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デジタル一眼フルサイズフォーマットの功罪




※今回に限り、クリックすると原寸の画像が開きます

 デジタル一眼レフカメラの撮像素子はフルサイズ化のトレンドにある。果たしてそれでよいのかどうか。その功罪について考えてみることにしよう。

●デジタルガジェットテストの私的定点観測地

 このゴールデンウィークは、米・ヨセミテ国立公園にでかけてきた。サンフランシスコから東に約300kmちょっと。日本でたとえるなら方向こそ違うが、東京から上高地、志賀高原にでかけるといった感覚の距離にある世界的に有名な渓谷だ。

 最初にこの公園を訪れたのは1997年の6月だった。ヨセミテはちょうどその年の1月に歴史的な大洪水に襲われ、その傷も癒えない状況で、宿泊したホテルも棟が流される被害に遭っていた。

 それでも、この公園を大いに気に入り、入手するデジタルガジェットをテストする定点観測の地点に設定することを口実に、1999年10月、発売されたばかりのニコン D1を持参して以降、季節や日数こそ違え、ほぼ毎年、この公園にでかけるようになった。

 そして、初めてヨセミテを訪れてから10年目になる今年、現地に持ち込んだガジェットは、デジタル一眼レフカメラがニコン D3、ニコン D300、デジタルビデオカメラがソニー HDR-TG1、そして、カラーリバーサルフィルムとしてコダクロームを詰めたニコンF6、モノクロフィルムとしてT-MAX400を詰めたニコン U2だった。コンピュータは、17インチMacbook Proと、レッツノートR7、LaVie Jを持ち込んだ。5月3日に日本を出発、当日朝にサンフランシスコに到着し、そのままレンタカーで現地入りして6泊、最終日はベイエリアに戻って空港近くのホテルで1泊して日本に戻るというスケジュールだ。

 D3が発売されたのは2007年の11月だったが、これといったテーマで集中して撮影してみる時間がとれず、ちょっとテストしてみた程度でそのままになっていた。適当な軽量ズームレンズをつけても1.7Kgを超える巨大な筐体を、普段の取材に持ち歩くのはつらく、日常の取材にはD300を使ってきた。

●焦点距離と被写界深度

 フルサイズ撮像素子を持つカメラとしては、2003年5月に発売されたコダックのDCS Pro 14nという製品も持っている。5年も前の製品だが、有効画素数もD3より多く、発売年の9月にヨセミテを訪れて大量の写真を撮っている。まさにじゃじゃ馬といっていいカメラだが、光が均等にまわっているシーンなら、ハッと息を飲むような絵をキャプチャしてくれた。今回のヨセミテから戻ってきて、機材を整理しているときに、ちょっと気になって撮像素子をクリーニングし、久しぶりにシャッターを切ってみたが、いっしょに持って行ってたたき出す絵を比べてみればよかったと思ったが、後の祭りだ。

 さて、写真の歴史本をひもとくと、映画用に使われていたいわゆる35mmフィルムをライツ社がスチルカメラに流用したのが1925年のことで、以来、1フレームあたり、24×36mmの135サイズはライカ判と呼ばれ、もっともポピュラーな規格として使われてきた。

 一方、デジタルカメラは、ライカ判と同等サイズの撮像素子を使わず、それよりもずっと小さな撮像素子が使われてきた。一眼レフカメラではAPS-Cサイズが主流で、コンパクトデジカメや携帯電話では、それよりもさらに小さなセンサーが使われている。

 同じ画角を得るためには、撮像素子のサイズが小さければ小さいほど、レンズの焦点距離を短くしなければならない。たとえば、D3に20mm相当の焦点距離のレンズをつけたときと同じ画角を、同じ撮影位置で得るためには、D300に13〜14mmのレンズを装着する必要がある。かろうじて、このレンジのレンズは現行製品のラインアップに含まれているが、D300でそれより広い画角を得るのは難しい。つまり、それより焦点距離が短いレンズがないからだ。

 ニコンではD3相当のフルサイズをFXフォーマット、D300相当のAPSサイズをDXフォーマットと呼んでいる。FXとDXの縦横比は同じだが、DXでは同じ画角を得るために焦点距離が1.5倍相当になってしまう。

 焦点距離が異なれば、同じ絞り値時の被写界深度が違ってくる。絞り値が同じ場合、焦点距離が短ければ短いほど、被写界深度が深くなるからだ。被写界深度は、特定位置にピントを合わせたときに、ピント位置から前後どのくらいの範囲にピントが合っているように見えるかを示す値だ。

 だが、同じ画角を得るために必要な焦点距離は、FXとDXでは、DXの方が短い。FXに焦点距離60mmのレンズをつけて絞り開放F2.8で撮影したのと同じ写真をDXで得るためには、約40mmのレンズが必要で、それで画角は同等になるかもしれないが、同程度のボケを得るためには絞りをさらにF1.4かF1.8程度まで開く必要がある。

 DXフォーマットでさえこうなのだから、それよりも遙かに小さな撮像素子を使っているコンパクトデジカメなどでは、ボケを生かした表現をするのはかなり難しい。

 もちろん、写真表現はボケだけではない。たとえば、風景写真では、フレーム全体にピントがあったパンフォーカスの表現を得るために、絞り込んで撮影することが多い。そういう場面では、画角が同じ場合に深い被写界深度が得られるDXフォーマットが有利だ。FXではF16、F22と絞らなければならなくても、DXならF8とかF11まで絞ればすむ。焦点距離は1.5倍相当だが、被写界深度も1.5倍になるというイメージだ。

 レンズは、あまり絞り込みすぎると回折現象を起こす。得られる絵が全体にモヤッとしてしまい、解像度が落ちたように見えるのだ。絞り羽の縁での光の回折がもたらす現象だ。

 今回のヨセミテで撮影してきた写真をいろいろ分析していると、D3のFXフォーマットはF16まで絞ってもまだ足りないという印象を持った。だが、D300のDXフォーマットならF11で十分という印象なのだ。フィルム時代にも同じことが言えたわけだが、現像済みフィルムをルーペで見るという鑑賞の方法では気がつきにくいことだった。パンフォーカスに近いと思い込んでいても、実際には、そうではなかったのかもしれない。

 ただ、D3では、それなりのレンズをつけて撮影すれば、F16やF22まで絞り込んでも、目立った回折現象は見いだせないのが救いだ。それが、レンズのコーティングによるものなのか、画素サイズのせいなのか、あるいは、ノイズのデジタル低減処理のせいなのかはわからないが、撮影した写真を宿に戻って観察していて、風景ではDXの方が有利なのかなという気持ちに傾きかけていた。

●ダイナミックレンジの広さに驚愕

 D3のマルチパターン測光は、どうにもやっかいだ。露出が妙に暴れるのだ。同じ撮影位置で同じ画角でのD300と比較したときに、1.5段くらいオーバーな値を示すこともある。D300のマルチパターン測光は比較的安定していて、大きく外すことはないが、D3は相当の注意が必要だ。ヨセミテから戻り、ニコンのサービスに見てもらい、10日ほど入院させたくらいなのだが、異常なしという判定で戻ってきた。

 すべての露出がオーバーなら、調整してしまえばそれですむのだが、どのような場合にオーバーになるのかが特定できないからタチが悪い。

 ただ、それで気がついたのが、D3の持つダイナミックレンジの広さだ。

 ぼくは、デジタル一眼レフカメラでの撮影では、約300万画素のJPEGと14bitRAWを同時に記録するように設定している。多くのコマは、そのJPEGで十分使えるし、解像度的にもウェブでの掲載なら十分だと判断している。RAWは万が一のための保険であり、まさに、決定的瞬間を、もう一度撮影するためのものだ。

 D3の露出計の指示通りに撮影した約1.5段オーバーのコマは、白っちゃけていて、ヒストグラムを見ても、暗部の情報がほとんど入っていないように見える。だが、現像ソフトのCaptureNXを使って露光を補正すると、ないように見えた白飛び部分のトーンが見事に出現する。トーンジャンプの副作用も見つからない。これには驚いた。

 銀塩の時代にはネガフィルムのラチチュードの広さに救われることは多かった。リバーサルでは念のためにブラケット撮影で露出をばらしたカットを押さえることにしていたが、ネガを使うときにはその必要はなかった。1段くらいのアンダー/オーバーなら、焼き付け時に簡単に救えるからだ。今回のRAWデータでは、それと同じことを感じたのだ。

 自然界の輝度差は想像以上に広く、それを再現できるほど、現在の写真鑑賞手段は発達してはいない。太陽と同じ明るさで輝く液晶ディスプレイは想像しにくいし、紙にプリントした写真では、もっとも明るい部分でも、紙の白より白くはならない。だから、鑑賞時には、明るい部分と暗い部分の両方をあきらめなければならない。

 露出を決めるということは、目の前にある光景の、どの部分を18%グレーと見なすかを決める行為だ。その部分から上3段、下3段程度をとり、それより明るい方は白く飛ばし、暗い方は黒くつぶす。でも、情報が記録されてさえいれば、あとで、18%グレーの位置をずらし、写真表現意図を変えることができるのだ。また、将来、より優れたデバイスが出てきたときに、今よりも、もっといい写真を眺めることができるかもしれない。そういう意味では、見えない部分を包含するD3のRAWデータは、きわめて高い価値があるように思う。50年前に撮影されたネガフィルムを最新の印画紙に焼き付けると、当時では考えられなかったほどの階調が再現されるような体験が、将来できるかもしれない。

●DXはFXには勝てない

 取材にはD300、気合いを入れた撮影にはD3という役割分担を考えていたのだが、どうもそういうわけにはいかないかもしれない。深い被写界深度が得られるD300は風景写真には有利だが、D3に比べ圧倒的なダイナミックレンジの差はいかんともしがたい。それに、暗い場所で行なわれることが多い記者会見などではD3の高感度はとても有利だ。そんなわけで、この2台のカメラの役割分担に悩み続けているところだ。

 ちまたでは、D3の高画素機が待望されているという。でも、画素数が1.5倍になることで、ダイナミックレンジが狭まってしまうようなことがあれば、このカメラの魅力の一部が帳消しになってしまう。まさか、ダイナミックレンジまで1/1.5になってしまうわけではないだろうが、原理的に考えても、同じレンジを得ることはできないだろう。

 その一方で、画素数はそのままでD300サイズのFXフォーマット機も切望されている。もし、同じ価格で両機が出れば、まちがいなく高画素機の方が売れることになるのだろうが、そこには究極の選択に近いものがある。個人的には画素を増やすことで失われるものが多すぎるのではないかという危惧を感じてしまうのだ。

 どっちにしても、今後発売されるデジタル一眼レフカメラは、FXフォーマットに収束していくことになるだろう。カメラベンダーにしても、DXとFXの両方を維持していくのはたいへんだし、両方のためにレンズのラインアップを揃えるのも無理がある。約10年と、意外に長かったDXフォーマットの時代だが、D3の潜在力を目の当たりにして、そろそろ終焉に向かっているという感触を持った。

 今年はD3をリュックに入れ、ヨセミテ滝上まで標高差約800mを歩いて登ったが、背中のカメラは本当に重かった。かつて、D2Xをかついで標高差1,300mのハーフドームに登ったときよりはましだが、そろそろ、そんなことがつらい年齢である。次回、たぶん、D1から10年が経過するころには、もう少しラクをして同じ写真を撮れるようになってほしいものだ。

 ちなみに、一本だけ撮影し、帰国後すぐに出したコダクロームの現像上がりの連絡を、この原稿を書いているときに受けた。ほぼ3週間が経過している。コダクロームの現像は、すでに日本国内では終了しているため、米国送りになっているそうで、これだけの時間を要する。しかも、一本あたりの現像コストは3,500円程度とかなり高額だ。どんな写真が撮れているか楽しみだ。アナログにはそういう待つ楽しみもある。そして、冷蔵庫に長期保存してあるコダクロームは残り一本になった。

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(2008年6月6日)

[Reported by 山田祥平]


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