米Transmetaは、1GHzの薄型ノートPCを来年前半に実現するつもりだ。
今週、ニューヨークで開催されていたPC EXPOで、Transmetaは新しいハイパフォーマンスCPU「Crusoe TM5600」を展示、1GHzを達成する次世代CPU「Crusoe TM5800」についてもマスコミにアナウンスした。また、Crusoe搭載ノートPCは、メインメモリにDDR266またはDDR200を搭載する見込みだ。こうした情報が関係者から入ったため、今回は、予定を変更して今後のCrusoeについて説明してみたい。
まず、新CPUのCrusoe TM5600だが、今年頭に発表したCrusoe TM5400との大きな違いは、CPUに内蔵(On-Die)する2次キャッシュのサイズにある。ハイパフォーマンス版のTM5600では、2次キャッシュは現行の256KBから512KBになり、クロックも700MHz以上に上がる見込み(TM5400は700MHzまで)だ。ちなみに、1次キャッシュのサイズは、命令64KB/データ64KBでTM5400とTM5600で違いはない。
これが次世代CPUのTM5800になると、クロックは800MHzから1GHz以上までをカバーするようだ。リリースは来年前半の予定で、2次キャッシュはさらに1MBに倍増する(1次キャッシュは変わらず)。しかし、TM5800では、プロセステクノロジの世代が進むと見られるため、1MBのSRAMを搭載してもダイサイズや消費電力は増加しないだろう。Intelも来年第2四半期に1GHzのモバイルPentium IIIを発表する計画なのでほぼ同時期になるが、Intelは厚型ノートPCにしか1GHzを載せられないのに対して、Transmetaは薄型ノートPCに1GHzを搭載できる。
また、ある関係者によると、TM5800世代からはCPU内部のアーキテクチャも一部改良されるという。しかし、Crusoeではコードモーフィングソフトウェア(CMS)と呼ばれるソフトレイヤーでハードウェアの違いを隠蔽してしまうため、内部アーキテクチャが改良されても互換性は維持される。
●CrusoeノートPCのメモリはDDR SDRAMに
これら5xxx番台のCrusoeを搭載したノートPCは、メインメモリに266MHzのDDR SDRAMを採用すると見られる。DDR SDRAMは、新規格のDDR SDRAM用SO-DIMMにより拡張が可能になる。
TM5400/5600/5800は、いずれもチップセットのノースブリッジを統合、DDR SDRAMとSDRAMの2つのメモリインターフェイス(64ビット幅)を備える。Transmetaでは、当初DDR SDRAMをメインメモリとしてDRAMチップをマザーボードに直付けし、SDRAMはDIMMによるメモリ増設用として考えていると説明していた。これは、Transmetaが発表した時点では、DDRメモリのSO-DIMMが存在しなかったためらしい。
しかし、現在ではCrusoeノートPCの搭載メモリはDDR SDRAMだけを搭載する方向に変わったようだ。そのため、Crusoe TM5400/5600の立ち上げに合わせて、DDR SDRAM向けの新しい200ピンSO-DIMM規格が策定されている。関係者によると、200ピンSO-DIMMのJEDECでの規格策定では、Transmetaも密接に連携しているという。ただし、こうした事情からCrusoe TM5xxx搭載ノートPCの発売は、200ピンSO-DIMMの立ち上がりのスケジュールに影響されるようだ。
DDRなど次世代DRAMの開発促進を行なうAdvanced Memory International(AMI2)のデジー・ローデン社長兼CEOは「200ピンSO-DIMMは限られた数だが、すでにサンプルがテストされている最中で、最終のガーバーデータ(設計仕様)は夏に出される。(SO-DIMMの)製品が出る前にシステム側とのモディフィケイション(調整)を始める。SO-DIMMを搭載したシステムが出るのは今年第4四半期になるだろう」と説明する。ちなみに、JEDECに提案されている200ピンSO-DIMMのガーバーデータを見ると、ひとつは日本のメルコが開発したものとなっている。
Crusoe 5xxxシリーズのDDRメモリインターフェイスは、スペック上では167MHzまでをサポートする。しかし、メインメモリ向けDDRは、当初は「DDR200(旧PC200)」と呼ばれるクロック100MHz/CASレイテンシ(CL)2の製品と、「DDR266(旧PC266B)」と呼ばれるクロック133MHz/CASレイテンシ2.5の製品で立ち上がる。CrusoeノートPCにどちらが乗ってくるかはまだわからないが、DDR266とDDR200の歩留まりがそれほど変わらないなら、ノートPCメーカーがDDR266を搭載してくる可能性が高いだろう。CASレイテンシが2.5であっても、266の方が数字のインパクトが大きいからだ。クロック133MHz/CASレイテンシ2の「DDR266A(旧PC266A)」に移行するのは、次のフェイズになるだろう。
TransmetaがCrusoe 5xxxシリーズのメモリにDDRを選んだのは、アーキテクチャ的に広いメモリ帯域を必要とするためと思われる。Crusoeでは、「コードモーフィングソフトウェア(CMS:Code Morphing Software)」が、x86命令をCrusoeのネイティブのVLIW命令にリアルタイムに変換して実行する。CMSはメインメモリに常駐し、同じくメインメモリ上にキャッシュ領域を取る。そのため、Crusoeでは通常のx86 CPUにはない余計なメモリアクセスが発生する。つまり、同じPentium III 500MHz相当の性能を出そうとしたら、Pentium IIIよりCrusoeの方がメモリアクセスが多くなるのだ。そのため、Crusoeでは、メモリ帯域を通常のx86アーキテクチャよりも広く取らないと性能が発揮できない。
●携帯機器向けCrusoeも次世代品を準備
Transmetaは、ノートPC向けのTM5xxxシリーズだけでなく、携帯機器向けのTM3xxxシリーズも進化させる。現在の製品「Crusoe TM3200(旧TM3120)」に続いて、パフォーマンスと機能をアップした「Crusoe TM3300」と「Crusoe TM3400」を投入すると言われている。
TM3200は1次キャッシュを命令64KB/データ32KB搭載し2次キャッシュは搭載していない。しかし、TM3300では1次キャッシュを命令64KB/データ64KB搭載に増量する。そしてTM3400では、TM3300と同量の1次キャッシュに加えて256KBの2次キャッシュを搭載するという。クロックも、TM3200の400MHzよりもかなり上がるようだ。
もうひとつ重要な変化としてTM3300/TM3400ではDDRメモリがサポートされる。TM3200ではSDRAMインターフェイスしか搭載していなかったが、TM3300/TM3400ではTM5xxxシリーズ同様にSDRAMとDDRの両サポートになるようだ。また、TM5xxxシリーズにしか登載されていなかった省電力テクノロジ「LongRun」も搭載されると言われている。TM3300/TM3400ではプロセス技術もシュリンクすると思われるので、消費電力はTM3200よりかなり下がる可能性が高い。
搭載ノートPCを展示しただけでなく、次世代CPUまで登場したTransmeta。いよいよ、秒読み態勢に入ったようだ。
(2000年6月30日)
[Reported by 後藤 弘茂]