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Intel Developer Forum 2008

ジャスティン・ラトナーCTO基調講演レポート
マシンインテリジェンスが人間を超えるとき

Intel CTOのジャスティン・ラトナー氏

会期:8月19日~21日(現地時間)

会場:米San Francisco Moscone Center West



 IDF最後の基調講演には、Intel CTOのジャスティン・ラトナー氏が登壇した。今年はIntel創業40周年にあたることあってこれからの40年を意識で起こり得る、機械の知能(マシンインテリジェンス)が人間のそれを上回る転換点と、そのために必要なキーテクノロジーは何か、という少々刺激的な内容となった。

●シリコン、電気信号の次にあるもの

 ラトナー氏の講演は、ムーアの法則に従ってマイクロプロセッサの性能が向上していけば、それは現在の100万倍以上の性能を持つ。そして、その過程において、人間の知能を機械の知能が上回る「SINGULARITY」が発生するというところから話を開始した。SINGULARITYは特異点といった意味だが、ここでは人間と機械の知能が逆転する“転換点”といった意味で理解するといいだろう。人間が生み出したものが、人間の能力を上回る時代はこの40年の間に起こる、というのがラトナー氏の講演の重要なポイントであり、そのために現在研究されている内容が次々と披露された。

 最初はトランジスタである。現在、IntelのCPUはHigh-kメタルゲートを用いた45nmプロセスが採用されているが、昨年のIDFでポール・オッテリーニ氏がサンプルを紹介したとおり32nmプロセスも開発が進んでいる。そして、その先はトライゲートやトランジスタの表面実装など、これまでのIDFでも紹介されてきたさまざまなテクノロジーを用いて、さらなる微細化が進められていることになる。

 これらはCMOSを前提に開発が進められていくことになり、マルチステートなどへの挑戦も含めて、CMOSで限界までプッシュしていくとした。しかし、その次も検討され始めている。シリコンに変わって、カーボンナノチューブなどの別の素材も研究されており、いまでは半導体の代名詞となっているシリコンという言葉も使われなくなる時代がくるのかも知れない。こうした研究は世界中に設けた4つの拠点を中心に、大学などとも協力して進められているという。

指数関数的に伸びるコンピュータの能力によって、機械の知能が人間の知能を上回る「SINGULARITY」が近いとする トランジスタ技術の未来。32nmの先は、トライゲートやヒ素、表面実装などさまざまな新技術を投入してCMOSを継続していく シリコンの次の素材として候補の1つになるのがカーボンベースの素材

 このトランジスタ技術に関してはプロセッサの演算能力に関わる問題であるが、データ転送部分の高速化もマシンインテリジェンスの向上には不可欠とされた。現在、信号の転送には電子が用いられているが、高速化にあたっては熱やエネルギー、距離などの問題が不可避である。

 そこで研究されているのが光子(フォトン)を用いたもので、Intelではかなり以前からシリコンフォトニクスの研究を進めている。すでにシリコンフォトレーザーの実験には成功していたりするわけだが、今回の基調講演では第2世代のサンプルとして、ミラーをチップ上に統合したシリコンフォトレーザーのサンプルが紹介された。これにより、拡張モジュレータの実装が行ないやすくなるとしている。

 現在、このサンプルでは3.2Gbpsでの転送が可能になっているが、将来的には42Gbpsの転送を目標としており、実験段階では成功しているとのこと。レーザーのチューニング、分散した波長をコンビネーションして利用すれば1Tbps程度を実現できるのではないかという期待も述べられた。

第2世代シリコンフォトレーザーでは、ミラーをチップ上に統合。現状では3.2Gbpsでの転送が可能 第2世代シリコンフォトレーザーのデモ。左側がシグナルの様子、右側がチップの拡大映像

 続いて紹介されたのはワイヤレスコミュニケーションに関する技術である。将来的には1人が1,000個程度の無線デバイスを持つことになるのではないか、という大胆な予測を披露。プロセッサ、ノート、電源も入って6mW程度で駆動する超小型無線モジュールのサンプルや、太陽光をエネルギーとして利用できる無線モジュールなどが披露された。

 また、無線の問題につきものである周波数の問題についても次のステップが研究されている。現在、無線通信は、決められた周波数で、それぞれのプロトコルを用いて実施されている。「Connectivity Broerage」と名付けられた新しい概念は、無線アダプタは空いている周波数帯を自動的にセンシングし、また基地局-デバイスの2点間通信ではなく人々が持つ無線デバイスどうしがコラボレーションして接続できるようになるというもの。無線キャリアや政府機関なども興味を示しているとのことで、無線通信のスタイルも変化していく可能性がありそうだ。

Connectivity Broerageの要件の1つに挙げられた「Cognitive Radio」。周波数をセンシングして、空いた周波数に自由に切り替えて無線通信を行なう もう1つの要件が「Collaboration」。無線デバイス同士が通信を行なうことで基地局不足で接続ができない、といった自体を避けることができる
共振器を用いた、無線電力送信のデモ。左側から送信し、右側にある60Wの白熱灯を点灯させるデモが実施された

 無線通信に絡んだトピックとしては、無線電力送信のデモンストレーションも実施された。共振器を用いた送受信機により、75%の効率で電力を送信できているとし、60Wの白熱灯を点灯させることができていた。将来的にはフォームファクターの検討などを進め、ノートPCや携帯電話の充電を無線で実施するとする。つまり「置くだけ」で充電できる時代が到来するかも知れないわけだ。


●ロボットや3Dオブジェクトの実現に向けて

「HERB」と名付けられたロボットのデモ。腕に仕込まれたカメラがマグカップを検出、回収するという動作を自律的に行なうことができる

 ラトナー氏の講演は、家庭内で自律的に動作するロボットに関するものへとトピックを変えた。例えば、家庭内では椅子やドアなどさまざまな障害物が存在するが、それらを避けるようなアルゴリズムの研究や、物をつかむといった点の研究が進められており、今回は、物をつかむ、という点にフォーカスされてデモが披露されている。

 1つは、コーヒーのマグカップを自律的に検出して、つかみ、片付ける「HERB」というロボットのデモ。これは腕の部分にカメラが仕込まれており、その情報を利用してマグカップの存在を検出する仕組みになっている。1つのマグカップを片付けるのに1分程度で完了してはいたが、将来的には人間と同じ速度で作業が完了できるのを目標に掲げている。


「Electronic Field Pretouch」は、物に触れる前に物体の情報を検知。物を掴む握力を調整することができる

 もう1つは、魚の能力を応用した物を掴むロボットの研究成果で、「Electronic Field Pretouch」というもの。Pretouchという名称が示すとおり、物に触れる前に、物の幾何学的な情報を検出。そして、バネを利用していない完全に制御可能なアクチュエーターにより、物に応じた適切な掴み方をするというもの。例えば、リンゴなら強く掴むが、人の腕は優しく掴む、といった具合だ。こうした人間のような振る舞いをする動作を、ロボットの日常的な動作につなげていきたいとしている。


 続いては、物理的な動きではなく、人間の脳に関するデモである。人間は五感を使って、言語認識などさまざまな認識を行なっている。しかし、コンピュータに対しては、マウスやキーボード、ときにはボイス入力などを用いて表現可能なものしか指令を出すことができない。ここから進んで、“無意識”なものをコンピュータに伝達しようというものだ。

 ここでは、Emotiv Systemsの創業者兼社長であるTan Le氏が登壇。脳波を検出してコントロール可能なヘッドバンドのデモを行なった。

 サンプルプログラムによるデモでは、感情によって空の色が変わったり、脳波によって物体を動かすといった動作が可能であることを披露。国内でも発売されたOCZ Technologyの「Neural Impulse」同様、興味深い製品になっている。このEmotiv Systemsがデモしたデバイスも、数カ月以内には発売するとしており、ラトナー氏は、クリスマス向けの素晴らしいデバイス、と製品を讃えた。

【お詫びと訂正】初出時に脳波の検出について一部不正確な記述があったため削除いたしましました。お詫びいたします。

Emotiv Systemsの脳波コントローラ。ヘッドバンドを利用して頭皮から脳波の動きを検出。ワイヤレスでPCへ送信することができる 怒りの感情で前方の人魂を吹き飛ばしたり、さまざまな感情によって空の色が変わるなどのデモを実施した

 最後に紹介されたのは、プログラマブルマター(プログラム可能な素材)である。簡単にまとめれば、Catomと呼ばれる無数の超小型コンピュータが集まって形成された、3Dオブジェクトを自由に変化させる、というのが目標となる。この分野では、カーネギーメロン大学を協力し、進めている。

 現在、球体のプロトタイプを利用して研究が進んでいる。これは、プロセッサ、メモリ、電気磁石が1つになったもので、磁石を制御して複数のプロトタイプを結合。どのように動かしていくかという基礎的な研究に用いられている。

 実際には、もっと小さなコンピュータを用いることになる。現在は長さ10mm、直径1mm程度のチューブ型Catomが開発されているが、ナノテクノロジーを用いて、さらなる小型化に挑戦中とする。一方、ジオメトリの部分では、3D表現に用いられるベース部分の開発が進められており、そのサンプルも披露された。

 こうした実験を進めオブジェクトを自由に変化できるようになれば、メールを打つときはMID型だが、収納時は携帯電話の形に変化するようなコンピュータも実現可能になる。完成まで50年はかかるかも知れないが、少しずつ進んでいく、としている。

 今回紹介されたものは、非常に未来的で現実味を感じない話もある。しかしラトナー氏は「これまでの40年で、Intelや業界は考えられないようなことを実現してきた。次の40年も、それを引っ張っていきたい」と実現への意欲を見せ、講演を締めくくった。

目の前の3Dオブジェクトが自由に変化するプログラマブルマターのイメージビデオ プログラマブルマターは無数の超小型コンピュータ(Catom)を集めて構成。移動したり色を変化させたりすることができるようになる Catomのプロトタイプ。コントローラと電磁石によって構成されている。電磁石の制御によってCatom同士の基礎的な動きを研究するのに使われている
Catomによる3Dオブジェクトを形成するさいのジオメオリ(ベース)に使われる物体。球体のガラスがレイヤーのように配置される格好になる これらが実現すれば、持ち運び時と利用時に形を変えるコンピュータ、といったものが実現されることになる

□Intelのホームページ(英文)
http://www.intel.com/
□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/
□IDF 2008 レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/idf.htm

(2008年8月23日)

[Reported by 多和田新也]

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