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セイコーエプソン、2015年を最終年度とする長期ビジョン策定
~ソニーに液晶事業の一部譲渡も発表

セイコーエプソン 碓井稔社長

3月12日 発表



 セイコーエプソンは12日、2015年度におけるエプソンの姿をイメージした長期ビジョン「SE15」を策定。それに基づき、2009年度から2011年度までの3カ年を、中期経営計画「SE15 前期 中期経営計画」とし、2011年度にはROE(自己資本利益率)で3%強を目指すことなどを明らかにした。

 長期ビジョン「SE15」では、ROS(売上高純利益率)で10%、ROEでは継続的に10%以上を目標に、「創業当時からの強みである『省・小・精の技術』の本質を究め、さらに強化することで、強い事業の集合体となることを描き、世界中のあらゆるお客様に感動していただける製品・サービスを創り(作り)お届けするとことを目指す」(セイコーエプソン 碓井稔社長)という。

 2011年度までの3カ年中期経営計画「SE15 前期 中期経営計画」では、「事業基盤の再構築を目的とした施策」(碓井社長)と位置づけ、「強みを活かせる分野に集中し勝ち残る」、「集中する事業は事業基盤を徹底的に強くする」、「保有する技術や販売の資産から新たな製品と事業を生み出す」といった3つの方針を打ち出し、エマージング市場やビジネス分野などへの取り組みを強化する「プリンタ」、商業印刷分野への浸透・インクジェット技術応用分野の強化拡大による「商業・産業領域・FA」、No.1のポジショニングのさらなる強化、市場シェアアップを目指す「プロジェクタ」、No.1のポジショニングのさらなる強化、効率的かつ機動的な事業運営のためのエプソントヨコムの完全子会社化、センシングデバイスの開発強化などの諸施策に取り組む「水晶・センサー」を、強化すべき事業領域とした。

過去の戦略の統括(1) 過去の戦略の統括(2)
SE15 前期 中期経営計画 構造改革と再構築の方針

 「経営資源を強い事業へシフトすることにより、構造改革と事業基盤の再構築を進める」という。

 プリンタ事業においては、「独自技術を持ち、強みを発揮できる分野」とし、コンシューマ向けインクジェットプリンタ事業では、先進国市場においては機能の訴求、使いやすさの追求を進める一方、コスト競争力を高めた新興国市場向け製品の強化を図り、さらにビジネス分野の事業拡大を狙う。「レーザープリンタや電子写真に置き換わるビジネス分野向けプリンタやプリントオンデマンドをはじめとする商業印刷分野、インクジェット技術を活用した産業利用分野への取り組みによって、2011年度には、コンシューマプリンタ事業の6~7割程度の規模を、ビジネス、商業、産業分野で占めたい」(碓井社長)とした。

 同社では、2006年度から2008年度までの3カ年に渡り、中期経営計画「創造と挑戦1000」を実行。連結経常利益1,000億円以上の達成を目標に、経営の枠組みの改革、商品ポートフォリオの変革、各事業のコスト対応力の強化などに取り組んできた。

 情報関連機器事業では、プリンタおよびプロジェクタなどの完成品事業を中心に、プラットフォームの共通化やコストの削減施策などにより、収益性と性能を両立した製品を投入。次代の成長分野としてインクジェット技術を商業分野、産業領域へと展開するなど、成長領域への足場を構築してきた。

 また、電子デバイス事業では、中小型液晶ディスプレイや、半導体事業において、固定費削減やオペレーション体制の再編、商品ポートフォリオの高付加価値分野への転換などの構造改革施策を展開した。だが、2008年10月以降の景気後退の影響などにより、電子デバイス事業は営業損失を計上。さらなる構造改革施策が求められていた。

 「創造と挑戦1000による構造改革の効果を黒字体質に結びつけることはできなかった。深刻な経済環境が継続すると予想されるなかで、早期に高い収益力を創出できる体質を再構築するためには、いくつかの事業は、現状の形態のままで継続していくことが困難な状況にある。そのため、エプソンの強みを改めて見極め、適正な利益と成長が見込めない事業から、成長分野・重点分野へと経営資源をシフトすることで、新たな成長軌道を早急に確立することが重要な経営課題であると認識している」(碓井稔社長)と、大規模な構造改革に取り組む姿勢を示した。

 また、「独自技術によりエプソンの強みが発揮でき、成長が見込める事業と、収益化が困難な事業について再定義を行ない、成長が見込める事業へ経営資源をシフトした上で、次代を担う新規事業の育成に取り組む。その一方で、収益化が困難な事業については、あらゆる選択肢を検討し、迅速な対応を図っていく」とも語る。

 成長が見込める事業の筆頭として、プリンタ事業をあげ、「エプソン独創のマイクロピエゾテクノロジーをコア技術としたインクジェットプリンタを中心に、コンシューマ向けからビジネス用途まで、顧客視点により感性や使い勝手を訴求した製品開発を行ない、さらなる強化を図る」という。また、エマージング市場向け製品の拡充や環境配慮型製品の投入により、事業拡大を図る考えを示した。そのほか、マイクロピエゾテクノロジーを応用し、商業および産業分野への事業展開を強化する。

 また、プロジェクタに関しては、同分野におけるリーディングカンパニーとして、トップシェアの維持と、コアデバイスである高温ポリシリコンTFT液晶を内製している強みを活かし、高輝度プロジェクタ分野の強化などにより、事業領域の拡大と新ビジネス領域への進出を目指す。

 水晶・センサーに関しては、66.6%の出資比率であるエプソントヨコムを、TOBと株式交換によって100%子会社化し、経営のスピード向上とさらなる効率化の実現により総合力を高め、水晶デバイス市場のリーディングカンパニーとしての地位を強固なものとする一方、半導体事業などのグループ内の技術との融合により、センシングデバイス製品の充実と強化を行ない、今後のデバイス事業の核と位置づける。

 一方、収益化が困難な事業としては、中・小型液晶ディスプレイ事業をあげ、本社機能の鳥取事業所への移転をはじめとする国内拠点集約や、要員のエプソングループの成長領域へのシフト加速などにより、事業の効率化を進めるとともに、従来の構造改革の延長線上では無く、一段と踏み込んだ形で、あらゆる選択肢を検討するという。

中小型液晶ディスプレイ事業の今後 半導体事業の計画 水晶デバイス事業の計画
プリンタ分野の今後 プロジェクタ分野の今後 構造改革による影響の金額

 今回の発表とともに、セイコーエプソンは、中小型液晶ディスプレイ事業分野の一部をソニーに譲渡することを発表した。6月末をめどに、法的拘束力を有する契約を結ぶことになる。

 碓井社長は、「当社が単独での液晶事業の収益回復は困難と判断した。現段階では、提携に向けた協議を開始することについて合意したものであり、譲渡する事業の内容、方法、人員などについてはこれから詳細を決める」として、細かい内容については言及を避けた。

 ソニーでは、低温ポリシリコンTFT液晶にフォーカスしており、さらにエプソンが持つアモルファスシリコンTFT液晶を加えることで、事業を拡大することができそうだ。

 なお、エプソンでは「すべての液晶事業を手放すというつもりはない。有機ELの事業はこのなかには入っていない」(久保田健二常務取締役)と語った。

 また、半導体事業については、従来の強みである低パワーアナログ混載技術をコアとした製品を事業領域とするが、長野県の富士見事業所と、山形県の酒田事業所の国内2製造拠点を、中期的に酒田事業所に集約し、事業規模を見直す。さらに、プリンタ事業や水晶デバイス事業などに半導体技術のリソースをシフト。基本的には社内向けに提供する体制を整える。

 2009年度に、ブレークイーブンを目指し、長期ビジョンの布石となる事業基盤を再構築。2010年度には、確実に利益が確保できる企業体質の定着を図る。そして、2011年度には、SE15の実現に向けた新たな成長軌道の確立を目指すという。

 碓井社長は、「まずは、2009年度が重要であると認識している。ブレイクイーブンを必達目標に捉えており、詳細は4月末にも発表する。2010年度には3桁(100億円)での最終利益を出し、2011年度には、SE15の道筋を出したいと思っており、ROS10%、ROE10%の半分まではいかないが、3分の1程度ぐらいまでは推進できるようにしたい」とした。

 なお、同社では、2008年度通期の業績見通しを下方修正した。2月25日の公表値に比べて、連結売上高は1兆1,380億円、営業利益は60億円、経常利益は130億円と据え置いたものの、税引前損失は690億円悪化し、760億円の赤字、当期純損失は960億円悪化し、1,000億円の赤字とした。また、経営責任として、取締役および業務執行役員は最大30%の報酬カットを実行したという。

□セイコーエプソンのホームページ
http://www.epson.jp/
□ソニーとのディスプレイ分野における提携について
http://www.epson.jp/osirase/2009/090312.htm
□発表会の資料(PDF)
http://www.epson.jp/IR/event/090312.pdf

(2009年3月13日)

[Reported by 大河原克行]

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