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元麻布春男の週刊PCホットライン

ストレージバックアップの悩み


■バックアップは手間のかかる作業

 前回もちょっと触れたように、筆者の仕事場で今一番の悩みのタネは、ハードディスクのバックアップだ。仕事マシンに入っているハードディスクはIBMのDJNA-371800。このドライブの18GBという容量は、以前なら間違いなく「大容量」という形容詞を付けられたハズだが、今となっては普通のドライブといったところだろうか。今や30GBを超える容量のドライブが、3万円台前半で購入可能となっている。筆者がこの商売につく前、まだ会社勤めをしていた頃、ボーナスをはたいて150MBのESDIハードディスク(5インチフルハイト)を買ったのが夢のようである。

 それはともかく、このDJNA-371800をバックアップしようとすると、非常に大変だ。今のところ筆者が利用しているのは、18GBのうちの約5.5GB。残りは、All-In-Wonder 128によるTV録画等のテンポラリエリア(バックアップが不要なボリューム)ということになる。この5.5GBというボリュームに対し、筆者が持つバックアップデバイスはDDS-2のテープドライブしかない。非圧縮で4GBの記録容量を持つDDS-2では、残念ながら1本のメディアに収まりきれず、メディア2本が必要になる。

 バックアップ(書き込み)後ベリファイをする、通常の手続きを行なうとすると、1本目のメディアに書き込んだ後、2本目のメディアに書き込み(1回目のメディア交換)、書き込み終了後、今度はベリファイのために、また1本目のメディアを挿入せねばならない(2回目のメディア交換)。そして、3回目のメディア交換で、ようやく2本目のメディアのベリファイが完了する、という手順となる。この間、完全に無人のオペレーションはできず、時々様子をうかがっては、人手でメディアを交換せねばならない。自ずとバックアップは1日仕事になってしまう。しかも、筆者の仕事場には、バックアップにDDS-2メディア3本を要するサーバーまであるのだ。

 世の中には自動的にメディアの交換を行なってくれるオートローダー(ジュークボックスと呼ばれることもある)機能付きのドライブも存在する。が、何よりバックアップソフトが対応していなければ宝の持ち腐れとなってしまう。そして、オートローダーオプションの用意されたバックアップソフトは、それ自体で高価な上、別途オートローダーオプションを購入しなければならない(ドライブより、こちらの方が高い)。もっと大規模な法人組織ならともかく、筆者には高嶺の花、というのが正直なところだ。

■DDS-3ならバックアップ可能だが……

 こうした事態を改善するにはどうすれば良いのか。最も素直な発想は、より大容量のテープドライブを購入する、ということだろう。実際、この方向で真剣に検討し、買う直前までいった。昨年、日本HPがY2K問題に関連して、テープドライブのディスカウントキャンペーンを行なっていたからだ。確か、DDS-3ドライブ(外付け)が128,000円だったと思う。DDS-3は、非圧縮で12GBの容量を持ち、とりあえず筆者の仕事マシン、サーバーともに1本のメディアでフルバックアップ可能だ。

 にもかかわらず購入を断念したのは、128,000円という価格を最終的に「出せない」と判断したからにほかならない。その最大の理由は、今仮にDDS-3ドライブを購入したとしても、いったいいつまで持つだろう、ということに不安を覚えたからだ。冒頭でも述べたようにハードディスクの大容量化はとどまるところを知らない。30GBを超えるハードディスクが3万円台前半で、20GBを超えるハードディスクが2万円を切る現状では、12GBのテープドライブははなはだ心許ない。

 ハードディスクの大容量化は、特にこの1~2年に急速に進んだ。その速度は、ほかのストレージデバイスを大幅に上回るものであった。前回、DVD-RAMの用途の1つにハードディスクのバックアップが考えられていたこともあった、と過去形で語ったのは、これが理由だ。そして追い抜かれたのは、テープデバイスも同じ、というわけである。

 もちろん、30GB以上の容量を1本のメディアでバックアップ可能なテープドライブは存在する。たとえばDLTのハイエンドモデルであるDLT8000は非圧縮で40GBの記録容量を誇る。さらに大容量のドライブも、間もなく登場するだろう。DLTに比べれば実績で劣る(登場してから歴史が浅い)が、ソニーのAIT、SeagateやIBMが推すLTOなど、このクラスのテープデバイスが存在しないわけではない。だが、これらのテープデバイスは高価すぎて、とても筆者の予算には収まらない。ましてや、このクラスのテープドライブに見合ったバックアップソフトの価格まで考えたら、論外と言うほかないのだ。

■ミラーリングが唯一の保険

 結局筆者のバックアップは、月に1度程度、丸2日を潰してDDS-2でバックアップする、という体制のままだ。これを補完するものとして、仕事マシンの原稿ディレクトリだけは、1日に1度、サーバーマシンのボリュームと同期をとり、自分が作ったデータだけは両方のマシンに同じコピーが存在するようにしてある。一種の保険だが、ちょっと頼りない。

 このようにストレージデバイスの中で、ハードディスクのみが突出して大容量化していった結果、一般ユーザーがハードディスクをバックアップする適当なデバイスが無くなってしまった。ハードディスクのバイト単価が安すぎて、ほかのデバイスが太刀打ちできないのである。逆にいえば、現時点でハードディスクを有効にバックアップできるデバイスがあるとしたら、それはハードディスク以外にあり得ない、ということだ。

 最近IDE、特にUltra DMA/33やUltra DMA/66に対応したRAIDコントローラが豊富に出まわっている。正直言ってRAID 0、1、10しかサポートしていない、こうしたコントローラを、筆者はナンセンスだと思っていた。しかし、もはやハードディスクのバックアップにハードディスクを用いらざるを得ない状況では、大容量IDEドライブに対して、唯一経済的に成立する「保険」がミラーリングなのだと思うようになった(実際に、どう使われているのかは知らないが)。本来ミラーリングは、バックアップと併用されるべきものであり、ミラーリングによってバックアップを代替することはできないのだが、まったく「保険」がないよりはマシというものだろう。テープストレージを手がけているベンダの奮起を期待したい。

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(2000年1月26日)

[Text by 元麻布春男]


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