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京大と日本IBM、大規模交通社会シミュレーションシステムを開発

今回の研究で実施した京都市全域の交通シミュレーションの概要

6月10日 発表



 京都大学日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)は10日、大規模マルチエージェント交通シミュレーションシステムを共同開発したと発表した。

 マルチエージェントシミュレーションシステムとは、コンピュータ上に仮想的な人間社会を構築し、現実社会をシミュレーションするシステム。100万人都市の交通渋滞をシミュレーションする場合、人間と同数のエージェントを置いた仮想世界を作り現実の人間社会をシミュレートするため、従来の統計データを元にしたマクロシミュレーションとは異なり、広域をカバーしたミクロシミュレーションが可能となる。

 従来は大規模並列コンピュータを用いなければ計算できなかったが、コンピューティングパワーが増したことで実現が可能となった。

 この手法を活用することで、交通渋滞のシミュレーションといった課題だけでなく、高齢者が増加した社会における道路状況のシミュレーションといった、従来はシミュレーションが難しかった課題に対処できる。

京都大学大学院 情報学研究科 石田亨教授

 マルチエージェントシミュレーションの可能性と課題について、京都大学大学院情報学研究科の石田亨教授は次のように説明する。

 「大規模シミュレーションシステムの活用は、弾道表、流体などをシミュレートする物理系からスタートし、科学系、生物系に広がり、最近になって人間系でも利用されるようになった。人間系シミュレーションは、避難誘導や交通流などに活用することができるが、行動をモデル化することに多くの研究課題を残す。

 避難誘導のシミュレーションについては、パニック時の避難行動のモデル化が難しく、実用化するにはまだ難しい。運転行動のモデリングにおいても、一般道での運転のモデル化についてはまだまだ課題はあるものの、それでも避難誘導などに比べれば取り組みはしやすい。今回の研究では、獲得した運転行動モデルによって、ミクロからマクロまでシームレスに交通シミュレーションを実施することを目標として取り組んだ」。

マルチエージェントシミュレーションの概要 大規模シミュレーションシステムの歴史 運転行動モデルの獲得プロセス

日本IBM 東京基礎研究所 加藤整氏

 一方、日本IBMの東京基礎研究所では、大規模マルチエージェントシミュレーション環境「IBM Zonal Agent-based Simulation Environment」と大規模マルチエージェント交通シミュレータ「IBM Mega Traffic Simulator」を開発した。

 「従来のマクロスコピックは、都市全体を扱うことはできるものの、車一台の行動を見ていくことはできなかった。また、ミクロスコピックは車一台一台の状況をシミュレーションすることはできたものの、対象範囲が狭くなるという難点があった。IBM Mega Traffic Simulatorは、広い範囲を対象としながら車、一台ごとを追っていくことができる。その結果、ロードプライシングを導入した際の交通予測、CO2排出量を抑制するための制限速度とその際の都市全体のCO2排出量など、さまざまな角度からの予測に利用することが可能となった」(日本IBM 東京基礎研究所・加藤整氏)。

 今回の共同研究では、京都大学大学院が仮想都市空間シミュレータ「Free Walk」と、その際に必要なシナリオ記述言語「Q」を開発し、個々の参加者の行動シナリオを学習する技術を開発し、大規模シミュレーションの実施と、運転行動モデルを開発。日本IBMの東京基礎研究所がマルチエージェントシミュレーションの基盤技術「Caribbean」を開発し、携帯電話への自動メール配信システムなど、実ビジネスへの適用の検討などを担当。

大規模マルチエージェント交通シミュレータ「IBM Mega Traffic Simulator」の概要 IBM Mega Traffic Simulator」の特徴

 IBMでは、学術研究者がCaribbeanを試用できるように提供しており、京都大学がこれを試したところ利用は可能であると判断。今回の共同研究に結びついたという。

 京都大学と日本IBMは、2005年から3年間、総務省戦略的情報通信研究開発推進制度委託事業として研究に取り組み、京都市全域における81.1万台の大規模交通シミュレーション、京都市社会実験時の交通シミュレーションとして活用した。

 京都市全域の大規模交通シミュレーションでは、道路数32,654本、交差点数22,782点、最大同時走行車両数81.1万台、京都市全域を対象に、IBMのサーバー「xSeries 335」1台でシミュレーションを実施したところ、おおよそ30時間かけて計算した。

 ただし、この研究成果を実ビジネスで活用するためには、まだまだ課題が残る。例えば、運転行動モデルを獲得する際には、被験者にドライビングシミュレーションを利用してもらい、その際のログデータを分析し、被験者へのインタビューを行なって操作ルールの記述、観測事象の説明などを行なった上で、個々の人の運転行動モデルを作る必要がある。

 「被験者は、ドライビングシミュレーションの体験、その後のインタビューと大きな負荷がかかる。本来、京都市の人口分布にあわせた男女、年齢などのデータを取得しなければならないが、それほど多くのデータを取得できないというのが現状。この問題解決のために、行動モデル取得システムを開発している」(京都大学・石田教授)。

□日本アイ・ビー・エムのホームページ
http://www.ibm.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.ibm.com/jp/press/2008/06/1001.html
□京都大学のホームページ
http://www.kyoto-u.ac.jp/

(2008年6月11日)

[Reported by 三浦優子]

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