KB/秒
Disk Transfer Rate:End32,400 25,100 16,500 22,800 KB/秒


●SPTでシーク動作の挙動を調べる

 IPEAK(Intel Performance Evaluation and Analysis Kit)に含まれるSPT(Storage Performance Toolkit)を使用して、さらに細かい部分も調べていこう。SPTは、Intelが開発者向けにリリースしているディスク評価用のツールキットで、執筆時点における最新バージョンは3.0となっている。ディスク性能の詳細な評価には、「AnalyzeDisk」と呼ばれるテストプログラムを使用する。読み出しと書き込みのそれぞれに対して、シークやアクセス、キャッシュなどの挙動を細かく調べることができるが、結果をすべて紹介しているときりがないので、今回はシーク動作の挙動だけをピックアップしてみたい。

 グラフ「Read Seek Profile」は、読み出しにおけるセクタ間のシーク距離の違いによるService Time(処理にかかった時間)を示したものだ。単純に考えると、セクタ間の距離が短ければシーク動作は短くてすむため、Service Timeも短くなる傾向にある。どの製品もおおむねこの傾向を示しているが、細かく調べると製品間の違いがよく現われていて非常に興味深い。

 まず、ディスク回転速度の違いがよく現われている。どのHDDも移動セクタ数が128セクタを超えたあたりから急激にService Timeが長くなっているが、その分布はまさに回転速度に大きく依存している。Cheetah X15が3~4msを中心に幅2ms前後で強い分布を見せているのに対して、Cheetah 18XLとUltrastar 36LZXは4~6msを中心に幅3ms前後、Barracuda 18XLは6~8msを中心に幅4ms前後と、少しずつ遅くなっている。この数字は、まさにディスクの回転待ち時間+シーク時間に相当するものだ。逆に、0~128セクタの移動時には1ms未満のService Timeで済んでいるが、これはディスクを1回転させずにデータを読み出せることを意味している。また、正方向への移動は回転待ち時間が必要ないのに、負方向への移動には無条件に回転待ち時間に相当する時間を必要とする性質は非常に興味深い。

【読み出し時のシークパターン:Read Seek Profile】

 グラフ「Write Seek Profile」は、書き込み時におけるシーク動作の挙動を示したものである。基本的には読み出し時と同様に、セクタ間の移動距離が長いほどService Timeも長くなる傾向にあり、その分布はディスクの回転速度に大きく依存している。ただし読み出し時と異なり、小さいセクタ移動にも大きなService Timeを必要とする点が大きな特徴だ。本来ならば限りなくSerivice Timeが短くなるはずだが、実際にはこのような短いセクタ間の移動でもディスクを1回転させているような挙動を示している。結論としては、Ultrastar 36LZXは負方向の小さなセクタ移動の際に大きなService Timeを必要とする少し気になるパターンを示しているものの、Cheetahシリーズに関してはほぼ理想的なシークパターンを見せており、特にCheetah X15については非常に高いランダムアクセス性能を期待できそうなパターンを示している。

【書き込み時のシークパターン:Write Seek Profile】


●Cheetah X15は買いか?

 今回のテスト結果により、Cheetah X15がそのディスク回転速度に見合った非常に高い性能を持つことは十分に確認できた。では、本当に買いなのだろうか?

 これに関して、筆者は「やはり半々かな」というのが正直な意見だ。まず価格だが、18GBクラスのCheetah 18XLが47,000~49,000円、Ultrastar 36LZXが44,000~48,000円、Barracuda 18XLが34,000~39,000円なのに対して、Cheetah X15は64,000~70,000円もする。確かに価格に応じた性能は得られるものの、20GBの最新ATA HDD(たとえばIBMのDeskstar 40GV)が15,000~17,000円で購入できる時代に7万円の出費はやはり考えさせられてしまう。

 もう1つは、SCSI HDDの使い方自体の問題にある。SCSIはそのインターフェイスの性質上、複数台束ねたときに(すなわちRAIDのような使い方で)大きな効果を発揮させやすい。コマンドのマルチスレッド処理やコマンドキューイング、フェアネスなどといったSCSIが持つインテリジェントな処理機構は、I/Oトランザクションの多いサーバー環境または複数のHDDを同時に利用する環境でこそ大きな意味をなす。したがって、1台だけ買って個人が普通に使うぶんには、SCSI HDDもATA HDDもそれほど大きな違いが現われないのだ。ただでさえ高いSCSI HDDを複数台束ねて利用しなければ真価が発揮されないというならば、個人にはかなり手の出しづらいものとなってしまう。実は、最近SCSI HDDが個人ユースで肩身の狭い思いをしている原因もここにある。

 もちろんCheetah X15が1台で使ってもそのほかのHDDより高性能なことは今回のテストからも明らかである。要するに、自分がその値段を出しても十分に価値を見出せると思うユーザーならば購入してもかまわないということだ。もしくは、15,000rpmや3.9msといった技術的側面に強く惹かれる向きだったら、価格を度外視にしてもとりあえず購入してみる価値はあるだろう。

【テスト環境】
マザーボード:SuperMicro PIIISCA
CPU:PentiumIII 600E MHz
メモリ:256MB SDRAM(CL=2)
ビデオカード:カノープス SPECTRA 2500
SCSIカード:アダプテックジャパン SCSI Card 29160
OS:Windows 2000 Professional 日本語版
1,024×768ドット、32bitカラー、リフレッシュレート85Hzにて計測。
テスト対象のHDDはFAT32でフォーマット

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(2000年7月10日)

[Text by 伊勢雅英]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp