組込システム会議「ESC SV 2008」レポート
【拾遺編】軍事関連製品から隙間産業狙いのものまで会期:4月14日~18日(米国時間) 会場:米国サンノゼ McEnery Convention Center ESC SVが閉会してほぼ1カ月、まもなく次のイベントである「組込みシステム開発技術展(ESEC)」が東京ビッグサイトで始まろうとしている。最後にまとめとして、ESCとESECの違いを少しレポートしたい。 ●やっぱり軍事系が強い なにせ基調講演の最初の話題がこれ(写真1)である。最初のコンピュータであるENIACは、米陸軍で弾道計算を行なうためのものだったし、それ以後も常に軍は最先端の技術を開発し、それが後に民間転用という形で普及してきた。最近でこそCOTS(Commercial Off-The-Shelf)という形で、逆に民間で開発された技術を軍に取り込むという動きが盛んになりつつあるが、それでも最先端の分野では依然として軍事用途が突出している。 会場にもこうした軍向けのシステムを展示するブースが散見され(写真2)、併設されたCARRIER FAIRにはGENERAL DYNAMICS C4 SYSTEMSがブースを出しているほど。また会場で無料配布されていた情報誌の中にはこんなもの(写真3)が普通に混じっていた。 日本では防衛関連というとタブーなイメージが強いし、またESECに防衛関連企業(あるいは総合電機メーカーの防衛関連部門)が出てくることはまずありえず、このあたりは(事の是非はともかく)大きく違う部分の1つだと感じた。 ●エンジニア向け企画が多い 別にESECがエンジニア向けでは無い等と言うつもりはないが、「エンジニアを楽しませる」という企画は余り無いように感じる。これがESCとなると、“Tear Down”(分解)というイベントがわざわざ用意される。まず基調講演の中で、20年前の携帯電話と最新の携帯電話を比較しながら(写真4~6)、この20年の進化を紹介するといったイベントが盛り込まれ、それとは別に会場内の特設ブースで宇宙服/Sonyの有機EL TV/Gibsonのギター/SonyのRollyを分解してゆくというイベントが設けられ、かなりの参加者の興味を集めていた(写真7~9)。 またKontronは、同社のシングルボードコンピュータで制御される巨大なキリン(?)(写真10~12)を展示していた。勿論主要なメーカーは自社ブースに講演エリアを設け、そこで自社製品のセミナーを行なうという風景は洋の東西を問わないものだったが、こうしたエンジニアの遊び心を刺激するような展示や講演はESECではほとんど見られず、そのためもあってかなり新鮮であった。 ●その他いろいろ ESCにしてもESECにしても、大会社ばかりが出展しているわけではない。さすがにコネクタだけとかヒートシンクだけといった小メーカーはあまり見かけないが、そうはいっても一発芸のメーカーはちゃんとある。 例えばUSBとTCP/IPの“Software Stackのみ”を販売する会社(写真13)とか、相変わらず「世界最小Webサーバー」を持ち込む会社(写真14,15)もある。世界最小のWebサーバーといえば、PICをベースとしたものが2002年あたりから、自作に必要な情報が全部公開されており、これを使ったシステムなどもある。そのため、決して珍しいものではないのだが、それでもこうしたものをまだ製品として売れるということにちょっと驚いた。 同社の場合は完成品を売るわけではなく、言ってみればライセンスとサポートを込みにした「サービス」が売り物。リファレンス設計としてFインチ/Owl/MicroGooseといった鳥の名前の付いたものがあり、これをベースに顧客の要望に応じてカスタマイズして納める形になるとか。値段もいろいろで、包括ライセンスのパターンもあれば、製品の1個1個にライセンス料を乗せるパターンもあり、写真15の製品を後者のパターンで販売すると、おおむね全部で40ドル強程度。 ちなみにパーツはアメリカで調達すると概ね32ドルで、約10ドルがライセンス料となる。かなり強気な商売のようにも思えるが、さまざまな機器を製造しているメーカーが、必ずしもPICやWebサーバーを熟知しているとは言えず、こうしたところをターゲットに十分商売できるということのようだ。同種の会社は日本にも少なくないが、パイが大きい分、売り上げも大きいようで、ちょっと強気の設定でも商売になるのかもしれない。
Embeddedらしいという点では(先の軍事向けの話とちょっと被るが)PFU Systemsが出展していたSOM(System On Modules)もなかなか面白かった(写真17~19)。 医療用だったり航空宇宙向けだったりすると、信頼性を確保すべく、例えばシールド対策もかなりがっちり行なわないといけない。日本だとこうしたものは通常、特注という形で提供される。つまりその程度にしか需要が無いわけだ。が、アメリカだと汎用品でこうしたものが提供されるほどに需要があると考えるべきなのだろう。 高信頼性で面白かったのはSUPER TALENT。メモリベンダーというよりはSSDのベンダーとしてずいぶん知名度が上がった。最近国内でも128GB製品が10万円を切るくらいで流通が始まったようだが、会場には256GB品を持ち込んでいた(写真19)。同社製品には一般温度品(0℃~70℃)と工業温度品(-40℃~85℃)があり、256GBの場合一般で3,000ドルほど、工業で4,000ドル程度。 ちなみに、256GB品は3.5インチのものは一般/工業の両方が提供されるが、2.5インチは一般のみ。128GB品は2.5インチでも両方サポートされるが、1.8インチは64GBどまり。「実装面積がかなり厳しいので、256GB品の工業向けを2.5インチで出す予定はない」というあたり、どうもシールドの構造がだいぶ違うようだ。 チップ全面的にSLCとの話。信頼性の観点で、MLCはお話にならないという判断だった。これはSUPER TALENTのみならず、会場にSSDを出展していたベンダーは皆同じ判断。PC用とか携帯プレーヤーにはMLCがかなり普及の兆しを見せているが、組み込み向けにはまだちょっと遠いという感じだった。ちなみに1社だけMLCを搭載した製品があり、それはSLC 32GB+MLC 64GBという構成で、物理的には1つのドライブだが、論理的には2ドライブになるというもの。後はユーザーが各々の特徴を理解した上で使い分けろということだった。
こうした一方、やる気のないメーカーもある。その最右翼は多分ONE STOP SYSTEMS(写真20)。同社はIDFとかPCI-SIG DevConなどに必ず出展する、PCI ExpressのケーブルとSwitchを使ったソリューションベンダーであるが、何せ今回半分以上の時間が写真の状態、つまり「無人」だった。 もう少しまともではあるが、閑古鳥が鳴いていたのがLeCroy。同社はブースを2つ出しており、会場内部の方は相応に賑わっていたのだが、会場外の廊下の側は閑古鳥状態。同社がESCにあわせて発表したPCIe Gen2対応のPTB(写真21)を見たくて訪れたのだが、あまりに誰も来なかったようで大歓迎されてしまった。筆者的には非常に面白いものだが、ちょっとESCにはそぐわない展示になっていたようだ。 最後に本当におまけ。AVNETというベンダーがそれなりに大きなブースを構えていた。同社はCPUやFPGAなどを搭載した開発用ボードと開発用キット、および量産に必要なパーツを提供するベンダーで、これに付随したサービスも各種取り扱っている。 会場では、いろいろな開発用ボードが並べられていたのだが、そんな中にまぎれて説明もなしに展示されていたのがこちら(写真22)。これは何かと聞いても、説明員も良く判っていないようだし、大体Freescaleのロゴがはっきり入っている時点でAVNETとあまり関係があるとは思えない。しかもULiのサウスブリッジ付きである。 いろいろ調べたところ、これはおそらくFreescaleのHPCNという、MPC8641/8641D用の開発ボードのようだ。AVNETは、こうしたFreescale製のものも取り扱えますよ、という程度の気持ちで展示したらしい。しかしこんなところでULiをまだ見るとは思わなかった。 【追補】Freescaleの方より情報を頂いた。このボードはHPCNではなく、MPC8610というKiosk端末や車載インフォテイメント機器、多機能プリンタ/スキャナなど、グラフィック/オーディオ性能を必要とする用途に向けた、新しいPowerPCベースのSoCを搭載したものだそうである。こちらではAVNETによるMPC8610のデモが冒頭に登場するとの事である。以上お詫びして訂正したい。 □ESC SV 2008のホームページ(英文) (2008年5月14日) [Reported by 大原雄介]
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