Click


X-Box解析シリーズ「コスト編」


後藤弘茂のWeekly海外ニュース

X-Boxのハードは5年間スペックを固定、Pentium IIIは破格値で調達

●Pentium IIIを破格値で提供

 X-BoxのCPUは、間際までAthlonプロセッサになると言われていたのが、フタを開けたらPentium IIIだった。なぜ、AthlonからPentium IIIに変わったのだろう。これについて、Microsoftのケビン・バッカスディレクタ(Console Gaming, Third Party Relations)は次のように説明する。

 「いや、変えたというのは正しくはない。われわれはIntelとAMDの両方のチップを検討していた。そして、契約書にサインする最後の日に、Intelのチップを選んだということだ。AMDは素晴らしいテクノロジを持っているし、かれらはPCのグレイトなパートナーだ。しかし、X-Boxでのベストディールとしては、価格など別のファクタがある。今回のX-Boxに関しては、この契約がベストだったというだけだ」

 つまり、事前にAthlonで完全に決まっていたわけではなく、Intelともずっと継続して交渉をしていたというわけだ。そして、最終的にPentium IIIになったのはテクノロジではなく、価格などほかの要素によるということらしい。

 実は、昨年末、X-Boxが盛んにウワサになっていた頃、あるAMDの関係者がMicrosoftからのX-Boxの申し出について、「話にならない価格だった。そんな価格でAthlonを売ったらこちらの利益がぜんぜん出ない。どうも半導体のコストというものをわかっていないようだ」と漏らしていた。

 そこから察するに、Microsoftが提示したのは、かなり無茶な低価格だったらしい。それでも、何回かの交渉の末、X-BoxはAthlonという方向で進みつつあった。価格でなんらかの折り合う点が見つかったらしい。

 このように、X-BoxのCPUは、価格を軸にして交渉が進んでいた。そのため、最後にIntelになった決め手も、価格だったようだ。つまり、AMDがぎりぎりまで譲歩した価格よりも、Intelがさらに低い価格をつけ、競り勝った可能性が高い。PC向けでは、今は60ドル前後がローエンドの価格だが、おそらくX-BoxのCPUはそれよりもはるかに安い。

●X-Boxは299ドル?

 MicrosoftがX-Boxのコストにこだわるのは、X-Boxの販売価格が安いからだ。米国では家庭用ゲーム機のスタート時点の価格は299ドルと相場が決まっている。これは、家電が普及するマジックナンバーの価格が299ドルだからだ。X-Boxも299ドルになるのだろうか。

 「まだ発売1年半前なので価格を言うのは早すぎる。言えるのは、価格はこの市場で競争力のあるものにするということだ。ラフに言ってゲームコンソールと同じ価格にする」、「(価格に関しては)戦略的なチェンジがある。PCとは違う(ビジネス)モデルなので、プライスダウンができる」(バッカス氏)

 ゲーム機の場合、ハードの販売価格がコストを下回ることも珍しくない。それは、ハードを売ることで直接利益を上げるのではなく、そのハードに対して売るソフトのロイヤリティで利益を得るというビジネスモデルを取っているからだ。そのため、X-Boxが299ドルで登場しても何ら不思議はない。

 しかし、コストと販売価格の差が大きくなればなるほど、メーカーはより多くロイヤリティで回収しなければならなくなることを意味している。PCの世界の常識を考えれば、X-Boxの製造コストは500ドル程度でもおかしくない。その場合、200ドルをMicrosoftがかぶらなければならない。そうすると、もし1ゲーム当たり20ドルのロイヤリティを取ったとしても、1台のX-Boxにつき10枚以上のゲームディスクを売らなければ、元が取れなくなる。Microsoftはどう考えているのだろう。

 「あなたはコスト計算を間違えていると思う。われわれは、PCワールドのテクノロジを使っているから、PCのエコノミスケールが利用できるという利点がある。一例を挙げれば、われわれは半導体工場を作らなくていい。また、Pentium IIIを初めからデザインする必要がない。すでに、デザインされているからだ」(バッカス氏)

 この説明に説得力があるのは、実際にX-BoxのCPUに関して、競合する2社からおそらくかなりの低価格の取引を引き出していると思われるからだ。X-Chipに関しても、PC向けグラフィックスチップと基本設計は共通化させるため、比較的低価格で調達すると見られる。こうしたことは、巨大なPC市場が後ろに控えているから可能なことだ。

●コストはPS2よりも下だが将来は逆転も

 では、PS2(PS2)との価格競争はどうなのだろう。PS2では、メインのチップであるEmotion EngineとGraphics Synthesizerをほとんどゼロから開発し、チップの製造工場まで建てている。この2チップは、それぞれ巨大なので、最初はコストが高く生産量も限られるし、開発費も膨大だ。そのため、PS2の現在の製造コストはかなり高くついていると思われる。しかし、PS2は、HDDを持たないため、半導体技術が進化するにつれて急激に製造コストが下がるはずだ。

 「PCのエコノミスケールのおかげで、X-Boxの製造コストは、PS2のイニシャルコストよりも低くなるだろう。X-Boxのコストも、PS2と似たような(半導体技術の進化に沿った)プロセスで下がる。それにつれて、小売価格も、どんどん下がるだろう。しかし、X-BoxはHDDがあるため(半導体技術が進歩しても)それほど劇的には下がらない。それに対して、PS2はもっと劇的に下がる。つまり、最初はPS2の方がX-Boxよりもコストが高いが、PS2の方がどんどんコストが下がる。この二つ(PS2とX-Boxのコストの下降カーブを、両手で表現しながら)がどうなるか(両手を交差させたり離したりしながら)を予想するのは難しい」(バッカス氏)

 もし、両社が同じ半導体技術に移行してゆくなら、半導体のように急カーブでコストが下がらないHDDを備えるX-Boxは、いつかPS2に製造コストで追い抜かれ、PS2より高コストになってしまう可能性が高い。ただし、X-Boxに使うチップが、常に半導体技術でPS2より先にいっていれば、X-Boxの方が低コストのままいけるだろう。

●HDDはDVDをキャッシュして高速化

 X-Boxは8GBのHDDを標準で備えることが、ほかのゲーム機との大きな違いだ。そして、製造コスト上の大きなネックになっている。では、X-BoxではHDDをどう使う気なのだろう。

 「X-Boxでは、ゲーム開発者はHDDがあることを前提にソフトを開発できる。HDDは、ゲームベンダーが自由に使うことができる。例えば、大きなデータをHDDに転送して、ゲームプレイを速くすることができる。一種のキャッシュのような使い方だと思っていい。将来はネットワークからゲームをダウンロードしてという利用も考えられるが、それはまだ先の話だ」とバッカス氏は説明する。

 しかし、キャッシュのためだけにHDDを備えるとしたら、それはコスト効率から考えてばかばかしい。これは、ネットワーク経由でのサービスを促進するためと考えるのが妥当だろう。ネットワーク経由でコンテンツやデータを配信したりサービスを行なうためには、HDDはほとんど不可欠だ。だったら、それを前提としてしまおうという戦略だと思われる。

 特に、通信ゲームは、日本と米国では状況が全く異なる。夜明け前の日本市場に対して、米国ではすでに市場が立ち上がっている(コアなユーザー中心だが)。だとすれば、米国市場先導で動こうとしているX-Boxが、ネットワークを前提にするのは当然だろう。なのに、なぜモデムは標準装備ではないのかというと、それは今が通信インフラの整備時で、ケーブルモデムやADSLなどさまざまなインフラが混在しているためだ。これは、PS2も同じで、通信機能は標準では持たせていない。

●ハードウェアのスペックは5年間据え置き

 ところで、家庭用ゲーム機は、原則としてスペックが変化しない。発売から3年経っても4年経っても、基本スペックは発売当初のままだ。では、X-Boxはどうなのだろう。PCのようにスペックが進化するのか。

 「X-Boxはゲーム機なので5年間は同じハードウェアにとどまる。メモリやグラフィックスチップもアップグレードしない。その代わり、価格は下がって普及し、開発者はハードウェアにもっと親しむ」とバッカス氏は説明する。

 ゲーム機では、互換性のためにスペックは固定する。それが原則で、Microsoftもそれに従うというわけだ。

 では、X-Boxが登場するとPCゲームはどうなるのだろう。日本では、PCゲーム市場は見ての通りの衰退ぶりだが、米国ではまだかなりの規模がある。その市場は衰退するのか、それともX-Boxとの相乗効果で繁栄するのか。

 「われわれはPCゲームに、これからもどんどん投資してゆく。その理由はPCはゲーム機とは違うタイプのプラットフォームであり、大きなアドバンテージがあるからだ。PCは時間が経つごとにどんどん性能がアップしていくし、アップグレードもできる。また、異なる製造メーカーからさまざまなモデルが提供される。X-BoxとPCは、異なるゲームマーケットとして併存するだろう。来年、MicrosoftはX-Box向けゲームとともに、PCゲームをさらに数多く出す予定だ」(バッカス氏)

 では、MicrosoftはPC向けのゲームを全てX-Boxに移植するのだろうか。

 「いや、全く違う。PC向けとゲーム機向けでは、ゲームのタイプが違うと考えている。X-Boxはコンソールゲーム、つまり、レーシングゲーム、格闘ゲーム、RPG、キャラクタ、スポーツ、プラットフォームゲームなどになる。それに対して、PCは、戦略ゲームやシミュレーション、アドベンチャゲーム、シューターなどになる。PCにもスポーツゲームが登場するが、これは(X-Box向けとは)ちょっと違うものになるだろう。アクションゲームは両方になるだろう。しかし、格闘ゲームはPC向けには出さないし、逆に、フライトシミュレータはX-Box向けがない。マウスとキーボードがあると便利なゲームは当然PCになる」(バッカス氏)

□関連記事
X-Box関連記事リンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/link/xbox_i.htm


バックナンバー

(2000年4月19日)

[Reported by 後藤 弘茂]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp