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第44回 : PDAに期待したいこと



 先週はPalm Computing日本法人設立の発表があり、さらにその夕刻にはシャープが、ザウルスの出荷累計200万台を記念したレセプションを行なった。PDA関連の発表が続いたわけだが、これに合わせてではないが、もう一度真剣にPDAについて考え直してみるかと思った。
 思えば昨年、この連載を始めた時に取り上げたのがPDAで、日本IBMのWorkPadやWindows CEベースのPalm-size PC、ザウルス・アイゲッティなどのタイミングがちょうど重なった頃のことだった。

■ その後のPDA

 僕自身のPDA歴というと、実は結構長いということに先日気づいてしまった。もう機種名を忘れてしまったが、シャープの電子手帳が売れまくっているのを見て、逆にカシオの製品を買ったり、あるいはソニーのPalmTopを購入してみたり、もちろんザウルスは初代のPI-3000から買っていた。自分ではあまりPDA好きではないと思っていたのだが、振り返ってみるとずいぶん投資を続けてきたものだ。
 そんな僕が昨年の春に選んだのは、ザウルス・アイゲッティだった。WorkPadも使ってみたが、どっちかというと趣味の領域。仕事に関連する情報の管理とメールのチェックは、すべてザウルスを使っていた……なんて話もこの連載で書いてきた。
 が、その愛用のアイゲッティも、すでに手元にはない。なぜなら僕がアイゲッティに求めていた機能の多くは、もう必要が無くなってしまったからだ。

 ザウルスに限らず、PDAは住所録、スケジュール、仕事リストといった情報の管理が機能の中心だ。最近は加えて電子メールおよびインターネットを利用したサービスの利用も、ほぼ必須の機能となってきた。
 しかし住所録の電話番号を見ながら携帯電話で電話をする人は、あまりいないのではないだろうか。携帯電話やPHS端末の電話帳機能はどんどん強化されている。実際、僕がPDAを使って電話先を探すことはほとんどない。住所の検索が必要なときは、たいてい外出先ではなかったりするので(人によって要不要はあるだろうけど)PDAの住所録は利用頻度が極端に落ちてしまった。

 また、もっとも大きな目的であった電子メールのチェックも、iモードメールで充分事足りてしまっているということもある。外出先では長文のメールをやりとりする機会はあまりなく、重要な連絡を見逃さないためのメール受信が主な目的なので、EmCmサービスを使って本文を圧縮してしまえば、実用上の問題はあまりない。
 もっとも、iモード端末にいくら大画面の機種があるとはいえ、スケジューラだけは物足りない。僕はスケジュールをPCサーバー上で管理しているから、これをCompact HTMLでインターネットから参照できるようにすればいいのだろうが、残念ながらそこまでシステム化を進めてはいない。なので、PDAは情報ビューアとして未だ有用なのだが、だからといって毎日持ち歩きたいと思うほど必須でもないのだ。


■ Palm Vに踏み切れない理由

 電子メールはiモードで充分だし、本格的にメール交換や原稿執筆が必要な時にはPCを持ち歩く。ちょっとした情報の取得は、充実してきたiモードのコンテンツで事足りる。となると今のところ僕がPDAに求めているのは、電子メールの交換でもWebの閲覧でもなく、スケジュールや仕事のリスト、ちょっとしたメモなどのビューアということになる。

 そして、こうした用途にはPalmシリーズがもっとも適している。Palm III系の筐体は単純なビューアとしてはちょっと大きいが、Palm Vならば満足できるだろう。経験上、僕の用途にはPalm Vxの8MBメモリは必要ないから、今なら4MBの日本IBM WorkPad c3を安価に入手して利用するのもひとつの手ではある。
 現行Palmシリーズの最大の弱点は、ワイヤレス通信を行ないにくいことだ。電子メールソフトがPalm OSに標準で組み込まれていない上、PHSや携帯電話で通信を行なうためには別途アイ・オー・データ機器のSnapConnectを購入しなければならない。が、電子メールにもWebにもアクセスしないならSnapConnectを使う必要もない。
 ところがiモード端末とPalmシリーズはお互いを補完するなかなかいい組み合わせだ……などと考えながらも、未だに手を出していない。
 というのも、僕は携帯電話にあまり電話としての機能を望んでいないからだ。電話として使うなら僕はH"を使う。イレギュラーな使い方かもしれないが、僕が使っているN502iは純粋なメール端末なのだ。Palmを持ち歩くぐらいならiモード端末、もしくはそれに準ずる使い勝手を持つワイヤレス通信可能なデバイスと合体して欲しい。そうすれば持ち歩く機器が1個減る。

 みなさんもよくご存じのように、米国ではワイヤレス通信を本体のみで行なえるPalm VIIが発売になっており、日本でも昨年から「いずれは」と言われ続けてきた。日本ではPHSを内蔵させたPalmを計画しているから、それを見てから決めたいというのが手を出せない理由でもある。すでにNTT DoCoMoはPHS内蔵のPalmを端末認可申請していると言われており、近くその姿を見ることができるだろう。
 もし日本版Palm VIIが僕の使い方にフィットしそうでなければ、それからビューアとして現行製品を物色してもいい。それに閲覧だけで良く、かつフリー/シェアウェアによるPalmの拡張性を求めないのであれば、ソニーのInfoClipを選択肢に加えてもいいかもしれない。

■ 携帯電話は止まらない

 もうひとつPalmシリーズに二の足を踏んでしまう理由がある。それは携帯電話の進化速度が速く、今後さらに機能アップしていくと考えられるからだ。
 今後、携帯電話にはインテリジェントな機能が実装され、PDAにはワイヤレス通信デバイスが内蔵され、お互いに近い存在へと性格を変えていくだろう。どちらがいいのかは、ユーザーの使い方による。僕の使い方からすると、PDAが進化したタイプの方がフィットすると考えられる。

 しかし問題は両者の力関係だ。NTT DoCoMoは17日、iモードの契約数が500万を達成したと発表した。400万契約の達成からわずか32日で記録した数字だ。この増加ペースを見ていると、年内1,000万契約という数字は夢でもなんでもなく、むしろ控えめとも思える。NTT DoCoMoの通常端末である200系列も、次期機種の209シリーズからはiモードが標準で内蔵されることになっており、古いフルレート端末の無料更新のタイミングと相まってiモードの契約数は加速度的に伸びるはずだ。
 DDIポケットのパケット通信対応PHSやIDO/DDIセルラーのPacketOne対応機などを含めれば、パケット通信が可能な高機能携帯電話は来年にかけて合計で1,500万近くにまで伸びるかもしれない。

 一方のPDAは、Palmシリーズがプラットフォームライセンスの戦略により、米国でワイヤレスデータアクセスの標準的なプラットフォームとして認知されているものの、日本ではまだマイナーな存在であることは否めない。これは携帯デバイスとしての資質の問題ではない。コンテンツやアプリケーション、ソリューションを提供するパートナー企業が、どのプラットフォームに力を入れるのが得になるのか? という力関係だと僕は思う。
 Palm Computing日本法人設立の発表で来日した米Palm Computing CEOのCarl Yankowski氏は「ワイヤレス通信とインターネットのソリューションがビジネス市場を牽引していく」と述べたが、日本においてPalmがワイヤレス通信を中心としたモバイル市場を牽引する力は(今のところ)ない。

 高機能化する携帯電話との差別化に関しても、スクリーンサイズや操作性の面を強調するにとどまる。果たしてそれだけで、年内1,000万に達する見込みのiモードに対抗できるのだろうか?
 僕は携帯電話がPDAを打ち負かして欲しいと思っているわけではない。PDAは携帯電話とは異なる市場を形成する潜在力があるとは思う。しかし手軽にモバイルするプラットフォームとして、PDAが多数派になることはないだろう。そしてハードウェアベンダは、数を捌くために多数派に付く。多数の端末が売れれば、さらに良い端末を開発するための資金にもなる。
 たとえば僕が使っているN502i。最近発売されたP502i。いずれも恐ろしくお金をかけた作りになっている。小型化、軽量化、そして品質感の向上などなど。いずれも大きな市場を見込めるがゆえに実現できることだ。

 将来的に携帯電話が今のPDA以上の機能と使いやすさを実現することは容易に想像できる。PDAは携帯電話が次の段階に進む前に、具体的なソリューションと安価で手軽に通信を利用できる環境を揃える必要がある。誰も似たような機能を持つ機器を2つも持ち歩きたくはないと思う。
 ひとつの手はPDAが携帯電話の機能を補完する周辺機器になってしまうことだと思うが、いかがだろうか? Bluetoothなどのパーソナルエリアネットワークを通じて、鞄の中にある携帯電話を、より便利に使えるフロントエンドとしてならば、喜んで持ち歩きたいと思うのだが、そこまでへの道のりはまだ遠いのではないだろうか。

[Text by 本田雅一]


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