■年末特別企画■1万円台のキーボード6モデルを試す
PCユーザーにとってキーボードは欠かせない存在だ。PCとのコミュニケーションをとるために必須なデバイスであり、PCを利用していれば必然的に、マウスと並んで、最も多く触れるデバイスであるだろう。このため、キーボードの使い勝手がPCの使い勝手自体を大きく左右する。 そこで今回は、ベーシックな配列と、キータッチに定評のある1万円台のキーボードを、1種類のスイッチにつき1機種ずつ取り上げ、紹介しよう。その時代のトレンドや機能を一時的に取り入れたものよりも、優れたキータッチを実現したキーボードこそ、長期に渡って利用できるものだ。 ところで、キーボードの評価は、個人的な好みが反映するので難しい。そこで、ここでは筆者の好みを明らかにしておこう。私自身は、東プレの高級キーボード「RealForce106」を約5年間愛用しており、既に手放せない状態になっている。RealForceが好みの人であれば、筆者の評価を肯定的に、昔のIBM PS/2のようにタッチが重めでスイッチがはっきりしている製品が好みであれば、筆者の評価を否定的に受け取っていただければよいと思う。いずれにしても、各製品に対する1つの意見として受け止めていただければ幸いだ。 ●RealForce106 「RealForce106」は東プレ株式会社が長期に渡り生産している、静電容量方式キーボードのロングセラーモデル。現在の実売価格は16,000円前後だ。今回は筆者が使用中のものを利用した。 非常にシンプルなデザインで、余計な飾りは一切ない。キー配置は非常にベーシックな配列でクセがなく、どのキーボードから乗り換えたとしても快適に操作できるだろう。また、最近のキーボードでは少なくなってきたが、ファンクションキーと文字キーは色分けされており、視認性がよい。 本体は重量感がある。これはキースイッチの底に厚い鉄板が張られているからである。このためキーをストロークしたときの底打ち感が強く、力を入れてもキーボードがたわむことは一切ない。
横から見ると、なだらかで直線的な斜面を描くが、キーの角度は列によって異なるステップスカルプチャーで、手前から奥まで指が届きやすい。高さは2段階に調節可能。滑り止めは前面にのみ備えられている。 キートップは梨地仕上げで、適度なザラツキがあり、シンプルながら、高級感がある。印字は昇華印刷で長期利用においても、削られて印字がなくなることがない。 キーは変荷重で、小指などで入力するキーは30g、主要キーは45gの力で動作するようになっている。タッチタイピングをする際に、小指にかかる負担を最小限に抑えており、非常に快適である。キーは底打ちしなくても反応するようになっている。静電容量方式は無接点であることが特徴で、1つのキーにつき3,000万回までの打鍵に耐えうる。現時点において最長クラスの寿命と言えよう。打鍵音は静かなほうで、気になるユーザーは少ないだろう。 インターフェイスはPS/2。機能面では突出した部分はないが、完全なNキーロールオーバーと全キー同時押しをサポートする。これはPS/2接続だからこそ実現したものだ。高速入力が求められるオペレータはもちろんのこと、同時押しが多いゲーマーにも多く愛用されている。 やや値は張るものの、いわゆるキーボードのお手本のようなものだ。他のキーボードを購入する前に、まずこちらに触ってみて検討されたい。 なお、このほかにも、全キーの負荷重を30gに統一した「RealForce106S」や、テンキーを省いた「RealForce91」、英語版、USB版など、さまざまなラインナップを展開している。購入の際にはそちらも視野に入れていただきたい。 □RealForceの製品情報 ●Libertouch 「Libertouch」は富士通株式会社がRealForce対抗として送り出した製品だ。ヨドバシカメラでの購入価格は17,800円だった。 本体はシンプルなデザインだが、NumLockなどのインジケータを本体中央に備えているのが特徴。キー配列はRealForceと同様非常にベーシックでクセがない。ファンクションキーと文字キーは同じホワイトに揃えられている。 本体は非常に重量感があり、RealForce以上の重さだ。キースイッチの底に頑丈な鉄板が張られているからであろう。キーストロークの底打ち感が非常に強く、キー全体がたわむことは一切ない。非常に剛健な作りだ。 RealForceと同様、キーの角度は列によって異なるステップスカルプチャーで、手前から奥まで指が届きやすい。高さは2段階に調節可能で、傾斜をつけることができる。滑り止めは前面にのみ備えられている。 キートップは梨地仕上げだが、やや残念なことにチープな印象を受ける。印字方式は公開されていないが、レーザーマーキングと見られる。印字はやや薄めだ。
Libertouchの一番の特徴は、メンブレン式のキースイッチを採用しながら、快適な打鍵性を実現しているところだろう。メンブレン式は一般的に低価格キーボードで採用されている方式であり、キータッチに関して評価されることが少ない。一方Libertouchはメンブレンで実現しうるもっとも快適な打鍵を追求し、理想的な押下荷重と押下量の変化を実現し、ピーク荷重からボトム荷重でスイッチが動作するようになっている。このためキーを完全に押し込まなくても入力できる。打鍵音も静かで非常に快適だ。 もう1つ特徴的なのは、キー荷重をユーザーが3種類にカスタマイズできること。標準では45gのラバーが備わっているが、35gと55gのラバーが15個ずつ、キートップ外し用レバーが付属しており、ユーザーが自分の好きなキーを好きな荷重に変更することができる。RealForceではあらかじめ小指の部分を軽量化しているが、Libertouchではそれ以上の自由度でカスタマイズできるわけだ。
実際に小指で入力する部分を変更すると、確かに弱い力で動作し、小指への負荷がかなり改善された。一方、人差し指で入力する部分を55gに変更してみると重くなり、あたかも他の指と均一な力で入力できるような感覚を得ることができた。 インターフェイスはUSB。機能面では、背面USB Hubを1基備えることが特徴。なお、接続はUSB 1.1までとなっているため、ケーブルが短いマウスなどを接続する用途に留まるだろう。 メンブレンとしては非常に高価だが、カスタマイズ性の高さや打鍵の快適さは魅力的。店頭で是非、ほかのメンブレン式との違いを感じ取ってもらいたい。 □Libertouchの製品情報 ●G80-3600 「G80-3600」は、ドイツのキーボードスイッチメーカーCherry純正のキーボードだ。クレバリー2号店での購入価格は11,980円だった。 Cherryはキーボードのメカニカルスイッチを手がけるメーカーで、スイッチのOEM提供をメインとしている。押下圧に対してストロークがリニアに変化する「黒軸」や、クリック感のある「茶軸」などが有名だが、G80-3600は黒軸より軽いリニアストロークの「赤軸」と呼ばれるスイッチを採用している。 本体は非常にシンプルなデザインだが、F1~F12キーの列と、アルファベット/数字キーの間が大きくとられている。また、F1~F12キーの上は大きくスペースがとられており、ほかのモデルと比較すると机上のスペースをかなり占有する。キーの色分けは特にない。
本体は重量感があり剛性は高く、キーの底打ち感は高いが、キーの底に鉄板が入っているわけではなさそうで、力を入れると周囲のキーがややたわむ。とは言うものの、廉価なキーボードと比較するとかなり丈夫であり、また、44g前後の押下圧でスイッチがONになるため、気になることはなかった。 キーの角度は列によって異なるステップスカルプチャーで非常に快適。高さは2段階に調節可能だが、スタンドを立てたとしてもそれほど傾斜がつけられるわけではない。やや気になったのはスペースバーで、一般的な凸型ではなく凹型だ。最初は違和感を覚えるかもしれない。
キートップは梨地仕上げでなめらかなフィーリング。キートップの印刷方式は不明だが印字が濃く視認性はよい。気になったのは「L」のキーで、ひらがなの「り」がほかのキーよりも大きく印字されている。僚誌のAKIBA PC Hotlineでは、誤って「い」と印字されていたロットが確認されたため、何らかの形で後から交換したものだと思われる。 気になる打鍵感だが、後述する黒軸より軽いリニアストロークで、感覚的には「クリック感はないがRealForceに近い」といった感じであり、心地よい。キーは底打ちしなくても反応するため、キーボードをなでるように入力できる。打鍵音は、摩擦音がやや大きめだが気になることはなかった。 インターフェイスはUSBで、USB→PS/2変換コネクタが付属。パッケージ裏の印刷によれば、Nキーロールオーバーをサポートしている。試した限り、USBでは6キー前後まで、PS/2ではほぼ全キーの同時押しをサポートするようだ。性能を最大限に生かしたいのならPS/2での接続をお勧めする。 Cherryからの純正キーボードが日本国内で一般販売されるのは珍しい。店頭で触って気に入ったのなら即買いだろう。 □G80-3600 ●OWL-KB112MTEN(B) 「OWL-KB112MTEN(B)」は、オウルテック製でCherryの黒軸を採用したキーボードだ。ビックカメラ有楽町店での購入価格は12,980円だった。 ほかの機種と同じく非常にシンプルな配列だが、スペースバーがやや長く、Altキーなどがやや左側に詰められている。このためAlt+Tabを押そうとすると誤って無変換+Tabを押してしまうことが何度かあった。 NumLockなどのインジケータは対応するキーそのものについており、空いた右上のスペースに音量調節のキーが追加されている。LEDはブルーで、真上から見たときはかなり眩しい。暗い部屋ではやや目障りだ。 本体は重量感があり剛性は高く、底に鉄板が入っているためキーの底打ち感はしっかりある。今回取り上げた機種の中で唯一、着脱可能なパームレストが付属しており、お買い得感が高い。 キーの角度は列によって異なるステップスカルプチャーで快適。高さは2段階に調節可能で、いずれのポジションでもパームレストの装着に影響することはない。
キートップは梨地仕上げでフィーリングは良い。キートップの印刷方式はシルク印刷で、視認性が良い。やや気になるのは「F」と「J」キーに印刷された「は」と「ま」の文字で、ホームポジションを認識するための出っ張りを回避するためややずれて印刷されている。使用上に支障はないが、ちょっと格好悪い。 スイッチは重めのリニアストロークで定評がある黒軸を採用したもの。赤軸と比較するとストローク開始時の押下圧は約10g、底打ち時の押下圧は約20gほど重い。キーは底打ちしなくても反応するが、力があまり入らない小指への負担は大きく、エンターキーやカーソルキーを小指で打つときにストレスを感じた。一方、打鍵音は赤軸より摩擦音が抑えられて静かと感じた。 インターフェイスはPS/2で、PS/2→USBの変換コネクタが付属する。キーロールオーバーはPS/2接続時で10キー、USB接続時で8キーまでとなっている。ケーブルはシールドされた堅めのタイプで、キーボード底に溝があり、左右のどちらにもケーブルが出せる。 キー自体は筆者の好みには合わなかったが、この製品はパームレストやシールドケーブル、ボリューム調節キーなど、ほかの機種にはない特徴がある。黒軸が好みのユーザーには良きパートナーとなるだろう。 □OWL-KB112MTEN(B)の製品情報 ●マジェスタッチ 「マジェスタッチ」は、ダイヤテックのFILCOブランドで、Cherryの茶軸を採用したキーボードだ。ビックカメラ有楽町店での購入価格は9,450円だった。 非常にシンプルでベーシックな配列だが、オウルテックのOWL-KB112MTEN(B)と同様、スペースバーが長く、Altキーなどがやや左側に詰められている。ただし本体は狭縁で、非常にコンパクトにまとめられている。テンキー付きフルサイズでありながら、スペースを有効活用できる点では大きく評価できる。インジケータはブルーLEDでやや眩しいが、利用時の角度から見れば気にならない。 本体は重量感があり、剛性は高い。底に鉄板が入っているためキーの底打ち感は強い。ここらあたりの作りはさすがFILCOと言ったところだろう。 キーの角度は列によって異なるステップスカルプチャーで快適。高さは2段階に調節可能だが、角度がそれほど急激に変化するわけではない。そもそも、デフォルトの角度がやや高めのように感じられた。 キートップはどちらかというとツルッとしたタイプだが、滑ることなく、同価格帯でもトップクラスのフィーリングだろう。キートップの印刷方式はシルク印刷で、視認性も良い。
スイッチはCherryの茶軸で、メカニカルのお手本のようなものだ。打鍵は軽快でクリック感がよく、1文字ずつ、入力するたびに確実なタイピング感を得ることができる。打鍵音はクリック音がやや大きめで、ほかの機種と比較すると見劣りするが気になるほどではない。 インターフェイスはUSBで、PS/2変換コネクタが付属する。Nキーロールオーバーには非対応であり、USB、PS/2接続時のいずれの時でも5~6キー程度までの同時押しとなるようだ。ここのあたりが気になる人は、やや3,000円ほど上乗せになるものの、Nキーロールオーバーをサポートした上位モデルも出ているのでそちらを選ぶと良いだろう。 本機の最大の特徴はやはりそのコンパクトさにある。机のスペースが限られているが、テンキーはどうしても必須というユーザーは真っ先に検討すべきだろう。 □マジェスタッチの製品情報 ●USB K/B W/ULTRANAV JAPANESE 「USB K/B W/ULTRANAV JAPANESE」は、レノボがThinkPadやThinkCentreのオプションとして提供する、パンタグラフタイプのキーボードだ。クレバリー2号店での購入価格は13,648円だった。 本機最大の特徴は、ノートPCの中でもキーボードの打鍵感がよいと定評のあるThinkPadの7列キーボード配列を採用しつつ、テンキーとトラックポイント、タッチパッド「UltraNav」を装備している点だ。 このため、ThinkPadなどのノートPCのインターフェイスに慣れたユーザーなら、違和感なくすんなりと本機へ移行でき、デスクトップPCでもまったく同じ操作感を得られる。メインの利用がノートで、サブがデスクトップというユーザーにお勧めだ。 本体は軽量であるものの、その重さ以上の剛性があり、キーの底打ち感は強い。このあたりはしっかりとThinkPadキーボードのクオリティを引き継いでいる。 キーはノートPCと同様、直線的な配列。高さは3段階に調節可能で、最高段に設定した場合かなりの傾斜がつく。しかし手前のタッチパッドのおかげでパームレストが大きく、いずれの角度においても手のひらをサポートしてくれる。
キートップはThinkPadと同様の梨地仕上げ。印字はThinkPadと同様にシール式で、長時間の使用で削れそうだ。 キータッチとしては、最新のThinkPad XやTのようなフィーリングではなく、ThinkPad Rや旧機種のような感触。トラックポイントの左右ボタンに赤いラインが入っていることからもわかるように、全体的にやや古い設計を引き継いでいるようだ。打鍵音はパンタグラフということもあり非常に静か。深夜に使っていても気になることはないだろう。 そして本製品でもっとも評価されるべきなのはトラックポイントとUltraNavの存在だろう。トラックポイントは、ホームポジションから手を動かすことなくマウスポインタが動かせるため、作業効率を高められると定評があるが、本製品もまさにその通りで、ちょっとしたカーソル操作ならトラックポイントで済ませられる。トラックポイントの動きも非常に軽快で、指が疲れることもなく快適だ。 一方UltraNavは通常のタッチパッドとして使うだけでなく、付属のドライバで、トラックポイントよりも遅い動きで精確な操作を必要とするときのサポートポインティングデバイスとして使うことも可能だ。 インターフェイスはUSB。本体に2ポートのUSB Hubを内蔵しているため、使い勝手は良い。なお、ケーブルは本体に収納スペースがあり、持ち運びもある程度配慮されている。Nキーロールオーバーは対応しておらず、同時押しは6キーまでとなる。
ノートPCに慣れているユーザーはもちろんのこと、本来ノートPC対応のPCラックをデスクトップPCで使っていて、マウスを動かすスペースがないというユーザーにもお勧めできる。奥行きはマジェスタッチと比較すると見劣りするが、横幅を削減できるメリットは大きいといえよう。 □USB K/B W/ULTRANAV JAPANESEの製品情報 ●まとめ 以上、6種類のスイッチを採用したキーボードを見てきたが、結局のところタッチの良し悪しはユーザーの好みで分かれる部分もあり、一概には「これがお勧め」とは言いづらいのも事実。ただしどのキーボードに乗り換えたとしても、4,000~6,000円台のキーボードとは比較にならないほど快適になるはずだ。最後に主なスペックを一覧表にまとめてみたので、購入の際の比較の役に立てればと思う。
(2008年12月18日) [Reported by ryu@impress.co.jp]
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