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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

E3では意外とおとなしかったMicrosoft

●おとなしかったMicrosoft

 今月上旬に開催されたE3で、意外なほどおとなしかったのはMicrosoftだった。X-Boxを前面に押し出しゲーム機分野への進出を大々的にアピールするのか……と思ったら、ぜんぜんそうではなく、X-Boxに関してはとりあえずイメージだけを見せるという程度のプレゼンテーションしかしなかった。公開していたプレゼンテーションも、日本の発表会で見せたものと大差はなかった。

 もっとも、それで終わりというわけではなく、裏のプライベートブースでは、X-Box開発チームが次から次へとマスコミやデベロッパを招いて活発にミーティングを行なっていた。つまり、目立たないようにしながらも、コミュニケーションは密にというアプローチを取っていたのだ。また、こうしたアプローチを取っていた背景には、X-Box開発キットを配布する直前なので、情報を出しにくいという事情もあったようだ。そのあたりは、取材で集めた情報とともに、来週のコラムで解説したい。

 Microsoft関係者によると、そもそも同社は、E3ではX-Box関連はほとんど出す予定はなかったという。ところが、MicrosoftがX-Box計画を発表して以来、米国での関心の高まりがあまりに急激で、X-Boxについて知りたいというアプローチが押し寄せたために、予定を変更したのだそうだ。実際、関係者に聞くと、MicrosoftのX-Boxプレゼンテーションはとんでもないドタバタスケジュールで用意されたらしい。

 このあたりは、日本にいるとわかりにくいが、米国では明らかにX-Boxにスポットが当たっている。日本だと、X-Boxはキワモノ的な扱いでMicrosoftの本気度が見えないという雰囲気なのに、米国では一般マスコミまでMicrosoftの次の一手として大きく扱っている。さすがに、あのキワモノ的なコンセプトマシンのデザインを評価する記事は見たことがないが、X-Boxが本気で投入されPlayStation 2と対決すると信じている記事は多い。日本とは、受け止められ方にかなり差があるというわけだ。


●日本人がスターのE3

 こうした距離の差は、もちろんゲームコンソール業界を日本勢がドミナントしてしまっているという事情が大きい。日本からは米国のゲーム市場の状況がよく見えないのに、向こうからは日本の動きがよく見える。つまり、日本からはX-Boxがあまりよく見えない。ところが、向こうは日本の市場の状況を意外とよく知っている。例えば、米国のゲーム雑誌を広げてみると、そこには日本のPlayStation 2の分解記事や日本のタイトルの話が満載されているわけだ。

 これは米国勢がドミナントしているPC業界とまったく逆の現象で面白い。PCに関しては、日本からは米国の状況がよく見えるのに、向こうからは日本の状況が見えにくい。情報の流れが逆になっているのだ。

 この、“ゲームコンソール業界が日本中心”であることをいちばん実感するのは、E3で日本人がスターとして扱われる場面に出会った時だ。例えば、Sony Computer Entertainment America(SCEA)の発表会でSCEIの久夛良木健社長がすっと現れると、米国のマスコミ関係者が駆け寄ってフラッシュを浴びせる。また、任天堂の現地法人NINTENDO OF AMERICA(NOA)の発表会では、マリオやゼルダの開発者である宮本茂氏が壇上に上がると、米国人が大半の観衆が大喝采を浴びせる。この時は、宮本氏はにこにこ笑って手を振ってそのまま去ってしまう(つまり、米国流なら挨拶の1つくらいする場面なのにしない)という、あ然とするような登場なのに、それでみんな納得しているところがすごい。


●任天堂はDolphinについて不気味に語らず

 ところで、そのNOAは、E3で不気味なくらい次世代ハードウェア「Dolphin」について触れなかった。公表したのは、Dolphin用カスタマイズCPUを開発するIBMの作業がすでに終了したことと、米国での発売は2001年の前半というスケジュール程度。次世代製品について、かなり前から大風呂敷を広げるPC業界に慣れていると、これはかなり違和感を感じてしまう。PC業界なら、Dolphin戦略に変更があると確実に疑われているところだ。

 その代わり、NOAは実際の売り上げでは自分のプラットフォームがいちばん、という点をひたすら強調した。E3に合わせてNOAが出した広告(E3会場誌の裏に出した)がそれを象徴している。この広告は、市場調査会社の'99年のベストセラーゲームのリストで、1位から6位までをポケモン青、ポケモン赤、ポケモンイエロー、ポケモンピンボール、ポケモンスナップ、ドンキーコング64と、NOAが独占しているというすさまじいシロモノ。

 さらにプレゼンテーションでは、2000年の売り上げでは、NOAがゲーム市場の48%を獲り、SCEAを上回ると予測。PlayStation 2は登場しても2000年中の売り上げは業界の11%程度で、インパクトは小さい、来年にはDolphinもゲームボーイアドバンスも出るので大丈夫だと言い切った。


●出遅れてDolphinは大丈夫?

 NOAのこの自信は、もちろんアメリカの子供の心をがっちりつかんでいるからだ。ゲームボーイは飛ぶように売れていて、ポケモンは日本以上に盛り上がっている。しかも、米国は、日本より子どもの流行の移り変わりが激しくないので、一度定着すると長く続く。つまり、キャラクタ頼みの商売をしていても、そのキャラが一度当たると日本よりずっと安泰にビジネスができる。

 だから、ハードウェアの世代交代で少し遅れても、心配ないと考える理由はよくわかる。それに、Nintendo64は米国ではサードパーティの支持もあり、米国市場での定番スポーツゲームもちゃんとあって、PlayStationとかなり互角に戦っている。

 しかし、ハードウェア投入で先行したDreamCastが、今、ソフトが整ってきて盛り上がっている現状を見ていると、こうした自信にもやや疑問がわいてくる。先行すれば、その分だけそのプラットフォームの上でのソフトが成熟して、面白いゲームが出てくる。特に、ハードの技術が進んでくると、やれることの幅が広がり、その分ソフトの成熟が必要になる。そして、Dolphinは、米国ではPlayStation 2の半年遅れ(日本では1年?)で登場するわけで、スタートでの不利は確実にある。それで、もしPlayStation 2やX-Boxと比べて性能面で差があった場合は、戦いはさらに厳しくなるだろう。


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(2000年5月26日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp