大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「福島県伊達産」を打ち出す富士通アイソテックの新方針
~富士通のデスクトップ生産拠点の国内生産へのこだわり




 富士通のデスクトップPCおよびPCサーバーを生産する富士通アイソテックは、今年創業51年目を迎えた。新たな半世紀に向けたスタートにあわせ、今年6月、同社社長に就任したのが、増田実夫氏である。そして、社内に限定したプロモーションであるものの、「福島県伊達産」とのメッセージを込めて、MADE IN JAPANの強みを訴求する。富士通アイソテックは、新社長体制のもと、どんな進化を果たすのか。同社の取り組み、そして新体制における今後の方針などを、増田実夫新社長に聞いた。

●年間100万台のデスクトップPCを生産

 富士通アイソテックは、'57年、黒沢通信工業として、東京・大田区蒲田で操業を開始した。当初は、印刷電信機、電子計算機用端末機の開発製造を行ない、その後、工場を南多摩に移転したのちに、'75年に現在の伊達市保原町に工場を移転。'85年に現在の富士通アイソテックに社名を変更した。

 同社がデスクトップPCの生産を開始したのは'95年から。店頭向けモデルであるFMV DESKPOWERの生産を開始。その後、99年に企業向けデスクトップPC、2001年にはPCサーバー/ワークステーションの生産をそれぞれ開始した。2003年にはリサイクル事業を本格的に開始。同敷地内には、リサイクル事業を専門に行なう関連会社のエフアイティフロンティアがある。また、東日本地区のデスクトップPCおよびノートPCの修理を担当。引き取りから修理、引き渡しまで、5日以下での対応を目指している。

 現在、富士通アイソテックにおけるPCの年間生産台数は、デスクトップPCで約100万台、PCサーバーで約9万台。2007年度の売上高は1,252億円となっている。

 2002年には、富士通アイソテックにおけるFMVシリーズの累計生産台数が1,500万台に到達しており、来年度以降の累計生産2000万台達成が視野に入ってきている。

富士通アイソテック・増田実夫社長 富士通アイソテック
富士通アイソテックは、JR福島駅から阿武隈急行鉄道に乗り換えて約20分。保原駅から徒歩約10分の場所にある リサイクルを専門に行なう関連会社のエフアイティフロンティア

●「伊達産」へのこだわりを社内で共有

 PCの生産は、同工場で最も建屋面積が大きい第5製造棟と呼ばれる建物で行われている。取材を行なったのが土曜日であったため、生産ラインを見学することはできなかったが、富士通のFMV DESKPOWERシリーズや、企業向けデスクトップのESPRIMOシリーズなどを生産している。

 サプライヤーから納品された部品は、受け入れ検査後、倉庫に入庫。生産ラインで装置を組み立てた後、基本機能確認、安全試験、各種情報設定などの基本機能保証試験を行なったのちに、約摂氏40度での高温・高負荷環境におけるランニング試験を経て、システム検査を実施。その後、出荷されることになる。

 品質管理については、部品を供給する海外ベンダーへの品質パトロールによる各ユニットの確認、ORTによる多様な設置環境における経年変化試験、落下試験による衝撃耐性維持などが行なわれている。

PCの生産を行なう第5製造棟 出荷を待つ生産されたFMV-DESKPOWER

 増田実夫社長は、「日本ならでの品質を確保するモノづくりが、富士通アイソテックの特徴。毎年毎年、品質、精度を高め、付加価値のある製品を、継続的に世の中に送り出しているのが強み」と語る。

 富士通アイソテックは、事務・技術棟にショールームを開設している。これは、昨年の創立50周年を迎えたことを記念して新設したものだ。ここに、富士通アイソテックで生産されているデスクトップPCやサーバー、プリンタなどが展示され、来訪者などに公開している。そこに展示されたPCの横に、今年から、「富士通のこだわり 福島県伊達産」の小さな看板が置かれていた。富士通アイソテックが、福島県伊達市にあることから、「伊達産」の名称を使っているのだ。

 富士通アイソテック製造統括部長代理兼品質保証部長兼開発企画室長の福本仁氏は、「量販店店頭などで、『伊達産』を訴求することは、いまのところは考えていない。だが、我々が自信を持って、この地でPCを生産していることを訴える意味を持たせて、この小さな看板を設置した」と語る。

 富士通のノートPCを生産する島根富士通は、今年2月22日、同工場でのノートPCの累計生産台数が2,000万台に到達し、その記念モデルとして、FMV LOOX  をベースとした限定製品を販売。その壁紙に、「富士通のパソコンは島根県斐川生まれです」との言葉を入れ、国産であることを訴えた。

 富士通アイソテックでも、デスクトップ累計生産2,000万台を達成したタイミングでは、外部に向けて「伊達産」を訴求する動きに期待したいところだ。

富士通アイソテック・栃本政一取締役 福島県伊達産を社内で訴求しはじめた富士通アイソテック 島根富士通で生産された2000万台記念限定モデルの壁紙には斐川生まれの文字が入っていた

●開発現場との連動を強化

 6月に社長に就任した増田実夫氏は、富士通でPCの開発に携わったのち、直近まで、PCサーバー事業を担当した経歴を持つ。

 「かつては、開発部門が設計したものを、工場側に生産をお願いするという一方向での流れが多かったが、ここ数年、開発と生産拠点との距離が縮まり、設計段階から生産現場の意見を取り入れるということが増えた。この動きをさらに加速させていきたい」と、開発部門出身らしい抱負を語る。

 開発された製品を量産化する際、生産しにくい設計となっていては、生産コストの上昇や、歩留まり率の悪化のほか、製品品質の低下、適切なタイミングでのデリバリーといった点にも影響が出る。

 「我々が目指さなくてはならないのは、高い品質によるモノづくりだけでなく、顧客が製品を欲しい時に、目の前に製品を供給できる体制を確立すること。旬のタイミングに、旬のものをお届けるする仕組みが必要である」と増田社長は語る。

 その成果は、SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)の強化という点で実現することができる。「販売という『出口の結果』を、調達、生産という『入口の仕組み』に、細かく反映できる仕組みを、さらに追求していく必要があるだろう。最終的には、1台売れたら、1台作るといったような仕組みが理想。これによって、滞留や在庫の削減にも寄与することになり、ひいてはコスト削減、最終製品の価格引き下げにも直結していくことになる」とする。

 調達から販売、サポートまでを司るSCMのなかでも、富士通アイソテックが受け持つ生産領域における改善は、大きな意味を持つ。そして、ここにも開発部門との連動が不可欠だ。

 実際、富士通アイソテックでは、昨年からひとつの生産ラインで、複数の製品を生産できるフレキシブルラインに稼働に取り組んでいる。生産拠点での改善への取り組みとともに、開発段階で機種間の設計の共通化や部品の共通化を図ることで、フレキシブルラインの確立が行ないやすくなるからだ。これも開発部門との連動が見逃せない。

 「昨年度は、まず1ラインをフレキシブルラインとして、試験的に稼働をはじめた。これを今年度から4ラインへと増強。個人向けのPCと、BTOと呼ばれる企業向けPCとを混流で生産できる形にしたことで、通常は企業向けPCを生産しているラインでも、個人向けPCの繁忙期には、個人向けPCの生産に振り分けるといったことも可能になる。年度内には状況を見て、さらにフレキシブルラインの数を倍増させたい」と栃本政一取締役は語る。

 「生産変動に対応しやすいラインを構築できるということは、そのまま、欲しい時に、欲しいものをタイムリーに製品提供できることにつながる」(増田社長)というわけだ。

●効率化により、生産ラインの減少、短縮も

 一方、トヨタ生産方式を用いた「カイゼン」への取り組みも加速している。「生産ラインの間締めによって、この1年間が、ラインの長さが3分の2程度に短縮した。来年には、これが、昨年の半分程度にまで短くできるだろう。ラインが短縮したことで、出荷作業の部分までを同一のフロアで処理ができるようになり、これも生産効率化に寄与している」(栃本取締役)という。

 空いたスペースを利用して、外部倉庫にあった部品を生産ライン近くに配置。また、デジタルピッキング方式を導入することで、必要な部品を的確に生産ラインに投入する仕組みも採用している。

 「ラインそのものの効率化によって、同じ生産台数を維持しながらも、昨年には18ラインあったPCの生産ラインを、今年は14ラインへと減少させた。これも、スペースをより効率的に利用できる環境体制の構築につながっている」(福本統括部長代理)という。

 「トヨタ生産方式への取り組みをベースにして、今後は、富士通アイソテックならではのモノづくりへと進化させ、製造現場のマインドを高めていきたい。富士通は、日本でのPC生産にこだわっており、それを維持するためには、中国をはじめとする海外の生産拠点にはない価値を維持しつづけなくてはならない。生産コストの引き下げもこれまで以上に取り組んでいかなくてはならない。生き残ることができる工場を目指す」と増田社長は語る。

 富士通では、今年の春モデルから液晶一体型のボードPCであるFMV-DESKPOWER Fシリーズを新たに投入している。この製品も、富士通アイソテックで生産されているのだが、内部を構成している部品の多くはノートPCに使われているものだ。生産には、デスクトップPCとは異なる部品、ノウハウが求められる。

 「PCが多様化するなかで、生産する製品や取り扱う部品も変化している。こうした新たなカテゴリーのモノづくりにも柔軟に対応できる体制が、生き残りには必要だ」として、こうした点にも富士通アイソテックならではの価値を見いだしていく考えだ。

●新社長メッセージは、「楽しく仕事をする」

 7月28日、社長就任から1カ月を経て、増田社長は、社内に事業方針を発表する。その場では、「仕事を楽しくやろう」ということを、社長メッセージとして訴える予定だ。

 「仕事が楽しければ、もっと楽しくするために、さまざまな提案が出てくる。それは、自分たちを変えていける流れを作ることにつながる。また、『楽』という意味では、効率を高めて、楽ができるようになれば、余分な時間ができて、本来やらなくてはいけない仕事にもっと時間が割けるという改善にもつながる。効率が悪ければ余分な時間がかかるだけ。私の役割は、現場の人たちが、楽しんで、仕事をできる場を作ることに尽きると考えている」と語る。

 51年目を迎え、次の半世紀に向けて、新社長体制で新たなスタートを切った富士通アイソテックは、国内生産にこだわる富士通のPC事業を下支えする拠点として、さらなる進化を遂げることになりそうだ。

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【2006年8月17日】富士通東日本福島リサイクルセンター訪問記
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0817/gyokai171.htm

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(2008年7月28日)

[Text by 大河原克行]


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