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e-business以来の提唱となるIBMの「Smarter Planet」
~日本IBMの橋本新社長が2009年方針を説明

日本IBM 橋本孝之氏

2月19日 発表



Smarter Planetという新コンセプト

 日本IBM株式会社の橋本孝之社長が19日、2009年1月1日の社長就任以来となる会見を開いた。このなかで、同氏が示したのが「Smarter Planet」という新コンセプトだ。

 Smarter Planetとは「あらゆるものが機能化し、相互接続され、インテリジェントになってきている今、交通や環境、エネルギー、医療といった地球規模の多様な課題を、地球がよりスマートな惑星になる、つまり、賢い地球になっていくことで解決する考え方」ということだ。

 かつての「e-business」や「パーベイシブコンピューティング」など、IBMが長期的な視点に立って提唱する、新たなキーワードがこの「Smarter Planet」という。

 具体的な事例として、交通、油田、食料生産・流通、医療、送配電網、小売・サービス、水管理、サプライ・チェーン、国家、天気、土地管理、都市という12の分野をあげて、これらの領域におけるスマートな世界を創出することをあげる。

 「例えば、交通という領域を見てみると、日本での渋滞は、年間延べ38億時間に達し、1人あたり30時間もの時間的ロスと、12兆円もの経済損失がある。GDPにすると2%相当にあたる規模だ。ストックホルムやロンドン、シンガポールでは、市内に入る際に、一般道路において、日本のETCのようなICチップを利用した課金、あるいはナンバープレートを認識して後に課金するという仕組みを導入しており、これにより交通渋滞を緩和している。世界はますますスマート化する方向に移行している。IBMは、経済環境の低迷という長いトンネルを抜け出たあとに、違う景色が見えてくると考えている。その新たな時代におけるITの使い方を提案していく。これがSmarter Planetである」などと説明した。

 そのほか、橋本社長は、北米の小売業では在庫切れによる機会損失が9兆3,000億円に達していること、この100年で世界の人口が3倍に増加する一方で、水の使用量が6倍に増加していること、世界の飢餓人口が9億6,000万人いるのに対して、日本では食料9,000万トンのうち21%を廃棄している実態。医療システムでは電子カルテが稼働していても、エンド・トゥ・エンドの仕組みとなっていないこと、金融市場においては、リスクを分散するシステムがあっても、リスクを追跡するシステムがなく、市場の信用低下や不確実性の拡大につながっている現在の事例をあげ、「こうしたところにIBMが提供するITが威力を発揮する」と語った。

 この考え方のベースとなるのが、世界がスモール化、フラット化、スマート化しているという現在の環境だ。

デジタルと物理が一体化した世界 スマート化する世界
解決すべきさまざまな非効率がある 世界はこれからますますスマートになる

 橋本社長は、「デジタル・インフラと、物理的インフラが一体化した世界がSmarter Planetを構成する」とし、2005年には13億個だったICチップの利用が2010年には330億個になること、2008年には14億人だったインターネットの接続利用者が、2010年には19億人になること、携帯電話の利用者が2000年には全世界人口の12%だったものが、2008年には60%にまだ拡大していることなどをあげながら、「世の中が機能化しつつあり(Instrumented)、相互につながりつつあること(Interconnected)、そして、インテリジェントになりつつある(Intelligent)。この3つの状況があるからこそ、さまざまな非効率を解決できる」などと語った。

 日本IBMでは、Smarter Planetの推進に向けて、昨年新設した未来価値創造事業(FVCT)に、グリーンとクラウドコンピューティングのチームを統合し、日本の社会における新たな価値を創造する取り組みに向けた事業強化や、大和事業所に3月2日付けで、JBSC(ジャパン・ビジネス・ソリューション・センター)を設置することで、セミナーやデモを通じて、顧客の課題解決やイノベーション創出を支援する体制を確立することなどをあげた。

 「JBSCは、要素技術を見せるのではなく、Smarter Planetの実体とはどういうものかを、ビジネスのエンド・トゥ・エンドのプロセスとして直接見ていただく」とした。

2009年の方針は礎を築くこと

 一方、会見で橋本社長は、2009年の基本方針を「礎-次代への礎を築く年に」とし、「新規ビジネス拡大とパートナーシップ強化」、「お客様への価値創造をリード」、「自由闊達な企業文化の醸成」の3つのイニシアティブと、「良き企業市民としての社会的責任」として、3つのイニシアティブを支えるCSRへの取り組みをあげた。

 次代への礎という意味には、日本IBMが橋本社長による新たな体制となったこと、世界の価値感が変わり、その上で基礎を固める時期になったことを込めたという。

 3つのイニシアティブのうち、最もプライオリティが高いと位置づけた「自由闊達な企業文化の醸成」では、役員、事業部長全員が、個人ごとにコミットメントを表明し、リーダーシップを発揮することが大切だとし、「社長就任初日となる1月5日に、執行役員以上を集めて方針を説明し、同時に、会社をどう活性化していくか、社員とのコミュニケーションをどう図るかをコミットしてもらい、それをイントラネットに掲載した。私自身も、3月31日までの90日間に、最低7回に渡り、社員との2ウェイコミュニケーションを行なうこと、業績の数字に関するミーティングは水曜日に集中させ、月、火、木、金はお客様のもとに出向いたり、プロジェクトルームに顔を出す時間に費やす。就任以来、沖縄を皮切りに全国のお客様、パートナーを訪問しており、60%の時間をそれに費やしている」と語った。

 また、Value Programの展開として、お客様第一を実践する社員にオンタイムで記念品を授与する仕組みを導入。モチベーション向上への取り組みを行なうという。

 これは、橋本社長自身がこれまで自らが担当してきた部門で実行していた仕組みで、それを全社規模に拡大したもの。部門を超えて、上長が社員を評価。その内容を記したメールを社員に送信するとともに、そこに記載されたURLをクリックすると記念品がもらえるという仕組みになっているという。

 「お客様への価値創造をリード」では、金融危機による世界同時不況に対する緊急オファリングの提供に加え、JBSCを活用したSmarter Planetの推進を掲げた。

 緊急オファリングの提供では、2月17日にIBMビジネスコンサルティングサービスが発表したコンサルティングサービスを活用。「引き算のソリューションとして、経営への短期的な成果を求めるお客様向けに、フォーカスを明確にし、迅速な提案を行なうものであり、発表から2日間で成約した例も出ている」という。

 「新規ビジネス拡大とパートナーシップ」では、昨年8月に設置した事業開発部門を本格始動させ、1万人未満の従業員を持つユーザーに対して、顧客の特性にあわせた提案を行なえる営業体制を、中部、関西エリアに拡大する。また、GTS(グローバル・テクノロジー・サービス)事業において、新規ビジネス開発事業を新設し、新規アウトソーシング契約の専門部隊を30人規模で設置する。また、ビジネスパートナー向けの支援強化として、カバレッジモデルの強化とマーケティング支援の拡大を図る考えを示した。橋本社長は、「なかでも、パートナーとの接点となる担当者の人員を増加させている」とした。

2008年の成果

 一方、橋本社長は、2008年を振り返り、「お客様のイノベーション実現」、「グローバルに統合された企業への進化」、「価値創造のためのオープン・テクノロジー」の3点からの成果をあげ、「これからの成長や、ITを活用して地球に貢献していくという基礎固めができた1年だった」とした。

 「お客様のイノベーション実現」としては、昨年1月に設置した未来価値創造事業において、財団法人日本産業廃棄物処理振興センターの産業廃棄物電子マニフェストシステムの構築実績など、「将来に向けて夢のある事業で成果があがった」とし、橋本社長が、専務時代に担当した事業開発の新設では、「1,000~1万人未満の既存顧客を担当する第2事業、同じく新規顧客を担当する第3事業、1,000人以下を担当する第1事業に分け、ibm.comを活用するなど、IT市場の40%を占めるといわれる中堅、中小企業ユーザーの領域に向けて、人とお金を投じた。事業開発の組織は、今年1月から本格的に稼働させた」とした。

 また、三菱東京UFJ銀行の勘定系基幹システムである「Day2」や、日本航空の新整備業務システム「JAL Mighty」の稼働など、大規模プロジェクトを成功裏に完了したことも成果にあげた。

 「グローバルに統合された企業への進化」では、グローバル・デリバリーの活用、グローバル人材の育成、大和研究所によるグローバルプロジェクトへの貢献をあげ、全世界33カ国から100人のIBM社員を選抜し、新興国のIBMに派遣するプログラムにおいても日本IBMから5人が参加。タンザニアで2人、ルーマニアに3人を派遣し、グローバル人材の育成につなげているという。また、インドIBMのリソースを活用した運用保守の実績など、グローバル化した仕組みのなかでの成果をあげた。

 「価値創造のためのオープン・テクノロジー」では、New Enterprise Data Center(NEDC)の発表、クラウドコンピューティングの展開、Green関連ビジネスの推進をあげた。

 クラウドコンピューティングの展開では、昨年8月に、東京・晴海にセンターを開設。世界の13のクラウドと連携するなどの体制を構築したことなどを示した。

□日本IBMのホームページ
http://www.ibm.com/jp/ja/
□ニュースリリース
http://www.ibm.com/jp/press/2009/02/1901.html
□関連記事
【1月5日】日本IBM、1月1日付けで橋本専務が社長就任
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0105/ibm.htm

(2009年2月19日)

[Reported by 大河原克行]

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