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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Intel対互換MPUメーカー、3年間の戦争の軌跡(後編)


●'99年中盤に、突如Intelが崩れる

 '98年で勢いを得たx86互換MPUは、'99年前半のIntelの猛反撃でダメージを受け、しぼみ始める。'99年前半までの流れでは、このままIntelが押し切り、再びIntelの市場覇権を確固としたものにするかと思われた。

 しかし、'99年中盤になって事態は急転する。Intelが突然つまづき始めたのだ。0.18ミクロン版Pentium III(Coppermine)が遅れ、Intel 820チップセットが遅れ、Intelの製品出荷スケジュールはグジャグジャに崩れ始める。そして、まさにIntelが崩れ始めたそのタイミングでAMDがAthlonプロセッサを発表、Pentium IIIに正面切って戦いを挑み始めた。

 Intelの'99年春のスケジュールでは、9月の早い段階でCoppermineと820を発表、一気にハイエンドPCのプラットフォームを600MHz以上のクロック、133MHz FSB(フロントサイドバス)、AGP 4Xモード、Direct Rambus DRAM(DRDRAM)メモリへと引き上げる予定になっていた。しかし、Coppermineは10月末にずれこみ、820は11月後半のCOMDEX Fallになり、しかも820の発表時点ではDRDRAMの準備が間に合わないという結果になってしまった。

 Coppermineの問題は、CPUコアと統合(On-Die)化した2次キャッシュSRAMのインターフェイスにあったと言われている。Coppermineの2次キャッシュインターフェイスは、高帯域化のために従来の64ビットから256ビットに拡張されており、これがあだになった可能性も高い。また、820はどたん場でNGが出たため、よく知られているように大騒ぎになった。


●ゆらぐIntelへの信頼感

 これらの遅れの結果、Intelはいきなり困った事態に追い込まれる。

 まず、ひとつ目は、AMDが発表したAthlonに、有効に対抗することができなかったことだ。AMDは、8月のAthlonのデビューで、650MHzを前倒しで加えた。この時点でのIntelの最高クロックは600MHzで、Intelは一時的にせよx86最速の座を奪われることになる。この時、もしCoppermineが順調に行っていれば、IntelはCoppermineの650/667MHzを前倒しで発表して、すぐにAMDを抜き返すことができたはずだ。しかし、Intelは、Coppermineをなんとか出せるようにするだけで手一杯で、そうした反撃ができなかった。また、Coppermineを出したあともAthlon 750MHzの発表で、AMDに再びリードを許すことになる。

 それから、ふたつ目は、Intelの指導力への疑問がPCメーカーの間でふくらんでしまったことだ。実際、昨秋以来、「いつまでもIntelのいいなりになっているわけにはいかない」という発言を、PC業界関係者からよく聞くようになった。まあ、それも当然の話で、Intelの製品出荷の遅れの結果、PCメーカーは製品計画が大幅に狂ってしまった。とくに大きかったのは、リテールではいちばんの稼ぎ時である年末商戦に、魅力的な製品を揃えることができなかったことだ。また、820のドタキャンでは、せっかく開発して出荷直前まで持ってきた製品を、取りやめなければならなかったメーカーもあった。つまり、これまではIntelの計画に従って製品を出していれば、とりあえず失敗はないからIntelにしがみついて、Intelから製品と情報を優先的に入手できるようにしなければならないと、各PCメーカーは考えていた。ところが、そのIntelの計画を信じていると、今度は失敗する可能性が出てきたわけだ。

 3つ目は、Intelの技術面での信頼が薄れたことだ。このところのIntelは、製品のスケジュールで大きなミスはなかったのに、ここへ来ての立て続けの失敗で、Intel神話が崩れ始めている。また、820では、Intel側の出していたマザーボードの設計ガイドラインで問題が発生してしまった。Intel側も、この件では強くでることができないらしく、明らかにIntelのガイドラインを逸脱したマザーボードでも平気で売られている。


●Athlonに過剰反応をするIntel

 Intelは、'99年中盤からのこの製品計画の遅延のおかげで、'99年後半は精彩を失う。はた目からは、内部の製品計画の建て直しに手一杯で、外部の競争相手をかまっている暇がなかったように見える。'99年は、Intelにとって、前半は華々しい勝利、後半は失速と混乱と、くっきりと明暗がついた年だった。

 さて、Intelのもたつきのおかげでひと息つけた格好のAMDは、Athlonで再び反撃のチャンスをつかんだ。Celeron対K6-2の戦いは、依然として苦しいが、この先にIntelと対抗できる見込みが出てきたため、AMDに対する期待は以前ほどではないが再び回復してきている。また、Intelの躓きにより、Intel支配からある程度は脱したいと考えるPCメーカーが、AMDを採用する可能性が高くなってきた。

 ただし、Athlonのデビューは、日米間でかなりの盛り上がりの差がある。日本では、Athlonマザーボードが米国に先駆けて発売され、今も、自作系を中心にそれなりに盛り上がっている。しかし、米国では、Athlon自体もまずほとんど見かけないし、自作ユーザーが少ないこともあってか、Athlonはまだほとんど存在感がない。したがって、Athlonの存在は、少なくとも今まではIntelにクロックで勝つという象徴的な意味あいが強かった。はたから見ていると、それほどIntelが警戒する必要がないように見える。

 しかし、IntelはAthlonの攻勢に過剰反応をした。750MHzを出したAMDに、Intelはすぐさま800MHzで反撃をするという状況だ。これを見ても、Intelの持つ危機感がいかに強いかがわかる。


●パラノイア企業IntelがAthlonに本気で対抗する

 IntelがAthlonを警戒するのは、ひとつには、ここで再びAMDに息を吹き返されると、また'98年の時のようにAMDに追いまくられるからだ。そして、Athlonの場合、K6ファミリと比べてまずいのは、Celeronではなく、Intelの本丸であるPentium IIIに対抗することだ。Pentium IIIの市場を浸食された場合に、Intelが失う利益はCeleronの比ではない。また、AMDはその分、高収益を上げて、開発や製造設備にさらに資金をつぎ込むことができるようになり、さらにやっかいなコンペティタに成長するかもしれない。

 とくに、Intelを警戒させているのは、AMDが2000年にAthlonを大幅に強化しようとしていることだ。AMDは昨年11月に、2000年のAthlonプロセッサの概要について明らかにした。それによると、2次キャッシュの統合、ソケット化、0.18ミクロン銅配線プロセスの導入、1GHzのクロックを実現することになっている。また、現在のパフォーマンスデスクトップだけでなく、バリューPC、ノートPC、サーバー&ワークステーションまでカバーする計画でいる。もし、AMDがこの計画を全て実現できると、Intelは全ラインナップで強力なコンペティタを迎えることになる。

 Intelは、パラノイア企業だ。Intelは、AMDのこの計画を、実現不可能だと断じるようなことはしない。もし、AMDがAthlonの強化計画をすべて実現したらどうなるかを考えて、手を打とうとする。このあたりの危機感の持ち方とパラノイア度合いが、Intelという企業の特徴的な点だろう。

 Intelは今、対Athlonで製品計画を大幅に練り直し始めている。Pentium IIIを1GHzまで引き上げ、高クロック化を前倒しし、SDRAMベースのローコストなソリューショを延命、FC-PGA化を加速しつつある。おそらく、2月の同社のカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」までには、新しい製品計画が明らかになるだろう。


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(2000年1月13日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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