ASUSTeKに聞く、サウンドカード市場参入の意図
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Xonar HDAV 1.3 Deluxeのパッケージ |
すでにいくつか記事を掲載しているとおり、現在、台湾のネットブックメーカーの開発者にインタビューを行なっている。もちろん、この分野の先駆者であるASUSTeKにも話を聞いてきたのだが、その前に同社のサウンドカード開発担当者に話を聞くことができたので、その模様をお伝えする。
●BDビデオの規格を100%サポートする世界初のHDMI入力付きサウンドカード
同社がサウンドカード市場に参入したのは、2007年6月のこと。その後も、新製品をいくつか発売し、2008年の9月にPCI Express x1用サウンドカード「Xonar HDAV 1.3」を発表した。価格は200ドル程度。日本でも近日の発売を予定している。
同製品の最大の特徴は、ビデオカードからの映像出力をHDMIで受け取り、そこにオーディオ信号をミックスしてHDMI出力できる点。AMDのRadeon HDシリーズを除き、Intelの内蔵GPUとNVIDIAのGPUは、オーディオコントローラを内蔵しないため、HDMIから音声を出力するには、オンボードオーディオやサウンドカードのS/PDIFから音声信号を受け取って、ミックスして出力している。
OSやゲームなどアプリケーションにおいては、この方法でなんら問題はなく、HDMIケーブル1本で映像と音声を出力できる。しかし、Blu-ray Disc(BD)ビデオで採用されている、Dolby True HD/DTS-HD Master Audioでは、ビットストリーム出力する際に著作権保護機能を要求する。そのため、著作権保護機能を持たないS/PDIFではこれらの音声信号を出力できないのだ。
Xonar HDAVではこれとは逆に、ビデオカードから映像信号を受け取って、そこに音声を載せて、HDMI経由で出力する。HDMIのバージョンは1.3aで、上述のロスレスオーディオをビットストリーム出力できる(厳密には現在のバージョンのソフトはロスレスオーディオのデコードにのみ対応し、ビットストリーム出力は今後のアップデートで対応する)。
Xonar HDAV 1.3の本体とDeluxe版につくサブ基板 | カードのブラケットにはHDMIの入出力がある |
映像面では(もちろんビデオカードがそれに対応している必要があるが)、各色16bitの色域やx.v.Colorの色空間に対応。また、独自の映像高画質化回路「Splendid HD」を搭載し、CPUに負荷をかけることなく色補正やエッジ強調、SD映像のアップスケールなどができる。なお、DVI→HDMI変換ケーブルが同梱されるので、HDCP対応ビデオカードならDVIでも利用できる。
オーディオコントローラは同社が独自設計した「AV200」。音質にも配慮しており、基板を4層とすることで信号同士の干渉によるノイズを抑制。他の機器からの電磁波を避けるため、サウンドカード全体も特殊なカバーで覆っている。S/N比は120dB。アナログ出力/入力とも24bit/192kHzに対応。入出力端子は、HDMI 1.3a入力、HDMI 1.3a出力、RCAアナログ出力×2、S/PDIF出力(同軸兼光)、マイク入力兼S/PDIF(光)入力。
デラックスバージョンには、6ch(サイド2ch+ウーファー+センター+リア2ch)のRCA出力を備えたサブ基板が付属。これには2chごとに3つのオペアンプを搭載。オペアンプはソケット式なので、好みのものに取り替えることも可能。
DVD/BDビデオ再生ソフトは、ArcSoftの「TotalMedia Theatre」。対応OSは、Windows XP/Vista(32/64bit)。
●サウンドカードは本格的オーディオシステム参入への足がかり
この仕様から分かる通り、本製品はゲーミングではなく、ハイエンドなHTPC(Home Theater PC)をターゲットにし、その機能は、ハイエンドBDプレーヤーに匹敵する。もちろん、PCにはさまざまなノイズ源が存在し、いくらサウンドカード側でがんばっても、その性能(音質/画質)が、専用のBDプレーヤーに匹敵するものなのかは疑問が残る。
しかしながら、メディアプレーヤーおよびゲームプラットフォームとしての役割や優位性をPLAYSTATION 3に完全に奪われつつあるPCが、Xonar HDAV 1.3によって1つでも優位性を取り戻せた(PLAYSTATION 3はロスレスオーディオビットストリーム出力に対応しない)ことは、注目に値するだろう。
Sean Lai氏 |
さて、ASUSTeKは、今後オーディオ周辺機器をどのように展開していくのだろう。この点について、同社製品担当シニアプロダクトマネージャのSean Lai氏から興味深い話を聞くことができた。
'90年代後半から、マザーボードはオーディオコントローラを搭載するようになり、今では搭載率はほぼ100%といっていいだろう。そのため、依然として一部のゲーマーから支持を受けているCreativeのSound Blasterシリーズを除き、コンシューマ市場からサウンドカードメーカーは駆逐されてしまった。
そのような中、ASUSTeKがこの市場に参入したのは、同社が単なるマザーボードメーカーから脱却し、総合的なリビングスタイルを提案するコンシューマメーカーにまで成長した今、オーディオ機器を自前で持つことが非常に重要だと考えたからだという。ここで言うオーディオ機器とは、PC周辺機器ではなく、AVアンプなど本格的なものを指す。Lai氏によれば、日本のソニーやパナソニックなどがコンシューマ市場で高い評価を得ている1つの要因は、高い性能のオーディオ機器を手がけている点にあるという。
しかし、本格的オーディオ機器市場に参入するには、その分野でのブランドイメージが必要だ。そこで、この市場への足がかりとして同社が開発したのが、サウンドカードのXonarシリーズというわけだ。
前述の通り、PCサウンドカード市場はCreativeを除いてほとんど生き残っていないが、Lai氏は、これは必ずしもその需要がないという意味ではないのだという。実際、2007年夏に同社がXonarシリーズを発表して以来、その売り上げは右肩上がりで成長している。
そして、サウンドカードの1つの到達点としてリリースしたのが、他社に先駆けてBDビデオのロスレスオーディオ出力に完全対応した、Xonar HDAV 1.3だ。Lai氏は、その機能だけでなく、S/N比120dBという性能においても絶対の自信を持っている。
ちなみに、HDMI 1.3aはCECによる他の機器の制御も対応している。これについてASUSTeKでは、オンキヨーとともに、PCとAVアンプなどでどういった連携が可能か探ってみたが、結局はPCの電源ON/OFFくらいしかできなかったため、今回の製品では特にCECには対応させていないという。
Xonar Essence |
今後の製品としてLai氏は、「Xonar Essence」も特別に披露してくれた。このカードは本格的なピュアオーディオ向けの製品で、端子類はステレオRCAと、ヘッドフォン/マイクのミニプラグしかない。デノンのAVアンプで使われている日本製パーツを採用し、S/N比は124dBを実現した。またヘッドフォンのインピーダンスはなんと600Ωまで対応するという。EMI対策のカバーには3千年前の古代中国の打楽器モチーフとした絵柄が描かれており、その製品名の通り音のエッセンスを提供するといのがコンセプトになっている。
このほか、同社はすでに、USBや、アナログ、S/PDIF接続のハイエンドヘッドフォン、ステレオスピーカーも発売しているが、この年末にはサラウンドスピーカーシステムも予定しているという。
同社がAVアンプなど本格的オーディオ機器を出した時、実績/定評のあるオーディオ専業メーカーが多数ある日本市場において、太刀打ちできるかというと、そうやすやすとは行かないだろう。しかし、ブランド価値を築く上で礎となる音質の面で、ASUSTeKはかなり真剣に取り組んでいることは窺い知れた。
また、Lai氏がそれを口にすることはなかったが、本格的オーディオへの参入の横には、大型TVやBDプレーヤーなどへの参入も意志があるものと見て間違いないだろう。今回のXonar HDAV 1.3やEee PCなどに見られるように、最新のトレンドや技術をいち早く取り入れることが得意な台湾メーカーが、今後どのような活躍を見せるのか楽しみだ。
□ASUSTeKのホームページ(英文)
http://www.asus.com/
□製品情報(英文)
http://www.asus.com/products.aspx?l1=25&l2=150&l3=0&l4=0&model=2385&modelmenu=1
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0617/auzen.htm
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0904/asustek.htm
【2007年6月11日】【COMPUTEX】【ASUSTeK編】ゲーマー向けラインナップを拡大
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0611/comp17.htm
(2008年9月26日)
[Reported by wakasugi@impress.co.jp]