【PDC 2008レポート】 クラウドサービス向けWindows Azureを発表
10月27日(現地時間)発表 10月28日、米国で始まったMicrosoftの開発者向けカンファレンス「Professional Developers Conference 2008(PDC 2008)」で、Microsoftは「Windows Cloud」という名前で噂されていたWebサービス開発基盤の「Windows Azure」を発表した。Azureとはイタリア語の青を示す言葉とみられるが、その発音はMicrosoftの中でも人によって異なり、「アズレィ」、「アズール」などさまざまだ。
Microsoftが意図しているのは、おそらく“青空”だろう。Windows Azureという青空の中に、デベロッパーたちがさまざまな“雲(クラウド)”を思い思いに描くことを期待している。基調講演の内容は主に、Azureの中にCloudを描くことが、どれだけ容易で従来の開発手法との共通性があるかに終始した。その発音のブレとは裏腹に、今回のPDCにおけるMicrosoftのメッセージには迷いが全く見られない。 初日の基調講演を飾ったのは、ビル・ゲイツ氏の技術部門における後継として指名されたCSA(Chief Software Architect)のレイ・オジー氏。本誌の読者には知らない方も多いかもしれないが、オジー氏はかつてMicrosoftの仇敵であったロータスのドル箱ソフトNotesの開発者としてIris Associatesを率いた人物である。 オジー氏はIBMの仮想システムがTSSを用いて複数ユーザーをサポートしていた時代は変化し、企業内ではデータセンターが多数の社員に向けてサービスを提供し、さらにそれがWebを通じて世界中につながっていることに言及。「この技術的手法を拡張すれば、世界中のユーザーにデータセンターが提供する高度なサービスを提供できる」と話し、技術革新が開発プラットフォームの新しい可能性を拓くと説明した。 Windows Azureの考え方はシンプルだ。現在、Microsoftの開発ツールを用いて開発しているアプリケーションを、そのままMicrosoftが提供するデータセンターでホスティングする。Microsoftが提供するデータセンターでは、当然ながら.NET Framework、SQL Server、SharePoint、Microsoft Dynamics CRMなどが背景の環境として存在するので、ユーザーはこれまでと同じようにVisual Studioを用いてVisula C、C#、Basicでの開発を行なえる。Windows Azureで動かすプログラムのバイナリはマネージド、ネイティブ両方が走る。 実際、デモではVisual Studioでコードを書き、ローカルPC内のテスト環境(Visual Studio内に作るAzureと完全に互換性のあるテスト設定)で走らせたプロジェクトを、そのままAzureのサービスにアップロードするだけで動作していた。
企業ユーザーならば、社内システム向けに開発したアプリケーションを、パートごとに適材適所で走らせることができる。セキュリティ上、どうしても社内のサーバで運営したいアプリケーションは社内のWindows Server 2008で動かし、それ以外の部分はWindows Azureで動作させるといった運用も可能だ。もちろん、両環境には互換性があるので、システム構成の更新に合わせて、自社内で動かすアプリケーションとAzure上で動かすアプリケーションを自在に変更することもできる。 一方、独立系開発者はデータセンターの運営を意識せず、自らのアイディアをサービスとして実装し、販売するチャンスが生まれる。急激なトラフィック増加に対する対応も、ストレージ容量の急激な増加も、システム更新やバックアップといった管理面の負担も、全く意識せずにアイディアの実装に集中すれば良い。 Windows Azureで動作するアプリケーションはExchane OnlineをはじめとするMicrosoft Onlineサービスとも統合することができるので、アプリケーション導入先の事情に合わせて柔軟な稼働モデルを提案できる。 こうした、新しいアプリケーション開発モデルに対し、優れた開発環境とツールの提供によって開発者の支持を取り付けるという戦略は、Microsoftが最も得意とする戦術でもある。 技術的側面から言えば、Windows Azureに全く新しい技術はあまり含まれていない。しかしバラバラだったビルディングブロックを1つにまとめ、開発者向け、エンドユーザー向けにそれぞれフロントエンドとなるツールを提供することで、全く新しいプラットフォームとして見せることに成功している。 またWindows Azureは、PDC 2008のキーワードにもなっている「ソフトウェア+サービス」というコンセプトにも合致したものだ。 自分が保有するコンピュータの上で動作させるソフトウェアには、セキュリティやプライバシーを守りやすい、カスタマイズしやすい、顕在的で管理しやすい、データアクセスが容易といった利点がある。一方、ネットを通じたサービスには世界中どこからでもアクセス可能で運用上の柔軟性、システム管理コスト低減、ビジネス環境に対する追従性が高いなどの利点がある。 同じアプリケーションを、社内システムのソフトウェアとしても、クラウドの中に収めたサービスとしても動かすことが可能になることで、ユーザーはそれぞれの長所と短所を吟味して最適な構成を選べる。また、社内のExchange ServerとExchange Onlineを組み合わせて社内外とのコミュニケーションプラットフォームとして活用したり、社員の出先での業務をサポートするといった同じソフトウェアをサービスとしても動かし、連携させるといったこともできる。 Windows Azureは主に企業ユーザー向けの提案だが、しかし、この考え方はコンシューマ向けの製品やサービスにも取り入れていくことになるはずだ。
□Microsoftのホームページ(英文) (2008年10月29日) [Reported by 本田雅一]
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