第414回
日本版iPhoneの登場がもたらすもの



2007年1月に登場した初代iPhone

 Appleの開発者向け会議「Worldwide Developers Conference(WWDC)」の開催を再来週に控え、3G携帯電話ネットワークに対応したiPhoneの噂が広がっている。

 本当に日本で扱うのか? 日本独自の携帯電話文化にどのように対応するのか? 料金プランや端末価格がどうなるのか? ネットワークオペレータ(キャリア)はどこになるのか? など、疑問の多いiPhone関連の情報だが、どうやら日本でのiPhone発売は間違いないようだ。

 “日本での発売が間違いないだろう”という情報の根拠に関しては、情報源の特定を避ける上でもここで紹介できないが、周辺の情報をまとめた上で、日本版iPhoneの姿を予想してみよう。

●3G iPhone発表はWWDC初日

 まずWWDC初日の基調講演におけるiPhoneの3Gネットワーク対応発表だが、これは最近のAppleの動向からして、ほぼ間違いない。ハードウェアのプラットフォームを一段上げた新バージョンを提供することで話題をもたらし、対応アプリケーション開発を加速させようという狙いがAppleにはある。

 そして、AppleがiPod touchもサポートするアプリケーションの開発環境を提供し始めたのはご存じのことだろうが、この時に日本でも(iPod touch上でも動作するからという理由で)Appleは積極的にプロモーションを行なった。

 なるほど、iPod touchもiPhoneと同じソフトウェア基盤上に作られているから当然とも言えるが、高価だが高機能で操作性が良いiPod touchは一般ユーザー向けのボリューム製品というわけではない。そのiPod touch向けアプリケーション開発の話題に日本法人の広報も力を入れてくるというのは、iPhone日本語版の投入に向けての準備を着々と進めている、その一環で地ならしをしていると考える方が自然だ。

 日本市場でもある程度スマートフォンという端末スタイルが受け入れられ始めていることや、端末の割賦販売(あるいはそれに近い料金プラン)が導入されたことなど、iPhoneが受け入れられやすい環境が整ってきていることなど、状況証拠は揃ってきた。

 もちろん、それだけが日本で発売されるという根拠ではないが、Web媒体やMac関連媒体、携帯電話媒体はもちろん、新聞社やテレビの報道局による取材合戦も加速している。火のないところには煙は立たないものだ。火がなければ煙が上がっても、すぐに消えていく。継続的に煙が立っているのには、それなりの理由がある。iPhoneを心待ちにしている読者がいるのであれば、日本市場への投入は近いと伝えておきたい。

●日本でのネットワークオペレータはどこに?

 では日本では、どのネットワークオペレータと提携するのだろうか?

 まず従前に予想・報道されているように、KDDIとの提携は100%ない。iPhoneでAppleと提携しているネットワークオペレータにCDMA 1Xを採用している会社はないからだ。Appleはワールドワイドで単一仕様のiPhoneを販売してきており、各国版の違いは主にソフトウェアと内部のSIMカードしかない。コンパクトに内部を設計する必要があることも考え合わせれば、日本だけ通信方式が異なることはない。

 ということで、W-CDMAを採用するNTTドコモとソフトバンクが残ることになるが、本命と言われているのはNTTドコモだ。AppleはiPhoneの発売に際して、各国のナンバーワンキャリアと提携してきているというのがその理由だ。MNP導入後、NTTドコモが他社に顧客を奪われているという背景事情を考えても、なるほどそういう予想も可能だろう。しかし筆者は、Appleの提携先はソフトバンクではないか? と睨んでいる。

 理由はiPhoneのビジネスを行なうには、ビジネスモデルの大胆な変更が必要になるからだ。10年前のNTTドコモならば話は別だが、組織が肥大化して縦に長い、ひたすら長い構造を持つNTTドコモがAppleとの交渉を円滑に進められるとは思えない。対してソフトバンクならば、積極的に攻める料金プランを見ても判るとおり、トップの示す方向に身軽に動ける。

 広く知られている通り、AppleはiPhoneにおいて月々の料金の一部を納めることを、ネットワークオペレータに求めている。さらにiPhoneを販売するのは携帯電話会社ではなくApple自身だ。iPhoneという、Apple独自の端末プラットフォームを整備するための協力金とも言えるこのスタイルを呑む必要がある。

 さらにデータ通信に関して新しい料金プランの設定が必要だ。すでに一部でスマートフォン向けのパケット通信割引サービスが始まっているとはいえ、常時接続でネットワークアプリケーションが走るiPhoneの場合、よりアグレッシブな(言い換えれば低価格な)定額パケット通信の料金プランが必要になろう。

 もちろん、これらの条件を呑んででもiPhoneを獲りたいという気持ちは、NTTドコモの一部には確実にあるだろう。しかし、会社全体のビジネスモデルに関わる決定で、トップまで含めてコンセンサスを得るのは難しい。具体的な契約条件については推測の域を出ないが、Appleとの間でディール条件を出し合いながら話をまとめやすいのはソフトバンクだ。

 また、ソフトバンクのYahoo!ケータイは、PC向けのYahoo!ポータルサービスとの連携を強く意識しており、後述するように携帯電話会社独自のサービスをiPhoneでも実装する上で、馴染ませやすいという点も見逃せない。

 いずれにしろ、3G iPhoneの発表は再来週に迫っている。その当日、もしくはそれまでの間に新しいスマートフォン向け料金プランを示したネットワークオペレータがあれば、そこが日本でiPhoneのネットワークインフラを担当することになると予想する。

●日本独自のアプリケーションはどうなる?

 前述したように、Appleは日本独自のハードウェア仕様は採用しないだろう。各国独自の仕様にしたのでは開発コストが増えてしまい、これまでのiPhoneで培ってきたビジネスのノウハウを活かせない。

 従って“おサイフケータイ”のように、日本以外では必要のないハードウェアの追加はないと考えられる。モバイルFelicaは特に都市部では急速に利用できる店舗が増えており、また新幹線予約と連携して乗り継ぎできるなど、使いこなしているユーザーからすると、大きな不利にはなるだろう。

 しかし、端末機能とタイトに結びつけられた、独自のネットワークサービスに関しては、ある程度はソフトウェアで解決できるかもしれない。この部分に関しては具体的な情報がないため、完全な推測となってしまうが、例えば、ネットワークオペレータが独自に開発するiPhoneアプリケーションで、独自サービスと連携させることは不可能ではない。

 もしネットワークオペレータがソフトバンクだとすると、Yahoo!ケータイ互換クライアントをiPhone上にインストールして出荷すれば、ハードウェアに依存しないサービスならば、iPhoneでも利用可能になる。さらにS!アプリの実行環境も用意しておけば、かなり幅広いニーズを拾える。

 また、メールに関しては、専用アプリケーションを作る以外にも、IMAPでアクセス可能な代理サーバーを用意すれば、iPhone標準のメールアプリケーションでも利用できる。ソフトバンクならば、元々、PC向けのメールサービスと連携しているので、なおさら対応しやすいはずだ。

 これらは従来的なスマートフォンとは異なる、日本のコンシューマユーザー層に拡販する上では必須ではないか? と筆者は考えているが、もちろん、実際にソフトウェアを実装するかどうかは、Appleと提携するネットワークオペレータ次第だ。

 携帯電話会社独自のネットワークサービスを維持するためというよりも、スマートフォンと日本型携帯電話の間を橋渡しするためのブリッジとして、対応するのではないだろうか。

●意外に安くなる? 日本型iPhone

 価格はどうだろうか? たとえばiPod touch 32GBの価格は59,800円、16GB版で48,800円だ。米国でのiPhoneの価格設定は、容量が一段多いiPod touchと同じなので、それに倣うならば16GB版が59,800円、8GB版が48,800円となる。

 もし、日本でもAppleに支払うインセンティブが同等とするなら、価格は上記のルールに近い設定になると考えられる。あるいは3G化でフラッシュメモリ容量が増えたり、高速通信への対応やアプリケーション実行速度を上げるためにハードウェアが強化されていると、もう少し高い金額になるかもしれない。

 しかし、これも消費者への価格の“見せ方”次第で、見かけ上の金額は安くできる。ここでもソフトバンクを例に取ると、新スーパーボーナスと同様の仕組みを用いれば、かなり買いやすい価格に設定できる。

 iPhoneでは定額パケット通信が必須になる。この金額が通常端末と同じなのか、それともスマートフォン向けの特別料金なのかは現時点では不明だが、おそらくスマートフォン向け定額料金が設定されるだろう。新スーパーボーナスでは割賦金支払い分は基本料金と通信料に充当されるので、通常よりも高いと考えられるスマートフォン向け定額パケット料金がまるまる差し引かれたとしても割高感は感じないと考えられるからだ。

 たとえばだが、店頭でのiPhoneの価格を3万円程度に設定したとして、残りの不足分を割賦金として端末コストの不足分に充当。1年契約、あるいは2年契約とすれば、見かけ上の価格をiPod並にすることもできる。

iPhone価格モデル(筆者予想)

●日本の携帯電話ビジネスの転機になるか?

 上記ではiPhone上にアプリケーションとして、携帯電話会社独自のネットワークサービスクライアントを実装するかもしれないと予測したが、これはあくまで予測で、あるいはスッパリと既存のサービスとは切り離して独自の世界を構築しようとするかもしれない。

 つまり、既存のWindows Mobile端末と同等の利用モデルとなるケースだが、このケースでiPhoneがビジネス面で成功を収めたならば、iモード以来の独自ネットワークによるコンテンツやサービスの囲い込み戦略を止める転機になるだろう。

 PDC時代とは異なり、通信規格こそ世界共通仕様になった日本の携帯電話だが、独自ネットワークサービスを基礎に端末の機能を縛っていることで、結局のところ日本の鎖国状態は完全に解消されていない。今後、端末上でのサービスや機能を実装していく上で、さらにソフトウェアが重要になってくるとするならば、日本だけ鎖国状態を続けるのは得策ではない。

 たとえ予想通り、独自ネットワークへアクセスするソフトウェアクライアントが添付(あるいは配布)されたとしても、端末ハードウェアと連携するほどのタイトな統合ではないから、オープンプラットフォームへとソフトランディングさせるのも容易になる。

 いずれにしろ、再来週のWWDC初日まではあと少し。それまでには、かなり多くの情報が明らかになっているはずだ。

□Apple Worldwide Developers Conferenceのホームページ(英文)
http://developer.apple.com/wwdc/

バックナンバー

(2008年5月30日)

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.