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国内ネットブック/UMPC開発者インタビュー【イー・モバイル編】
100円PCを生み出した通信キャリアが目指すところ

イー・モバイル筒井雅彦氏


 イー・モバイルは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、ウィルコムという4社しか存在していなかった日本の携帯電話ビジネスに新規参入した企業。もともとはインターネットプロバイダ事業を行なっていたイー・アクセスが母体となった通信キャリアだ。イー・モバイルの特徴は、サービス開始時点では音声サービスを提供せず、PCなど向けのデータ通信サービスに焦点を当てていることで、月額5,980円という比較的低価格で、下りが7.2Mbps(理論値)の高速通信サービスを提供している。

 同社が量販店などに提供している「マックス」と呼ばれるデータプランにより、販売店は、PC本体の価格を割り引いてデータカードをバンドルして販売することが可能になっている。これにより、例えば単体では当初49,800円で売られていたASUSTeK「Eee PC 4G-X」などが100円という衝撃的な価格で販売される事態となった。

 今回は自社ではネットブック製品は出していないが、そのブームに大きな貢献を果たしたイー・モバイル 経営戦略本部 サービス企画部長 筒井雅彦氏に、そうした販売方法に至った経緯などを聞いてきた。

●イー・アクセス時代にも取り組んでいたPCとの同時購入の延長線上の施策

Q イー・モバイルがPCとのセットで割安になる価格設定をしている経緯を教えてください

筒井氏 PCとのセット販売に関しては、弊社の母体であるイー・アクセス時代からも取り組んでいた手法でした。当時は販売店独自の判断で、PCとの同時購入で3万円引きなどというキャンペーンをずっとやっていました。

 弊社では昨年の3月31日からモバイルブロードバンドサービスを開始しました。それに伴って、工人舎さんやエイサーさんとは固定系のブロードバンドと同じように3万円引きといったキャンペーンをやっていましたが、あくまでスポットで大々的にやってはいませんでした。

 そうした中で、ネットブックという、スペックは低いけど価格が安くて、本当の意味で携帯できるPCと、当社のモバイルブロードバンドアダプタをセットで販売していきたいというリクエストを量販店さんなどから多数頂いていました。また、PCメーカーさんからも、よりPCと結びつきの強い施策を一緒にやれないかというお声がけも頂きまして、弊社の中でもう少しお客様のイニシャルのコストを抑えたプランを作れないかと検討していったのです。

USBデータ通信カード「D21HW」

 そうして出てきたのが、弊社がマックスと呼んでいるプランで、それをもとに量販店さんなどがPCとのセット商品を計画し、その流れででてきたのがいわゆる「100円PC」と呼ばれる販売方法なのです。ご存知のように、商品をどう販売するかは販売店さん次第なので、弊社がどうのこうのできるわけではないのですが、安い価格帯の方がインパクトがありますよね、というお話はさせていただいてました。

Q イー・モバイルがインセンティブを出すことで、販売店はPCを安く販売できるという仕組みだと理解してよいですか。

筒井氏 そういうことになります。

Q PCに目をつけたのはなぜですか

筒井氏 弊社にとってのゴールは弊社の商品とサービスを売ることです。ただ、販売店における携帯のスペースというのは限られています。特に携帯電話の販売スペースは狭い場所を複数のキャリアで取り合っていますので、新規参入である弊社が入っていくのはなかなか厳しい。しかし、PCの販売スペースであれば、入っていきやすいのではないかと考えました。弊社の場合、イー・アクセス時代に固定ブロードバンドの販売でPC販売の世界に精通した人間がおりましたので、まずそこに行ってみようと考えました。

Q 最近量販店などで、ネットブック専用のコーナーを見かけるようになりましたね。

筒井氏 弊社の方から積極的にコーナーを作って欲しいとお願いしている場合もありますし、そうでない場合もあります。どちらかと言えば、最近は量販店さんが自ら積極的にコーナーを作られて販売していることが多いと思います。量販店さんからすれば、製品も回線もどちらも売ることができるメリットがあるのだと思います。

Q PCの世界に入って行くにあたり、他のキャリアがやっているように自社ブランドPCを出すという手法をとらずに、他社のブランドをそのまま使うようなこうした販売手法を採用したのはなぜですか。

筒井氏 やはり手っ取り早いというのはありました。もう1つは、PCにイー・モバイルのブランドをつけたとしても、それを指名買いするユーザーさんというのはいないだろうし、特定の製品だけになってしまうとパイが小さくなってしまうだろうと考えました。もちろん、それを始めた当時には台湾メーカーさんのブランド認知度はどうなんだろうという話はありましたが、弊社としてはどのメーカーさんとも平等におつきあいさせていただきたいと考えていましたので、メーカーを限定することなくお話をさせていただきました。そのように、多くのメーカーさんとご一緒させていただくことで、エンドユーザーの皆様のさまざまなニーズに応えていくことができると判断しました。

Q ということは、どのPCメーカーでもこのキャンペーンに相乗りしたいと考えた場合には参加できるということですか。

筒井氏 特に特定のメーカーさんと契約とかをさせていただいているわけではありません。あくまで販売ベースのところでのお話ということになります。弊社、メーカーさん、販売店さんの3者の協力という形で成り立っています。

Q こうしたプランを決めた当初には、ここまでネットブックなどが大きな流れになると考えていましたか。

筒井氏 サービス開始直後から、B5サイズ以下の軽量でWebとメールができるノートPCが欲しいという意見は多数頂いていました。我々としてはこうした製品は2台目のPCだと見ているのです。例えば家庭にはすでに1台はPCがあるだろうと。その次に必要になるのが、家庭でも1人1台で使うノートPCではないかと。弊社のサービスはPCとの親和性が高いので、ある程度は成功するだろうと考えていましたが、正直に言ってここまでメディアで取り上げられるようになるほどになるとは思っていませんでした

●実際のユーザーの実際の選択は1~2万円の商品が多い

Q 実際の販売価格を見ていると結構安いですよね。価格の中には通信モジュール(USBドングルやPCカード)分も入っていますから。これでコストは回収できるのでしょうか。

筒井氏 ネットブックはネットに接続しないという使い方はあまり考えられないので、ある程度は使っていただけるだろうと見込んでいます。また、契約上も2年間お使いいただくことが前提になっています。弊社の場合、後発なのでネットワーク機器などは他のキャリアさんに比べると低コストで調達できていますので、その点を考慮すると採算性は十分ある価格設定になっています。

Q TCA(社団法人 電気通信事業者協会)の調査によると、特に8月以降、イー・モバイルの契約者数は増えていますが、ネットブックのその影響は大きかったのでしょうか。

筒井氏 そうですね、ネットブックの影響も大きかったと思います。具体的な数字というのは申し上げにくいのですが、大手量販店で見る限りは単体よりもPCとセットの方がちょっと多いのではないかと思っています。このキャンペーンは7月11日から始めているのですが、大手量販店のある旗艦店では、初日だけで前日比200%とか、地方の量販店では売り切れ店もでたりなどの反響は大きかったですね。

Q やはりPCが100円という価格のインパクトは大きかったと思うんですが、それは意識されていたのですか。

筒井氏 そうですね、出だしはやはり重視していました。結果的に100円という価格を販売店さんが設定されているので、それを見て足を止めていただく方は非常に多いようです。ただ、実際に100円のモデルを購入される方は2~3割で、ほとんどの方は1万~2万円の価格帯の製品を購入されていく方が多いようです。というのも、実際に100円のモデルを見てみると、画面が小さかったり、質感の点で満足できないという方が多いようです。1万円ぐらいの差なら、こっちがいいなぁ、という話になるようです。

●コスト次第で内蔵型にも積極的に取り組んでいきたい

Q 現時点ではPCカードやUSBドングルなど通信モジュールが外付けになっているものだけとなっています。近い将来にPCにモジュールを内蔵したりした製品を販売することは可能でしょうか。

筒井氏 内蔵型に関しては、弊社としては実現できるのであれば積極的にやっていきたいというのがスタンスです。ただ、コスト的には通信モジュールとPCが別々の方が安いのもまた事実です。PCに内蔵してしまいますと、PCを販売する時にそれを利用しない方にも負担していただかなければならなくなりますし、加入する方だけに売るとなるとPCの価格が上がってしまう。そのあたりを上手に解決できる方法が見つかればぜひとも取り組んでいきたいです。

Q PCメーカーが本体を、イー・モバイルがSIMカードをという販売方法はありなのでしょうか。

筒井氏 もちろん可能です。ただコスト的に見合うのか、そうでないのかが重要なポイントです。弊社でもいくつかのメーカーさんとお話をさせては頂いていますが、ある程度のところまで話が進むとやはりコストが大きな壁になってしまっているのです。

Q それはイー・モバイルが1.7GHzという世界的に見ても特殊な周波数を利用していることが影響していますか。

筒井氏 チップそのものコストという意味では1.7GHz用のものは、他の周波数用に比べて若干高いというのはあります、しかし一番大きな理由は、弊社向け専用のPCを作ると、製造ラインが別になり、在庫の管理も大変になって、コストが上がってしまうのです。そのあたりを解決できることができれば、おもしろいことができるとは考えています。

Q PCやスマートフォン以外の機器への展開はどうでしょう。

筒井氏 そういうのも積極的に取り組んでいきたいとは思っています。弊社が企画しているわけではありませんが、ある量販店さんではPSPなどの携帯ゲーム機と弊社回線をブロードバンド回線として利用できるWiFiルーターとのセットで販売されている例もあります。内蔵前の段階として、組み合わせという方法も今後も取り組んでいけたらいいなと思っています。

Q そうですね、モバイルブロードバンドは、いろいろな意味で世の中を変える可能性を秘めていると思います。

筒井氏 そもそも弊社がイー・モバイルでやりたかったことはまさにそこにあるんです。弊社はイー・アクセスで固定系でのブロードバンドの普及を目指してきました。今はもう光ファイバーまでいってます。そこでの経験を、モバイルでも活かすことができるだろうと考えてこの事業を始めたのです。今後ともお客様にそうしたサービスを提供していきたいと考えているので、ご期待ください。

□イー・モバイルのホームページ
http://emobile.jp/
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【10月29日】ネットブックに最適な定額データ通信サービスを検証(BB)
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(2008年11月28日)

[Reported by 笠原一輝]

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