日本AMDは11日、3DNow!テクノロジを利用したソフトウェアなどを設計するエンジニア向けの開発者会議「AMD Developer's Conference '00, Spring」を東京新宿区のパークハイアットホテルで開催した。その中でDuronの出荷時期やL1キャッシュ容量についての言及があるなど注目のイベントとなった。
●「日本無しにはAMDの成功はあり得ない」と吉澤取締役
最初に挨拶に立った日本AMDの吉澤俊介取締役は「日本市場の規模は米国に次ぎ、世界で2番目。日本市場抜きにはAMDの成功はあり得ない」と述べ、4月に来日したサンダース会長の発言を繰り返し、今後もAMDが日本市場を重視していることを改めて強調した。
さらに、AMDの成功の裏付けとして、GFK Japanが提供しているPOSデータを上げ、「5月1日の段階でデスクトップPCでは45%、ノートパソコンでは25%のシェアを獲得している。これら全ては3DNow!テクノロジに対応したプロセッサであり、インストールベースは増え続けている」(吉澤氏)と述べ、詰めかけた開発者に対してAMDのプラットフォームをサポートすることのメリットを強調した。加えて終了後に行なわれたプレスカンファレンスでは、そのうち実に40%をK6-2が占め、K6-2に対する強い需要がAMDのシェアを押し上げていることも明らかにした。
AMDのカンファレンスで講演する日本AMD 吉澤俊介取締役 | 吉澤氏の講演で示された2000年5月1日時点での日本AMDのシェア。5月1日の集計ではデスクトップPCで45%、ノートブックでは25%となっている |
●ThunderbirdとKX133の問題を公式に確認
続いて壇上に立った日本AMDアジアパシフィックリージョナルマーケティングマネージャのサム・ローガン氏は、AMDのCPUコアのポジショニング、ロードマップなどについて確認した。基本的にはポジショニング、CPUコアロードマップ共に4月末にニューオリンズで行なわれたWinHECで配布されたものと同じで、変更はない。しかし、ローガン氏は「Slot AのThunderbirdはAMD-750に対応、Socket Aに関してはVIAのKZ133とAMD-760に対応する」と述べ、ThunderbirdのSlot A版が、AMD-750にのみ対応しているということを公式の場で初めて明らかにした。既にZDNetなど米国のニュースサイトなどを中心にThunderbirdがApollo KX133搭載マザーボードでは使えないというニュースが流れており、ローガン氏の発言は報道を裏付けたかたちだ。
AMDのCPUのポジショニング。WinHECでのロングマイヤー氏が語った通り、DuronはK6-2とAthlonの中間のミッドレンジ当たりにポジショニングされている | 日本AMDが公開したAMDのCPUコアロードマップ。WinHECの時と変わりはない |
セッション終了後に行なわれたプレスカンファレンスでも、その件に関する質問が出たが、「もともとThunderbirdはSocket Aプラットフォームをメインターゲットに開発が進んできた。しかし、OEMメーカーの要望によりSlot Aも用意してきたが、もともとこれはAMD-750をベースに開発されてきたものであるため、AMD-750でしかサポートされない」(日本AMD 吉澤取締役)という答えが返ってきた。また、リテール品のThunderbirdについても質問がでたが、吉澤氏は「Thunderbirdのリテール品はSocket Aのみで、Slot Aのリテール品は予定されていない」と述べた。
このSlot AのThunderbirdがApollo KX133でサポートされない理由は、2つ考えられる。1つはApollo KX133チップ自体が何らかの問題を抱えていて、それが解決できないためにサポートされないというハードウェア的な理由だ。もう1つ考えられるのはバリデーションが間に合わないという理由だ。CPUメーカーは、新しいCPUやチップセットを出すときに様々なデバイス(例えばビデオカードなど)と組み合わせて互換性などに問題がないかを確認するバリデーションと呼ばれるテストを実施する。このバリデーションに合格しなければ、そのCPUやチップセットをリリースすることはできないし、公式に動作を保証することができない。つまり、ThunderbirdとAMD-750の組み合わせではバリデーションが終了したが、KX133との組み合わせではそれが終わっていない、あるいはコストの問題などから行なわれていないという可能性がある。マザーボードメーカーの中にはBIOSさえ対応させればKX133でもThunderbirdは使うことができるとしているメーカーもあるので、筆者は後者が有力ではないかと考えている。なお、この件に関してもどちらが理由であるのか質問してみたが、吉澤氏の答えは「ノーコメント」ということだった。
●DuronのL1キャッシュは128KB、出荷は6月
さらに、吉澤氏は「これまでAMDはK6-2でコンシューマ市場のみと思われていたが、Duronでは企業向けの市場を含めすべてのマーケットをターゲットにしていく」とのべ、DuronがAMDにとって戦略的な製品であることを強調した。さらにDuronの強みについて触れるなかで、「DuronはAthlonコアをベースにしており、Athlonと同じく128KBのL1キャッシュを搭載している」(吉澤氏)とDuronのL1キャッシュ容量に言及し、Duronのキャッシュ容量について初めて明らかにした。L2キャッシュに関しては「ノーコメント」ということだが、既に後藤氏のコラム「AMDはThunderbirdで1.1GHzを投入へ-AMDロードマップ解説-」でも述べられているように、情報筋によればAMDはOEMメーカーに対してDuronのキャッシュ容量は192KBであると語っている。これをあわせて考えればDuronのキャッシュ容量はL1キャッシュ128KB、L2キャッシュ64KBとなる。
これによりDuronの詳細はほぼ明らかになった。WinHECで明らかになった情報を加えてまとめると、つぎのようになる。
【AMD Duronプロセッサ】
CPUソケット:Socket A(462ピン)
パッケージ:FC-PGA
システムバス:200MHz
L1キャッシュ:128KB
L2キャッシュ:64KB
対応チップセット:VIA Technologies Apollo KZ133(スタンドアロン、6月の登場時)
Apollo KM133(統合型、第3四半期)
SiS730(統合型、第3四半期)
なお、Duronの発表時期に関しては、吉澤取締役は「Duronプロセッサの出荷開始は6月を予定しており、発表と同じだ」と述べた。Thunderbirdの出荷時期に関しては、「第2四半期中」と述べるに留まり、具体的にいつになるのかという件に関しては明言を避けた。なお、日本AMDの広報担当者によれば、DuronとThunderbirdが同時に発表されるかどうかも、「現時点では決定していない」ということで、まだまだ流動的だ。
●PowerVCR IIを利用したAthlon vs Pentium IIIのデモ
PowerVCR IIを利用したデモ。右側がAthlon 800MHz搭載PCで、左がPentium III 800MHz搭載PC。ここではキャプチャできたフレーム数を示しており、数字が大きければ大きいほど性能が高いことを意味している。右側のAthlon 800MHz搭載PCが、Pentium III 800MHz搭載PCを上回っている |
なお、一番最初に行なわれた日本AMDのCPGマーケティング部 シニアテクニカルマーケティングエンジニア石川淳行氏によるAthlonの技術説明の中では、「2000年の終わりないしは2001年に、新しいSIMD型命令の追加が予想される」という計画も明らかにされた。Intelも今年の第4四半期に投入を予定しているWillametteでSSEの後継にあたるSSE2を導入するだけに、興味深いニュースだと言えるだろう。
(2000年5月11日)
[Reported by 笠原 一輝@ユービック・コンピューティング]