山田祥平のRe:config.sys

Windows 7は標準を作らず、標準に従う




 Microsoftは「標準」を生み出すことよりも、「標準」に従うことのプライオリティを高めたのではないか。今回のWindows 7には、その印象を強く持った。DLNAのサポートや、メディアプレーヤーの各種コーデック対応などは、その一例だ。

●標準的なコーデックの多くをサポート

 とにかくいろんなデバイスを繋いでみようと、Windows 7と格闘中だ。まずは、新コーデックが、どのような動きをするのか気になったので、ごく一般的なMP3プレーヤーを接続してみた。手元にあったのは、SanDiskとSamsungの製品だが、USB端子に接続すると、両方ともインボックスドライバが組み込まれ、ポータブルメディアプレーヤーとして認識された。

 一方、Windows 7標準添付のWindows Media Playerは、最初の起動時以降、バックグラウンドでPCのHDD内にある楽曲やビデオの情報を収集し、それをコンテンツとしてライブラリに登録する。また、ライブラリは、ネットワーク経由で共有されているコンテンツもリストアップする。

 ローカルコンテンツには、iTunesでリッピングしたm4a拡張子のAACファイルも含まれている。最近のiTunesは、アルバムのジャケット情報であるアートワークをiTunesストアから入手した場合、楽曲ファイルに埋め込まず、別のファイルとして保存するため、それらの楽曲に関してはWindows Media Player上でジャケット情報が表示されないが、自分でアートワークを貼り付けた楽曲に関しては、ちゃんと表示される。

 同期の機能に関しては、現行のWindows Media Playerと、ほぼ同じ操作で実行できる。ライブラリ内の転送したい楽曲を選択し、ウィンドウ右側の同期ペインにドラッグして同期を指示すればいい。

 まず、iTunesのAACファイルを同期させようとしてみた。SanDisk、Samsung両製品ともにAACには対応していない。だが、Windows Media Playerは、そんなことは関係ないといわんばかりに楽曲を転送する。あとで確認してみると、プレーヤーデバイスにはWMAに変換されてファイルが送られていた。変換にかかる時間を含めてもごくわずかな時間で不便を感じることはない。

 また、海外専用に使っているソニーエリクソンの携帯電話W910iは、AACが再生できるようで、接続して同期させると、ファイルはAACのまま転送されていた。

 続けて、新たにWindows Media Playerが標準で再生できるようになったMPEG-2を試そうと、アナログTV放送を録画したビットレート4Mbps程度のSD MPEG-2ファイルを用意し、それを東芝のGigabeatに転送したみた。こちらは動画ファイルとしてはWMVしか再生できないデバイスだ。すると、Windows Media Playerは、ファイルをWMVに変換して転送し、Gigabeatは、やはり何事もなかったように再生した。そこそこのスペックのノートPCでの処理だが、1時間番組を10分程度で変換して転送が完了する。これなら実用になりそうだ。

 もしかしたらと思って、日常使っている携帯電話P905iにも同じことをやってみた。ある筋からの情報では、どうやら3gpにも対応しているらしいということだったので、期待したのだが、これはうまくいかなかった。

 これらの変換を伴う転送は、エクスプローラから音楽ファイルを選択して、コンピュータウィンドウのポータブルメディアプレーヤーアイコンにドラッグ&ドロップすると、コンバートしてコピーするかを問い合わせるダイアログボックスが表示され、変換を指示するという方法でも転送できるが、変換のスピードが著しく遅かった。これは、何か別の理由がからんでいるようだ。

 なお、iPodそのものは、インボックス(標準の)ドライバでは認識せず、iTunesをインストールしても、Windows Media Plyaerからはポータブルメディアプレーヤーとしては扱えないようだ。

●家庭内コンテンツストリーミングにも対応

 Windows 7は、DLNA 1.5に標準で対応する。VistaまではDLNAを使おうと思うと、デジオンから発売されているDIXIMクライアントやサーバーなどを組み込む必要があったが、もうその必要はない。というよりも、Windows 7に含まれるDLNAの実装は、デジオンのDIXIMそのものだ。つまり、今後は、世界中のWndowsに同社のモジュールが組み込まれることになる。

 Windows Media Playerには、「Play to」と呼ばれる機能が装備され、コンテンツを右クリックし、ちょうど、ショートカットメニューの「送る」のように、再生デバイスを選択できる。ここに列挙されるのは、DLNA 1.5対応のレンダラーだ。WinHECの展示会場では、アイ・オー・データ機器が現在開発中のネットワーク接続型HDD「LANDISK Home」とネットワークメディアプレーヤー「AVeL LinkPlayer」を展示し、Windows 7 PCからのストリーミングを受信して自動的に再生が始まる様子がデモンストレーションされていた。この機能を利用すると、NASに置いたコンテンツをPCで探し、大画面TVなどにストリーミングすることができる。つまり、PCを大量のコンテンツから見たいコンテンツを選び出すブラウザとして使うことができ、さらに、出力デバイスのリモコンとしても機能させることができるというわけだ。非力なプロセッサで、大量のコンテンツから見たいものを選り分けるのがつらい家電のUIを使わなくても、見たい番組を手っ取り早く見つけて再生することができる。

 なお、DLNA 1.5対応機器は、アイ・オーがデジオンのミドルウェアを使い、Linux上に実装するなどして開発を進めているが、現時点では、あまり実装例を見かけない。ちなみに手元のネットワークでは、ソニーのX VideostationがDLNAサーバーとして機能しているが、Windows 7は、この機器を見つけられず、収録されているコンテンツを再生することができなかった。せめて発見と再生程度は次回以降のビルドで何とかしてほしいと思う。

 また、著作権保護された日本独特の地デジコンテンツの配信等には、そのままでは対応できないという事情もある。こればかりは、日本国内における何らかのソリューションが整うのを待つしかない。

●OSに徹するWindows 7

 メールやカレンダー、フォトギャラリーなどの添付アプリケーションがOSから姿を消し、オンラインサービスのLiveスウィートをそれに代える「ソフトウェア プラス サービス」戦略に基づき、Windows Media Playerも消えてしまうのかと思っていたのだが、デファクトスタンダードを強力にサポートしての機能強化は意外な展開だった。

 これまでMicrosoftは、いろいろな形で、さまざまな分野の標準策定に関わってきたが、そのやり方には押しつけがましさを感じることも少なくなかった。だが、今回のWindows 7では、その強引さがあまり感じられず、すでにデファクトスタンダードとなっているものは、ユーザーの利益のために積極的に対応していこうという謙虚な姿勢が感じられる。

 だが、そのことが、既存のソフトウェアベンダーの仕事を奪わないとも限らない。ちなみに、Windows 7には無線LANアダプタをソフトウェアアクセスポイントとして使うためのAPIが新たに用意されるが、Windows 7には、そのAPIを使うアプリケーションは標準添付されない。簡単に機能を実装できるようにお膳立てだけはしておくが、その先は、サードベンダーに任せようという方向性のようだ。こうしたMicrosoftの態度の変化によって、ソフトウェアシーン、そして、それを取り巻く周辺機器シーンも活性化され、かつてのエコシステムが、再び有効に好循環を始めるのかもしれない。つまり、Windows 7は、PCのOSのみならず、業界のリフレッシュにも貢献しようとしているように感じられる。

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【10月29日】【山田】もうVistaがひどいなんて言わせない
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1029/config234.htm

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(2008年11月14日)

[Reported by 山田祥平]


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