NVIDIA、MID向けの新しいSoC「Tegra」を発表
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Tegraのブランドロゴ |
6月2日(現地時間)
米NVIDIAは2日(現地時間)、COMPUTEX TAIPEIの会場近くで、MID(Mobile Internet Device)と呼ばれるインターネット接続を前提にした携帯機器向けSoC(System On a Chip)「Tegra」(テグラ)を発表した。
TEGRAはARMアーキテクチャのアプリケーションプロセッサと、NVIDIAのGPU、HDビデオコーデックをデコードできるビデオプロセッサなどを内蔵しており、従来の携帯機器向けのプロセッサに比べて高いメディア再生能力を備えていることが特徴となっている。
●新規参入で盛り上がるMID向け半導体市場
現在、MID(Mobile Internet Device)と呼ばれる機器が注目を集め始めている。MIDは狭義な定義では、通話機能を持たずにHSDPAやWiMAXなどのインターネットへの無線常時接続を前提とした携帯機器で、日本市場での製品で言えば、先日ウィルコムが発表したD4や、イーモバイルのEM・ONEなどがこれに該当するだろう。
MIDをインターネットへの無線常時接続できる機器と定義するのであれば、通話もできるスマートフォンと呼ばれる機器もMIDに分類してもよく、ウィルコムのW-ZERO3や、ソフトバンクのXシリーズ、日本では未発売だがAppleのiPhoneなどもMIDといってもいいだろう。
HSDPAやWiMAXなどの高速な無線通信が可能なソリューションが揃ってきたこともあり、MIDの市場は今後さらに盛り上がり、多数の製品がリリースされると予想されている。これらの製品向けの半導体メーカーにとっても魅力的な市場になっており、新規の参入が相次いでいる。
PC業界の盟主であるIntelも、Centrino Atomを持ってこの市場に参入することをすでに明らかにしており、前出のウィルコムのD4にはCentrino Atomが採用されている。日本でも2009年には、次世代PHSやWiMAXなどの高速無線通信が利用できるようになるとされており、MID市場が加速することは疑いない状況なのだ。
●強力なGPUとビデオプロセッサを内蔵した「Tegra」
こうしたMID市場にNVIDIAも乗り出す。その武器が「Tegra」だ。
Tegraの大きな特徴は、従来の携帯機器向けプロセッサに比較して強力な3D描画性能やメディア再生機能を備えていることだ。「Tegraを利用することで720pや1080pのHD動画を楽々と再生することができる」とNVIDIA モバイルビジネス事業部 事業部長のMike Rayfield氏は説明する。
実際、Tegraの発表会では、Tegraを搭載したMIDで、720pの動画を大きなスクリーンに映して再生してみせた。MIDに接続されているHDMIケーブルを外すと、再生が止まるデモまで行ない、動画の再生がMIDによるものであることを確認させる念の入れようだ。
Tegraでは、動画再生や3D描画に内蔵するNVIDIAのGPUコアとビデオプロセッサを利用している。従来の携帯機器向けのプロセッサではGPUを内蔵している例は少なく、3Dや動画の再生などはCPUによって処理されるので、コマ落ちなど見られたのだ。
発表会場に掲げられたロゴ | Tegraを掲げてみせるNVIDIA モバイルビジネス事業部 事業部長 Mike Rayfield氏 |
Tegraのブロックダイアグラム | Rayfield氏が手に持ったTegraを搭載したMIDでHD動画を再生しているところ |
●x86に比べ消費電力と実装面積は1/10、処理能力は10倍
TegraのアプリケーションプロセッサはARM11ベースだ。Rayfield氏はARMを採用した理由として、消費電力とソフトウェアの互換性を挙げた。
また、「x86アーキテクチャを採用しているIntelのAtomに比べて、Tegraは消費電力と実装面積が1/10に過ぎないのに、処理能力は10倍以上だ」と述べた。そして、ASUSのEeePCとTegraの消費電力を比較して見せた。
そして、Eee PCではビデオを再生している時のシステムトータルの消費電力が13Wであるのに対して、Tegraベースのシステムではわずか1.3Wに過ぎないと説明した。ただし、比較に利用されたEee PCはDothanコアのCeleronを搭載したシステムで、Atomではない。
また、発表会にはARMのマーケティング担当副社長Ian Drew氏も駆けつけ「IntelはAtomのアドバンテージとしてWebブラウザやFlashなどの互換性でx86はARMを上回っていると言っているが、実際にはそうではない。2010年にはARMベースのデバイスは40億台にも達する見通しで、ソフトウェアベンダはx86だけでなく、ARMのサポートも積極的にしてくれている。例えば、マイクロソフトはSilverlightを、AdobeはFlash10とAIRをすでにARM対応にしているし、さらにはMozillaのFirefox 3もARM対応になっている」と述べた。
Atomがx86であることによりソフトウェア面で有利であるとするIntelに対し、敵愾心をむき出しにして、携帯機器にはARMアーキテクチャが最適だとアピールしたのだ。
NVIDIAは、Atomと比較して消費電力と実装面積は1/10だが、処理能力は10倍と主張する | AtomのマザーボードとTegraのマザーボードの比較 | Tegraの処理能力とバッテリー駆動時間の比較 |
ASUSのEee PCでビデオを再生した時の消費電力は13W | Tegraのシステムで同じビデオを再生するとわずか1.3W | ARMのアプリケーション対応はx86に比べて遜色なく、2010年には累計で40億台に達する見通しだという |
●Tegra搭載製品は年末までに登場
Tegraには「Tegra 650」、「Tegra 600」という2つのSKUが用意されている。なお、NVIDIAはすでに「APX 2500」というスマートフォン用のSoCをリリースしているが、基本的な仕様は共通となっている。違いは、対応できる液晶の解像度、デコードできる動画の解像度、コア/メモリクロックなどだ。なお、対応OSはWindows CEおよびWindows Mobileとなる。
TegraとAPX2500 | Tegraのマザーボード。中央に搭載されているのがTegra | Tegraのデモ。このHD動画を再生しているのは下に見える小さなMIDだ |
Rayfield氏によれば、Tegraを搭載したシステムは、クリスマス商戦頃に登場する予定であるという。さらに「今後は同じような消費電力の枠の中で、Tegra2、Tegra3とより強力な後継製品をリリースしていく」とし、今後も継続して製品をリリースしていくことで、処理能力を向上させ、MIDの使い勝手を改善していきたいとまとめた。
□NVIDIAのホームページ(英文)
http://www.nvidia.com/
□ニュースリリース(英文)
http://www.nvidia.com/object/io_1212391368499.html
□製品情報(英文)
http://www.nvidia.com/page/handheld.html
□関連記事
【2月12日】NVIDIA、720p動画対応のWindows Mobile向けプロセッサ「APX 2500」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0212/nvidia.htm
(2008年6月3日)
[Reported by 笠原一輝]