Click


第58回 : XMLがモバイルを変える(2)



 先週はXMLの効果として、単一のリポジトリ(情報倉庫)に、あらゆる情報を置いておき、互換性を気にすることなくあらゆるアプリケーション、サービスから扱えることを挙げたが、“どうも難しくてよくわからない”という意見を頂いた。確かに少々想像力が必要かもしれない。その点では少し反省している。
 そこで先週予告したように、もう少し具体的な例を挙げ、XMLがモバイル環境をどのように変化させるかを説明したい。それとともに、XMLが持つもうひとつの効果についても言及することにしよう。


●ファイルをどこに置いておこう、なんて思う必要はない

 パソコンを使い慣れていると「××フォルダの下にある△△フォルダに内容と大まかな分類がわかるファイル名で保存しておこう」といった自分ルールで、情報を管理しているのではないだろうか。少なくとも僕は、そうやって自分の原稿を置いている。
 しかし、先週も述べたようにXMLで単一のリポジトリをネット上に持てるようになれば、そもそもファイルシステムなど意識しなくて済むのだ。これは想像以上の変化になるだろう。アプリケーションで情報を取得したり、作成しさえすれば、それを管理する必要がないのだから。すべての情報は、XMLリポジトリの中にデータベース化されていく。


●データの互換性は考慮しなくていい

 「この文書って、どのアプリで作ったものなの?」という会話は、XMLの世界には存在しなくなる。なぜなら、特定の意味を持つ情報は、同じ情報を使いたい他のアプリケーションでも利用可能だからだ。
 たとえばワードで作った文書の内容をチェックしなければならないといった時、チェックを行なう人は、ワード文書を閲覧できるアプリケーションが必要だ。しかしチェックする人は、文書の本文だけが必要なのである。
 これがXMLリポジトリに文書が存在しているなら、“その文書の本文”を意味する項目を参照すれば、どんなアプリケーションでも本文を参照し、内容をチェックすることが可能になる。「このデータが欲しいんだ」と訊いて「あぁ、これだろ」と出てくる。至極当たり前のことなのに、今までは良い解決策がなかった。しかしXMLならそれが可能だ。


●どこからでも、いつでも、どんなデバイスからでも同じ情報が見える

 繰り返しになるが、XMLリポジトリの中身は「こんな情報が置いてあるよ」と、明らかにわかる形で情報が溜め込まれているだけだ。なので、どのようにユーザーに見せるかは、ユーザーが利用する機器やアプリケーションが各々に決めればいい。

 たとえばOutlookを使っている人なら、Outlookでスケジュール情報を管理すればいい。Organizerが好みならそれを使えばいい。会社ではOutlookを使っているけど、自宅ではPCじゃなくてWeb端末を使いたいと思うかもしれない。道具はXMLリポジトリに対応しているならどんなものでも構わないから、スケジュールを入力したり、修正すれば、XMLリポジトリに意味のある形で保存される。

 それを参照するときには、XMLリポジトリから必要なスケジュールを投げてもらう。ここで受け取るスケジュールの情報は、特定のフォーマットで受け取るのではなく「この情報は日時の意味、これは件名で、最後のは詳細な内容」と、内容の具体的な意味を参照しながら受け取ることができる。受け取った内容をビジュアルに表示しようが、レイアウトされたテキスト情報として表示しようが、アプリケーションが独自に決めればいい。

 もしくは「XMLリポジトリのスケジュール情報をN501iで見易いレイアウトのCHTMLに変換してくれるネットサービス」なるものがあれば、XMLを直接処理できなくてもサービスに携帯電話からアクセスすることで参照できる。
 前述のように、情報の置かれた場所も、形式も意識しなくていいので、ユーザーは簡単に必要な情報へと手を伸ばすことができるようになるわけだ。


●情報共有が簡単に

 ここまでに説明したメリットが複合的に作用することで、情報は至極簡単に共有できるようになる。

 たとえば「ちょっとこの書類を見てくれる?」と言われた時、依頼者が書類を参照する権利を与えてくれれば、そのときに利用できる一番手近な道具を使って書類を参照すればいい。その書類がどの場所にあって、どんな形式なのかは考えなくていい。外出先で携帯電話やPDAしか持っていなくても、その場で書類を目にすることができる。
 あるいは社会全体の情報環境がXML中心になってしまえば、もっと身近なところでも応用されるだろう。

 旅行先で体調を崩してしまった時、ネットサービスで一番近いクリニックを紹介してもらうとしよう。クリニックに電話し、ネット上のMLリポジトリに収められた個人情報の中から、健康状態と診療履歴を参照できるように共有の権利を医者に与えれば、その場で問診をしながら、適切なアドバイスを受けられるかもしれない。もちろん、データ形式は意識しないので、そのクリニックの医者がどんなアプリケーションで診療履歴などを参照するかは自由だ。互換性を意識する必要はない。


●XML、もうひとつの効果

 XMLのもうひとつの効果として、ネットで接続されたサービス同士が共通の言葉でメッセージを交換できることを挙げたい。ネット上のサービスと言えば、これまでWebメールなどに代表されるように、Webサイトそのものであった。
 しかしXMLを使えば、サービス同士が必要なデータをメッセージとして交換できるようになる。つまり、ネットで提供されるサービスを部品として利用し、それらサービスを使うことで得られる結果をまとめ、ひとつの統合されたサービスに仕立てることができる。

 ワープロなどの文書作成アプリケーションをネット経由のサービスとして利用するとき、文書校正サービスをワープロと統合し、あたかもひとつのアプリケーションのように動作させることも可能だ。あるいは、表計算のデータをワープロの中で引用するといったことも境目ナシに実現できる。XMLによりサービス間の互換性を取ることが可能なため、気に入れなければ別のベンダーが提供するサービスと取り替えることもできるだろう。
 あるいは電子メールを利用する際、アドレス帳はA社のサービスが一番使いやすいが、電子メールの管理と編集はB社のサービスがいい。といった時、アドレス帳だけはA社、そのほかはB社を使い、両方の機能を統合してひとつのサービスのように利用するといったことも、ツールと利用者のスキルさえあれば可能になる。


●TPOと好みに合わせて自由なサービスを選択

 つまりXMLを用いれば、ネット上のサービスをコンポーネントのように組み合わせることが可能になるわけだ。先の例では、機能ごとに異なるサービスを組み合わせたわけだが、場所と利用する機器の種類に合わせてサービスを選択することも無論可能である。
 「PCから利用する時にはC社のサービスが一番だけど、携帯電話からならD社の方が見易いし使いやすいよね」と思うなら、それぞれの場合に自分が最高だと思ったサービスを使えばいいのだ。目的や予算、好み、必要な機能などなど、トライアンドエラーで使ってみればいい。

 かつては一度情報を特定のアプリケーションで管理してしまうと、なかなか別のアプリケーションへと移行できなかった。データ形式の互換性問題があったからだ。しかしデータ形式の互換性問題がなくなり、さらにアプリケーション内部の細かな部品単位で自由なものが選べ、外出時も、オフィスでも、そして自宅でも、同じ情報を扱える。そんな時代はそれほど遠くはない。

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp