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携帯電話に対抗するPSP2、CellとLarrabeeで揺れるPS4




●SCEは2つの次世代機の研究開発を進める

 「今動いているのはPSP2で、立ち上げに向けて活発にゲームベンダーを回っている。PLAYSTATION 4(PS4)はチップをどうするかを決めかねている段階だと聞いている」。

 SCEは次世代ハードウェアに向けて本格的に動いている。PSP2はすでに立ち上げに向けてタイトル開発の準備を促す活動に入っているという。PSP2の戦略の軸は、ゲーム機として成り立たせるだけでなく、iPhoneやスマートフォンに対抗することだという。PS4については、まだハードウェア的には白紙で、心臓であるCPUをCell Broadband Engine(Cell B.E.)拡張版で行くか、それとも他のCPUを使うかで揺れているという。そして、PS4のCPUの候補にはIntelのスループットCPU「Larrabee(ララビー)」が浮上していた。

 SCEは、苦闘している今世代ハードウェアの状況を覆すため、次世代ハードウェアの研究開発において活発な活動を行なっている。前世代からの大きな転換は、発想の切り替えを図ろうと苦闘していることだ。

 エンターテイメントマシンが全てを飲み込む的な発想を改め、台頭する携帯電話など他のコンピューティングデバイスへの対抗を真剣に検討する。高パフォーマンスハードウェアを用意すればプログラマがついてくるという発想を改め、ソフトウェア開発を念頭に置いたハードウェアを検討する。コンセプトで勝ちを掴んだ任天堂のDS/Wiiも、当然意識しているだろう。

Cellダイヤグラム
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●Cell拡張版に対するサードパーティの反応を調べたSCE

 PS4については、昨年(2008年)の秋前に、SCEがゲームベンダーの反応を見るために、各ゲームベンダーを回ったと言われている。その時、SCEは、PS4にCell B.E.の拡張版を載せる方向ではどうかと打診したと言う。この時の状況は、「PLAYSTATION 4は拡張版Cell搭載へ向かう」でレポートした通りだ。

 半年前の記事では、SCEがCell拡張版を載せることを具体的に検討していると推測した。しかし、実際には、SCEの真意は、PS4にCellを載せた場合の、ソフトウェアベンダー側の反応を探ることにあったようだ。Cellベースで具体的なハードの設計を開始したのではなく、Cellかどうかで迷っているSCEが、業界の風向きを伺ったというフェイズだった。Cell版PS4でベンダーの支援を受けることができるかどうか、そこが知りたかったと推測される。

 しかし、その際の、サードパーティのゲームベンダーの反応はネガティブなものが多かったと言われている。一方、対照的にSCEのファーストパーティ(SCE系のゲームスタジオ)は、Cellを発展させる方向に好意的だったようだ。ファーストパーティの有力スタジオは、Cellの能力を引き出しているからだ。つまり、SCEは、自社のタイトル開発力の強味を活かすのなら“Cell”版PS4を、サードパーティの支持を得るには“非Cell”版PS4を、という板挟み状態にある。

 SCEはCell版PS4のベンダー意識調査を進める一方で、他のCPU/GPUに対する模索も行なっていた。特に、SCEが関心を惹かれたのは、Intelが発表したスループットプロセッサLarrabeeだった。Larrabeeは、汎用のx86 CPUコアを拡張して、GPU並のパフォーマンスを発揮できるスループットプロセッサとしたものだ。ゲーム機に載せるなら、LarrabeeだけでCPUとGPUを兼ねることが可能になる。ゲームデベロッパから見れば、GPUをCPUと同じ手法でプログラムできるのと同じことになり、プログラム性においてCPUとGPUの垣根が完全になくなる。

Larrabeeの概要
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●開発に前回ほど時間とカネをかけられないSCEの現状

 SCEも、Larrabeeのゲーム分野での利点を見て取り、PS4にLarrabeeを搭載する可能性を検討した。具体的にIntelとSCEがどんな話し合いをしたのかはわからないが、検討した(または、している)ことは間違いないようだ。昨夏の段階ではまだチップにもなっておらず、性能も実証されていないLarrabeeを真剣に検討するからには、SCEのかなり上層部がLarrabeeに注目して、号令をかけたものと思われる。

 Larrabeeについては、少なくともPS4世代では使えないとする判断が下された、という情報がある一方、まだLarrabeeの検討は続けている、という情報もあり錯綜している。いずれにせよ、PS4のCPUが決定していないことは確かであり、最終的にどうなるかはまだわからない。

 もっとも、現実問題としては、初代LarrabeeのPS4採用には、グラフィックスのパフォーマンス/電力やグラフィックスアーキテクチャの革新など難しい問題が多数ある。また、Larrabee以外の隠し球候補もあるかもしれない。しかし、SCEがCell以外のCPU/GPUの検討を、Intelを含めて真剣にしたことは、注目に値する。SCEがなりふり構わず、あらゆる可能性を含めた次世代ハードの研究を進めていることを意味するからだ。

 SCE、Microsoft、任天堂の中で、現在、コンソールハードウェアの世代交代を最も切実に望んでいるのはSCEだ。PSとPS2での市場寡占から一転、PS3ではSCEは風下に立たされた。今世代では、うまく行って3ハードの鼎立、悪くすればPS3が最下位ハードになりかねない。SCEとしては心機一転して、巻き返しを図りたいところだろう。

 そのためには、ハードウェアプラットフォームを刷新するのが、最も効果的だ。バッドイメージがついたPS3から脱却して、ゲームコンソール事業を立て直したい、それが今のSCEの本音だろう。その戦略に則るなら、できるだけ速い時期にPS4に切り替えたい。ハードウェア開発に、PS3の時のような長い時間をかけたくない。

 そうなると、心臓部のCPUには既存アーキテクチャを転用するのが、最も手っ取り早い解決策となる。ゲーム機に向いた高パフォーマンスCPUでありながら、すでにベースアーキテクチャがあるCellとLarrabeeは、それに該当する。SCEのリサーチの方向は、論理的には正しい向きにある。

●スマートフォンの攻勢に対抗するPSP2

 ハードウェアの刷新が必要だとSCEが考えているのは、携帯ゲーム機のフィールドでも同様だ。SCEは5年目に突入したPSPの刷新を図ろうとしている。今の時点でSCEが注力しているのはPS4ではなく、PSP2の方だ。

 PSP2は、その存在が公表されるまでの、秒読み段階にあることは間違いない。ところが、ハードウェアスペックについては、入ってくる情報がソースによって異なっており、正確なスペックを特定しにくい。だが、情報を濾過すると、PSP2の技術的な方向性は鮮明に見えてくる。

 まず、SCEは、全体の流れでは、プロセッシングパフォーマンス偏重の姿勢を改める方向に向かっていると見られる。PSPからPSP2へのジャンプは、純粋なシリコン性能で言えばPS2からPS3へといった大ジャンプではないと言われているからだ。“PSP1.5”的な、インクリメンタルな発展型がPSP2だと言う。

PSPのブロックダイヤグラム(一部推定)
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 SCEは、もともとCellを開発した段階で、将来は携帯機器にもCellのカットオフ版を載せることを考えていた節がある。分散処理を行なうCellコンピューティングで、PS3などのCellデバイスと連携させるといった構想だった。しかし、実際にPSPの後継となるPSP2は、そうしたマシンではないようだ。

 もちろん、PSP2でチップ性能は引き上げられる。しかし、それ以上にその他の部分に注力する。メインメモリDRAM量を大幅に増やし、コンテンツをダウンロードして保持できる不揮発性メモリを大量に内蔵するといったアプローチだ。非ゲームの一般プログラムもより書きやすくし、また、ダウンロードコンテンツのビジネスモデルを定着させる方向だと見られる。もっとも、矛盾点があるのは、PSP2が従来型のパッケージコンテンツビジネスも継続しようとしている点で、おそらく、ダウンロードとパッケージの両天秤で行くと見られる。

 こうした技術方向性を持つPSP2が仮想敵として強く意識しているのは、性能を高めつつある携帯電話系デバイスだ。日本の高機能携帯電話はもちろん、iPhoneやスマートフォンに対抗することを真剣に考えているという。そのため、携帯電話機能のオプショナルな付加も検討していると言われる。

 SCEのこの状況判断自体は間違えていない。携帯ゲーム機は、もはや、個人が持つ携帯機器の中で、飛び抜けたプロセッシングパフォーマンスを持つデバイスではなくなっている。急激に成長し続ける携帯電話系デバイスが、今や最強のポータブルコンピューティングデバイスになろうとしているからだ。億の単位で数が出る携帯電話の方が、PSP2にとっては手強い敵だ。

 では、SCEのこうした次世代機構想は、勝算があるのだろうか。また、どんなインパクトをゲーム市場や隣接する業界に与えるのだろう。次の記事では、それを分析してみたい。

□関連記事
【2008年9月29日】PLAYSTATION 4は拡張版Cell搭載へ向かう
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0929/kaigai469.htm

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(2009年2月26日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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