iPodがバランスを欠いているような気がするのは、他のデバイスとのコミュニケーション機能が中途半端な点だ。確かに、iPhoneやiPod touchは無線LANを装備しているが、あくまでも、それはクラウドとのやりとりのためのものであり、「運用」には母艦としてのPCやMacが必須だ。その背景には、どのような思惑があるのだろうか。 ●新しくなったiPod 毎年恒例のiPod機種刷新もiPod touchの発売開始により、ようやく落ち着いた。結局、個人的には、touchの32GB版と、nanoの16GB版を購入した。新機能のGeniusが意外に使えるので、だったら、容量の大きなiPodにできるだけたくさんの楽曲を入れておいて、Geniusが選曲するための候補曲を充実させておきたいと考えたからだ。 今年のiPodは、前モデルに対して、あまり変わった気がしない。 それでも、nanoに搭載された、振ればシャッフルされるという目新しいアクション・ユーザー・インターフェイスには、まだやることがあったのかというくらいに新鮮な印象を持った。おみくじを出すときのような動作だが、これは加速度センサーを持つtouchにも実装して欲しい。 nanoでは、特に設定を変更することなく、曲のシャッフルとアルバムのシャッフルの両方をすぐに開始できるのだが、Geniusはあくまでも自動的に生成されたプレイリストなので、アルバムシャッフルに設定されていると、Genius内での再生順がアルバム単位になってしまう。この仕様は同じアルバム内の異なる曲がGenius内に含まれているときに、ちょっと不便に思う。Genius時にはシャッフル設定を無視するような仕様でもよかったかもしれない。ただ、nanoでも、再生中の曲から、その曲を含むアルバムをブラウズできるようになったのは、ちょっとしたことだが使い勝手を大きく向上させたんじゃないだろうか。 一方、touchは、初代機でもソフトがバージョンアップしているために、nano以上に変わった感がない。液晶の色温度がグンと低くなったことや、音が多少ソフトになったことを気にするユーザーもいるかもしれない。 でも、物理的にボリュームがつき、スピーカーが装備されたのはうれしい。期待はしていなかったが、スピーカー内蔵は悪くない。一泊程度の出張で、眠りにつくまでの間、枕元のピロースピーカーとして使う分には十分だ。iPodはスピーカーの有無にかかわらず、ヘッドフォンのプラグを抜くと再生が一時停止する仕様なので、満員電車の中でプラグが抜けて音が出てしまうという心配もない。 ●Bluetoothでオーディオを楽しむ 基本的に、人に迷惑をかけない場所で音楽を楽しむときには、ヘッドフォンを使いたくない。自宅にいるときには、PCで再生すれば、アンプに接続したそれなりのスピーカーから音が出てくるので、特に不便は感じていないが、宿泊を伴うちょっとした出張などでは、なんらかの再生手段が欲しくなる。そこで、iPod用のドックつきスピーカーなどが活躍するのだが、ただ再生するだけならともかく、スピーカー付属のリモコンでは、Genius等の細かい操作をしようとすると、どうしても使い勝手が損なわれる。それに、持ち込んだPCだって、それなりの音を出してほしいと思う。 最近のお気に入りの組み合わせは、ロジクールの「Pure-Fi Mobile」と、シグマA・P・Oシステム販売のBluetooth iPodオーディオアダプタ「SBT01」だ。 まず、Pure-Fi Mobileは、一台三役のポータブルスピーカーで、Bluetoothオーディオ、USBオーディオ、3.5mmステレオミニジャックによるアナログ入力という3種類のソースに対応している。PCのサウンドを再生したいときには、3種類のうちどれでもいいし、iPodを繋ぎたければミニジャックでつなげばいい。本体重量450gというのは、携帯するにもなんとか許せる重さだ。iPodの再生機構を持たないクルマで、座席に転がしておくといった使い方もいいだろう。フル充電で約12時間の再生ができるので電源の心配をする必要はない。また、一般的なUSB充電なので、シガーライターなどからアダプタを使って電源をとることもできそうだ。 このスピーカーに、約4.5g(実測したら4グラムだった)のBluetooth iPodオーディオアダプタ SBT01を組み合わせると、もっと便利になる。このアダプタをiPodのドックに装着することで、その再生音をBluetoothスピーカーに送信できるようになるのだ。電源はドックから供給されるので充電の必要もない。 Bluetoothでは、デバイスを組み合わせて使い始めるときに、ペアリングという操作が必要になる。多くの場合、片方をペアリング待機状態にさせ、もう片方で探索し、必要に応じてパスコードなどを入力してペアリングを成立させる。 Pure-Fi Mobileでは、ソースボタンで3種類のソースを切り替えることができるが、ソースボタンを長押しすると、ペアリング待機状態になる。この状態で、PCなどから探索し、マニュアルに記載されたパスコードを入力してペアリングするようになっているわけだ。 従って、一般的なBluetoothアダプタではペアリングのためのパスコードを入力できないためペアリングそのものができない場合も多い。ところが、このアダプタは、「0000」「1234」「7777」「8888」という、一般的によく使われるパスコードに対してチャレンジを行ない強引にペアリングするようになっている。だから、アダプタをiPodに装着し、スピーカーを待機状態にした上で再生を始めるだけで、勝手につながって音声が飛び始める。これは簡単で便利だ。きっと、多くのBluetoothレシーバーに対しても対応できるだろう。個人的には、nanoが必要十分に小型軽量なので、あまり、レシーバーの必要性は感じなくなってきている。 もし、iPodがBluetoothによるオーディオ再生に対応しさえすれば、こうしたアダプタはいらなくなる。SBT01は小さいので、ほとんど使い勝手を損なわないとはいえ、内蔵されているにこしたことはない。何よりも不便なのは、このアダプタを装着していると、iPodに対して充電ができないという点だ。 ●iPodが売れればネットブックが売れる iPodは、日本の若い人たちのPC離れの抑止に、相当の貢献をしているんじゃないかと思う。年齢層が上になると、はじめにPCありきでiPodを周辺機器として使うようになるパターンが多そうだが、若い層では、それが逆のように感じられる。iPodが使いたいが、PCがなければ音楽を入れられないので仕方がなくPCを使うというイメージだ。 そこにきて、昨今のネットブックブームである。たとえば、HDDを搭載したネットブックというのは、iPodの母艦としては悪くない。音楽CDをリッピングするためのドライブを外付けしなければならないが、そのコストを考慮しても安い。メールは携帯電話で不自由していないが、Webブラウズは携帯では多少不満を感じるといったユーザーは少なくない。かといってPCに10万円超も出したくない……。とすれば、必然的にネットブックが選ばれる。iTunesを使うくらいならスペック的にも問題はない。寸足らずのディスプレイもiTunesを使う分には十分だ。本当はMacが欲しいけれど、予算的に無理となれば背に腹は代えられない。かくして、今まで親や兄弟のPCに寄生して、強引にiPodを使ってきた若い世代にとって、ネットブックは格好のPC的デバイスとなるだろう。いわばiPodの周辺機器である。 Intelがそこまで考えてネットブックを目論んだのかどうかはわからないが、バブリーなPCは、しばらくお預けということなのかもしれない。Appleにとっては皮肉なことだが、iPodが売れれば売れるほどネットブックが売れるというエコシステムができあがりつつあるように思う。 □関連記事
(2008年10月10日)
[Reported by 山田祥平]
【PC Watchホームページ】
|