Macworld San Francisco 2009 基調講演詳報
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1月6日開催(現地時間)
会場:Moscone Center West Hall
定刻の午前9時(現地時間)を少し回って、Appleのフィル・シラー上級副社長がMacworld最後の基調講演に姿を見せた。「(僕の基調講演に)来てくれてありがとう」のコメントには笑いと登場時以上に大きな拍手が起き、今回の事情を十分に理解している聴衆達をぐっと引きつける。
最初は、中国、オーストラリア、ドイツなどの各国に旗艦店として次々にオープンしたApple Storeの写真を見せて「全世界のApple Storeには週あたり340万人の来客がある。これはMacworldの100回分にあたり、いまの我々には十分な顧客との接点がある」と、Macworldへの出展を最後とする理由を改めて説明した。そのうえで最後の講演にもっともにふさわしいテーマとして、“Mac”の文字をスクリーンに表示。この日の講演はMacについて3つの新しい発表を行なうことを明らかにした。
●1年半ぶりのバージョンアップ「iLife'09」
1月下旬の出荷となるiLife'09。新しく購入したMacにはバンドルされるほか、既存のユーザー向けにはアップグレード価格として8,800円で提供される |
最初に発表された新製品は「iLife'09」。Mac本体の購入時にバンドルされているアプリケーションスイートの最新版となる。前バージョンにあたる「iLife'08」は2007年8月に発表。おおよそ1年半ぶりのバージョンアップだ。シラー上級副社長は、構成する5つのアプリケーションのなかから「iPhote'09」をピックアップ。追加される新機能を次々に紹介していった。
iPhotoにおける写真の管理は、当初フィルムロールという形でカメラからのデータ読み込みを単位としていたが、現在ではEvent(イベント)単位での管理ができる。さらにiPhoto'09ではFacesというライブラリを作ることができるようになった。このライブラリは、iPhotoに顔認識機能を搭載することでiPhotoで管理しているすべての写真の中から、同じ人物が写っている写真を自動的に整理、分類してくれる。
もうひとつ、Placesは場所を基準としたライブラリ。iPhoneやGPS機能付きの携帯、位置情報の機能を持ったデジタルカメラなどで撮影した写真を、データに含まれるGPSジオタグ情報を基に、地図上に配置、分類する機能である。シラー上級副社長によれば、カメラにそうした機能がなくとも、iPhoto上で撮影場所の情報を入力することで、検索により位置情報を自動的に付加することも可能だという。
iPhoto'09で表示される地図データにはGoogle Mapを使用。ドロップピンのスタイルで世界地図上に写真を配置して表示する。シラー上級副社長が自ら行なったデモでは、パリの地図上に、撮影位置を示すドロップピンが並ぶ様子が紹介された。
そのほかFacdbookやFlickrなど、外部のサービスともiPhotoから直接連携できる機能を追加。さらにスライドショーのエフェクトも追加し、このエフェクトはiPhoneのスライドショーにも転送が可能。ほかにも自動的にアルバムを作る機能などが強化された。
iPhotoで管理している膨大な写真を、写っている人物ごとに整理、分類するFaces | Placesは、撮影した写真に含まれるGPSジオタグ情報をもとに、撮影した写真を世界地図上に配置、分類する機能 | FaceBookやFlickrといった外部サービスに対して、iPhotoから直接連携ができるようになった |
スライドショーにはかなり凝ったエフェクトも追加されている | スライドショーはiPhoneに転送して楽しむこともできるようになった | 顔認識機能による分類をデモしてみせるシラー上級副社長。顔の下に表示されている部分に人物名を入力すると、同じ顔と判断された写真がすべてグループ化される |
GPSジオタグのついた写真がパリ、セーヌ川沿いにドロップされている。現在プレビューされている写真のドロップピンは、頭の部分が青く表示される | 凱旋門の写真を選択。地図上では間違いなく凱旋門の場所に青いドロップピンが落ちている | 地図データにはGoogle Mapが利用されているので、世界地図からストリートレベルまでスケーラブルに撮影場所を配置、分類することができる |
iMovie'09は、より精密な編集が行なえるような機能が強化されている。コンテクストメニューを使ったクリップの編集や、音声と映像を分離しての重ねあわせなどがより簡単にできるようになった。そのほか、インディジョーンズ風のアニメーショントラベルマップなどが追加されたほか、手ブレしている映像をiMovie側で補正する機能もついた。
iMovie'09は紹介をシラー上級副社長が、実際のデモはビデオアプリケーションのチーフアーキテクトであるランディ・ユビロス氏が行なっている。
音声と映像を分離したり、より精密な編集作業が行なえるようになるiMovie'09 | コンテクストメニューを使ったクリップ編集の様子 | インディジョーンズ風のトラベルマップが2Dと3Dのアニメーションで簡単に追加できる |
iMovie側での手ぶれ補正機能も追加される | この日、シラー上級副社長以外では唯一の登壇者となったビデオアプリケーションのチーフアーキテクトであるランディ・ユビロス氏。iMovie'09のデモを行なった | 編集機能を中心に機能強化が図られたiMovie'09 |
iLife'09から紹介された3つ目のアプリケーションは「GarageBand '09」。画面上で演奏方法を学べるLearn to Playがバーションアップの目玉だ。画面には指導者と一緒にギターのネック、ピアノの鍵盤などが表示され、映像に合わせて押さえるべきコードなどが指示される。標準ではギター、ピアノそれぞれに基本的な9つずつのレッスンが含まれている。
さらに面白いのはArtist Lessonとして、この指導者を著名な大物アーティストにすることができる。ギターではスティング、ピアノではノラ・ジョーンズなどが画面に登場し、それぞれのテクニックを伝授してくれるというもの。基本レッスンとは異なり有料のオプションでそれぞれのレッスンが4.99ドル。残念ながら現時点では北米エリアのみのサービスで、日本では彼らのレッスンを受けることはかなわない。
ギターのレッスン。映像の演奏にあわせて押さえるべきコードなどが画面に表示される | こちらはピアノのレッスン。先生の指先にあわせて鍵盤にも指示が表示されている | ギター、ピアノそれぞれ9つの基本的なレッスンが用意されている |
こちらは有料オプションのArtist Lesson。あのスティングが君のギターの先生だ | ピアノのレッスンにはノラ・ジョーンズが登場。複数のアーティストから先生を選ぶことができるが、楽器も愛用のものなのかそれぞれに違っているのが面白い | Artist Lessonは1レッスンが4.99ドル。現時点では北米エリアのみで提供されるサービスだ |
iLife'09は、1月下旬に出荷開始予定。新しくMacを購入した場合はバンドルされている。現在の市場在庫については旧版にあたるiLife'08が付属しているが、この発表以降にMacを購入した場合、日本では実費にあたる980円でiLife'09が送付されるサービスが行なわれる。
既存のユーザー向けにはアップグレード扱いとなり、北米での価格は79ドル。日本では8,800円の価格設定がなされた。米国内価格は従来と同じだが日本での販売価格はiLife'08のそれにくらべて1,000円ほど値下がりしている。
●iWork'09出荷。同時にiWork.comのベータサービスを開始
2つめの新製品として紹介されたのは「iWork'09」。これも初めてアプリケーションスイートとなったiWork'05以降はiLifeと同じスパンでバージョンアップされていることもあり、iLifeがあればiWorkもあるのが当然の流れ。そのせいかシラー上級副社長もとくにもったいをつけることもなく、淡々と製品の紹介をしていく。
「Keynote'09」では、MagicMoveと呼ばれるエフェクトの追加。オブジェクトやテキストのトランジションも強化された。そのほかチャート画面のアニメーション機能とテクスチャも新しいものが追加されている。講演冒頭のチャート表示には、これら新しい機能が使われていた。テキストのトランジションのデモでは、「Bush」の文字が一瞬で「Obama」に置き換わるという時事ネタも披露されている。
またプレゼンテーション用のリモコンとして、iPhone用のアプリケーションが新たに用意された。リモコンとしてのスライド送りのほか、画面に表示しているものとは別の次のスライドを事前に手元で確認しておくなど、セカンドディスプレイとしてプレゼンテーションをサポートする機能が含まれている。App Storeにて99セント(日本での価格は115円)で販売される。
チャートが回転して表示されるRotateは、新しいチャートアニメーション機能。ほかに、下からチャートがせり上がってくるCraneなどのアニメーションが追加された | 星がきらめくように文字が消え去るテキストのトランジション。追加された各種のトランジションやエフェクトにはAppleのCMに使われているようなものも目立つ | Keynote'09の機能強化点まとめ |
iPhoneアプリの「Keynote Remote」。プレゼンーションのスライドをコントロール | 次のスライドを手元のディスプレイで確認するなど、通常のリモコンではなかなか実現できない機能を搭載できるのはiPhoneアプリならでは | やや意外だったが「Keynote Remote」は有料。北米では99セント、日本では115円で販売される |
講演のなかでもPages'09とNumbers'09は、やや駆け足で紹介が行なわれた。追加された新機能はここでもスライドで紹介する。
Pages'09の機能強化一覧 | ごちゃごちゃしたデスクトップから、文書の内容をより把握しやすくするフルスクリーンビューに変更する | アウトライン機能の大幅に強化 |
数式の入力機能を強化 | テンプレートを追加 | Numbers'09の機能強化一覧 |
チャート表示の新しいオプション | チャートのリンク機能の強化 |
iWork'09は、当日より出荷を開始。北米では79ドル。日本では8,800円で販売される。iLife'09同様に、日本での販売価格は従来版に対して1,000円下げられた。また新たにMac本体との同時購入によるディスカウントも実施され、北米では49ドル、日本では5,800円で購入することができる。
前述したように、今までもiLifeとiWorkは同時にバージョンアップが行なわれてきたが、今回はじめてこれらがセットになったBox Setも用意されることになった。しかも、現行のOSであるMac OS X 10.5 Leopardと3点がセットになり、北米での価格は169ドル。日本では18,800円で販売される。名称は「Mac Box Set」。
iWork'09は当日から販売を開始。同時にトライアル版のダウンロードもはじまった | 個別に購入すれば総額287ドルのソフトが169ドルに。日本国内価格でも1万円以上お得な計算になる | Mac Box Setは1月下旬に発売。実はこの組み合わせ、2008年の正月に日本のAppleStoreで福袋として販売されて、ネットで物議をかもした内容に酷似している |
iWorkのセクションにはちょっとしたオマケが用意されていた。シラー上級副社長が発表したのは「iWork.com」。当日からβ版扱いでサービスが提供される。これは、iWorkの各種ドキュメントをネットワークを通じて共有する仕組みだ。共有されたドキュメントはiWorkのアプリケーションがなくても、ブラウザベースで閲覧ができ、コメントやメモを残しておくことができる。ブラウザベースなのでWindowsからも利用可能。ひらたく言えばGoogle Apps/Docsで実現しているサービスをiWorkでも可能にするもの。β版では無料でサービスが提供されるが、正式サービスに移行後は有料化の見込みだ。
当日付でβ扱いながらサース提供がはじまる「iWork.com」 | iWork.comの概要。iWorkの各種ドキュメントをネットワークを通じて共有する仕組み。閲覧者はiWorkを持っている必要はなく、ブラウザベースでも利用が可能 |
PagesのドキュメントをiWork.comを使って共有。利用者にはコメントを残すことや、ドキュメント自体のダウンロードも許可している設定 | ノートやコメントが貼り付けられているドキュメントの様子 |
●17型MacBook Proが登場。特にバッテリ性能をアピール
3つめの新製品は、予想する声も多かった17型のMacBook Pro。昨年の10月に行なわれたMacBookファミリーの大幅なモデルチェンジでは、唯一更新から外れていた製品ラインだけに、今回の発表をもって補完され、MacBookファミリーの完成となる。
先行したMacBook、15型MacBook Proと同様に本体にはアルミニウム素材削り出しのユニボディを採用。「0.98インチの本体厚と6.6ポンドの重量は17型のノートブック製品のなかでも最薄、最軽量だ」とシラー上級副社長は紹介した。
17型の液晶ディスプレイはLEDバックライトタイプ。1,920×1,200の解像度と水平方向に140度、垂直方向に120度の視野角をもつ。シラー上級副社長によれば、色域は60%拡大しているとのこと。
また15型MacBook Proではオプションから消えていたノングレア液晶をCTOで選択できるようになった。このオプションは有料で北米では50ドル、日本国内では5,670円だ。スライドから判断するに、グレアタイプの場合は額縁部分が黒だが、ノングレアタイプの場合は、従来のような本体素材と同一の額縁になる模様だ。
スペック部分は15型MacBook Proに準ずる部分が多く、SuperDriveをはじめ、Mini DisplayPortを搭載するなどインターフェイス部分はほぼ同一。唯一奥行きがあることを生かしてか、15型では2個だったUSB 2.0ポートが3個に増加している。
CPUは2.66GHzが標準。製品自体は1機種のみだがCTOによって2.93GHzのIntel Core2 Duoプロセッサを選択することもできる。15型では最大4GBとされた搭載メモリは、標準では4GBながら最大8GBへの正式対応が行なわれている。SSDのオプションでは256GBの製品も提供される。
もちろんMacBookファミリーで最大の特徴であるMCP79(GeForce 9400M)チップセットを搭載。15型MacBook Proの上位と同じGeForce 9600M(512MB)のディスクリートGPUも搭載している。
ここまでシラー上級副社長が紹介してきた内容は、先行した15型MacBook Proの状況からほぼ推測できる部分だったのだが、特に今回クローズアップされたのは次に続くバッテリの要素だった。17型MacBook Proのバッテリは15型やMacBookのように交換可能なスタイルではなく、本体内に内蔵されるMacBook Airと同じスタイルをとることが明らかにされた。
シラー上級副社長が「我々の製品のなかで最大のバッテリ持続時間」というそのスペックは、GeForce 9400Mの利用時で最大8時間(9600Mでは7時間)。ちなみに15型では5時間(同4時間)とされている。バッテリの性能については、MacBookファミリーが発表されたときと同じように技術や製造工程を紹介するビデオが用意されており、基調講演で上映されたほか、いまは同社のサイトで見ることができる。
ビデオ映像によれば、新バッテリは充放電におけるライフサイクルを最大1,000回程度まで伸ばしているとのこと。この時点でも初期の約8割の能力を有するという。また交換可能なスタイルにしなかったことで円柱状のセルを板状にすることが可能となり、スペースあたりのバッテリ本体の密度がより効率的になったとしている。こうした条件を積み重ねることで、最大8時間のバッテリ駆動時間と交換不要のエコロジーな製品を実現したという。
シラー上級副社長によって公開された同製品のCMも、エコロジーを前面に打ち出したものとなっていた。ちなみにこのCMや基調講演の会場で使われていたバナーは、Mac OS X 10.5 Leopardが開発期間中だった際にはデフォルトで設定されていた壁紙で「Grass Blades」。システム環境設定では「植物」のカテゴリから選択することができる。
17型MacBook Proにもついに採用されたアルミニウム削り出しによるユニボディ | 「0.98インチの本体厚と6.6ポンドの重量は17型のノートブック製品のなかでも最薄、最軽量だ」とシラー上級副社長 | LEDバックライト。1920×1200の解像度と水平方向に140度、垂直方向に120度の視野角をもつ |
ノングレアタイプパネルへの変更は有料 | 奥行きがあるのを利して、15型の2個から3個へと増えたUSB2.0ポート | 今回、強くクローズアップされた17型MacBook Proのバッテリ性能 |
円柱状のセルから板状のセルにすることでスペースあたりのバッテリ密度が向上する /small> | 放映された同製品のCMでは、エコロジーを全面的にアピール | 1,000回の充放電が可能。有害物質をなくし、リサイクルの容易さも強調されている |
●One last thing…はiTunes。そして…
シラー上級副社長は、最後にOne last thing… を用意していた。それはiTunesに関わる内容で、2003年4月にサービスを開始したiTunesにおいて、2009年の転換を意味するものであった。iTunes Storeではこれまでに6億曲を販売。1,000万曲が登録されており、7500件のクレジットカード情報が登録されたアカウントがあるという。CDも含めた幅広い意味の音楽販売においても、WalmartやBestBuy、Amazon、Targetなどをおさえて第1位のシェアを獲得していることをあらためて紹介した。
その上で、2009年に起きる転換の1つとして四大メジャーレーベルの1曲あたりの価格設定が従来の99セント固定から、69セント、99セント、1ドル29セントと段階的に選択されることが発表された。この変更は2009年4月1日から実施される。
またiTunes Plusとして一部のレーベルで提供されていたDRMフリーで256K AACエンコーディングのフォーマットをすべての曲へと拡大。同日付で800万曲、今四半期の終わりには残りの200万曲にも対応して、すべての楽曲がDRMフリーになると発表された。すでに米国のiTunes Storeに有効なアカウントでアクセスすると、既存のライブラリを1曲あたり30セントでDRMフリーのものにアップグレードできるようになっている。
さらにiPhoneでiTunes Storeを利用する際は、これまではWi-Fi接続に限定されていたが、3Gネットワークからのプレビューや楽曲の購入が可能になった。
ちなみにこれらiTuens Storeについて発表された内容は、すべて北米地域でのサービスに準ずるもので、日本国内のサービスについては現時点で一切の変更のアナウンスがされていないことに注意して欲しい。
4月1日をもって、四大メジャーレーベルの1曲当たりの価格に転換がおとずれる | 楽曲の価格は、69セント、99セント、1ドル29セントと段階的に選択されることが発表された | DRMフリー、256k AACエンコーディングのiTunes Plusが全楽曲へと拡大 |
当日付で800万曲、今四半期の終わりには1000万曲を超える楽曲がDRMフリーに | 北米のiTunes Storeでは、1曲あたり30セントで既存のライブラリをiTunes Plusにアップグレードできる | これまではWi-Fi接続に限られていたiTunes Storeからのダウンロードを3Gネットワークにも開放する |
最後に恒例となった音楽演奏は、日本のオールドファンにもうれしい男性ヴォーカリストのTony Bennett氏。2曲を披露したが、その2曲目が名曲「I Left My Heart in San Francisco (霧のサンフランシスコ)」とあって、会場は熱狂的な声援と過去最高のスタンディングオベーションに包まれていた。
最後にご当地の名曲「I Left My Heart in San Francisco (霧のサンフランシスコ)」を歌い終えると、会場内は総立ちでスタンディングオベーションを送った |
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【1月7日】Macworld Conference&Expo開幕速報
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0107/mw02.htm
(2009年1月8日)
[Reported by 矢作 晃]