NEC、通期予想を2,900億円の赤字に下方修正
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代表取締役執行役員社長 矢野薫氏 |
1月30日 発表
1月30日、NEC(日本電気株式会社)は、平成21年3月期第3四半期(2008年10月1日~12月31日)の決算と通期予想の下方修正を発表した。
第3四半期の連結売上高は、対前年同期比9.9%減の9,483億円、営業損益は前年同期に比べ408億円減となる248億円の赤字、経常損益は593億円減となる498億円の赤字、四半期純損益は1,255億円減となる1,308億円の赤字となった。
その結果、2008年4月1日から2009年12月31日までの累計売上高は、対前年同期比3.7%減の3兆761億円、営業損益は114億円の赤字、経常損益は428億円の赤字、3四半期純損失は1,290億円となった。
第3四半期の業績悪化の要因として、営業損益は円高による為替差損、子会社の業績悪化を挙げ、当期純損失については株価急落による保有株式の評価損、前日に業績悪化による業務改善実施を発表しているエレクトロンデバイス事業を行なう子会社の改善費用計上、繰延資産の一部取り崩しなどを挙げている。
昨年10月予想との比較による通期売上高減の中身 | 昨年10月予想との比較による通期営業損益の増減 | 矢野社長(右)と、取締役執行役員常務 小野隆男氏(左) |
この業績悪化に伴い、昨年10月30日に発表した通期業績予想を下方修正。売上高は前回予想を4,000億円下回り、対前年同期比で9.0%減となる4兆2,000億円、営業損益は10月予想を1,500億円下回る300億円の赤字、経常損益は1,850億円下回る900億円の赤字、当期純損失は3,050億円下回る2,900億円の赤字とした。
会見には、当初、出席予定のなかった矢野社長が出席。冒頭、「誠に大きな下方修正を行なうこととなったのは、痛恨の極み。全社員が全力で業績改善につとめたい」と話した。
一部報道にあったシステムLSI事業の他社との統合については、「まず、取り組むべきは自社で赤字をなくす体質を作ること。それを達成した上で、聖域なき構造改革に取り組む」(矢野社長)と赤字体質改善を最優先課題として挙げた。
来年度は既に発表されているNECトーキンの9,000人の人員削減を含め、2万人の人員削減を断行。事業ポートフォリオについてもIT/ネットワーク(NW)ソリューション事業、モバイル/パーソナルソリューション事業、半導体事業という3つの事業領域に変化はないものの、新たに環境・エネルギー事業領域に取り組み、液晶関連事業などについては事業中止も予定している。
セグメント別 通期業績予想 | ITソリューションの状況 | ネットワークシステムの状況 |
モバイルターミナル(携帯電話含む)の状況 | パーソナルソリューション(PC含む)の状況 | エレクトロンデバイスの状況 |
通期予想をさらに下方修正することとなった要因としては、売上高のセグメント別ではエレクトロンデバイス事業が1,450億円減、IT/NWソリューション事業が1,100億円減、モバイル/パーソナルソリューション事業が1,100億円減、その他事業が350億円減。
営業損益では、エレクトロンデバイス事業が770億円減、IT/NWソリューション事業が360億円減、モバイル/パーソナルソリューション事業が170億円減、その他が200億円減で、エレクトロンデバイス事業の営業損失が大きい。
昨年10月予想との比較による当期純損益の増減 | NEC単体の業績予想の修正 |
個別事業の状況としては、PCを含めたパーソナルソリューション事業の営業損益は、前回予想の80億円減、前年度比で170億円減と予想している。国内のPC事業は厳しい価格競争下にあり、企業向けPCは落ち込んでいるものの、個人向けPC事業は前年を上回る出荷を達成したことで、採算点を維持。第3四半期の国内出荷台数は、前年を3万台上回る62万台となったが、4月から12月までの累計では前年同期に比べ2万5,000台増の188万5,000台となった。
【2月3日訂正】記事初出時、累計で前年同期に比べ5,000台減の126万5,000台としておりましたが、2万5,000台増の188万5,000台の誤りでした。お詫びして訂正いたします。
ただし、欧州におけるPC事業は販売不振により赤字となり、「パーソナルソリューション事業の赤字要因はほぼ欧州のPC事業。抜本的な対策が必要であると考えており、ステークホルダーと議論しつつ、どう構造改革を進めていくか固めていく」(矢野社長)と、なんらかの対策をとる方針を明らかにした。
採算点を維持している国内のPC事業についても、「個人向けPCの出荷台数は前年を上回っているが、小型PCが出荷数量押し上げの要因となるなど、マーケットの中身が変わってきている。こうしたマーケットの変化を先取りし、PCなのか、PCではないのかわからないような新端末投入の検討を行なうなどの必要がある」(矢野社長)と説明した。
具体的には、PCと携帯電話との連携を強化し、ソリューション部隊との連携による業種対応端末、オープンプラットフォームを採用した新商品の投入などを予定しているという。
ITソリューション事業を業種別で見ると、地方/中堅中小企業向けビジネスがサーバーやPCなどの更新商談の延期や中止といった環境悪化が目立っているほか、前回の予想に比べて金融、通信、製造業の悪化が目立ち、営業損益は前回発表よりも140億円減、対前年同期比で10億円減となると予想している。
ネットワークシステムは、キャリア向けビジネスで円高による為替差損が原因の営業損益が全体の3分の2を占め、残りの3分の1は企業向けビジネスにおける投資意欲減退が要因となっている。
携帯電話などモバイルターミナル事業は、従来は5,000万台程度あった国内市場規模が3,300万台から3,500万台程度に縮小したことを受け、出荷計画を下方修正し、年間500万台とする。
「しかしながら、商品力強化によりシェアは着実に改善しており、500万台という出荷目標は前年の480万台という実績を上回る。市場環境は、来年度以降も厳しい状況が続くと見込んでいるが、NECの強みを生かした製品投入を継続的に続けていくことで、一層のシェア拡大を果たし、さらなる開発の効率化による損益分岐点の引き下げにより、利益確保ができる体制を目指す」(矢野社長)
エレクトロンデバイス事業については、NECエレクトロニクス、NECトーキンの急激な業績悪化により、大幅な下方修正となった。
NECエレクトロニクスの新経営施策としては、2年間で800億円の固定費を削減。生産体制再編による構造改革と、成長市場である省エネ、エコロジーに対応したecoプロダクトに経営資源を集中する。
NECトーキンについては、株式交換によりNECの完全子会社とするとともに、NECを割当先とした第三者割り当て増資による380億円の資本増強による経営基盤の安定化を実現。不採算製品の撤退を含む事業の選択と集中、国内の3生産拠点と5営業拠点の閉鎖を含む拠点の再編、約9,500人の雇用調整などによる構造改革を実施する。その上で、独自技術を生かした自動車用電池事業など環境・エネルギー市場に絞りこんだ新しい成長戦略を実践していく計画だ。
来期以降の事業構造改革 | 来期以降のグループ経営の方向性 | NECとしての来期以降の半導体事業 |
来期について矢野社長は、「外部環境はさらに悪化し、厳しさがさらに増すと見ている。その中でNECバリューを実践していくために、これまでにない厳しく、重要な年となると位置づけている。その上で、景気が回復した後で次の成長フェーズに向けた布石を打っていきたい」と、事業構造改革と収益構造改革を同時に実現しながら、今後の成長に向けても貪欲に取り組んでいく姿勢を強調した。その具体策として、事業ポートフォリオを見直して、環境・エネルギー関連事業を新領域として取り組む。その一方で、収益が悪化している液晶関連事業などについては撤退も含めて見直しを行なう。
「IT/NWソリューション事業に関しては筋肉質の収益構造への転換をはかり、モバイル/パーソナルソリューション事業は海外PC事業の抜本対策をとるとともに、損益分岐点の引き下げを実施する。半導体については、生き残りをかけた収益向上に向けたさらなる構造改革を進めていく。電子部品とその他の事業については、資本効率向上に向けた選択と集中を行なう」(矢野社長)
収益構造改革については、以下の4つを実現する計画だ。
(1)昨年発表したNECグループの中期ビジョンである「NECビジョン2017」実現に向け、グループ全体の最適化を目指した組織・機能の統合と削減により、経営資源の有効活用を実現
(2)経費効率化、調達コストダウン、外注費などの削減
(3)役員報酬については、賞与の全面カットなど社長の場合で前年比約2分の1程度の削減を実現し、管理職の報酬についてもカットを行なう
(4)すでに発表されているNECトーキンの人員削減を含め、グループ全体で2万人を超える人員削減を来期中に実現
なお、今回の業績悪化による自身の経営責任について矢野社長は、「就任以来、新しい時代に適合する改革を実践し、ようやく浮上する体制が整いかけた段階での経済環境悪化により、今回の事態となった。私としては、これまでも進めてきた経営改革を完遂することこそ自分の任務と考える」と引き続き、社長を続ける意志を明確にした。
□NECのホームページ
http://www.nec.co.jp/
□四半期決算概要
http://www.nec.co.jp/press/ja/0901/3001.html
□業績予想の下方修正
http://www.nec.co.jp/press/ja/0901/3002.html
(2009年2月2日)
[Reported by 三浦優子]