[an error occurred while processing the directive]

【特別企画】台湾ネットブック開発者インタビュー【Acer編】
スケールメリットとデザインで成功したAspire one

汐止市にあるAcer本社。1階には展示場、3階には一般ユーザーも入れるサポートセンターがある


 過去1月近くにわたってお伝えしてきた台湾ネットブック開発者インタビューは、ひとまず今回のAcer編で締めくくりとなる。Acerは、GatewayやPackard Bellを買収することで、特にアジアや欧州で飛躍的に地位をのばしつつある。実際、そのシェアはPC全体でHP、Dellに続いて3位、ノートPCでは2位となっている。しかし日本では、ノートブックのフェラーリモデルなどを出し、時々噂にはなっていたものの、ほんの2年くらいまで前は、非常にマイナーな存在だった。

 そんなAcerが、ここへきてネットブックの盛り上がりとともに、日本でも急激に話題に上ることが多くなった。同社はこの春にAV志向のハイエンドノート「Gemstone Blue」で、日本市場の本格参入を果たした。マーケティングに力を入れ、大手量販店の店頭に製品を並べて、露出度を高めてきたのもその理由の1つだろうが、やはり同社の日本での成功には、ネットブックの「Aspire one」が大きく寄与していることは間違いないだろう。

 今回、Acer本社でモバイルコンピューティングビジネスユニット担当副社長のCampbell Kan氏に、同社のネットブック戦略について話を聞いてきた。

●PCと携帯電話の中間を目指したコミュニケーションデバイス

Q Aspire oneは、いつ頃からどのような発想で開発を始めたのでしょうか。

AcerのCampbell Kan氏

Kan氏 まず我々の一般的なビジネス手法についてお話しします。私は全世界向けのノートブックおよびネットブックを担当しています。製品については、常に革新性と創造性を重視しています。そして、我々は非常に効率的で柔軟な体制を整えています。需要の変化にも柔軟に対応できます。経営判断については、7人の役員会で迅速に判断するようにしており、会社全体が同じ方向に向いています。我々は、技術を作り出す会社ではありませんが、即座にそれを製品に取り入れられる体制ができているのです。

 Aspire oneについてですが、我々は3年前頃にMID(Mobile Internet Device)について取り組みを始めました。これは、携帯電話に代わって、PCでコミュニケーションを行なうのを目的とした製品です。PCであれば、VoIPによる音声通話のみならず、テキストチャットや、ビデオチャットなどもできます。これをモバイルでもできるようにしたいと考え、スマートフォンを開発しました。しかしながら、この製品は失敗に終わりました。通信キャリアを良い関係を構築できていなかったこと、そして十分な販売チャネルをもてなかったことが要因です。

 そのような中、ASUSTeKがEee PCを出しました。この製品はユーザーに受け入れられました。そこで我々も1年半前からネットブックの開発に着手しました。今、ノートブックはデスクトップに取って代わりつつあり、売り上げも伸びていますが、3~5年後にはその成長は鈍化しているでしょう。しかし、屋外でもネットにアクセスしたいというユーザーは今後も増えるものと考えています。つまり、携帯電話とノートブックの間にあるようなネットブックの市場は今後も伸びていくと言うことです。

 ネットブックはネット利用を主用途としています。ヘビーなユーザーであれば、1日8時間くらいネットにアクセスするかもしれません。そう言った時に、携帯電話やスマートフォンのような画面は、大きさの点からも、解像度の点からも不十分で使いにくいです。また、アクセス数トップ100のサイトは、横幅1,024ドットを前提に作られています。そこで、我々は8.9型の1,024×600ドットが必要最低限だと考えたのです。

 ASUSTeKはEee PCで低価格性を重視しました。しかし我々はユーザー体験の方が重要だと考えます。例えば、電源を入れてすぐに使えるというのは非常に重要な点で、Aspire oneのLinuxモデルは、15秒で起動し、5秒で終了できます。

Aspire oneのLinuxモデル。ユーザーインターフェイスは独自に開発した

Q Aspire oneのLinuxとWindows XPの割合はどれくらいなのでしょう。

Kan氏 7割がWindows XPです。これは、Linuxが基本的に新興市場を対象にしているからです。このLinuxは我々がインターフェイスなどを開発していますが、その開発費を含めても、1台あたりのコストはWindows XPの半分程度に収まります。ただ、欧州ではLinuxに対する要求があるので、成熟市場の中でも例外的にLinuxを出しています。

Q Linuxモデルは3割しかなくても、今後も続けていくのでしょうか。

Kan氏 はい、今後も続けます。Windows XPの方が人気はありますが、構造的にネットブック向けには、やや重厚長大すぎる点があるからです。

Q 開発で苦労した点などについて教えてください。

Kan氏 製品のバランスだと思います。どのような仕様にするのかについては、社内で1年にわたってかなり激しい議論がありました。その結果、単に安くて小さいだけのものにはしないという結論に至りました。日本ではミニノートやモバイルノートを手がけるメーカーが多くあります。しかし、その売り上げは、数年前までノートブック全体の6~8%程度と、成功しているとは言い難いものでした。それは価格が高いことが大きな原因だと我々は分析しました。しかし、安価でもデザインが安っぽいと受け入れられません。そのあたりのバランスをうまくとりました。

Q ネットブックが売れることで、一般的なノートブックの売り上げに影響はありませんか。

Kan氏 確かに、ネットブックを出して以来、エントリークラスのノートブックは売り上げが落ちています。しかし、両者の用途は全く異なります。例えば、ネットブックでYouTubeを観ることはできますが、そのソース映像を編集することはできません。その違いの啓蒙が足りていないという課題はありますが、両者が競合することはないと考えています。

Q ネットブックについて、最も重要なことは、価格、重量、サイズ、スペック、デザインのどれだと思いますか。

Kan氏 1番については、そこにありません。バッテリ駆動時間です。次にデザインです。ネットブックは携帯電話と同じく持ち歩いて使うものですから、ユーザーはその駆動時間と外観を非常に重視します。その次にコストでしょうか。しかし、コストについては一番重要だとは思いません。というのも、その仕様やデザインなどが価格に見合ってさえいれば、ユーザーはその代金を支払ってくれるものと思っているからです。

Q デザインについてはどのような点を重視しているのでしょうか。

Aspire oneには全部で5色ある。手前のピンクと茶色は限定色

Kan氏 コンシューマ向けのモバイルデバイスなので、各ユーザーのスタイルにあったものを提供することが重要だと考えます。結果、我々は黒、青、白、茶、ピンクという多様なカラーバリエーションを用意しました。また、その製造にはNisshaのIMD(成形同時加飾転写システム)を利用して、光沢があり、傷にも強い、美しい仕上がりを実現しました。日本では現地の判断で、白と青を出していますが、白の方が人気が高いようです。

Q カラーバリエーションは在庫上の問題になりませんか。

Kan氏 この5色の内、茶色とピンクは限定モデルで、一般には3色を広く出しているので、その管理には問題はありません。

Q 光沢素材は指紋が目立つという欠点もあります。

Kan氏 光沢素材は今人気が強いので、これを選択しました。指紋の問題についてはNisshaともいろいろ協業しているのですが、すぐに解決するのは難しいようです。

Q 携帯電話のように天板を取り替えられるオプションは予定していますか。

Kan氏 直近では予定はありませんが、そういったアイディアは出ています。ただ、天板を取り替えるとなると、ユーザーが作業する時に、内部にダメージを与えないようにする仕組みが必要になってきます。

Q 液晶は8.9型ですが、その額縁は結構広く、他社製品よりも横幅が広くなっています。

Kan氏 それはキーボードのサイズを重視したからです。ご覧いただいて分かるとおり、キーボードは、筐体の横幅ぎりぎりまでサイズを取っています。キーピッチはフルサイズの18mmに近い16.5mmを実現しています。開発の段階では筐体サイズを液晶パネルに合わせるか、キーボードに合わせるかという議論がありましたが、後者を選択しました。

●Aspire oneの価格努力

Q Aspire oneは、発売当初、競合製品がほぼ59,800円で揃っていたのに対し、54,800円でした。これは、製造コストをそれだけ下げられたからなのか、それとも自らの利益を削ったものによるものなのでしょうか。

Kan氏 前者です。我々のCEOは、利益の損失を非常に嫌いますので。販売価格は、市場調査に基づいて決定します。実は、54,800円でも日本での価格は他の地域よりやや高くなっているのです。それは、販売チャネルにおけるマージンがかかるからです。海外では、Windows XPモデルは、449ドル程度で販売しています。

Q 具体的にはどのようにして低価格化を図ったのでしょう。

Kan氏 まず、一般的ノートブックと比べて、ネットブックプラットフォームはCPUとチップセットの価格が非常に安くなっています。液晶についても、8.9型は14型よりも3割~4割安くなります。消費電力が少ないことで、バッテリは3セルを使うことができました。ここでも10~20ドルは削減できています。あとは、Windows XPのULCPCライセンスが通常版より安価と言うことなどがあります。

Q ストレージにHDDを採用した理由を教えてください。

Kan氏 Linuxモデルは8/16GBのSSDを使っていますが、Windows XPでは120GB HDDを採用しました。これは、我々が検証した結果、Windows XPは60~80GBはないと満足に利用できないと判断したからです。SSDの方が、衝撃への耐性やアクセスタイムは性能が高いのですが、Microsoftの規約では16GBになっているので、採用はできませんでした。

Q MicrosoftのULCPCライセンスでは、HDD容量は160GBまでとなっています。

Kan氏 我々が製品を発売するタイミングでは、まだHDDの容量は120GBまでに制限されていたのです。

Q MicrosoftがSSDの容量を16GBに制限している理由は何だと思いますか。

Kan氏 16GBよりも大きいサイズを使うと、製品の価格が高くなってしまうことが理由だと思います。ただ、IntelとMicrosoftの規約は流動的で、今後も市場の反応などによって、随時変わっていくでしょう。

Q Bluetoothを採用しなかったのはなぜでしょう。

Kan氏 ネットブックの主用途はネットアクセスです。一方、Bluetoothの用途は携帯電話との連携が目的です。そう言った点を考え、最終的にはコストとのトレードオフで外しました。

Q マザーボードは何層でしょうか。

Kan氏 6層です。8層にしてしまうと基板のコストが5割程度は上がってしまいます。

Q メモリがオンボード512MB+SO-DIMM 512MBという特殊な構成なのはなぜでしょう。

Kan氏 Microsoftの規約でメモリが1GBまでとなっているのが理由です。

●次期製品は、ユーザーの不満点を改善。高解像度モデルも

Q 発売以降、ユーザーからの反響はどのようなものでしたか。

Kan氏 非常に多岐にわたった反響を頂きましたが、ほとんどが好意的なものでした。不評な点はとても少なかったのですが、Bluetoothとメモリスロット、およびタッチパッドのボタンが左右に配置されている点の問題は指摘を頂いています。メモリとタッチパッドについては次期モデルでは改善する予定です。

Q 1,280×768ドット液晶を採用する考えはなかったのでしょうか。

Kan氏 それについては、次期製品で採用する予定です。8.9型では、視認性の問題から1,024×600ドットが限度だと思います。次の製品では10.2型で高解像度のものを予定しています。

Q 6セルバッテリオプションの発売予定はありますか。

Kan氏 台湾ではつい最近発売になりました。形状は本体の背面の斜め下45度に伸びるような形状です。

3セルバッテリ(左)と6セルバッテリ(右) 本体に装着すると、斜め下45度に出っ張る形になる 背面から見たところ

Q 無線WANの搭載状況はどうなっていますか。

Kan氏 台湾では、近々通信キャリアとともに無線WAN内蔵モデルを発表する予定です。

Q 日本でイー・モバイルと協業を始めた理由を教えてください。

Kan氏 イー・モバイルはシェアで言うと日本では4番目です。しかし、彼らはネットブックについてもっともアグレッシブでした。また、将来のデータ通信プランもいいものを持っています。そう言う理由で彼らと協業しました。

Q ネットブックのモデルチェンジのサイクルはどのように計画していますか。

Kan氏 一般的ノートブックは1年程度のサイクルですが、ネットブックは半年サイクルで新モデルを考えています。ですので、Aspire oneの次のモデルも半年以内と言うことです。

Q 半年ではネットブック用のIntelの新CPUはまだ出ませんね。

Kan氏 その通りで、次の製品もプラットフォームは今と同じです。ただし、デザインはユーザーからの声を反映させ、大きく変わる予定です。

Q エコシステムを強化する予定はありますか。

Kan氏 バッテリ、ACアダプタ、キャリーバッグは各地域で発売をしています。サードパーティ製品に関しては、いくつかのメーカーと協議をしているところです。

Q 今後、小型化、軽量化の得意な日本メーカーもこのジャンルに参入すると思うが、脅威と感じますか。

Kan氏 脅威と感じます。日本のメーカーは高い技術を持っており、デザイン性にも優れていますので。ただ、我々は、正しいものを正しい値段で出すと言うことに長年の経験を持っています。また、素早く次の行動に移る、スケールメリットという点でも我々には日本メーカーにない長所を持っていると考えています。

Q GatewayやPackard Bellブランドでのネットブックの予定はあるのでしょうか。

Kan氏 eMachinesでは予定していませんが、GatewayとPackard Bellについては、今月にも発表を行なう予定です。Gatewayは米国、Packard Bellは欧州地域で発売します。ただ、いずれも、日本での販売は予定していません。

Q 日本市場においてAcerはこの1年でマイナーな存在から、ネットブックのシェア1位に躍進しました。このことは日本市場での戦略に影響を及ぼしますか。

Kan氏 もちろんです。過去10年間、日本では非常にマイナーな存在でした。これは、日本市場に向けた正しい製品がなかったからです。しかし、2008年にマルチメディアノートとネットブックを出し、このような良い結果を得られたことには、非常に勇気づけられました。2009年以降は、より日本市場を見据えた製品を出していきたいと考えています。

Q ありがとうございました。

 このように、Aspire oneは、PCの持つ表現力の高さと、携帯電話のような持ち運びのしやすさを融合させたコミュニケーションデバイスとして生まれてきた。ネットブックにとって大事な要素があるのかは、各社によって答えが違うが、Acerはデザインが要であると考えている。確かに、カラーバリエーションを持つメーカーはほかにもあるが、Aspire oneには小さくて安いながらも、格好良さを演出するデザインが各所に施されている。スペックが似通ったネットブック競争の中で同社が日本を含む各地で大きな成功を収めたことは、同社の考えが正しかったことを証明していると言えるだろう。また、コストはさほど重要ではないとしながらも、結果的に他社よりも安い価格を実現した点に、同社のスケールメリットを痛感する。

Acer本社2階にある、地域ごとの同社シェア。日本は6位以下なので、まだ数字が入っていない

 Kan氏は、日本メーカーの参入を脅威に感じると答えた。しかし、日本メーカーこそ台湾勢の日本市場参入を脅威と感じなければならない。Acer本社の2階には大きな世界地図が張り出されており、そこには各地域でのAcerのシェア(5位以内のみ)が書かれている。取材を行なった10月時点では、日本には何も書かれていなかった。しかし、2009年にもここに新しい数字が刻まれることは想像に難くない。

 Acerを含めたノートブックメーカーも、コンポーネントを提供するIntelとMicrosoftも、ネットブックとノートブックは別物であると主張する。それは事実で、今でこそネットブックはやや過剰とも言える注目を集めているが、家や会社で据え置きで使うノートや20万円クラスのモバイルノートの置き換えにはならないことはゆくゆく理解されるだろう。

 しかし、ネットブックに対する需要は一時的なものではなく、今後も2台目、3台目のPCとして購入されていくだろう。そして、ネットブックでの成功は、ノートブックにも大きな影響をもたらす。日本のメーカーは、Kan氏の言う「正しい商品」を「正しい値段」で出せるだろうか。その「正しいタイミング」の期限はそう遠くない。

□Acerのホームページ(英文)
http://www.acer.com/
□製品情報
http://www.acer.co.jp/one/
□関連記事
【10月6日】ネットブックが市場の2割を越える。エイサーとASUSで9割占有
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1006/netbook.htm
□ネットブック/UMPCリンク集(Acer)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/umpc.htm#acer

(2008年10月14日)

[Reported by wakasugi@impress.co.jp]

【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp
お問い合わせに対して、個別にご回答はいたしません。

Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.