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第42回 : 今年後半のPHSに期待すべきだ



KANA2000
KANA2000
 世に出てそれなりのユーザーが存在する製品に対して、あまりに批判を重ねるのは後ろ向きすぎだろうか? と、コラムを書きながら悩んでいた先週の連載だが、多くの方から同じ考えを持っているというメールをいただいて少し安心した。中には「MSウォークマンを買ってから感じていた胸の中のもやもやがスッキリした」というメールもあった。
 著作権管理機能を持つシリコンオーディオプレーヤーを開発する上で、そうしたもやもやを完全に取り払うのは難しいだろう。しかし、妥協点ならば見つけることはできるはずだ。妥協点をどこに見つけるのか、メーカー側が現実的なオファーを出してくれるまで、現存する便利な技術と製品を駆逐することはできないと信じたい。

 たとえばグリーンハウスが2月28日に発表したKANA2000というプレーヤーは、一部で非常に大きな反響を呼んでいる。KANA2000はMP3プレーヤーでありながら、同時にCF TYPE2のUSBリーダー/ライターとしても機能するという製品だ。Windows 98/2000に加えMacintoshもサポートする。しかも、コンパクトフラッシュに対してPCからフォーマットしたボリュームへデータをコピーするだけで、MP3データを再生できる。SDMI規格からすると、とんでもない仕様ということになるのだろうが、ユーザーから見ればこれほど便利なものはないだろう。11,800円で3月中旬の発売を予定しているというから、入手できたらこの連載の中でも紹介したい。

□グリーンハウスのホームページ
http://www.green-house.co.jp/
□KANA2000のホームページ
http://www.green-house.co.jp/kana/mp3.html

■ データ通信とPHS

 現在、モバイルツールとしてiモードを使っているという話は、以前この連載でも書いた。主な理由をまとめると、パケット通信と利用できるアプリケーション(主に電子メール)の使い勝手の良さだ。
 しかし元々データ通信と言えば、PHSが得意とする分野であった。いや、今でも高速通信と言えばPHSの方がメディアとして優れている。PHSのデータ通信は、PIAFS、PIAFS 2.0、PIAFS 2.1と進化してきているが、通信機の規格を変更しないままプロトコルの変更で高速化や使いやすさの向上を果たしてきた。

 ところが端末単体で様々なサービスをパケット通信で提供するiモードが開始されると、多くの人の注目は高速なデータ通信ではなく、いかに簡単に使いやすくコミュニケーションツールを利用できるかに移ってしまった。何に使うのかという提案性がない高速通信よりも、手軽に便利に利用できるサービスがウケたということだ。
 現在の携帯電話の9,600bps、14,400bpsといった速度では、アプリケーションが限られてしまうのは自明だ。あるいは64KbpsのPacketOneサービスを前提にしたとしても、1パケット0.1円となると巨大なマルチメディアデータをやりとりするにはお金がかかりすぎる。連続して大量のデータを動かすならば、PHSの方がかなり割安なのだ。

 そのため、近い将来に計画されている音楽配信サービスのインフラには、携帯電話ではなくPHSが想定されている。昨年9月、NTT DoCoMoがPHSを利用した音楽配信サービスを発表し、松下通信工業、ソニー、IBMなどと開始すると発表したのは記憶に新しいところだ。
 NTT DoCoMoの計画は、将来のIMT2000を視野に入れたものだが、PHSシェアナンバー1のDDIポケットも、具体的な内容は公表していないが、同様の計画を持っているという。DDIポケットは、PHS専業キャリアだけにIMT2000への繋ぎとは考えにくく、PHSをメディア配信のインフラとして成長させたいという意図を感じることができる。


■ パケットかPoint to Pointか

 PHSが音楽配信に使われようとしている背景には、64Kbpsの安定した高速通信が可能であるということ以外に、時間単価で割安な通信を行なえるという面があるだろう。パケット通信を利用したアプリケーションは便利だが、大量の通信を行うと通信料が高額になってしまう。しかし64Kbpsで時間課金のPIAFSならば、時間当たりのコストは安くなるのだ。
 IMT2000の時代になったとき、携帯電話の料金体系がどのようになるのかは不明だが、現状のみを考えると音楽配信など大容量のデータ配信には、パケット通信よりもPoint to Pointの高速通信の方が適している。つまり、アプリケーションによって適している方式が異なるのだ。
 DDIポケットは今年、128Kbps通信の実現とパケット通信サービスの開始をアナウンスしているが、実はそうしたアプリケーションごとに異なる要求に、どのように対応するかが目下の検討課題なのだという。
 たとえば音楽データや巨大な画像、動画などの配信にはPoint to PointのPIAFSを用い、細かなトランザクションが分散して発生するようなアプリケーション(電子メールやコンテンツ利用)ではパケットを用いるといったように、目的別に最適な通信方式を自動的に切り替える方法などを考えている。

 あくまでも「考えとして」ということだから、実際に実現するかどうかはわからない。しかし、実現するならば将来のPHSベースの情報端末だけではなく、PCで通信を行なっているユーザーにも便利なものになるだろう。
 たとえばPacketOneの64Kbpsサービスは、確かに高速に通信できるのだが、PCで調子に乗って画像付きのWebを閲覧していると、あっという間に課金が増えていく。そんなときには時間課金の方が都合がいいのだ。PCでモバイルをするならば、今でもPHSがもっとも使いやすい通信インフラである。だから僕もPHSは手放せずにいるし、今年サービスを開始するという128Kbps通信にも期待するのだ。

■ もちろん不安もある

 もっとも、PHSに不安がないわけじゃない。PHSは仕組み上、大量の基地局を持っている。今後、通信速度をさらに向上させたいと思ったとき、基地局の大幅な改良が必要となれば、その経費は別にしても物理的な作業に多大な時間がかかるだろう。IMT2000では、数年後に2Mbps程度までの高速化があらかじめ盛り込まれているのに対し、PHSで128Kbpsの上がどうなるのか、今のところわからない。
 また品質の向上が著しいDDIポケットのエッジも、ちょっと地方に行くとサービスの圏外になってしまったり、車で移動しながらの通信ができないといった問題も出てくる。都会では密度の高い電波のカバー範囲も、地方に行くに従い密度が下がってくるからだ。
 しかしDDIポケットは、PHSの特性を利用したアプリケーションを開発することで、携帯電話とは異なるデータ通信インフラとして、PHSを進化させていくつもりだ。今後のサービス展開に関しても、さまざまなアイディアが考えられているという。

 実現するか否かは別にして、今後どのようもPHSというインフラを発展させるのか。DDIポケットのビジョナリストが、近くそのビジョンを語ってくれるという。追ってその話をレポートすることにしたい。

[Text by 本田雅一]


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