元麻布春男の週刊PCホットライン

AMDが製造部門を分離。巨額の投資を受け入れ




●ファブを分離して製造会社を設立

 10月7日、AMDは“Asset Smart”戦略に関するカンファレンスコール(電話を中心にした説明会)を開催し、かねてから噂されていた製造部門の分離を含む事業再編計画を発表した。それによると要点は2つ。

1.製造部門の分離

 AMDは製造部門の施設、知的財産権、従業員、負債を分離、アブダビの投資会社Advanced Technology Investment Company(ATIC)と共同で設立する半導体製造のファウンダリ会社(暫定的にThe Foundry Companyと呼ばれる)に移管する。ATICはThe Foundry Companyの経営権の見返りとして、AMDに7億ドルを支払うほか、The Foundry Companyに14億ドルを出資する。

 The Foundry Companyは、AMDとATICのみを株主とする。両社は対等の議決権を持つが、出資比率はAMDの44.5%に対し、ATICが55.5%となる。また、両社は将来的に等しく出資する権利を有するが、AMDが出資を見合わせた場合、ATICの出資比率がさらに高まる可能性がある。

 ATICは向こう5年間に36億ドルから60億ドルをThe Foundry Companyに投資して、ドレスデンとニューヨークの製造施設(Fab)の整備と建設にあてる。AMDはThe Foundry Companyの最先端製造技術への優先アクセス権を持つ一方で、The Foundry CompanyをCPUの独占的製造パートナーとする。The Foundry Companyは、AMDに加え、他社の半導体製品を製造するファウンダリ事業を展開する。

2. MubadalaによるAMDへの追加投資

 アブダビの投資会社Mubadala Developmnent CompanyはAMDの新規発行株式5,800万株と3,000万株分のワラント(新株予約権付社債)を3億1,400万ドルで引き受け、AMDの取締役会に役員1名を送り込む。Mubadalaは2007年11月に6億2,200万ドルを投資しており、今回の投資と合わせるとMubadalaの持ち株比率は19.3%となる。

●Fab38が稼働、米国内に新工場も

 つまりAMDは、製造部門を分離し、その経営権の半分をATICに譲渡することで7億ドル、自社の経営権の約20%をMubadalaに渡すことで約3億ドル、計10億ドルあまりの現金を手にすることになる。

 The Foundry CompanyはAMDの連結対象であるため、AMDが完全なファブレス企業になるわけではないが、将来的に莫大な資金が必要となる半導体製造技術への投資という重荷を大幅に軽減できる。

 ではリスクはないのだろうか。おそらくそのカギは、分離したThe Foundry Companyがうまくいくかどうか、が握っている。The Foundry Companyに出資するATICは、今年設立された投資会社で、今回のAMDに対する投資が最初の大きな案件となる。ATICはThe Foundry Companyを長期的な投資案件と考えており、すぐに放り出すとは思えない。が、何年も巨額な赤字が続くようだと、いくらオイルマネーの後ろ盾があるといっても、いつまでも良い顔ばかりはしていられなくなるだろう。

 AMDの製造部門がThe Foundry Companyとして分離されて大きく変わりそうなことは、The Foundry Companyが限定的な例外はあるとしながらも、AMD製CPUの独占的な供給者となることだ。現在、AMDのCPUは、AMDの自社工場(ドレスデンのFab36)と、シンガポールのファウンダリ企業であるChartered Semiconductorで製造されている。Charteredは、今回の再編でババをつかみそうな情勢だ。

今回の発表で各陣営にもたらされる利益。ここにChateredの文字はない 昨年暮れのFinancial Analyst Dayでは、TSMC、UMC、Charteredは、戦略的なパートナーだったが戦略は180度変わった 旧AMDの製造部門であるThe Foundry CompanyにとってTSMC、UMC、Charteredは先発の競合会社となる

 Charteredに代わって、The Foundry Companyは、自社の製造施設としてドレスデンのFab38を稼働させる計画だ。Fab38は、200mmウェハの工場だった旧Fab30を300mmウェハの工場に転換したものだが、実際には稼働しておらず、塩漬け状態となっていた。

 さらにThe Foundry Companyはニューヨーク州サラトガに新しい300mmウェハ工場となるFab4xを建設する計画だ。ニューヨーク州は、教育レベルの高い労働者を雇用するハイテク企業の誘致に力を入れており、Fab4xの建設には12億ドルのインセンティブパッケージ(優待条件)が用意されていると言われる。この好条件と、技術開発パートナーであるIBMの開発拠点が州内にあるといった地理的条件が、Fab4x建設の魅力となっている。

最先端の半導体製造工場に必要な開発費と設備投資額は上昇の一途をたどる Fab4xの建設が地元にもたらす効果。12億ドルのインセンティブもすぐに元がとれると言わんばかり Fab4xの完成予想図

 問題は、3カ所の300mmウェハ工場をフル稼働させられるかどうかにかかる。現時点で、2カ所の工場(Fab36とCharteredのFab7)でさえフル稼働には遠い状態だと言われているが、大きなキャパシティを持つ300mmウェハ工場がさらに1カ所追加になる。現状には、期待を持って送り出したBarcelonaがバグでつまずいたという考慮すべき事情があった。これは払拭されようとしているが、それよりもっと大きな経済情勢の悪化という問題が顕在化している。AMDにとって最も利幅が大きいのはサーバー用プロセッサであるOpteronだと思われるが、その得意客であった金融業界は、当分立ち直りそうにない。

 それを踏まえると、AMD以外の顧客の半導体を製造するファウンダリ事業が重要になるわけだが、AMDは他社に製造を委託したことはあっても、他社が設計した半導体を製造した経験は、大昔のIntel(80286までのセカンドソース生産)の後はほとんどない。本格的なファウンダリの経験は乏しく、そのビジネスノウハウを、これから学んで行く必要がある。

 AMDがファウンダリ事業を展開するにあたって厄介な問題は、現状の同社の製造プロセスがSilicon on Insulator(SOI)である、ということだ。SOIはハイエンドプロセッサに適した高性能なプロセスだが、コストも高いため、市場が限られている。おそらく世界最大のユーザーがAMDだ。AMD自身がATI買収後もGPUやチップセットの製造を外部のファウンダリ(TSMCおよびUMC)へ委託している理由の1つはこれだと考えられる。

 SOIプロセスのままでは、ファウンダリ事業を展開することが難しいため、今回、32nmルールからSOIと並行して、バルクシリコンプロセスの開発も行なうことが表明された。これにより、ファウンダリ事業の展開が可能になると同時に、GPUやチップセットの内製化にも道が開けるわけだが、それはまだ1世代以上先(今年の第4四半期に45nmプロセスの実用化を予定している)である上、限られたリソースで2種類のウェハに対応した製造プロセスへの投資を続けていかねばならないという問題が残る。ちなみに、Intelの量産品はすべてバルクシリコンだ。

 とはいえ、赤字体質が続いていたAMDにとって、直近の資金繰り問題が解消すると同時に、将来の投資負担を大幅に軽減することになる今回の投資は歓迎すべきことだろう。このところAMDが開催するプレス向け説明会は、GPUやチップセットなど旧ATI製品ばかりで、CPUについては触れられなかったが、財務問題が一定の解決を見たことで、将来の計画が活発化することだろう。それを楽しみに待ちたいところだ。

□AMDのホームページ(英文)
http://www.amd.com/
□ニュースリリース(英文)
http://www.amd.com/us-en/Corporate/VirtualPressRoom/0,,51_104_543~128482,00.html?redir=FDR001
□今回の発表に関するまとめ(英文)
http://web.amd.com/newglobalfoundry/

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(2008年10月8日)

[Reported by 元麻布春男]


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